その広告、見ているのはロボットかも? 「アドフラウド」による不正にご注意 

インターネット広告はいまや当たり前のものになり、広告へのアクセス数も簡単にわかるため、その効果をある程度推し量ることもできるようになりました。 そして当たり前のことですが、広告の効果は「人間がアクセスする」ことでしか発生しません。

しかし近年、「アドフラウド」という広告費の搾取が蔓延しているのをご存知でしょうか。人間がアクセスしたように見せかけて実はボットなどの自動プログラムによって広告を表示させているという詐欺的な手法です。

これによってクリック数などが水増しされており、広告主は数字だけを見て騙されているということになってしまいます。場合によっては、広告を閲覧しているのはロボット、ということさえあるのです。

今回は、こうしたアドフラウドの手口と防止策について見ていきましょう。

アドフラウドの代表的な手口

アドフラウドの手口は年々巧妙化していますが、わかりやすいものとしては、以下のような手口があります。ネットの閲覧中にこのような広告を実際に見たという人もいらっしゃることでしょう。

まずひとつは、Ad Density(過度な広告領域)と呼ばれるものです。これは検索スパムと組み合わせて、広告しかないページに誘導して広告アクセスを増やすものです。

また、高頻度で自動リロードを繰り返して短時間に大量の広告を表示させたりするAd Refresh (過度に自動リロードされる広告)と呼ばれる手口や、ブログパーツの見えない領域に広告を仕込んでユーザーに見えない形で広告配信数を水増しするHidden Ads(隠し広告)と呼ばれるものもあります。

その他にはブラウザをプログラミングして、自動的にインプレッションやクリックを発生させる手口があります。
さらにはアダルトコンテンツや違法ダウンロードサイトの事業者がURLを偽って広告を入札し、実際にはそのURLではなくアダルトや違法サイトに広告を掲載するといったものがあります。

中には、ユーザーのデバイスを不正プログラムに感染させ、自社が配信する広告を閲覧させたりするものすら存在しています。

これらの手段により、広告がごく短時間しか掲載されない、あるいは閲覧者に見えない場所に載せられているだけであったり、広告主の知らぬ間に違法サイトに広告が掲載されてしまったりするのです。

アドフラウドによる損失は72億ドルにも

アドフラウドによる損失は大きく2種類あります。

アドフラウドによる金銭的損失・機会損失

アメリカでは、2016年にアドフラウドによって生じた損失は約72億ドルにのぼると推測されています*1

しかしその後、アメリカでは早期から対策が始まっていますので、損失は減少していると考えられます。

ブランドイメージの毀損

そして忘れてはならないのは、アダルトや違法サイトに自社の広告が掲載されてしまうことで企業のブランドイメージを大きく損なってしまうことです。

遅れている日本のアドフラウド対策

実は、日本はアドフラウド後進国です。

米インテグラル・アド・サイエンスのレポートによると、2020年下半期の世界のアドフラウド率は全体的に減少しているにもかかわらず、日本とオーストラリアだけが上昇していると報告されています*2

実際、インテグラル・アド・サイエンスの資料によると、日本のアドフラウド率は下のようになっています(図1)。

図1:日本と世界のアドフラウド率

<出所:「最新 マーケティングの教科書2022」日経BP p49をもとに作成>

そしてアドフラウドと合わせて、広告の視認性が担保されているか(ビューアビリティー)、企業のブランド毀損に繋がる可能性がどのくらいあるか(ブランドリスク)、タイムインビュー(広告の蓄積閲覧時間)についての調査結果も紹介されています。 日本は全ての指標において世界で遅れをとっていることが分かります(図2)。

図2:日本のネット広告の各指標

<出所:「メディアクオリティ レポート2020年下半期版」インテグラル・アド・サイエンス>

日本はアドフラウド対策の後進国なのです。

広告掲載環境の重要さと責任性

前出の米インテグラル・アド・フラウドはこのような調査結果も公表しています。

広告が表示されるコンテンツ内容によって、ネットユーザーの意識はどのように変化するかというものです

世界8か国で調査したところ、このような結果が得られています*3

  • 82%が「広告が高品質なコンテンツに隣接して表示されることは重要だ」と回答
  • 34%が「低品質なコンテンツで広告を閲覧した場合はそのブランドの好感度が下がる」と回答
  • そのような低品質なコンテンツ環境で広告を見た場合、そのブランドの使用を取り止めることを検討すると回答した人が65%

また、「広告がどこに表示されるかを管理する責任は広告主にある」と回答した人の割合は66%にのぼっています。

広告が掲載されている環境の重要性がわかります。また、広告主の責任を重く見る人の割合も多いのです。

デジタル広告費は2019年にテレビメディア広告費を抜き、いまや日本の広告費全体の36%を占めています(図3)。

図3:日本の広告費の内訳

多くの広告費がアドフラウドによって無駄になるだけでなく、企業のブランドイメージ毀損というマイナスにすらなってしまう状況を放置しておくわけにはいきません。

近年、アドフラウド対策サービスにも注目が集まっています。自社でのチェックや管理が難しいという場合はこうした外部サービスの利用も候補に上がるでしょう。

広告はネットユーザーと対面する最初のきっかけであり、「企業の顔」とも言えます。 広告の制作には関与するがあとは広告代理店やサイト運営者任せ、というわけにはいかない時代にきているのです。

この記事を書いた人

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に関連メディアに寄稿。