アメリカ式「モチベーション理論」は、文化の違う現代の日本で通用するのか

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「どのようにしたら社員のモチベーションを上げることができるのか」。
そういった悩みに答えるように、たくさんのモチベーション理論が紹介されています。

広く浸透しているものや実証実験によって裏付けされている理論も数多くありますが、ひとつ注意が必要なのはそれらが欧米から発信されているという点です。

欧米と日本では、仕事についての考え方や、社会そのものが異なります。
モチベーション理論を真に効果的なものにするには、欧米の組織と日本の組織の違いを知らなければなりません。

「動機付け理論」の数々

モチベーションやマネジメントについては、現在も関心を集める数々の有名な理論があります。
例えばアメリカの経営学者マズローが1943年に提唱した考え方は、80年近くも昔のロジックでありながら、今も多くのモチベーション理論の礎になっています。

マズローは人間の欲求を5段階に分類しており、
低いものから順に、

  • 生理的欲求
  • 安全、安定への欲求
  • 所属、愛情欲求、社会的欲求
  • 自我、尊厳の欲求
  • 自己実現の欲求

としていて、人はこの順序で欲求を満たしていくとするものです。

他にも代表的なモチベーション理論として、ハーズバーグの2要因理論、マクレガーのX理論Y理論などがあります。参考にしている、という人もいらっしゃるでしょう。

しかし繰り返しになりますが、どこにでも、そして誰にでもこれらの理論が当てはまるわけではない、という点に注意しなければなりません。

代表的モチベーション理論の特徴

上記の代表的な理論の数々は、1950年前後にアメリカで生まれたものです。また、アメリカ人がアメリカ人のために考えた理論でもあります。

世界大戦後のこの頃のアメリカは「強いアメリカ」「アメリカン・ドリーム」の気質の中、中流階級社会への道を歩んでいました。 1950年には9%でしかなかったテレビの普及率が1955年には64.5%に急増*1し、コメディ文化の黎明期にありました。
また、1954年にはエルビス・プレスリーが登場しロックが普及していきます。娯楽が非常に進化した時期でもあるのです。

こうした変化の中で、仕事に対し「単純労働」ではなく、楽しさややりがいを求める人々が増えていったのは当然の流れです。 人々のライフスタイルや価値観が変わるにつれ、新しい理論が重要視されていく時代的背景があったと言えるでしょう。
言い換えればこれは、「労働者の内面に」フォーカスせざるを得なくなったということでもあります。

日本社会の「場の倫理」「個の倫理」

もちろん、従業員の内面にフォーカスしたモチベーション向上方法の必要性は、現代の日本でも必要とされるものであることに変わりはないでしょう。
しかし50年代のアメリカと今の日本社会は似ても似つかないうえ、日本人独自のメンタリティもあります。

心理学者の河合隼雄氏は、欧米社会と日本社会では人間社会のあり方が大きく異なることを指摘しています。この違いを「父性社会」「母性社会」と位置づけています。

「父性原理」が個人の能力差をはっきりと認め分断も厭わないのに対し、「母性原理」では個性や能力に関係ない平等が存在する、全てを包み込む社会だというのです。

確かに、欧米では個人の能力を最大限認め、会社では待遇にも大きな開きがあり、また、学校では「飛び級」も少なくない父性社会と言えます。「個の倫理」が大きく働く社会でもあります。

一方で日本は母性社会であり、優劣に関係なくある程度全員を許容して平等性を担保する「場の倫理」への偏向が強いとしています。

その典型的な例として、このような場面を挙げています。

たとえば交通事故の場合を例として考えてみたい。ここで、加害者が自分の非を認め、見舞に行くと、二人の間に「場」が形成され、被害者としてはその場の平衡状態をあまりにも危うくするような保証金など要求できなくなる。
(中略)
 加害者が言い逃れをしたりすると、これは被害者と同一の「場」にいないものと判断し、徹底的に責任の追求ができることになっている。つまり、わが国においては、場に属するか否かが全てについて決定的な要因となるのである。場の中に「入れてもらっている」かぎり、善悪の判断を超えてまで救済の手が差し伸べられるのだが、場の外にいるものは「赤の他人」であり、それに対しては何をしても構わないのである。

<引用:河合隼雄「母性社会日本の病理」講談社+α文庫 p25-26>

この例では、被害者であっても、場を危うくするような金額を要求することもできなくなると指摘しています。
場合によっては、「あれほど譲歩しているのに」と、加害者が怒ることすらあるのです。
冷静に考えればおかしなことです。

しかし、社内でも似たようなシチュエーションに遭遇したことはないでしょうか?
こうした「場の倫理」によって従業員は生理的欲求よりも所属意識を優先してしまうこともあり、ブラック企業の温床になっているとも言えるでしょう。
また能力差の話題も、どこかしらタブー視されている向きもあります。

訴訟社会とも言われるアメリカだったらどうでしょう。このような「場の倫理」が先行することはあまりないのではないでしょうか。

「共感を持って話を聞く」具体的手法

このような「母性原理」の強い日本の中で、所属や帰属意識によって安心感を従業員にもたらすことは重要です。
しかし逆に「場を優先して言いたいことを言えない」結果、従業員の大切なアイデアをお蔵入りさせてしまうことになっていないでしょうか。

個人が持つ「場の倫理」と「個の倫理」の両方を満たさなければならないのは難しいことですが、母性の強い日本社会では「共感力」がより重要視されると言えます。安心できる「場」を作り、話はそれからという順序です。

米アデルフィ大学のクリスティーン M.リアダン学長は、共感を持って人の話を聞くステップと具体的な言葉をこのように提案しています*2

1)認識する

リーダーはあらゆる聴覚だけでなく表情、ボディランゲージなどあらゆる感覚で情報を受け取る。相手が言ったことだけでなく言わなかったことにも気を払う。
そして、このようなフレーズが生まれると言います。

  • 「気持ちを伝えてくれてありがとう」
  • 「考えをもう少し話してもらえますか」
  • 「みんながどう思っているかを理解しておくことが重要だ」
  • 「乗り気のようだけれど、それはなぜなのか、もう少し聞かせてください」

2)処理する

会話のポイントを正しく追いかけ、相手の発言を広い文脈で言い換える。

  • 「この会議で出た重要なポイントを整理しておくと…」
  • 「合意できたのはこの点で、合意できなかったのはこの点です」
  • 「次の会議までに……の情報を集めてください」
  • 「次はこうしようと思いますが、意見を聞かせてください」

3)応答する

しっかり話を聞いたということを相手に保証することが必要です。
言葉に出して感謝する、明快な質問をする、言い換えることで確認する、というステップです。

以上の3つのポイントは「分かっている」と思う人も多いかもしれませんが、筆者の経験では「言い換える」という「2)処理」があまりなされていないように感じます。
拙速に結論を導き出すことはよくありませんが、しっかり聞き、感謝した上で「こういう認識で良いか?」と問い直すステップは重要です。上記は会議の場を想定していますが、面談にも同じ事が当てはまります。

特に身につけたい「言い換え」の話法

中でも、相手の話を自分の言葉に置き換えて相手に確認することは非常に大切だと筆者は考えます。
というのは、様々な意見や情報は、いちど自分の中で消化することでしか本当の理解に繋がらないからです。「アウトプットが必要」ということを認識している人は多いのですが、この「アウトプット=自分の言葉で発する」ことは日常会話の中でも重要なのです。

一方的に話をする相手は困りますが、ビジネスの場では一方的に「聞くだけ」でも困るのです。
「もしかしたら自分は、この『場』ではスルーされてしまっているのではないか」。
日本では、そのような小さな出来事から自己否定感を感じやすいのだということを知っておきたいものです。

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この記事を書いた人

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に関連メディアに寄稿。

*1:米商業テレビネットワーク50年の軌跡」NHK

*2:「ハーバード・ビジネス・レビュー」2022年2月号 p88-89