「推しが尊い」「沼に落ちる」…Z世代を中心に広がる「推し活」 その威力とは?

アイドルや声優、俳優、アニメキャラクター、スポーツ選手やユーチューバー… 幅広いジャンルで活躍する人を応援する「推し活」がZ世代を中心に広がっています。「推し」にすっかりハマってしまい抜け出せない状態は「沼落ち」とも呼ばれます。

ライブや試合を見にいくだけでなく関連商品を購入したり、応援対象である「推し」がきっかけで新しい習い事などを始めたり、と「推し活」は幅広い消費行動に繋がっています。

「推し活」の実態はどのようなものか、その威力などについて今回は見ていきましょう。

Z世代の大半に「推し」が存在、いくら使う?

マイナビ転職とZ総研が共同で実施した調査によりますと、Z世代のほとんどに「推し」がいるという結果でした(図1)。

図1 :「推し」がいるZ世代

その対象はYouTuber、TikToker、お笑い芸人、アイドル、漫画、アニメ、ゲーム、スポーツ選手など様々です。

また、1年で「推し活」に使う金額は下のようになっています(図2)。

図2:Z 世代が1年で「推し活」に使う金額

最も多いのは「3万円〜5万円」で全体の27.2%です。
しかし、5万円〜10万円、10万円〜20万円という人も少なくありません。それ以上という人もいます。

CDが発売されると大量に購入するという人もいれば、なんとかやりくりできる範囲で推し活を楽しんでいるというケースもあり、それぞれの懐事情に応じた活動を楽しんでいる、といったところでしょうか。
しかし、数十万単位のお金を投じる人も少なくないのは事実のようです。

「推し」に定義はあるのか?

ところで、「推し」とはZ世代にとってどのような意味で使われている言葉なのでしょうか。単なる「趣味」とは異なるようです。

マイナビとZ総研のこの調査では、「そのジャンルの中で一番好きなものが推し」ということで概ね意見が一致しています*1

他には、「時間を割いたり、お金を使うことが惜しくないと思ったら」「SNSをフォローして投稿を見ただけで沸いたら(自発的にテンションが上がったら)」「聞かれたわけでもないのに自発的に誰かにおすすめしたり話題にしたくなる存在」という意見も見られています。

ここで注目したいのは、「時間を割いたり、お金を使うことが惜しくない」「聞かれたわけでもないのに自発的におすすめ」するという部分です。

「推し活」は個人では完結しないという特徴があります。SNS上では、様々な「推し」についてのツイートがあります。「○○ファンの人と繋がりたい」というハッシュタグでツイートを送信し、相互フォローの輪を広げていく様子も見られます。

共感する仲間が増えると、そこには「熱狂の渦」が生まれます。自分と同じものを好きでいてくれる仲間との出会いによって自分の価値観が誰かに認められた喜びが生まれ、推し活はさらに加速していくと考えられます。

コロナ禍での「推し活」

緊急事態宣言が繰り返された昨年には、このような「推し活」ビジネスが見られました。

東京ドームホテルは昨年7月下旬に「推し活宿泊プラン」の提供を始めました*2
ライブの聖地である東京ドームを見下ろすホテルの部屋の中にはライブ映像を流すためのプロジェクターを設置、ミラーボールも設置して「東京ドームでライブを楽しんでいる」雰囲気を演出する宿泊プランです。

このプランは好評を得て、緊急事態宣言解除後の10月以降も延長されました。ライブなどのイベントは入場者数の制限などもあり会場に行きにくいという状況の中で、ホテルも宿泊客の減少という状況に直面していました。
そこで生まれたのがこのプランだったのです。

ひとりであれば、自宅でDVDなどを見るという「推し活」にとどまっていた人も多いことでしょう。しかし「推し」の映像やイメージグッズに囲まれたホテルという場所は、友人と一緒に「推し活」を楽しめるという特徴があります。

「友人と一緒に推し活を共有できる時間」に価値を感じた宿泊客が多いと考えられます。
「共有」「共感」は推し活における一つの大きな要素なのです。

他ジャンルへの挑戦も

Z世代の人ではありませんが、筆者の友人に韓国のアイドルグループを熱心に「推し」ている女性がいます。

その彼女に最近、異変がありました。

彼女のSNSへの投稿に、たびたび韓国語のメッセージが見られるようになったのです。
「推し」に共感して、韓国語を少しずつ勉強しているのだといいます。

先ほどのマイナビとZ総研の調査結果では、このような回答も得られています(図3)。

図3:「推し」に影響されて何かを新しく始めたZ世代の割合

筆者のその友人が韓国語の勉強を始めたのも、まさにこの「何かを新しく始めた」ものと言えるでしょう。

他には、このような「新しく始めたこと」があります*3

読売新聞に紹介されている「推し活」中の女性は、「推し」のYouTubeを見ている間に、動画編集をやりたいと希望して専門学校に通い、広告などの撮影を行う企業に転職したといいます。

また、「推し」がメインで活動する地域へ転勤したり、「推し」のイメージカラーを好きになったりと、「推し」への共感から始まる推し活は幅広い分野への波及効果を持っています。

コロナ後は一気に加速するか

マイナビが23歳から39歳の「推しにどっぷりハマっている」女性を対象に実施した別のアンケート調査では、このような回答も見られています。調査は今年の1月に行われました。

新型コロナ流行をきっかけに「推し活」にハマった人が出現しているのです(図4)。

図4:新型コロナをきっかけに「推し」にハマった人の割合

13.9%と数の上ではそう多くない印象を受けるかもしれませんが、興味深いのはお金の使い方です(図5)。

図5:推し活に使う金額の変化

「増えた」と答えた人の割合が、85.5%にのぼっているのです。

ワクチン接種が進んでいることなどで、様々な営業・消費活動がコロナ前に戻りつつある中、新規の「推し活」組が市場にどのくらい関与してくるかが注目されます。

また、先ほども述べましたが、推し活を後押しするのは「共感」がベースにあると筆者は考えます。 自社や製品を「推し」てもらえる存在にするには、「共感」の視点は忘れてはなりません。

この記事を書いた人

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に関連メディアに寄稿。