「今年の新人はなにか違う」
二十歳(はたち)をちょっとすぎた大学生が2、3歳下の新入生のことをこんなふうに言っていました。
その気持ちはよくわかります。 筆者は大学で主に外国人留学生を対象にしたクラスを担当していますが、同じ国からきた学生たちでも、年々、行動様式や価値観が変わってきていることを実感しています。周囲の教員仲間の認識も同じ。
1年毎の変化を実感するくらいですから、世代間ギャップはなおさら顕著でしょう。
ベビーブーマー、X世代、Y世代、Z世代・・・、他にも団塊の世代、ミレニアル世代、デジタルネイティブなどさまざまな呼び方がありますが、それぞれの世代は生まれ育った時代背景や生活経験が異なるため、独自のライフスタイルや価値観、文化、嗜好をもちます。
そのため、それぞれの世代の消費行動には特徴があり、一律のマーケティングでは対応が困難です。
本稿では、まずそれぞれの世代の特徴について把握した上で、これからのマーケティングに大きな影響を与えるY時代とX時代にフォーカスし、さらにポストZ世代であるα世代に対する備えについても考えます。
世代区分と世代間ギャップ
世代区分
アルファベットによる世代の分類は「X世代」が始まりです。*1
「X世代」の「X」にはもともとは「未知」という意味がこめられていたようですが、その後の世代は「Y」、「Z」とアルファベット順につけられていきました。
以下は、経済産業省と内閣府による定義で、カッコ内は2022年での年齢です。*2、*3
- ベビーブーマー:1947年ー1949年(73歳ー75歳)
- X世代:1960年ー1979年(43歳ー62歳)
- Y世代(ミレニアル):1980年ー1995年(27歳ー42歳)
- Z世代:1996年ー2012年(10歳ー26歳)
なお、「デジタルネイティブ」とは、インターネットが普及しつつあった環境で育ったY世代とインターネットが既に主流になっていた時代に生まれたZ世代の2つの世代を指すこともありますし、Z世代のみを指すこともあります。*4、*5
ちなみに、「団塊の世代」の子どもたちの世代は第2次ベビーブームの1971(昭和46)年から1974(昭和49)年に誕生した「団塊ジュニア」と呼ばれる世代です。*6
ただし、それぞれの世代の誕生年に一律の定義があるわけではなく、定義をする人や国によってズレがあります。
年代別人口構成
ここで、2021年10月1日時点におけるそれぞれの世代の人口構成を人口ピラミッドで確認してみましょう(図1)。*7
図中左にアルファベットで世代を示しました。
図1をみると、日本では団塊ジュニアを含むX世代が労働力人口(15歳ー64歳)のうち最大の割合を占めていることがわかります。現在、職場でリーダー的な役割を果たしているのは主にこの世代です。
一方、Z世代は労働市場に参入し始めたところです。
各世代の特徴と消費行動
各世代は異なる価値観をもち、製品・サービスに対する好みや態度が違うため、マーケターはそれぞれの世代に対応することを求められます(表1)。(経済産業省(2022)「新しい市場ニーズへの対応」p.4))
こうした世代のうち、現在大きな購買力をもつのはベビーブーマーとX世代です。そこでマーケターはこれらの世代に対応し、大きな売り上げを産み出しています。*8
しかし、マーケティング学の権威であるフィリップ・コトラー博士は、この状況に関して注意喚起しています。
実際にはY世代とZ世代が高いデジタル能力によってSNSなどでブランドを推奨し、さらにベビーブ―マーやX世代である親たちに多くの購買決定で影響を与え始めているというのです。
デジタルネイティブの影響力
ここで、これからのマーケティングのカギを握るデジタルネイティブに注目してみましょう。
上述のように、Y世代とZ世代は以下のように、ほぼ10代から30代までの人々です。
- Y世代(ミレニアル):1980年ー1995年(27歳ー42歳)
- Z世代:1996年ー2012年(10歳ー26歳)
彼らの休日のインターネット利用状況をみてみましょう(図2)。*9
図2をみると、年齢によってインターネットの用途に大きな差があることがわかります。
このうち、Z世代に当たる10代から20代の半ばにあたる年代層は他の年代に比べて「動画投稿・共有サービスを見る」と「ソーシャルメディアを見る・書く」ために長時間を費やしています。
特にY世代とZ世代にまたがる20代の女性はSNSの利用時間が極めて長いことが見てとれます。
Y世代の特徴
1つ前のX世代とその上の世代は、職場で仕事のために初めてインターネットを使った世代ですが、Y世代はずっと若い頃からインターネットについて熟知しており、インターネットやSNS関連のリテラシーを私的な目的のために利用してきました。*10 こうしたY世代は、SNS上で仲間から確認や承認を得る必要性を感じ、仲間の言うことや買う物に大きく影響されます。その結果、ブランドより仲間の方を信頼する傾向があります。
また、表1にも「ミニマリズム」、「モノ消費」より「コト消費」とあるように、上の世代に比べて多くの製品は買わず、所有より体験を好みます。
Y世代を1980年代生まれと1990年代前半生まれに分けると、1980年代生まれの人々はX世代と同じように、デジタル世界にも物理的世界にも適応できる「橋渡し世代」だといえます。
一方、1990年代前半に誕生した人々はこの後みるZ世代と同じように、幼年期にインターネットを使い始めたため、デジタル世界はより身近なものと意識しています。
Y世代はまた、社会の変革や環境の持続可能性に大きな関心をもっています(表2)。*11
表2は世界4大会計事務所の1つであり、巨大コンサルティングファームのPwC(Price waterhouse Coopers)が行った「消費者意識調査2021年6月」の結果です。 表中のコア・ミレニアル世代は2022年時点で28歳から33歳、マチュア・ミレニアル世代は34歳から37歳を指します。
この調査結果から、Y世代ではブランドの環境保護への取り組みが顧客ロイヤリティに影響を与えていることがわかっています。
Z世代の特徴
インターネットが既に主流になっていた時代に生まれたZ世代は、生活の中に常にインターネットがあったため、デジタルリテラシーを日常生活に欠かせない要素だと捉えています。*12
彼らは学習やニュース、買い物、SNSのために、スマホなどを使って常時インターネットに接続しています。
その結果、彼らにとってオンラインの世界とオフラインの世界の境界は存在しません。
Z世代は自身の日々の生活を写真や動画に撮り、SNSに投稿します。
この世代は上の世代に比べて個人情報をシェアする意欲が高いため、ブランドにはパーソナライズされたコンテンツや顧客体験を提供する力を求めます。
それと同時に、製品・サービスの消費の仕方を自分自身でコントロールしたりカスタマイズしたりすることを望んでいます。
Z世代はパーソナライズやカスタム化の利便性を高く評価しているのです。
この世代はまたブランドとの絶え間ないエンゲージメントを求め、常にインタラクティブな顧客体験の提供を望んでいます。
したがって、ブランドのロイヤリティを高めるためには、こうした期待に応える必要があります。
ポストZ世代・α世代への備え
α世代は、冒頭の定義では2012年以降に生まれた世代ということになりますが、コトラー博士は「2010年から2025年の間に生まれた人々」と定義しています。*13
このセクションでは、この定義に沿って話を進めていきます。
アルファ世代の「アルファ」とは、技術融合によって形成される全く新しい世代を意味しています。
この世代もデジタルネイティブであり、Y世代である親やZ世代である兄姉のデジタル行動に影響を受け、図2でみたようにオンラインでコンテンツを積極的に消費しています。
彼らにとってハイテク玩具やスマート器機やウェアラブル端末はごく身近なものであり、今後もAIや音声コマンド、ロボットを活用しながら成長していくとみられます。
まだ若い彼らは現時点では巨大な購買力をもっていませんが、前述のように既に他者の資質に対して強い影響力をもっていることには留意する必要があります。
Y世代である親の多くが家族の決定にα世代の子どもを参加させているという調査結果があります。
また、この世代の中にはSNS上のインフルエンサーも登場し、同世代の消費行動に影響を与えつつあります。
こうした状況から、世界中のマーケターがこの世代に関心を向けるのは時間の問題だとコトラー博士は指摘しています。
5つの世代とマーケティングの進化
マーケティングは常に変化し続けています。
最後に、各世代とそれに対応するマーケティングをみてみましょう(図3)。*14
なお、各世代の定義は最初に述べた本稿の定義とはややズレがあります。
マーケティング1.0は製品中心のマーケティングでした。最大の問題点は企業が顧客に不要なものを消費させ、消費主義文化を産み出したことです。
マーケティング2.0は顧客中心で、マーケティングの目的は顧客満足から顧客維持に変化しました。
マーケティング3.0時代では、企業は倫理的で社会的責任を果たすマーケティング慣行をビジネスモデルに組み込むようになりました。
マーケティング4.0は従来型のマーケティングからデジタル型に移行しました。
そして、Z世代とα世代の登場によって、マーケティングにはさらに進化が求められています。それがマーケティング5.0です。
その特徴は、2つ。 1つは人間生活の質を向上させること。そしてもう1つは人間生活のあらゆる面で技術の進歩をさらに推し進めることです。
Z世代とα世代に対応するためには、マーケターはマーケティング3.0と4.0を統合し、人間の生活を向上させるためにネクスト・テクノロジーを導入し続けなければなりません。
これまでみてきたように、マーケターは現在大きな購買力をもつベビーブーマーとX世代に対応して大きな売り上げを産み出しつつ、未来に向けてのブランド・ポジショニングを始める必要があります。
マーケティング5.0の時代に競争に打ち勝つためには、Z世代とα世代の信頼をかちとれるかどうかが大きなカギになるでしょう。
*1:ニッセイ基礎研究所 廣瀨亮(2020)「ジェネレーションαの時代-Z世代の次を考える」pp.2-3
*2:経済産業省(2022)「新しい市場ニーズへの対応」p.4
*3:内閣府<平成27年度版 少子化社会対策白書>第1部 少子化対策の現状と課題
*4:ニッセイ基礎研究所 廣瀨亮(2020)「Z世代の情報処理と消費行動(1)―Z世代が歩んできた時代」p.1
*5:フィリップ ・コトラー+ヘルマワン・カルタジャヤ+イワン・セティアワン 著 恩藏直人 監訳 藤井清美 訳(2022)『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』 朝日新聞出版(電子書籍版)p.56、pp.48-49、pp.56-58、pp.58-59、pp.64-69
*6:内閣府<平成27年度版 少子化社会対策白書>第1部 少子化対策の現状と課題
*7:総務省統計局(2022)「人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在 ―全国:年齢(各歳)、男女別人口・都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口―」
*8:フィリップ ・コトラー+ヘルマワン・カルタジャヤ+イワン・セティアワン 著 恩藏直人 監訳 藤井清美 訳(2022)『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』 朝日新聞出版(電子書籍版)p.56、pp.48-49、pp.56-58、pp.58-59、pp.64-69
*9:総務省(2021)「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」p.30
*10:フィリップ ・コトラー+ヘルマワン・カルタジャヤ+イワン・セティアワン 著 恩藏直人 監訳 藤井清美 訳(2022)『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』 朝日新聞出版(電子書籍版)p.56、pp.48-49、pp.56-58、pp.58-59、pp.64-69
*11:Price waterhouse Coopers「「よりよい暮らしを求めて」変化する世界の消費者 コロナ禍における消費者トレンドの変化」消費者意識調査2021年6月」p.14、p.13
*12:フィリップ ・コトラー+ヘルマワン・カルタジャヤ+イワン・セティアワン 著 恩藏直人 監訳 藤井清美 訳(2022)『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』 朝日新聞出版(電子書籍版)p.56、pp.48-49、pp.56-58、pp.58-59、pp.64-69
*13:フィリップ ・コトラー+ヘルマワン・カルタジャヤ+イワン・セティアワン 著 恩藏直人 監訳 藤井清美 訳(2022)『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』 朝日新聞出版(電子書籍版)p.56、pp.48-49、pp.56-58、pp.58-59、pp.64-69
*14:フィリップ ・コトラー+ヘルマワン・カルタジャヤ+イワン・セティアワン 著 恩藏直人 監訳 藤井清美 訳(2022)『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』 朝日新聞出版(電子書籍版)p.56、pp.48-49、pp.56-58、pp.58-59、pp.64-69