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2010年07月20日

パワーの本棚:『星野リゾートの教科書~サービスと利益 両立の法則~』

文責:岡本充智(パワー・インタラクティブ 代表取締役)

『星野リゾートの教科書~サービスと利益 両立の法則~』
著:中沢康彦
出版社:日経BP社
価格:1,575円(税込)

 表紙を見てツンと胸を突かれるものを感じた。と言っても、この本をご存知でない方には、何のことかさっぱりだと思う。表紙には、星野佳路社長が微笑む横に、10数冊の本が積上げられている。その本のほぼ大半が私が良書と思って、何回も繰り返しくりかえし読み倒して、書き込みで真っ黒になったビジネス書ばかり。それで、改めてタイトルを見ると、「星野リゾートの教科書」とある。なるほどとはじめて、合点が行った。

 正直、意外な感じがした。リゾート経営はどちらかというとアート的感覚でマネジメントされていると勝手に思い込んでいた。よくよく考えればどのような分野の経営でも、市場戦略があり、それを遂行していく組織と人が不可欠だ。当然のことながら、ロジカルな思考も求められる。

 さて、本書には共感できる部分が随所に散りばめられている。

 星野社長は、1996年に長野県軽井沢に地ビールメーカーのヤッホー・ブルーイングを設立した。近年の未曾有の不況にあっても、四期連続で営業利益を伸ばしている。花札など日本的なモチーフのデザインを施した缶ビールを見かけられた方もあるのではないだろうか。「よなよなエール」という商品名のコクのあるビールである。

 楽天で初回購入者限定のお得なお試しセットがあったので、早速、購入し飲んでみた。ビールとワインの間の不思議な感覚で、オリジナリティーを十分に感じる。大切にゆっくりと美味しいお料理とともにいただきたいビールだ。

 ヤッホーは、現在は業績好調だが、悪戦苦闘していた時期があった。そのときに、星野社長が教科書として徹底的に取り入れたのが、『売れるもマーケ 当たるもマーケ~マーケティング22の法則~』だ。

 地ビールブームが去って、業績が悪化して苦しいときに地ビール各社は製品ラインを一斉に拡張した。実際に、出荷量も増え、売上は回復した。

 星野社長がこの教科書から参考にしたことは、「短期的に見ると製品ラインの拡張は常に売上を増大させるが、長期的な効果は無残で結果として売上は大きく落ち込む」というくだり。そこで、彼は、味のバリエーションを増やす、すなわち製品ラインを拡げる代わりに、製造工程を見直して品質を向上させることに心血を注いだ。

 そして、ネット販売にも着手し、ダイレクトな顧客開拓の取り組みをスタートさせた。その結果、リピーターが増え、「よなよなエール」ファンが定着してきている。

 星野社長は、マーケティングや戦略の本ばかりを教科書にしているわけではない。内村鑑三の二冊の著書も座右の教科書にしている。ともに、岩波文庫に所蔵されている。

 ・『後世への最大遺物 デンマルク国の話』
 ・『代表的日本人』

 実は内村鑑三は、星野社長の祖父であった嘉助と親交が深く、その交流は内村が亡くなるまで10年続いた。大正15年7月、運転免許を取ったばかりの嘉助が内村をT型フォードに乗せた。荒い運転をしていた。その時、内村が嘉助に渡したと言う「成功の秘訣」が紹介されている。

一.自己に頼るべし、他人に頼るべからず。
一.本を固とうすべし、然らば事業は自づから発展すべし。
一.急ぐべからず、自働車の如きも成るべく徐行すべし。
一.成功本位の米国主義に倣ふべからず。誠実本位の日本主義に則るべし。
一.濫費は罪悪なりと知るべし。
一.能く天の命に聴いて行ふべし。自から己が運命を作らんと欲すべからず。
一.雇人は兄弟と思ふべし。客人は家族として扱ふべし。
一.誠実に由りて得たる信用は最大の財産なりと知るべし。
一.人もし全世界を得るとも其霊魂を失はば何の益あらんや。
  人生の目的は金銭を得るに非ず。品性を完成するにあり。
どれも今の時代の経営者にも大いに通じる。

 経営をしていると、本当にこれでいいのかと、不安になることが絶え間なくある。その時に、指針となるものがあれば、決断を下せる。その指針が、他ならず価値観そのものであろう。星野社長にとって、内村鑑三の「成功の秘訣」は価値観を同じくしていたのだと受け止めた。

 余談になるが、本屋の棚にそっと永い時代に渡って一冊だけ置かれている古典的書物ほど、きっと人生のよすがになるのだろう。この岩波文庫の二冊は、凛とした気分を感じさせていただいた良書であった。そのきっかけを与えてくれた星野社長の生き様にも感謝している。

星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則
星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則



売れるもマーケ 当たるもマーケ―マーケティング22の法則
売れるもマーケ 当たるもマーケ―マーケティング22の法則

後世への最大遺物・デンマルク国の話 (岩波文庫)
後世への最大遺物・デンマルク国の話 (岩波文庫)

代表的日本人 (岩波文庫)
代表的日本人 (岩波文庫)


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2010年06月09日

パワーの本棚:『偶然のチカラ』

文責:岡本充智(パワー・インタラクティブ 代表取締役)

『偶然のチカラ』
著:植島啓司
出版:集英社新書
価格:714円(税込)

「偶然」が大好きだ。人生で「偶然」に出会うと手放しに嬉しくなってしまう。「偶然」という言葉の響きに、必然以上の何かを感じてしまう。「偶然に」何かが起こった、「偶然に」何かに出会った、というときに、英語では、「~ by chance」と表現する。

毎日、新しい出会いがある。ビジネスの世界では、最初の挨拶に名刺交換をする。私は名刺交換をした方には、必ず御礼のハガキをお送りしている。あらかじめ印刷をしている御礼ハガキに、宛名と二行ほどのメッセージをしたためて投函している。

裏面には、こう印刷している。

 ------
 『感動する気流』
 私たちは、表面的な喜びだけではなく、
 ともに歩むプロセスであっ!と
 言っていただく感動を
 お分けしたいと願っています。
 感動は誰の目にもいつも
 見えているものではありません。
 偶然やってくる、それが感動ではないでしょうか。
 あいつと一緒にいて良かった。
 そう思っていただく存在を、
 模索してまいりたいと思います。
 これからも変わらぬご支援をいただけますよう
 心よりお願いいたします。
 ------

さて、ここで、本題の『偶然のチカラ』である。この本は、いかにして幸運をつかむか、という内容ではなく、偶然の仕組みはどうなっているのか。という疑問に光を当てたものだ。

著者は、

私たちは人生のさまざまな場面でほぼ無意識のうちに限りない選択をしています。そして、そのどれにも実は偶然の要素が大きく作用しているのです。本書は、目の前に立ちはだかる偶然にどう対処すればよいのか、さまざまなエピソードをもとに42の断章の形式で論じたものです。

そのひとつの章に、民俗学の大家である南方熊楠が登場する。後の高野山管長になる土宜法竜への書簡の欄外に、幾本かの筋がめちゃくちゃに書き込まれた意味不明の図を取り上げて、あらゆることには因果関係が存在すると説いている。「因」と「果」の間には一定の必然性が存在する。しかしながら、この「因」と「果」のベクトルが交わることがままある。これを「縁」と考えたのである。

彼の言葉を借りれば、

故に、今日の科学、因果は分かるが(もしくは分かるべき見込みあるが)、縁が分からぬ。この縁を研究するがわれわれの任なり。しかして、縁は因果の錯雑して生ずるものなれば、諸因果総体の一層上の因果を求むるがわれわれの任なり。

どういうことかというと、

そう、どういう原因があってどういう結果が生まれたかはよくわかっている。だが、別々の理が絡み合うともうわからなくなってしまう。それでは科学とはいえない。宇宙はそれら相互の絡みあいなのだから、むしろ、因果そのものよりも、いかにそれらが絡みあっているかを解かなければ何もわかったことにならないのではないか、と南方は言うのである。

コンサルティングの世界で、戦略を整理するときに、バランスト・スコアカードを用いて、財務、顧客、業務プロセス、学習と成長の各視点から戦略マップを作成することが多い。戦略マップは、各戦略間の因果関係をわかりやすく図示した、言わば戦略の見える化である。

戦略間の因果関係を整理していくことは、小気味良い作業である反面、いつも本当にこれが緊密な原因と結果の関係になっているのかということを自問自答してしまう。逆に言えば、戦略と戦略の関係について、素直に関係があると言い切れない吹っ切れなさを抱え込んでいる。

南方の「縁は因果の錯雑して生ずるものなれば、諸因果総体の一層上の因果を求むるがわれわれの任なり」という件を読むことで、真っ暗闇に一筋の灯火を見出した次第である。


偶然のチカラ (集英社新書 412C)
偶然のチカラ (集英社新書 412C)

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2010年05月17日

パワーの本棚:『俺ひとり~ひと足早い遺書』

文責:岡本充智(パワー・インタラクティブ 代表取締役)

『俺ひとり~ひと足早い遺書』
著:白川道
出版:幻冬舎
価格:1365円

エッセイが好きだ。それも、大量の原稿用紙何千枚という文章を書く作家のエッセイが好きだ。想像を絶する分量を愚直に紡ぎ続ける体力と気力にあやかりたいという面もある。本音は、長編をベースにする作家が、限られたスペースにまとめるエッセイに、きっと贅肉のような余分なものがそぎ落とされているであろう、という「予感」を感じるからかもしれない。

好きな作家に白川道がいる。

最初に出会った『天国への階段』でその深遠なる魅力に引きずり込まれ、『最も遠い銀河』で陰と陽の世界の狭間を彷徨い、『竜の道』で明るい輝きと暗い深みが表裏一体であることに気づかされた作家である。

その彼がエッセイを書いていることは、想像すらしなかった。この連休に出掛けた岡山県の地方都市の家電量販店と隣接している大型書店で、書店員が推薦するという書棚の片隅にちょこんと置かれていた。嬉しくなって迷わず買って帰った。

このエッセイは彼の半世紀を赤裸々に綴ったものである。彼のエッセイを読んで改めて、良く言えば自由奔放な、違った視点では、羽茶目茶な向こう見ずな人生を送っていたことを知り、当惑するとともに、変に納得もしたりしていた。

『俺ひとり』という題名は、

結婚に失敗して女房を亡くし、迷惑のかけどおしで親兄弟とはほぼ絶縁状態、父親失格のために子供との交流は薄くなり、女を裏切っては恨みを買い、博打で作った借金が、今なお数千万。こんな生活が、君にはできるかね?  俺ひとり。それが今のわたしの偽らざる実感なのである。

ということが背景にあるようだ。

もちろん生き方や人生の歩みは、私とは全くかけ離れているけれども、どことなく先を見つめる方向は同じようにも感じる。最初の章を読んで、なんだかワクワクしてきた。

彼は、この本の「自分を見つめるもうひとつの目」という章で、

賢い人間がもうひとつの優れた目を持っているとはかぎらない。もうひとつの目は、賢さとは別のところで培われる。たぶん人間の成熟度によってだ。それが証拠に、たとえ無学ではあっても多くの老人の目は、いつもちがうなにかを見つめているような気がする。そんな老人に憧れてしまう。

と述懐している。胸をツンと衝かれたような小さなショックを受けた。
あのアーネスト・ヘミングウェイの『老人と海』を数日前に何回目かの再読をしたばかりだったからかも知れない。

老人と海で、主人公の老人が大海原でのマグロと鮫との大格闘の末、帰港した後の最終章のくだりで、

道のむこうの小屋では、老人がふたたび眠りに落ちている。依然としてうつぶせのままだ。少年がかたわらに坐って、その寝姿をじっと見まもっている。老人はライオンの夢を見ていた。

よもや白川道とヘミングウェイが繋がるとは思っても見なかったが、私の中では、白川道と、ヘミングウェイというか『老人と海』の中の老人の生き様が重なってくる。

読書はそのような発見や喜びを、偶然に与えてくれるところが大好きだ。

俺ひとり―ひと足早い遺書
俺ひとり―ひと足早い遺書

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2009年12月17日

パワーの本棚:『人間の器量』

文責:岡本充智(パワー・インタラクティブ 代表取締役)

 『人間の器量』
著  :福田和也
出版:新潮新書
価格:714円

経営をしていて、「器量」を問われることが多々あります。

若い頃は、器量なんていうことを考えたこともありませんでした。とにかく、仕事をガンガンやっていれば自然と運は向いてくる。そう信じて疑いませんでした。

しかし、人生半世紀を過ぎると、もっと人間的に成長しなければいけない。器量を大きくすることが出来るならば、また新しい世界を見ることが出来るのではないだろうか。そう感じ始めています。

そんなとき、この本に出会いました。たまたま、新幹線の車中で読むのに、新書が量的にも適しているということで、駅構内の新書の棚を見ていると、人間と器量の二文字が目に飛び込んできました。

著者の福田和也氏は、膨大な論文を読破し、途轍もない原稿量を書き続ける論客だという印象を持っていました。そういう方が言うところの器量とはどんなものか、興味を持って手にしました。

福田氏は、あとがきに、このように書いています。

器量というのは、水平に広がるものです。

やみくもに上を、より高いものだけを目差しても、人の器は育ちません。異質なもの、未知なものと触れ、感応する力が必要です。

器が大きいといわれるほどの人物は生涯かけて自分を新たな場所に立たせ続けてきたのではないでしょうか。

まさに、私のいまの問題意識に正面から触れています。この本には、いろいろな人が登壇します。

大隈重信は、

どんな愚論愚説も終わりまで聞き、ちょっといいと思った提案は残らず採用し、けして怒らず、怒鳴らず、処理を急がず、大嫌いな相手に交際を求める。誰でも受け入れるので、一時、大隈家の居候は百人近くになったといいます。

西郷隆盛は、

ある時、明治天皇が馬術の稽古中に落馬し、「痛い」と云ったことがありました。普通であれば、側の者が駆け寄って、「御怪我はありませんか、痛みはいかがですか」などと云うところなのでしょうが、西郷は馬上から天皇を見下ろしたまま、「痛いなどという言葉を、どのような場合にも男が申してはなりません」と云いました。明治天皇は、その後、崩御されるまで、「痛い」とは云わなかったといいます。

というように、器量という切り口から、人物を取り上げているので、よく知っている人物でも、意外な一面を見たりすることが出来ます。総じて、器は修行によって大きくすることができ、人は何歳になっても変わることが出来るという事だと受け止めました。

福田氏は、結論として、器量を大きくする五つの道という事を述べておられます。詳しくは、本書で味わって下さい。

一.修行をする
二.山っ気をもつ
三.ゆっくり進む
四.何ももたない
五.身を捧げる

では、これから、この五つの道をゆっくりと、身を以って実践していきたいと思います。

人間の器量 (新潮新書)
人間の器量 (新潮新書)

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2009年11月24日

パワーの本棚:『社会とどうかかわるか-公共哲学からのヒント-』

文責:岡本充智(パワー・インタラクティブ 代表取締役)

 『社会とどうかかわるか-公共哲学からのヒント-』
著 :山脇直司
出版:岩波ジュニア新書
価格:777円


経営をしていて、いつも思うことがあります。

個人と会社は、どうかかわるのが好ましいのだろうかと。

私がコンサルティングの世界に入った当時、その道の大先輩に、プロフェッショナルとは答えのない問いを問い続けられることが出来る人だと教えられました。事業経営者となった今は、経営のプロとして、この問いを問い続けなければならないと、日々感じていました。

そんな矢先に、公共哲学の研究者である山脇直司氏の著書に出会いました。

山脇直司氏のプロフィール

この本は、高校生くらいを対象に書かれた哲学論ですが、難解な思想をとても分かりやすく解説してくれていて、日頃、ビジネス書が中心の私にとっても理解が進みました。

と同時に、「社会」を「会社」と置き換えたときに、目からウロコの落ちる場面に何回も遭遇しました。

「社会」は、一人ひとりの「個人」の生き方に強い影響を及ぼしますが、逆に「個人」間のコミュニケーションやルールづくりによって、「社会」のあり方や方向性は変えられるものなのです。

そもそも、社会は天から降ってくるものではありません。社会は人間がつくったものです。ヨーロッパのことわざにもあるように、明日の天気は、人の力で変えられませんが、明日の社会は人びとの努力しだいで変えられます。

この本を、何度も読み返しました。一行一行が、私にとっては、問題提起をされているように感じました。

氏は、論語についても、言及しています。

論語に出てくる正確な言辞(げんじ)は、「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」です。これは、「意見が他の人とちがっている場合、人格が立派な人は、その人と敵対せず、またおもねって同調することもしない。しかし、徳のない人は、表向きは同調しながら、裏では敵対する」という意味です。

同じ古典の春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)の存在もはじめて知りました。

「和」は、いろいろな食材をうまく調和させてスープを作るようなもの、辛(しん)・酸(さん)・甘(かん)・鹹(かん、塩辛い)・苦(く)の五つの味を調えるように、異なるものを混じえて調和させることであるのに対し、「同」は1つの味だけを集めることだと記されています。

言葉の持つ意味はさまざまですが、自分の問題意識と照らし合わせることで、それが1つの道しるべになることを、改めて感じさせてくれた一冊でした。

早速高校生の息子にも、もう一冊買ってプレゼントしておきました。

社会とどうかかわるか――公共哲学からのヒント (岩波ジュニア新書 608)
社会とどうかかわるか――公共哲学からのヒント (岩波ジュニア新書 608)

2009年10月26日

パワーの本棚:『芸術起業論』

文責:岡本充智(パワー・インタラクティブ 代表取締役)

 『芸術起業論』
  著  :村上 隆
  出版:幻冬舎
  価格:1,680円


経営者と芸術家の共通点。それは、「感性」。

京セラの辣腕経営者だった、伊藤謙介さんは、郷里岡山にゆかりのある若手芸術家を支援しておられます。その理由は、豊かな文化が育つ土壌がなければ、ベンチャーも盛んにならないというものです。岡山県が主催する「I氏賞」がそれです。

伊藤さんとは、京都で開催される経営勉強会でよくお会いさせていただきます。経営者の偉大なる大先輩として、伊藤さんの誠実で心意気の溢れたお話をお聴きするとつい、くじけがちになる気持ちにスイッチが入ります。お会いできて、つくづく幸せだと感じます。

話は変わりますが、海外で高い評価を得ている芸術家村上隆はルイヴィトンとコラボをしました。これが、最初に村上隆に興味を持ったきっかけです。

とてつもない私の思い込みですが、優れた芸術家は孤高の天才で、マーケットに敏感に反応するブランドビジネスとは決して相容れないと思っていました。だから、大学を卒業してから十年余りブランドビジネスに関わっていた私にとっては、彼がルイヴィトンの仕事をしたことは、とてもショックでした。そして、辿り着いたのが、この彼の著になる『芸術起業論』です。書き出しから、眼から鱗でした。

少し、抜粋してみます。

「なぜ、これまで、日本人アーティストは、片手で数えるほどしか世界で通用しなかったのでしょうか。単純です。欧米の芸術の世界のルールをふまえていなかったからなのです。」

「ぼくは欧米のアーティストと互角に勝負するために、欧米のアートの構造をしつこく分析しました。仮説と検証の連続から芸術制作マネジメントの技術も磨いてきました。」

「勉強や訓練や分析や検証を重ねてゆき、ルールをふまえた他人との競争の中で最高の芸を見せてゆくのが、アーティストという存在なのです。」

もうお気づきでしょうが、ビジネスのルールをふまえるところも、仮説・検証を繰り返すところも、その過程で最高の価値を顧客に社会に提供するのも経営と同じです。ただ彼は、この繰り返しが、並の努力では何も得られない。徹底的に閾値を越えるまで、やり続けることだとも言ってます。全く持って同感です。

彼は、あとがきに、こう述べています。

「私は『美』のために働いていきたい。そして、日本、世界のどこにおいても、美を創造し、その名の下に喜びを分ち合いたい。そのために土壌造りから始めなければならないなら喜んで泥まみれになる。」

経営も美を追求していきたいと思います。そのためならば決して泥まみれになることは厭いません。まさに、『芸術家起業論』から、学び得るものは無尽蔵に大きいと感じています。

芸術起業論
芸術起業論

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2009年09月11日

パワーの本棚:『フェラーリと鉄瓶― 一本の線から生まれる「価値あるものづくり」』

文責:岡本充智(パワー・インタラクティブ 代表取締役)

 『フェラーリと鉄瓶― 一本の線から生まれる「価値あるものづくり」』
  著 :奥山 清行
  出版:PHP研究所
  価格:1,365円


なぜ美しいデザインが必要なのか。

「美しいものは売れるということ。人間は本来美しいものが好きであるということ。」

フェラーリのデザインを担当しているイタリアのピニンファリーナ社の会長がデザイン工房のスタッフたちに、「美しいモノは正しい。俺たちは正しいことをしているんだ。」と言い続けたことが、スタッフに大いなる励ましになったとのこと。

原理原則に基づいたシンプルな言葉が、チームに勇気を与え、チームの結束力を強くしていくんだと言うことに気づかせられました。

著者の奥山清行氏は、このピニンファリー社のデザインディレクターを努められた方です。デザイン分野は、自動車だけでなく、家具・インテリアやロボット、都市計画など多岐に亘っています。氏のイタリアでのビジネス経験から、日本のデザインとものづくりについて『最高の価値』と言う視点からハッとするような意見が盛り込まれ、矜持を保つことの出来る書です。

ビジネスの世界では、コミュニケーションは大きなウエイトを占めています。
デザインの世界でも、コミュニケーションはデザインの是非を決定付けます。

「デザイン作業の最初の三分の一は、正しい人を探して、正しい情報を引き出すこと。次の三分の一は、その人のためのデザイン作業。最後の三分の一は、出来たものの情報を正しい人に正しく伝えること。この最初と最後の三分の一ずつは、デザイナーのコミュニケーション能力にかかっています。」

相手のことをよく知り、自分たちの強みも把握しておく。それが、コミュニケーションの前提になるんだということを気づかせられます。

私は、日頃よく考えることがあります。

プロとアマの差って一体なんだろうかと。

この書で、そのヒントをつかみました。

「プロと呼ばれる人たちは、アイデア出しにかける時間が長かったり、膨大なバリエーションから選んだりするところが、アマチュアと違っているのだと思います。アマチュアの人に欠けているのは、そのプロセスです」

アイデアを磨く時間と深さが違うということです。
コンサルティング会社にいた時代に、先輩から、「プロとは答えの無い問いを問い続けることが出来る人だ。」ということを教えられたことがあります。

プロとアマは紙一重というならば、それは最後のひと絞りが出来るか出来ないか。
その差ではないかと思います。そのような気持ちで、仕事に臨みたいものです。

あとがきで、奥山氏は、ものづくりの基本について、こう書かれています。

「すべてのものは、人のために作られます。それも、昨日や今日の誰かではなく、明日の人のためにものを作るのです。」

ものづくりだけでなく、すべての行動がそうありたいと考えさせられた一冊です。


フェラーリと鉄瓶―一本の線から生まれる「価値あるものづくり」
フェラーリと鉄瓶―一本の線から生まれる「価値あるものづくり」

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2009年08月03日

『プロカウンセラーの聞く技術』

文責:江口由美(パワー・インタラクティブ 商品企画グループ)

 『プロカウンセラーの聞く技術』
  著 :東山 紘久
  出版:創元社
  価格:1,470円

「ほとんどの人は、聞くより話をするほうが好きです。」という一文から
 始まる本書。たとえ話が苦手と思っている人でも、リラックスして話がで
 きる聞き上手の人に巡り合えたり、そういう場がセッティングされると話
 をされるものなのだそうです。

 筆者は臨床心理士であり、京都大学理事・副学長として教育現場でも長く
 ご活躍されている東山紘久氏。人の話(悩み)を聞くのが仕事である東山
 氏が、『聞く』そして『相手の言いたいことを理解する』というコミュニ
 ケーションの非常に重要な技術について、具体的なノウハウを交えながら
 分かりやすく解説しています。

 プロが語る『聞く』技術は、同時に相手にいかに本音を話しやすい場を
 提供するかという点にも繋がっています。

 この技術はビジネスの場でも非常に重要です。
 お客様に対しての場合、営業やインタビュー等でお客様のニーズや想い
 をヒアリングするつもりが、いつの間にかこちらが話の主導権を握って
 しまい、お客様が相槌を打つような展開になってしまっては意味があり
 ません。

 また社内の会議やコミュニケーションにおいても、上の立場の人が先導
 してしまったり、聞いているつもりがいつの間にか上の者が説教してい
 ては、結局立場が下の者は本当に思ったことが喋りづらい状況になって
 しまいます。

   ・相手の話を「素直に」聞く。
   ・相槌以外は話さない。
   ・評論家にならない。
   ・聞き上手には上下関係はない。
   ・聞き出そうとしない。

 これらのことを念頭に置きながら、本当の意味で『聞く』、そして相手を
 理解することに努めることで、一方通行なコミュニケーションが真の
 双方向コミュニケーションに生まれ変わり、相手との信頼関係を築く
 きっかけを与えてくれることでしょう。

 対人関係の基本であり、ビジネスの基本でもある『聞く』ことを見つめ
 直すと共に、実践方法を具体的に教えてくれる一冊です。 
 
 

4422112570プロカウンセラーの聞く技術
東山 紘久
創元社 2000-09

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