ブルーオーシャン戦略とは、W・チャン・キムとレネ・モボルニュが提唱したマーケティング戦略*1です。
2人は30業種の100年の歴史をさかのぼり、150の成功事例を発見しました。そして、経営戦略を丹念に分析し、成功の方程式にたどり着いたのです。
「ブルーオーシャン戦略」という言葉を聞いたことがない、あるいはその意味を知らないという方でも、ブルーオーシャン戦略やブルーオーシャン・シフトを導入している企業に出会ったことがあるのではないでしょうか。
ブルーオーシャン戦略とは
ブルーオーシャン戦略とは、「激しい競争は市場を奪い合い、血が流れるレッドオーシャンにしかならない」という同名の書籍に基づくものです。
企業は新しい市場空間や業界を改革する方法を探すべきだと説いています。つまり、真っ向勝負を避け、イノベーションに集中することです。
ブルーオーシャン戦略の目標は、企業が「ブルーオーシャン」(競合のいない成長市場)を見つけて開拓し、「レッドオーシャン」(乱開発され飽和した市場)を避けることです。
レッドオーシャンでは、企業は他社に損失を与えてでも高い市場シェアを獲得し、ライバルから抜きん出ようとします。
一方、ブルーオーシャン市場では、企業はより成功しやすく、リスクも少なく、収益性を高くできます。
ブルーオーシャン戦略は、ある業界に限定されるものではなく、ハイテク、ヘルスケア、フィンテック、小売業界など、あらゆる業界や業態に適用できます。
ブルーオーシャン戦略3つの強み
ブルーオーシャン戦略は、既存の産業やコスト構造の中での競争に焦点を当てた、一般的なマーケティング戦略とは一線を画すものです。ブルーオーシャン戦略の主なポイントは以下の通りです。
実証されたデータに基づく
様々な戦略モデルの中には、理論に基づいたものでありながら、市場参入の実行となると読み通りにはいかないものがあります。
これに対してブルーオーシャン戦略は、30を超える業界における企業の成功と失敗を分析した、10年にわたる研究の成果です。
ブルーオーシャン戦略は机上の空論ではなく、実際のマーケットで成果を上げている実践的なアプローチに基づいています。
競合を重要視しない
ブルーオーシャン戦略のアプローチは、競合他社を出し抜くことでも、業界で一番になることでもありません。
むしろ、競合他社の動向分析を優先することなく、業界の境界線を引き直し、その新しい領域でビジネスを展開することです。
差別化と低価格の両立が可能
ブルーオーシャン戦略では、消費者は価値と価格のどちらかを選ぶ必要はない、と主張しています。
消費者が今何を重視しているかを見極め、その価値をどのように提供するかを考え直せば、差別化と低価格の両立という定理を追求できるのです。
ブルーオーシャン戦略では、これを「バリュー・イノベーション」*2と呼んでいます。
ブルーオーシャン戦略3つの事例
ブルーオーシャン戦略の道を歩んだ企業が、優れた成長を遂げた事例を紹介します。
Netflix:非競争的な市場に参入し、需要を獲得し続ける
Netflixは価格や品揃えの選択肢だけで競合に対抗するのではなく、まったく新しいタイプのオンラインDVDレンタルサービスを開発し、市場を改革しました。店舗を持たない代わりに郵便サービスを利用したのです。
月額定額制の課金モデルは、競合他社の多くの顧客が抱えていた「返却期限」と「延滞料」という2つの大きな問題を解決しました。
また、Netflixの顧客はDVDを好きなだけ、延滞料なしで利用でき、自宅にいながらレンタルするビデオを閲覧・選択できたのです。
NetflixがDVDレンタルからストリーミングサービスに移行したことで、人々の映画やテレビの視聴スタイルに大きな変化がもたらされました。
ここ数年、Amazon Prime Video、Apple TV+、Disney+といった他のストリーミングサービスが登場し、Netflixは再び対応に迫られました。
Netflixは、自社制作の番組や映画を増やし、イノベーションを続けています。
Uber:業界の欠点に切り込みプラットフォーム型ビジネスを展開
タクシー業界は、100年以上前に誕生して以来、あまり革新的なことをしてきませんでした。
支払い方法の制限、顧客の信頼の欠如、位置追跡の欠如など、業界の欠点を認識したUberは、少し違った領域で競争する新しいタイプのモビリティサービスを作り出しました。 先進的な技術と最新のデバイスを組み合わせることで、新しい市場を切り開いたのです。
低コストのビジネスモデルを構築し、柔軟な支払いと価格戦略を提供することで、Uberはタクシー会社との差別化を図り、ドライバーと企業の双方にとって良いリターンを生み出しました。
その結果、競争のない市場を獲得することに成功しましたが、やがて競合他社に押されるようになります。
そして現在、Uberは移動手段だけでなく、スピーディーなフードデリバリーやヘルスケアサービスの橋渡しなど、未来を感じさせるサービスを世界中に展開しています。
Meta:Facebookのブルーオーシャン・シフト
2021年10月、FacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグは、同社の新社名を「Meta」にすると発表しました。
創業当時、Facebookはソーシャルネットワークという独自のブルーオーシャンの最前線にいました。10年以上が経ち、ソーシャルネットワークはレッドオーシャンとなりました。
ブルーオーシャン戦略では、あらゆるビジネスがレッドオーシャンからブルーオーシャンに移行するだけでなく、ブルーオーシャン・シフトを実行する必要があります*3。
Facebookはプレスリリースで次のように書いています。
本日のConnect 2021にて、CEOのマーク・ザッカーバーグが、当社の提供するプラットフォームとテクノロジーをすべて包括した新しいカンパニーブランドMetaを発表しました。Metaは、メタバースを実現すること、そして人々が友達や家族とつながり、コミュニティに参加し、ビジネスを成長させることができるよう、注力してまいります。
明らかなブルーオーシャン・シフトです。
リブランディングは、新たな可能性の世界を創造し、企業がそこに向かって進むことを可能にします。
Facebookのリブランディングとは、変化を選択し、再スタートし、新しい道を切り開くことであり、それはまさにMETAが意味するところです。
ブルーオーシャン戦略を進める方法
ブルーオーシャン戦略は、市場の供給が需要を上回ったときに必要とされる戦略です。魅力的なブルーオーシャンを見つける方法に、「4つのアクション・フレームワーク」があります*4。
ある商品カテゴリーに関連する様々な要素に4つのアクション(取り除く、減らす、増やす、付け加える)を加えることで、似て非なるカテゴリーができます。
高コストの要素を「減らす・取り除く」と同時に、「増やす・付け加える」という他の要素に高い価値を感じる顧客を見つけられれば、コストを下げながら利益を増やすという全く別のビジネスモデルが構築できます。
以下の4つの質問で、業界の既存の戦略ロジックとビジネスモデルを見直してみましょう。
4つの問い:
Q1)業界常識として、製品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべきものは何か?
Q2)業界標準と比べて思いきり減らすべき要素は何か?
Q3)業界標準と比べて大胆に増やすべき要素は何か?
Q4)業界でこれまで提供されていない、今後付け加えるべき要素は何か?
特に重要なのは、「取り除く」・「付け加える」という2つのアクションです。既存の競争要因の枠内にとどまりながら価値を最大化するという考え方から脱却できるからです。
競合のいない市場で戦わずして勝つために
従来、企業は持続的な利益ある成長を求めて、差別化を図り、市場シェアを獲得してきました。しかし、ブルーオーシャン戦略では、そのような競争戦略では将来的に利益ある成長は望めないと説いています。
W・チャン・キムとレネ・モボルニュの研究に基づき、既存の市場空間という血まみれの赤い海で戦うのではなく、未開拓の市場というきれいな青い海へ移動してはどうだろうかというものです。ライバルと競争するのではなく、ライバルを無関係にするのです。
競争するのをやめて、創造を始める。これが、未来を勝ち抜くための新たな戦略の1つです。
*1:ブルー・オーシャン戦略 | 用語解説 | 野村総合研究所(NRI)
*2:ブルー・オーシャン戦略 | 用語解説 | 野村総合研究所(NRI)
*3:ブルー・オーシャン・シフトで日本企業は復活できる W・チャン・キム教授 来日講演レポート | イベント・セミナーレポート[PR](1/3)|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
*4:(3/3) 【連載】戦略フレームワークを理解する「ブルーオーシャン戦略」 立教大学経営学部教授 国際経営論 林倬史氏 + 林研究室|ビジネス+IT