アメリカの健康経営 “The Healthy Company” はここまで進んでいる

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企業の健康経営が重要度を増しています。 従業員のヘルスケアを経営上の重要な課題と捉えるアメリカ企業は、最先端のデジタルヘルスケア・サービスを活用して、先進的な取り組みを進めています。 そこからは健康経営のポイントや日本企業が目指すべき方向性がみえてきます。

本稿は、アメリカの “The Healthy Company” の取り組みについて、事例を交えながらわかりやすく解説し、日本の健康経営にも役立つナレッジを提供します。

健康経営に関する意識

“The Healthy Company” とは

アメリカで健康経営に関する動きが始まったのは1960年代ですが、本格化したのは1980年代からです。*1
その頃、従業員の医療費負担が増大し、企業経営を揺るがしかねないほど深刻化したことがきっかけでした。

アメリカの健康経営は、心理学者が1992年に出版した『The Healthy Company』に基づいているといわれています。
この書籍で示されているのは、 従業員の健康管理が重要な経営課題であり、企業が従業員個人のヘルスケアを実践することによって、生産性などの業績向上を図るという考え方です。

実際に、Johnson & Johnsonが世界250社、約11万4,000人に健康教育プログラムを提供し、投資に対するリターンを試算したところ、健康投資1ドルに対して約3ドル分の投資リターンがあったということです。

従業員のウェルネス戦略

アメリカでは、従業員のヘルスケアが企業の最優先事項となり、従業員の健康や幸福感の向上を考慮したウェルネス戦略が求められていますが、コロナ禍によって、こうした動きはさらに拡大しています。*2

「ウェルネス」に類似した概念としてよく用いられるのは「個人が身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であることを指す」というWHOの健康の定義です。*3

現在は従業員に対するウェルネスプログラムの人気が高まり、今後様々な業種の企業が健康増進プログラムや費用対効果の高い福利厚生サービスへの投資を増やしていくと予想されています。

下の図1は従業員の福利厚生に関する投資領域別の割合を表しています。

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図1:従業員の福利厚生に関する投資の割合

図1の項目は、左側から順に、COVID-19リスク対策、メンタルヘルス(ピンク)、マインドフルネス/瞑想(グリーン)、ストレス管理/回復(青緑)、遠隔医療(オレンジ)で、最も高い割合を占めているのはメンタルヘルスの88%です。

人材マネジメントとしてのウェルネスプログラム

アメリカでは従業員へのメンタルヘルスケアが企業の競争力を高めるという考えが根づいています。*4

特に、1981~1996年に生まれたミレニアム世代は、現在、全労働人口の35%を占めていますが、2036年には76%にまで増加することが予測され、企業に対しても大きな影響力をもっています。

このミレニアム世代は、従業員の健康に関する企業の役割について高い意識を持ち、福利厚生の中で、家族も含めたヘルスケアを一番重視しています。そのため、彼らが魅力を感じるのは、ヘルスケアに関して幅広い支援を行っている企業なのです 。

したがって、今後は従業員が企業を選択する際の要素の一つとして、業務内容や賃金だけでなく、企業が充実したヘルスケアやウェルネスプログラムを提供しているかどうかが重視されるようになると予測されています。

日本における健康経営の取り組み

これまでみてきたように、アメリカ企業のウェルネス戦略の根幹には、従業員の健康や幸福感を向上させることが企業の競争力を高めるという考え方があります。従業員の健康と企業の経営を統合的に捉えているのです。

日本の健康経営も基本的にアメリカのウェルネス戦略と同じコンセプトですが、普及状況は思わしくありません。*5
2018年12月に東京商工会議所が行った調査によると、実施企業は20.8%で、近く実施予定の企業を合わせても30%に満たないのです(図2)。*6

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図2:事業規模別健康経営を導入している企業の割合

東京商工会議所(2019)「健康経営に関する実態調査 調査結果」p.3

パーソナライズされたウェルネスプログラム

アメリカでは、企業経営上のメリットを得ると同時に、デジタルネイティブである次世代の優秀な人材を確保するための手段として、モバイルヘルスケアアプリが注目されています。

ウエルネスアプリには、以下の表1のように、大きく分けて3つのメリットがあります。*7

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表1:ウエルネスアプリのメリット

このように、現在アメリカの企業では従業員のヘルスケアとして、従業員個人の健康状態をデータで分析し、従業員の体調に応じてリアルタイムに サービスを提供するサービスの利用が拡大しています。
そのメリットは、個々の従業員の関心やニーズに合った健康増進プログラムを、都合のいい場所で、いつでも利用できることです。

最近は従業員の健康状態や幸福感、成果との相関関係を分析するソリューションも登場しています(図3)。

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図3:アメリカの企業で利用されているモバイルヘルスケアアプリの例

このタイプのサービスの多くが、AIやIoT、 ウェアラブル端末などの技術を活用して、個人のヘルスデータ (心拍、睡眠、運動量など)を収集し、それに基づいて日々の体調の変化を的確に捉え、健康の増進や体調に応じたアドバイスなどを行うものです(図4)。

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図4:デジタルヘルスケア・サービスを活用した企業の取り組みのイメージ

では、こうした取り組みによってどのような成果が上がったのでしょうか。

図3でみたアプリを提供している Limeade によると、5,000人近くの従業員が働くアメリカの大手自動車保険会社がそうしたアプリを2008年に導入したところ、従業員のウェルネスプログラムへの参加が2年間で12%増加し、2016年には10年振りに医療費が増加しなかったという大幅な改善がみられたということです。*8

さらに、2017年、ウェルネスプログラムと従業員のエンゲージメント(企業への信頼・愛着)の相関関係を分析したところ、エンゲージメントは5.8%増加し、100万ドル近くの潜在的な収益につながったと推計されています。

このように、パーソナライズされたウェルネスプログラムは大きな効果を上げています。

日本の健康経営の課題

ここでは、アメリカの “The Healthy Company” と比較しながら、日本の健康経営の課題をみていきましょう。

デジタルソリューションとモチベーション

日本でも最近は大手企業を中心に健康経営を推進する動きが拡大していますが、デジタルソリューションにフォーカスすると、アメリカとは大きな差があります。*9

先ほどみたように、アメリアでは個別にモバイルアプリやヘルスデータを活用したリアルタイムなヘルスケアサービスの利用が拡大し、個人のヘルスデータが医療機関やアプリケーション間で広く共有されるデザインになっています。
その結果、個人の未病対策や健康増進施策に対するモチベーションが高く、それが取り組みへの積極性につながっています。

一方、日本では企業による健康経営支援関連サービスの利用が主流で、リアルタイム性が低く、デジタルツールやデータを活用した健康経営は十分に進んでいません。

東京商工会議所の調査(複数回答)によると、健康経営を実施している企業が従業員への健康支援対策として行っているのは、「健康診断受診率100%・人間ドックの費用負担」がトップで約52%、次いで「ノー残業デイの設置・有休取得の推奨」が約20%となっています。*10

また、個人のモチベーションも高いとはいえませんが、その背景として、日本はいつでも誰でも平等に医療を受けることができる医療制度が整備されていることが挙げられます。*11

データ連携・ITインフラ

最後にデジタルヘルスケア・サービス提供のデザインについてみていきましょう。*12

アメリカではヘルスケアプラットフォームの構築やAPI(ソフトウェアやプログラム、Webサービスの間をつなぐインターフェース)によって、企業や病院間でデータを簡単に連携できます。
また、企業間でも相互にサービスに接続できるインフラ整備も進んでいます。

それに対して日本では、各サービスベンダーがユーザー向けに個別にヘルスケアサービスを提供するケースが多いのが特徴です(図5)。

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図5:デジタルヘルスケア・サービスの提供におけるデザイン

個々の従業員のヘルスデータを有益に活用するためには、日本でもこうしたデータ連携やITインフラの整備が必要です。

おわりに

本稿では、アメリカの “The Healthy Company” の先進的な取り組み状況をご紹介し、日本の健康経営を普及・充実させるための課題を探ってきました。

健康経営の第一の目的は、従業員の健康を守ることですが、充実した健康経営が実現できれば、企業の経営にも多くのメリットをもたらします。

“The Healthy Company”が提供するナレッジを生かし、日本でも健康経営を普及させていくことが望まれます。

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この記事を書いた人

横内美保子

博士。元大学教授。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
Webライターとしては、各種資料の分析やインタビューなどに基づき、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。