マーケティングでも注目される「共感」はヒトの本能? 動物行動学が教えてくれること

現代のマーケティングでは購買意欲を刺激する要因として、SNSなどを通じた「共感」の存在が注目されています。

実は哺乳類に関するさまざまな研究の中で、この「共感」は動物が本能的に持っているものであることが分かってきています。わたしたちは「共感」することから避けられないというものです。

一体どういうことなのか。 今回は動物行動学といった一風変わった視点から、「共感」についての興味深い話をお届けしたいと思います。

あくびがうつるのはなぜ?

人があくびをしているとそれが「うつって」自分もあくびをしてしまう。人に微笑みかけられると自分も微笑み返してしまう。私たちは無意識にこうした行動を取っています。

冷静に考えれば、不思議な現象です。

しかし近年、私たちのこうした行動に関係があると考えられる「ミラーニューロン」に関する研究が進められています。サルなどの動物では「他者がとった行動を見て、自分が同じ行動を取っても「鏡」のように同じような神経活動が起きる現象が発見されているのです(図1)。

図1上:ミラーニューロンの例
図1下:ミラーニューロンの例

上の図は新世界ザルに分類されるマーモセットに関する研究で得られた知見です。他者が美味しそうにカステラを食べている姿を見ると、同じカステラを食べるというその他者と同じ行動を取ると「おいしい」と感じるだろうと想像する現象です。また、自分がそのカステラを嬉しそうに食べている様子を見て、最初にカステラを食べた他者のマーモセットも「嬉しさ」を感じるというものです。

実はヒトでも「ミラーニューロン」の存在は確認されています*1

グルメ番組で出演者が美味しそうに試食する姿を見て「美味しそうだな」と感じ、そして自分で買って食べた時に「やっぱり美味しい!」と感じるヒトの消費行動があります。そしてそれを友人にも勧めたがるという現象はこのミラーニューロンが引き起こす、私たちの「本能的な行動」なのかもしれません。

「テレビで紹介されました」「雑誌に掲載されました」という売り文句が効力を持つのはこのためでしょう。

現実的な話をしてしまうと、人の味覚や好みは本来、十人十色なはずです。しかしグルメ番組や雑誌は視聴者・読者にこうした反応を引き起こすのです。

「美味しそうにしている」人が自分のお気に入りのインフルエンサーであればなおのこと、「ミラーニューロン」は強く働きそうだな、と筆者は考えてしまいます。

「共感」と「組織」の関係性とは?

上記のような反応は旧世界ザルでも見られ、今ではわたしたちが他者の気持ちを推測し共感できるのは、他者の行動を自分が同じ行動をしたらどうなるかというシミュレーションをミラーニューロンが行っているからではないか、との仮説も出ています。*2

一方で動物行動学者のフランス・ドゥ・ヴァール氏は、これをさらに深堀りし、ミラーニューロンの存在によらなくても、動物にはもともと「共感」の能力があるのではないかと指摘しています。

マウスを用いた実験に、このようなものがあります。

1959年にアメリカの心理学者ラッセル・チャーチ氏が、「他者の痛みに対するラットの情動的反応」という論文を発表しています。このような実験が行われました。

チャーチはまず、レバーを押して餌を手に入れるようにラットを訓練した。そして、レバーを押すと隣のラットに電気ショックが与えられるのを知ると、ラットがレバーを押すのをやめることを発見した。

<引用:フランス・ドゥ・ヴァール「共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること」p103>

かつて、リチャード・ドーキンス氏による「利己的な遺伝子」という書が話題になりました。生き物は、自分の遺伝子を後世に渡って残すために「個の保存」を何よりも重視して行動するはずだ、というメタファーです。

しかし、上記のラットの行動は「利己的な遺伝子」で述べられている世界とは少し違いそうです。利己的遺伝子の考えに従えば、ラットは隣のラットに何が起きようと、レバーを押して餌を取り続けるはずです。しかしこの実験結果はそれとは大きく異なっています。

さらに、マウスについて、カナダのジェフリ・モウギル氏によってこのような実験も行われています。

モウギルはマウスを二匹ずつ痛みの実験にかけた。まず、お互いが見えるように別々の透明なガラス管に入れる。次に、一方あるいは両方に水で薄めた酢酸を注入する。こうすると、研究者の言葉を借りれば、「軽い腹痛」が起きることがわかっている。

<引用:フランス・ドゥ・ヴァール「共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること」p105>

さて、その結果はどうだったのでしょうか。

酢酸を注入されたマウスは、体を伸ばす動きを見せ、不快感を示唆する。基礎実験から、マウスは(もう一匹が酢酸を注入されていないときとは対照的に)、相棒が体を伸ばしていると、余計に体を伸ばす動きを見せることがわかった。
また、知らないマウスどうしではなく、同じケージに飼われているマウスどうしでないと、この現象が見られないことも明らかになった。

<引用:フランス・ドゥ・ヴァール「共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること」p105 下線は筆者加筆>

ラットがレバーを押して餌を取る実験では、電気ショックを与えられる相手の「痛み」に共感している様子が見てとれます。
しかしさらに興味深いのは、マウスの実験において、「同じケージで飼われているマウスどうしでないと」痛みへの共感の動きが見られなかった、という点です。

日頃から同じ場所にいる関係だからこそ共感の行動が生まれた、というのがこの実験結果なのです。ミラーニューロンの存在だけでは説明のつかない「共感」が動物には存在するはずだ、とするのがヴァール氏の考えです。

人間にも同じ本能があるとしたら、組織は?

同じケージに飼われているマウスには痛みに共感する行動を取るが、そうではないマウスの痛みを目の当たりにしても反応をしない。 いかがでしょう、会社組織の中にこのような場面はありませんか?

筆者は会社員時代、「縦割り」の弊害をよく感じたものです。 そして、縦割りにはあまりメリットがないと感じています。「仕事の押し付け合い」「責任のなすりつけ合い」が重要なことランキングの高い場所にあるのです。

同じケージの中の社員は守る。そのために、他部署という他のケージにいる社員については共感のイメージが湧きにくい。湧いたとしても、相手を守る行動に移しにくい。
そのような組織は少なくないと考えます。

しかし、わたしたちが本能的に「共感」行動を取る生き物であるとすれば、どこかで本能と実際の振る舞いとの間にギャップを感じ、ストレスとして蓄積されてもおかしくありません。

そのストレスを「意思の力」で封じ込め、自分の務めを果たす。果たしてそれは組織というより大きなケージに対する「真の責任」と言えるでしょうか。

「風通しの良い組織」が求められるのも、このような事情に依る部分があると筆者は考えます。

相手に対する「共感」という、時には行動を止め、時には行動を促進する要素がわたしたちの本能に刻まれているとすれば、それを解放してみることも時には必要なのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に関連メディアに寄稿。