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実践事例

特定非営利活動法人国境なき医師団日本<br>広報部メディア担当マネージャー 舘 俊平 氏
インタビュー記事

特定非営利活動法人国境なき医師団日本
広報部メディア担当マネージャー 舘 俊平 氏

2015年8月31日

28ヶ国同時のニュース配信は即翻訳へ、組織活動3本柱と一体化した
Webサイトが「緊急援助」と「証言活動」を後押しする

国境なき医師団(Médecins Sans Frontières=MSF)は、民間・非営利の国際団体として、現在、世界28ヶ国に事務局をおいて活動しています。1999年にはノーベル平和賞を受賞。世界中での独立、中立、公平な人道援助活動などが高く評価されました。

日本には1992年に事務局が設立されました。日本のWebサイトは10年以上前から運営されていますが、2013年に全面リニューアル、FacebookやTwitterをはじめとするSNSも積極的に活用しています。
今回は国境なき医師団日本広報部メディア担当マネージャーの舘俊平氏に組織活動にいかにWebを活用しているのか、お話を伺ってきました。

国境なき医師団は、緊急医療・人道援助を行う「モノを言う団体」

最初に国境なき医師団の活動概要、組織について教えてください。

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国境なき医師団の主な活動は「緊急医療援助」と「証言活動」です。
災害や紛争、感染症の流行等、国の医療体制が行き届かず、助けを必要としている人々へ、人種や政治、宗教にかかわらず、分けへだてなく無償の援助を提供します。中立・独立・公平な立場で医療・人道援助活動を行っています。
また、援助活動の現場では、虐殺や強制移住などの激しい人権侵害や、医療スタッフや施設が攻撃の対象となったり、人道援助が政治的に利用されたりする現実に直面することがあります。MSFはそのようなときに世論を喚起するため、「モノを言う団体」として人道危機を伝える証言活動を行ってきました。

MSFの活動資金のほとんどは、民間からの寄付でまかなっています。資金の独立性と透明性を保ち、どんな権力や政治的圧力からの影響も受けず、自らの決定で必要な場所へ援助を届けるためです。 日本事務局の2014年の寄付収入は70.3億円(前期比20%増)と過去最高、援助プログラム支援金も48.4億円(前期比29%増)と大幅に拡大しました。

MSFにはいわゆる本部は存在しません。ヨーロッパにある5ヶ所(フランス、スペイン、スイス、ベルギー、オランダ)のオペレーション事務局で医療援助活動のプログラムを運営し、23ヶ国のパートナー事務局は、それを資金、人材、広報面でサポートしています。現在、384のプログラムが60の国と地域で稼働しています。

Webサイトは活動の3本柱「資金調達」「人材募集」「証言活動」で構成

国境なき医師団日本ではWebを通じてどのような活動を行っていますか?

Webは10年以上前から活用していましたが、2013年に全面リニューアルを実施、リニューアル後は事務局の主な役割である、「資金調達」「人材募集」「証言活動」を3本柱として構成しました。

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「支援する(SUPPORT)」-マイページで寄付の履歴や支援内容を提示

「資金調達」においては、「支援する(SUPPORT)」というカテゴリーを作り、募金活動を主旨とするコンテンツを置いています。
国境なき医師団の活動資金は、そのほとんどを民間からの寄付でまかなっていますが、必要以上に調達しないというのが基本ポリシーです。使途を指定した寄付は目標額を達成したら募集を終了。資金が余った場合は、寄付者に返却することもあります。寄付金が、寄せられた目的以外に使われないようにするためです。
例えば、今年4月に起こったネパール地震でも、国境なき医師団は48時間以内に現地入りして援助活動を行いましたが、資金面では不足がないと見通していたため、ネパール地震に使途を指定した募金活動は実施しませんでした。当時、ネパール地震のための募金活動はしないのかと、多数の問い合わせが寄せられたため、その旨の説明文をWebに掲載しました。

Webサイト上には、「未来を支える『毎月の寄付』」と「今を救う『今回の寄付』」の2つのボタンを設置し 「今を救う『今回の寄付』」より、使途を指定した寄付を受け付けています。現在受付けているのは「母と子の命をつなぐキャンペーン」と「中央アフリカ」、「シリア」の緊急援助です。
Webではクレジットカードやコンビニ払い以外にも、モバイルsuicaや楽天Edyなど電子マネーも追加し、支払方法の選択肢を広げています。寄付後の完了画面には、FacebookとTwitterのボタンを配置し、拡散効果も狙っています。

また、今回のリニューアルではマイページの仕組みを導入し、これまでの自身の寄付の履歴や、寄付した金額で何ができるかを視覚的にイメージできるようにしました。Webならではの動的な機能のひとつです。また、支援者の方が、自由に住所変更などの手続きも可能となり、事務作業や問合わせ対応の低減にもつながっています。

リニューアル直前とリニューアル1年後を比べると、支援者数は約130%の伸びを見せています。

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「参加する(WORK)」-ウェビナーで全国への説明会を実施

「人材募集」を行っている「参加する(WORK)」は、閲覧数が最も多く、人気の高いコンテンツです。現在、国境なき医師団日本に登録している海外派遣スタッフは300人ほど。そのうち医師が200人くらいを占めています。その他にも看護師や薬剤師、非医療従事者ではロジスティシャン、人事・経理、マネジメント担当等も含まれています。国境なき医師団に参加を希望する人たちは全国各地から集まっています。したがって参加説明会は、東京のみならず日本各地で行う必要があります。最近では、オフラインの説明会に参加できない人たちのために、ウェビナーで定期的に説明会を開催し、好評を得ています。ウェビナーは事務局にとっても会場費がかからず、コストが劇的に節約できる点が大きなメリットです。今後も積極的に活用したいと考えています。

「活動を広める(JOIN)」-SNSで現地の状況を拡散

「証言活動」に対応しているのが「活動を広める(JOIN)」のコンテンツです。団体自体や寄付金集めのためのPRではなく、今活動している地域で何が起こっているのかを知ってもらう活動です。
世界中の活動地から寄せられる活動ニュース、スタッフや患者さんのインタビューなどを、記事や写真、動画などの多様なメディアで発信しています。
また、SNSを積極的に利用することで、この証言活動にもっと目を向けてもらえるのではないかと期待しています。Facebook、Twitterは、そのきっかけをつくり、コストをかけず格段に伸ばしてくれる強力なツールだと思います。緊急援助団体として即時に情報を発信できることも強みです。
Facebookのフォロワーは現在18万人。これは日本におけるNGO団体の中でも最多です。フォロワー同志が活発にコメントを寄せるコミュニケーションの場にもなっています。
また、Twitterのフォロワー数は1万3000人。ネパールで地震が起きた時、東京からも人を送ることがすぐに決まり、彼らが羽田空港から旅立つところを空港からツィートすると、多数の反応がありました。
2014年からLINEもスタートし、若い年齢層に向けても発信しています。あまり押しつけがましくないアプローチを心がけていますが、フォロワー数は970人とこれから伸ばしていきたいSNSのひとつです。
SNSをきっかけにWebサイトを訪れ、活動や活動地の状況に興味を持ってもらい、ひいては世界の人道危機にも関心を持ってもらえるようになればと思っています。

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Web運営は、広報部が中心となってPDCAを回す

Web運営はどのように行っていますか?

日本事務局のスタッフは45人ほどです。Webは広報部が中心となって、ファンドレイジング部のオンライン担当者と技術担当のWebマスター、各部のマネージャーを含めて5名で運用しています。全体のミーティングは月次で行い、各部署では週1でミーティングを実施しています。効果検証は都度メールでやりとりしていますが、お互い近くに座っていますので何かあればすぐに話し合っています。

サイトリニューアルの前後で比べると、ほとんどのページでリニューアル後はPVが飛躍的に伸びました。
ただ「支援する」ページのPVの伸びが悪いため、ファンドレイジング部と協議し閲覧数を増やす施策を検討しました。「参加する」と「支援する」のボタンを入れ替えてみましたが、計測の結果、変化は見られなかったため別の施策を検討するなど、検証と改善を繰り返しています。

世界レベルでコンテンツをシェア、情報発信の即効性が強化される

国境なき医師団のコミュニケーション(広報)部門は、世界レベルでの協働や情報共有も活発に行っています。クローズドのコーポレート用SNSを共有プラットフォームにし、事務局間でニュースやコンテンツをどんどんシェアしています。各国Webマスターのミーティングも年に1回行い、情報交換やテンプレートなどのリソースの共有を行っています。ビジュアルコンテンツや最近ではアニメーションの製作にも力を入れ、各国でシェアしています。ニュースも全世界同時に配信されるので、すぐに翻訳にとりかかることができます。
日本事務局も、動画やビジュアル系コンテンツには力を入れており、定期的な更新に努めています。翻訳や字幕作成もできる体制があるので、スピーディーな制作が可能です。なるべく多くのスタッフが、翻訳、ビデオ編集、アップロードができるよう取り組んでいます。

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NGOならではの4つのWeb課題

Webの今後の課題を教えてください。

課題は4点あります。
第一の課題は、資金調達・人材募集・証言活動の3本柱の目標を1つのプラットフォームの中で達成させることです。例えば、各部門のページのPV数を増やしたい場合でも、それぞれが自由に誘導箇所を増やせばいいというものではありません。ユーザのフローをもとに仮説を立てて、最適な方法を効果的に実行する必要があります。部門間のニーズを調整し、1つのWebサイトとして統一感を持たせる必要があります。こういった問題は、定例のミーティングを中心に調整しています。

2つ目は、素早く緊急事態に対応できるWebサイトのしくみづくりを行うこと。
今回のリニューアルでは、トップページの変更をかけやすいレイアウトづくりにしました。
また、Webの訪問が大きく増えるのは自然災害やエボラ出血熱のような感染症が発生し、マスメディアがそれらのニュースを大々的に報道した時です。新聞やテレビの報道で知った情報をインターネットで調べ直す人も多いので、SNSとWebの即時性をフルに活かし、関心を引く工夫をしていきたいと思っています。スマホの普及に合わせてアプリとの連携も考えています。

3つ目は最新技術にどこまで対応するかです。
組織運営の重要なプラットフォームとしてWebやSNSを活用している一方で、寄付金で運営している組織であるため、どこまで投資をすればよいのか、判断は難しいです。常に最新でリッチな機能を提供する必要があるのかということも見極めていかなければなりません。

そして4つ目はコンテンツ面です。
動画、写真、現地レポートなどコンテンツは豊富にありますが、せっかくWebにきてもらってもそれらに関心を持ってもらわなくては無意味です。同じトピックでも読み手に響かせる工夫が必要です。日本人派遣スタッフが執筆した現地の活動レポートの人気が高いのはアクセス解析で検証済みです。それら人気のコンテンツを用い、見せ方・書き方の工夫をして、各部門の目標を達成できるよう努めています。

活動に対する認知と理解を深めてもらう努力を小さくとも1つ1つ地道に積み重ねていくことが明日の支援に繋がると信じています。

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プロフィール
舘 俊平 氏
特定非営利活動法人国境なき医師団日本 広報部メディア担当マネージャー
広報コンサルティング会社や、IT・メディア企業の広報担当として、メディア対応や危機管理広報に従事。現職では、MSFの活動地からの情報発信も担当する。
インタビュー後記
数ヶ月前、友人が主催するシリアの難民キャンプの支援企画に参加しました。中東料理のランチ付トークイベントで、売上げは全て赤ちゃんの紙おむつや粉ミルク代として寄付されるイベントでした。
17年に渡ってシリアの遊牧民の家族を撮影してきた女性写真家より、紛争前の遊牧民家族との穏やかな生活を撮影した写真が紹介されました。しかし、その家族の行方が今はわからないという話を聞かされ、恥ずかしながら初めて内戦の悲惨さを実感した次第です。
このイベントでも、国境なき医師団の話を聞きました。シリアの病院へ国境なき医師団からの物資支援が入っているが、まだまだ不足しており紙おむつは捨てないで洗って干して使っているとのことです。
国内外で避難活動をしている人は1000万人以上にのぼり、国境なき医師団の活動レポートからは、国際社会の主要国へ、もっとできること、やるべきことがあるのではないかと、問いかけられています。
舘氏の話では、エボラ出血熱よりもシリア内戦による死亡者は多いにもかかわらず、内戦が長期化し、日本人の関心が薄れてきているとのことでした。
我々ができること、やるべきことは何か、インタビューを終えて自分自身への問いかけが大きく残りました。
インタビュー実施日:2015年7月30日
(パワー・インタラクティブ 広富)

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