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2010年05月17日

パワーの本棚:『俺ひとり~ひと足早い遺書』

文責:岡本充智(パワー・インタラクティブ 代表取締役)

『俺ひとり~ひと足早い遺書』
著:白川道
出版:幻冬舎
価格:1365円

エッセイが好きだ。それも、大量の原稿用紙何千枚という文章を書く作家のエッセイが好きだ。想像を絶する分量を愚直に紡ぎ続ける体力と気力にあやかりたいという面もある。本音は、長編をベースにする作家が、限られたスペースにまとめるエッセイに、きっと贅肉のような余分なものがそぎ落とされているであろう、という「予感」を感じるからかもしれない。

好きな作家に白川道がいる。

最初に出会った『天国への階段』でその深遠なる魅力に引きずり込まれ、『最も遠い銀河』で陰と陽の世界の狭間を彷徨い、『竜の道』で明るい輝きと暗い深みが表裏一体であることに気づかされた作家である。

その彼がエッセイを書いていることは、想像すらしなかった。この連休に出掛けた岡山県の地方都市の家電量販店と隣接している大型書店で、書店員が推薦するという書棚の片隅にちょこんと置かれていた。嬉しくなって迷わず買って帰った。

このエッセイは彼の半世紀を赤裸々に綴ったものである。彼のエッセイを読んで改めて、良く言えば自由奔放な、違った視点では、羽茶目茶な向こう見ずな人生を送っていたことを知り、当惑するとともに、変に納得もしたりしていた。

『俺ひとり』という題名は、

結婚に失敗して女房を亡くし、迷惑のかけどおしで親兄弟とはほぼ絶縁状態、父親失格のために子供との交流は薄くなり、女を裏切っては恨みを買い、博打で作った借金が、今なお数千万。こんな生活が、君にはできるかね?  俺ひとり。それが今のわたしの偽らざる実感なのである。

ということが背景にあるようだ。

もちろん生き方や人生の歩みは、私とは全くかけ離れているけれども、どことなく先を見つめる方向は同じようにも感じる。最初の章を読んで、なんだかワクワクしてきた。

彼は、この本の「自分を見つめるもうひとつの目」という章で、

賢い人間がもうひとつの優れた目を持っているとはかぎらない。もうひとつの目は、賢さとは別のところで培われる。たぶん人間の成熟度によってだ。それが証拠に、たとえ無学ではあっても多くの老人の目は、いつもちがうなにかを見つめているような気がする。そんな老人に憧れてしまう。

と述懐している。胸をツンと衝かれたような小さなショックを受けた。
あのアーネスト・ヘミングウェイの『老人と海』を数日前に何回目かの再読をしたばかりだったからかも知れない。

老人と海で、主人公の老人が大海原でのマグロと鮫との大格闘の末、帰港した後の最終章のくだりで、

道のむこうの小屋では、老人がふたたび眠りに落ちている。依然としてうつぶせのままだ。少年がかたわらに坐って、その寝姿をじっと見まもっている。老人はライオンの夢を見ていた。

よもや白川道とヘミングウェイが繋がるとは思っても見なかったが、私の中では、白川道と、ヘミングウェイというか『老人と海』の中の老人の生き様が重なってくる。

読書はそのような発見や喜びを、偶然に与えてくれるところが大好きだ。

俺ひとり―ひと足早い遺書
俺ひとり―ひと足早い遺書

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