EQブームの火付け役に学ぶ ビジネスパーソンの必須条件「EQ」ってそもそも何? 学習で習得できる?

EQはあらゆるビジネスパーソンにとっての必須条件だ。特に優れたマネジャーとして評価されている人たちには、共通項があり、それはEQが非常に高いことだ。*1

そう語るのは、心理学者のダニエル・ゴールマン氏です。
ゴールマンはニューヨークタイムス紙に「EQ」を発表してその概念をわかりやすく紹介し、一大ムーブメントを巻き起こした人物。*2
自身の調査や最近のいくつかの研究から、経営陣になるための最低条件はEQであると断言しています。*3

では、EQとはそもそもどのようなものでしょうか。
それはトレーニングによって習得できるものなのでしょうか。

本稿は、主にゴールマン氏の著作を拠り所にして、職場でのEQについて考えていきます。

EQはマネジャーの必須条件

心の知能指数

EQ(emotional intelligence)は新しいコンセプトというわけではありません。
最初の論文が発表されたのは1990年。「心の知能指数」という新しい概念を提唱する画期的な論文でした。
それは、成功と幸せを実現する上で、EQは認知の知能指数であるIQと同じくらい、場合によってはそれ以上に重要であると主張するものでした。*4

上述のように、その後ゴールマン氏がEQの概念をわかりやすく解説したところ、それをきっかけに一大ブームが巻き起こります。

ゴールマン氏はその後さまざまな調査を行い、職場におけるEQについても研究しました。
その結果、明らかになったことをみていきましょう。

グローバル企業のコンピテンシーモデルとEQ

欧米では多くの大企業が「コンピテンシーモデル(能力モデル)」を導入しています。

目的は、そのモデルによってミドル層の管理職や幹部候補社員を発掘し、研修を受けさせ、昇進させること。

このモデルを開発するにあたって、心理学者たちは業部門別の収益性などの客観データを用いたり、マネジャーたちへのインタビューやテストを徹底的に行い、優れたマネジャーの資質をリストアップするのです。

企業の中で、個人のどのような能力が高い業績につながるのか―それを明らかにするために、ゴールマン氏は過去数年間にわたって188社のコンピテンシーモデルを分析してみました。
その際、個人の能力を以下の3つのカテゴリーに分類しました。

  • 経理やビジネスプランニングなどの純粋に仕事のスキル
  • 分析的推論のような知的能力(IQのような能力)
  • 協働作業への適応性や革新を導くようなEQに当たる能力

すると、驚くべきことに気づきました。
確かにIQ的な知性、特に大局的・長期的なビジョンを提示できる能力は重要な役割を果たしていました。

ところが、高業績に及ぼす影響を、仕事のスキル、IQ、EQで比べてみたところ、企業のどの階層でもEQが他の要素の2倍もの影響力を与えていたのです。
むしろ、スキルの巧拙はあまり重要ではありませんでした。

特にリーダーの能力を比べてみると、優れたリーダーと平均的なリーダーとではその違いの9割がEQによるものでした。

別の研究者が行った世界規模の調査でも、興味深いことがわかっています。
EQが高い水準に達している経営幹部が担当する事業部門の年間利益は目標を20%上回っているのに対して、EQが一定水準に達していないマネジャーが率いる事業部門の利益は目標を20%下回っていたのです。

このように、企業の成功と管理職のEQの高さには強い相関が認められます。

部下は上司にEQを求めている

Adeccoグループが2020年に8か国の各1,000人を対象に行った意識調査によると、「上司には共感とサポートの姿勢を重視したリーダーシップを求める」と回答したのは、全体で74%でした。

日本は8か国の中で最も低い割合でしたが、それでも55%と半数以上に上っています。*5

図1:リーダーにEQを期待する部下の割合

同調査の結果を分析したレポートでは、コロナ禍によってEQはかつてないほど重要になっていると報告されています。*6
従業員はマネジャーがEQを備えるようにさらに努力して欲しいと考えているのです。

EQを構成する5つの因子

では、EQの水準はどうやって測ればいいのでしょうか。
それは、次のような5つの因子がどの程度当てはまるかみることで把握できます。*7

表1;職場におけるEQの5因子
<出典:ダニエル・ゴールマン「心の知能指数「EQ」のトレーニング法」『ハーバード・ビジネス・レビュー リーダーシップ論文ベスト10 リーダーシップの教科書』(2018)ダイヤモンド社(電子版)p.293>

この5因子をひとつずつみていきましょう。

第1の因子:自己認識

自己認識ができている人は、率直に自分の失敗について語ります。ときには、失敗談を笑顔で披露することも。
自分を笑い飛ばせるユーモアのセンスも自己認識ができている証左になります。

自己認識がしっかりしている人は、自分の限界も長所も理解しているため、そのことについて気楽に話せ、むしろ自分のことを批判してほしいと希望することさえあります。

一方、自己認識に欠ける人は、改善を求められても、それを叱責だと勘違いしたり、失敗者の烙印をおされたと勝手に思い込んだりしてしまいがちです。

第2の因子:自己統制

感情にかられ衝動的になってしまうのは、生物学的な問題で、その衝動を消し去ることはできません。しかし、コントロールすることは可能ですし、重要です。

たとえば、ある企業の取締役会で、お粗末としかいえない報告があったとします。
そのとき、もしCEOが怒り狂ってテーブルを叩き、イスを蹴り倒したらどうなるでしょう。
あるいは、無言で出席者を睨みつけ、部屋から出て行ってしまったら?

一方、自己統制が備わっているCEOなら、注意深く言葉を選びながら、部下のお粗末な報告を一応、預かる。そして、会議が終わり気分が落ち着いてから、じっくり原因を考えることもできます。対策を練ったり、もしかしたら自分にも責任の一端があるかもしれないと考えることだってできるのです。

もし、部下だとしたら、どちらの上司を信頼するでしょう。

自己統制力は個人の品位や美徳を高め、さらには会社組織をクリーンに保つことにもつながります。
自己統制の利いたリーダーの下では、コンプライアンス上の問題が生じるようなケースはめったにありません。

ゴールマン氏の調査では、負の感情を極端にさらけだす人がマネジャーになれたケースは1つもなかったということです。

第3の因子:モチベーション

多くの人は、高い報酬や役職、あるいは一流企業に勤めていることなど「外的要因」を働く動機にしています。
しかし、EQの高い人の動機は、「達成感を得ること」です。

仕事をもっとうまくやり遂げることにエネルギーを注ぎ、現状に甘んじることなく改善方法をとことん追求する。
そして、実績が思わしくないときでも楽観的な態度を崩さない。
なぜなら、そのような場合には自己統制のメカニズムが働いて、挫折や失敗によって感じる欲求不満や落ち込みを克服しているからです。

モチベーションが高い人は組織に貢献しようとする傾向があります。
楽天的な性格と組織へのコミットメントは、リーダーシップに欠かせない要素です。

第4の因子:共感

これまでみてきた第1の因子から第3の因子までは、自己管理能力です。
一方、これからみていく2つの因子は、人間関係を管理するための能力です。

職場における共感とは、合理的な決定を下す際に、部下や社員たちの気持ちを思いやることです。

ゴールマン氏はこんな例を挙げています。
ある大手証券会社が合併することになり、両者の全部門で人員が余剰になったことがあった。
すると、ある部門のマネジャーが部下を集め、合併に伴って解雇される人数を強調しながら、陰気な雰囲気で人員整理について説明した。

一方、別部門のマネジャーは、自分自身も不安を感じていることを率直に伝え、どんな情報も隠さず伝えること、そして全員を公平に扱うことを部下たちに伝えた。

この2人のマネジャーの違いは共感の有無です。
前者は自分のことにばかり気をとられ、不安でいっぱいになっている仲間たちの気持ちに寄り添おうとはしませんでした。
その結果、多くの部下が士気を失い、最も有能な人材が会社を辞めていきました。

一方、後者は、部下たちの感情を直観的に感じとり、言葉に出して部下の不安に理解を示した結果、彼の部門では有能な部下が辞めなかったため、合併後も以前どおりの生産性を維持したということです。

この共感は、グローバル化が進んだ現在、異なる文化をもつ人たちとビジネス上のつき合いをする際にも役立ちます。
また、優れた部下を会社につなぎとめておくのにも役立ちます。相手にモチベーションを持ってもらえるように、共感と思いやりを態度で表すからです。

第5の因子:ソーシャルスキル

ソーシャルスキルは、EQの因子の中で最も重要であるとゴールマン氏は言います。
自分の感情を把握してコントロールし、他の人の気持ちに共感することができれば、非常に有益な人間関係を維持できるでしょう。

また、達成感を動機にして仕事をしている人は、挫折や失敗に直面しても楽天的な態度をとり続けます。
その明るさが次々に新しい出会いを引き寄せるのです。

ソーシャルスキルに優れた人は、あらゆるタイプの人たちと見解の一致を見出し、親和関係を築くのに長けています。
重要なことは1人では達成できないことを理解していて、必要なときにはいつでも使えるネットワークを持っています。

マネジャーの仕事は人々の力を借りて仕事をやり遂げることであり、ソーシャルスキルがそれを可能にするのです。

EQは学習によって習得できるのか

これまでみてきたように、EQはマネジャーの必須条件です。

先ほどみたAdeccoグループのレポートでも、多くの部下が上司にEQを期待していました。ところが、同レポートによると、54%のマネジャーが、「部下に心の安定をもたらすような効果的なアドバイスをすることは難しい」と回答しています。*8
部下をサポートするためのEQが不足しているのです。

では、EQは今からでも習得することができるのでしょうか。

科学的な調査によると、EQにはかなり遺伝的要因があります。また、心理学や発達科学の研究では、育児や教育の過程に関係があるとされています。*9

しかし、EQは学習できるとゴールマン氏は断言します。
個人差はあるものの、EQは年齢とともに高まるという事実もあります。

EQのトレーニングで大切なのは、EQの大部分が感情・衝動・情動をつかさどる大脳辺縁系の神経伝達物質によって生まれるという事実を理解することです。そのため、最も効果的な学習方法は、動機づけや長期訓練、フィードバックです。

EQのトレーニングは、まず本人がそれを真剣に望むとともに周囲の協力を得る必要があります。
その上で、社員1人ひとりに合わせたトレーニングプログラムに沿って訓練し、社内のメンバーからフィードバックしてもらうことが欠かせません。

それは簡単なことではありませんが、粘り強く取り組めば身につくことが実証されています。
社会神経科学という脳科学の新しい分野では、 無線LANのように働くミラーニューロンが発見されました。
このニューロンが1人の脳の中で活動すると、相手の人の脳の同じ場所でも活動することがわかっています。

つまり、少なくとも理論的には、誰かに注意を向けた時、自動的に共感して相手の感情を読み取るように私たちはできているのです。*10

これまでみてきたように、EQは職場全体のウェルビーイングにつながり、さらに会社の業績を高めます。

では、EQは職場でどの程度、尊重されているでしょうか。
まずは職場を見回し、その確認から始めてみるのはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

横内美保子

博士。元大学教授。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
Webライターとしては、各種資料の分析やインタビューなどに基づき、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

*1:ダニエル・ゴールマン「心の知能指数「EQ」のトレーニング法」『ハーバード・ビジネス・レビュー リーダーシップ論文ベスト10 リーダーシップの教科書』(2018)ダイヤモンド社(電子版)pp.290-295、pp.297-300、pp.302-303、pp.305-307、pp.309-311、pp.313-315、p.317

*2:ビル・バーネット&デイヴ・エヴァンス 著 千葉敏生 訳(2019)『スタンフォード式 人生デザイン講座』早川書房(電子書籍版)pp.248-249

*3:ダニエル・ゴールマン「心の知能指数「EQ」のトレーニング法」『ハーバード・ビジネス・レビュー リーダーシップ論文ベスト10 リーダーシップの教科書』(2018)ダイヤモンド社(電子版)pp.290-295、pp.297-300、pp.302-303、pp.305-307、pp.309-311、pp.313-315、p.317

*4:ビル・バーネット&デイヴ・エヴァンス 著 千葉敏生 訳(2019)『スタンフォード式 人生デザイン講座』早川書房(電子書籍版)pp.248-249

*5:The Adecco Group(2020)「世界8カ国の調査からみる「“日常”の再定義:新たな時代の働き方とは 3. EQ(心の知能指数)の高いリーダーが求められる

*6:The Adecco Group(2020)「“日常”の再定義:新たな時代の働き方とは」ホワイトペーパーPDF p.10

*7:ダニエル・ゴールマン「心の知能指数「EQ」のトレーニング法」『ハーバード・ビジネス・レビュー リーダーシップ論文ベスト10 リーダーシップの教科書』(2018)ダイヤモンド社(電子版)pp.290-295、pp.297-300、pp.302-303、pp.305-307、pp.309-311、pp.313-315、p.317

*8:The Adecco Group(2020)「“日常”の再定義:新たな時代の働き方とは」ホワイトペーパーPDF p.11

*9:ダニエル・ゴールマン「心の知能指数「EQ」のトレーニング法」『ハーバード・ビジネス・レビュー リーダーシップ論文ベスト10 リーダーシップの教科書』(2018)ダイヤモンド社(電子版)pp.290-295、pp.297-300、pp.302-303、pp.305-307、pp.309-311、pp.313-315、p.317

*10:▷02:00TED2007(2007)「ダニエル・ゴールマンが思いやりを語る Transcript」▷02:00