日米の差が一目瞭然 DX白書にみる、日本企業の「言い訳」体質

2021年12月に公表された「DX白書」が注目されています。
白書はDXについて日米間にどれくらいの差があるかをメインに綴られていますが、その内容は唖然とする、といっても過言ではないものです。

もともと「日本のDXは遅れている」と言われますが、その遅れはどのくらいのものなのか、なぜここまで遅れているのかを調査結果をもとに見ていきましょう。 経営者は特に知るべき事実です。

DX推進状況の日米差

まず、日米のDXへの取組状況は下のようになっています(図1)。

図1 日米のDXへの取組状況

(出所:「DX白書2021」情報処理推進機構)

日本ではDXに「取組んでいる」企業は約56%であるのに対してアメリカでは約79%、「取組んでいない」企業は日本33.9%、アメリカでは14.1%と大きな差がついています。

特にDXに重要な「全社戦略」に基づいている企業が日本では45.3%であるのに対し、アメリカでは71.6%と大差がついています。

日本のDXはなぜ遅れているのか

なぜここまで日本でDXが遅れているのか、その背景をデータをもとに探っていきましょう。

組織間の協調

まず、日米で大きな差がついているのが「組織的なDX推進」=経営層・IT部門・業務部門の協調です(図2)。

図2 DXにおける組織間の協調

(出所:「DX白書2021」情報処理推進機構)

日本では「まあまあ」を含めて約4割ですが、アメリカでは8割以上ができているのです。
これは筆者もよく耳にする話です。

店頭に商品を並べていると、季節の変化や一時的なトレンドなどで商品ごとの売れ行きは常に変化します。
そのとき、販売店の担当者やマーケティング部門が日々の商品ごとの売上データを即時に参照し、翌日には陳列を変更するなどの行動につなげれば効果的でしょう。
しかし経理部門としてはそこまでのリアルデータは不要です。
よって現場から本社に問い合わせてもすぐに使えるデータが手に入らない、といった現象が起きてしまいます。
認識の違いが、店舗営業の足かせになってしまっているのです。

この状況で「システムを刷新してDXとやらをやってみよう」となったとしても、部署間で欲しい機能やデータが違ってくるでしょう。
意識がかみ合わないままのDXはそもそも着手が難しく、場合によっては意味のないものになってしまうのです。

人材確保の方法

次に、人材です。
日本ではよく「IT人材が不足している」と言われます。
実際その通りで、ここにも日米差があります(図3)。

図3 DX推進を担う人材の状況

(出所:「DX白書2021」情報処理推進機構)

しかし、「人が足りない」といくら言い訳をしていても、問題が解決するわけではありません。確保する工夫や努力をしなければ敗者への道を歩むだけです。

ここで人材に関して、もうひとつの日米差を見てみましょう。「今いる社員をどう活かすか」が大きく違うのです。

まず、社員の「学び直し」です。
ITリテラシー向上のための施策を実行しているかどうかに大きな差があります(図4)。
「人が足りない」は言い訳でしかありません。

図4 ITリテラシー向上施策状況

(出所:「DX白書2021」情報処理推進機構)

いまいる社員に対する研修・教育実施率がアメリカでは8割を超えているのに対し、日本企業では約44%にとどまっています。

そして、そもそも社員のITリテラシーを把握しているという企業が日本では少ないことがわかります(図5)。

図5 社員のIT リテラシー把握状況

(出所:「DX白書2021」情報処理推進機構))

「DX人材」=「エンジニア」と勘違いされがちですが、DXに必要なのは「デジタルをどう使うか」というアイデアマン・アイデアウーマンの存在です。

大企業の中には、新卒採用にあたって「DX人材」という枠を設けていながらもプログラミングの経験は問わない、というところもあります。
どんな技術も、使い手があってはじめて企業の役に立つのです。

DX推進の最大のカギ〜経営層の関心・関与

さてDXについては、このようなリアクションがしばしばあります。

「日本では経営層の理解がないのが最大の理由」。

実際のところはどうなのでしょうか。

情報処理推進機構は、DX白書に先立って2021年6月に「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート」を発表しています。
レポートの中では、企業のDX推進度を6つのレベルに区分けしています(図6)。

図6 DX推進レベルの考え方

まずこの時点で重視されているのが、「経営者の関心」「全社戦略の明確性」です。

そして、各レベルに該当する企業数の割合は下のようになっています。

図7 DX推進レベルの分布

「レベル1未満」「レベル1以上2未満」つまり、経営層の関心や取組がない、あるいは全社戦略を持たない企業が多くを占めているのです。

経営層の関心と関与がなければ、予算や人材の配分ができないのは当然のことです。
経営層がDX推進の支障になっている、と言われてもおかしくはありません。

経営者も含めた全社のリテラシー向上を

DXによる企業変革を推進するためのリーダー像は、日米でこのようになっています(図8)。

図8 DX推進に必要なリーダー像

(出所:「DX白書2021」情報処理推進機構)

日本では「リーダーシップ」や「実行力」が上位に来るのに対して、アメリカでは「テクノロジーリテラシー」のほか、「顧客志向」「業績志向」に重きを置いていることがわかります。

自社の「顧客志向」にはどのような商品やサービスが必要なのか、「業績」を上げるには何が必要なのか。それは全社の意識が統一されてはじめて見えてくるものです。
そして、全社の意思統一をするのは経営者であるのは言うまでもありません。それをやらずに「人が足りない」「技術力不足」と言い訳を続けても、DXはスタートすらしません。
なお、デル社はDX実現における課題を国ごとに分析しています(図9)。

図8 DX実現における日本の課題

(出所:「DXレポート」経済産業省)

日本に最も欠けているのはビジョンと戦略なのです。そして、前述の通り経営者の関与なくしてはDXは成り立たない、スタートラインにすら立てないのです。

最後に、「DX」の定義を改めて見てみましょう。

企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること

(引用:「DXレポート」経済産業省 下線・太線は筆者追加)

DXにあたって必要なのはこれらの意識であり、具体的な目的なしにデジタル機器を導入することではないという点を意識しましょう。

この記事を書いた人

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に関連メディアに寄稿。