コラム

生物界に見る弱者戦略2

今回のテーマ:ニッチ戦略とは?

 ビジネスの世界に「ニッチ戦略」という言葉がある。ニッチとは、大きなマーケット間の隙間にあって大企業が進出してこない小さなマーケットを意味して使われることが多い。しかし、この言葉は、本来装飾品を飾るために寺院などの壁面に設けたくぼみを意味している。それがやがて、生物学の分野で「ある生物種が生息する範囲の環境」を指す言葉として使われるようになった。ニッチは、「生態的地位」などと訳されている。一つのくぼみに、1つの装飾品しか掛けることができないように、1つのニッチは、1つの生物種しか住むことができない。生物種にとってニッチとは、単にすきまを意味する言葉ではない。すべての生物種が自分だけのニッチを持っている。そして、そのニッチは重なり合うことがない。もしニッチが重なれば、重なったところで激しい競争が起こり、どちらか一種だけが生き残る。前回のゾウリムシの実験が示したとおりだ。そのため、世の中のすべての生物は、ナンバー1になれるニッチを探し求め、他の生物とニッチが重ならないようにニッチをずらすことで多くの生物種が共存を可能にしている。

 ニッチとは、つまりナンバー1になれる場所である。もちろん、ニッチが大きい生物もあれば、小さな生物もある。ニッチは、大きさが事前に決められているわけではない。すべての生物が自分のニッチを少しでも広げようとしのぎを削っている。強い生物は、あらゆる場所でナンバー1になることができる。そのため、どんどんとニッチを拡大していく。弱者が、どんなに新たなニッチを開拓しても強者が次々に入り込んでいく。まさに、ビジネスにおける企業戦略と同じである。小さな企業が差別化を図っても、大企業が簡単に模倣して、シェアを奪っていくのである。弱者は、強者がマネできないようなニッチを見つけなければならない。でも、強者にマネされないようなニッチなど見つけることができるのだろうか。

 その一つが、小さな土俵で勝負することである。戦いに勝つには、体が大きい方が圧倒的に有利である。強者は、強くあり続けるために、さらに体を大きくしなければならない。そのため、多くのエサを手に入れて、ますます強くなろうとする。小さい者はエサを奪われ、大きくなることはままならない。そんな状況の中で、小さな弱者が巨大な敵に勝つことなどできるのだろうか?例えば、相撲を取ることを考える。横綱の白鵬関と相撲を取っても勝つことは難しいだろう。だが、もっと強大な敵であれば勝つチャンスが生まれる。例えば、生物史上最強のゴジラと相撲を取って勝利することは難しくないだろう。どういうことかと言えば、土俵の大きさは、直径4.55mと決められている。この決められたルールで相撲を取ろうとすれば、ゴジラは土俵の中に立つことさえできない。あたなが土俵に上がっているのに、相手が土俵に上がってこなければ、勝負にならない。つまり、限られた小さな範囲であれば、小さい方が圧倒的に有利なのである。強大な敵に対しては、大きさで勝負するよりも、むしろ小ささで勝負した方が良いのである。中途半端に大きさを競うよりも、小さいことこそが、弱者の強みでもあるのである。まともに力と力のぶつかり合った豪快な上手投げなどを狙ってはいけないのである。

 生物の世界では、弱者であっても強者にマネされないように条件を小さく、細かくすることで小さな土俵の中でナンバー1になれるチャンスを見つけている。サバンナに住むハリネズミは、ライオンのように百獣の王としてナンバー1になることは難しため、他の動物が寝静まった夜に行動している。だた、夜に行動する動物は他にもいるからそれだけでナンバー1になることは難しい。そのため、ハリネズミは、他の動物が見向きもしないミミズや昆虫を食べるという土俵で勝負している。この土俵で、ハリネズミは、ナンバー1の存在である。私たちも、ビジネスの世界でいかに競合に勝つか、チャンスはどこにあるのか必死に知恵を絞っているが、どのような土俵に上がると勝つチャンスが生まれるのか、生物界のニッチに学ぶ点も多いのではないだろうか。

 ビジネスの世界でニッチ戦略の参考になるお店を2店紹介する。新宿にあるケンズカフェ東京というガトーショコラというスイーツを販売しているお店である。扱う商品は「ガトーショコラ」1つだけ。値段もサイズも1つだけ。イタリアン・レストランのシェフがディナーのコース料理のデザートとして出したガトーショコラが評判を呼び、ガトーショコラ1本に絞った店に変更した。1本280gで値段が3,000円。ネットでも注文可能だが、一ヶ月の予約待ち状態である。
 もう1店が、吉祥寺にある小ざさ。商品は、羊羹(1本580円)ともなか(1個54円)の2品だけ。しかし、40年以上、早朝から羊羹を求めの行列が絶えない。共に、小さなお店だが圧倒的な強さを誇る。なぜこのようにニッチを極めることができたのか。その戦略や取り組みについて各オーナーの著書があるのでニッチ戦略に興味がある方は一読することをお薦めする。

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