マーケターが扱うデータ量は、年々増加の一途をたどっています。
しかしながら、
「増えるデータ量に比例して、優れた商品開発ができているか?」
と問われたら、首をかしげる方も多いのではないでしょうか。
むしろ、
「大量のデータ分析に手間を取られている」
「判断材料が多い分、意志決定に時間がかかる」
といった声も聞かれます。
本記事では、そんなビッグデータ時代にヒット商品を生み出す、“商品開発におけるリサーチの在り方”を考えていきたいと思います。
データの海に溺れないために持ちたい3つの視点
まず、膨大なデータの海に溺れないために、あらかじめ心構えとして持っておきたい視点があります。3つのポイントからご紹介していきましょう。
視点1:リサーチは理解するためにやる
商品開発において、リサーチは何のためにするのでしょうか。
新商品のネタを探すため?
潜在ニーズを見つけるため?
差別化ポイントを明らかにするため?
どれも間違いではありませんが、これらが目的化すると、データの海の泳ぎ方が「広く浅く」になります。深いリサーチになりません。
リサーチには前提となる至要な目的があり、それは「理解するため」です。
何を理解するのか?といえば、顧客およびブランドです。
- 顧客(購入者、ユーザー、消費者)
- ブランド(自社/他社)
リサーチの成果物は「理解」であるべきで、理解したその先に、新商品のネタや潜在ニーズや差別化ポイントが転がっています。
言い換えると、「宝探し」をしようとすると宝は見つかりません。「理解」しようとすると、結果として宝が見つかるという構図です。
視点2:組織のビジョンと整合する
組織に所属し職務として商品開発を行うのなら、無尽蔵なデータの海を自由に泳いでいても成果を出せません。
組織における商品開発は、組織全体のビジョン、ブランドのパーパス、会社の目標に対しての整合性が確保できていなければ、収益につながらないからです。
顧客のニーズに応えることは重要ですが、それは顧客に従属的になることとは異なります。
- 提供したいもの(ビジョン)
- 提供できるもの(強み)
- 顧客が望むもの(ニーズ)
これら3つの因子のバランスがとれたとき、ヒット商品が生まれます。
この視点は、「際限ないデータの海の、どのエリアを泳ぐか」を決めるときに役立ちます。
視点3:鑑定力を磨く
「宝を見たときに、宝だと判別できる鑑定力」 これを磨かないことには、どんなに貴重なデータを手にしても、宝の持ち腐れとなります。
近年では「勘や経験に頼らないデータドリブン・マーケティング」といったフレーズを耳にするようになりました。
しかし、 「データさえあれば、勘や経験がなくても優れたマーケティングを実行できるか?」 といえば、筆者は懐疑的です。
でたらめな勘や僅少な経験への依存が有害なのは、いうまでもありません。一方、同じデータを見ても、人によって何を見いだせるかが異なり、これは“鑑定力の差”といえます。
- 経験に裏打ちされたマーケティング洞察眼
- データでの証明を待たず真相に近づく直観力
こういった鑑定力を磨くことは、誰も気づいていない宝をめざとく見つける助けとなるはずです。
商品開発のリサーチ 2つのステップ
次に商品開発のリサーチの基本的な進め方を、2ステップでご紹介します。
ステップ1:仮説を立てるための事前リサーチ
1つめのステップは「仮説を立てるための事前リサーチ」です。
別の表現をすれば「アイデアを生み出すための予備調査」となります。
このステップのコツとして、
「とにかく大量の情報をインプットすること」
をお伝えしたいと思います。
注意したいのは、マーケティングでよくいわれる、
「ターゲットは絞れば絞るほどよい」
「たった1人の顧客の心に刺さればヒットする」
といった教えに引っ張られ、事前リサーチがおろそかになることです。
目の前にたまたま現れた情報へ、安易に飛びつきがちになります。
まぐれではなく、コンスタントにヒットを飛ばすためには、「量より質」という思い込みはいったん外しておきましょう。
「収益を上げるためには、量も質も大切」
というナチュラルな態度で、たくさんの情報にあたるのが得策です。ターゲットの絞り込みは、その後に行います。
具体的なリサーチ法としては、以下が挙げられます。
- 顧客の声(VOC)
- 購入者レビュー(Amazon、楽天、Yahoo!ショッピング 他)
- SNS(Twitter、Instagram 他)
- オンラインリサーチ
- ユーザーインタビュー
- 市場調査レポート
- その他
ステップ2:仮説を検証するためのリサーチ
2つめのステップは「仮説を検証するためのリサーチ」です。
「ステップ1で生み出したアイデアで商品を発売したら、何が起きるのか?」
をシミュレーションするのがこのステップの役割です。
具体的には「コンセプトテスト」の手法が多く採られます。
コンセプトテストとは、商品を発売する前に、ターゲット顧客に商品を評価してもらうリサーチです。
コンセプト、機能、ネーミング、パッケージ、デザイン、キャッチコピー、広告ビジュアルなど、さまざまな要素について、顧客に尋ねることができます。
コンセプトテストの質問例を挙げてみましょう。
- この商品を、どれくらい買いたいと思いますか。
- この商品と{競合商品}のどちらを買いたいと思いますか。
- 次の機能は、どれくらい魅力的だと感じますか。
- 次に挙げる項目のうち、あなたにとって最も重要なものはどれですか。
- この商品がどのように改善されたら、買いたいと思いますか。
モニターを保有しているリサーチ会社のオンラインリサーチを利用すれば、サンプリングから本調査まで数日以内に完了できます。
正しく行われたコンセプトテストの精度は高く、筆者の経験上は、実際に市場に出してからの動きと一致しています。
優れたリサーチが持つ3つの特性
最後に、優れたリサーチが持つ3つの特性をご紹介しましょう。
小難しくない
まず「小難しくない」ことは、重要なバロメーターです。
こねくり回した論理や、理解するのに時間がかかる難解なアプローチではなく、誰が見ても「カンタン」であること。
とくに、ヒット商品につながるリサーチ成果は、説明など不要なことがほとんどです。
「わっ、たしかに!」
「これは、いけそう!」
と、メンバーの顔が瞬時に華やぐような明快さと客観性を保有しています。
行動できる
次に、リサーチ結果を受けて具体的に「行動できる」ことも大切です。
ポイントは2つあり、1つめは絵に描いた餅ではないこと。
前述のビジョンとの整合性や予算、採算性などの兼ね合いをみて、「実現可能な行動をはじき出すリサーチになっているか?」という観点です。
2つめのポイントは、そもそもリサーチのアウトプットとして行動を想定できているか、です。
リサーチが終わりました。こういう結果が出ました。
「……で?(次、どうするの?)」
と止まってしまうのは、よくないリサーチです。
「リサーチのあと、どう行動するか」を常に念頭に置きながら、必要なリサーチを進めていきます。
物語になっている
前項の「行動できる」とも関連するのですが、人が動くために必要となる因子が「物語」です。
リサーチを通し、「数値」と「数値」の間に文脈を与え、データに「意義」を生み出すのは、マーケティングの仕事です。
データというと無機質な感じがしますが、データが表現しているのは、温度ある人間の生活や行動、感情や心の動きです。
データの裏に隠れた物語を見つけることは、人間を深く理解することにつながります。その先に、ヒット商品につながる発見があるでしょう。
さいごに
本記事では「商品開発におけるリサーチ」をテーマにお届けしました。
付け加えるなら、ツールなどの導入で効率化できる部分は、積極的に活用することもポイントといえます。
商品開発担当者が本来すべきことは、Excelと戦うことやPowerPointでキレイな資料を作ることではありません。
洞察眼や直観力でもって顧客やブランドの理解に努め、新しい価値を創造する純粋な時間を、どれだけ確保できるか。この点にも意識を向けていただければと思います。