会議は失敗の素? 本当に必要? 正しいプロセスとしての会議とは

毎日毎日、世界中で数えきれないくらい多くの会議が開かれている。
しかし、会議はしばしば大きな判断ミスをもたらす。
集団の失敗はほとんどの場合、「会議をしたにもかかわらず」ではなく、「会議をしたからこそ」起こっている―そう指摘する専門家もいるほどだ。*1

会議はどうも苦手だという方は案外多いのではないだろうか。
しかも、会議をしたばっかりに意思決定が歪み、大失敗をするくらいなら、会議をする必要などないのではないか、という疑問すら湧いてくる。

そもそも会議は本当に必要なのだろうか。
もし必要だとしたら、会議が健全に機能するためには、どうしたらよいのだろうか。

会議は本当に必要なのか

正しい意思決定のプロセスとして、会議は本当に必要なのだろうか。

その結果は意思決定がもたらしたものか

私たちは、人の行動や意思決定の価値を結果から判断しているが、それは問題だ。あの予言ダコ「パウル君」は、よき意思決定者といえるだろうか。

そう指摘するのは、経営戦略、特に戦略的意思決定の専門家であり、「マッキンゼー・アンド・カンパニー」(世界的な大手コンサルティング会社)で25年間にわたってシニア・パートナーを務めた、オリヴィエ・シボニ―氏である。*2

タコの「パウル君」を覚えている読者もいらっしゃるのではないだろうか。
2010年のサッカーワールドカップ南アフリカ大会で、ドイツ戦と決勝戦の8試合の結果をすべて「的中」させたあのタコである。
日本でも試合の前後にその予言と結果が報道され、的中が重なるにつれ、次第に大きな話題となって、ワールドカップを盛り上げた。*3

パウル君のように試合の結果を8回連続で的中させる確率はわずか0.4%だという。パウル君の「予言」はほとんどの専門家やコメンテーターの予測を上回った。*4
だが、だからといって、パウル君が優れた意思決定者だと思う人はいないだろう。非常に低い確率だが、パウル君の「予言」が当たったのは、偶然にすぎないと考えるのが常識的だ。

つまり、結果がよかったからといって、その結果が的確な意思決定によるものとは限らないのである。
しかし、私たちはビジネスで、特に決定権をもつ人を評価する場合、その人の過去の業績をもとに評価しがちだ。
それは危険である。それでは、偶然の影響が過小評価されてしまうとシボニ―氏は言う。

また、意思決定にはたいていリスクが伴うが、結果がよければそのリスクは評価する際に考慮されにくい。

このように、結果の良し悪しは、意思決定だけで決まるわけではなく、パウル君の例のように偶然や運・不運、あるいはリスクの取り方や実行の良し悪しによってもたらされることもある。

しかし、私たちの認識は、結果が出る前と後とではすっかり変わってしまう。誰にも予期できなかった失敗であっても、その責任を意思決定者に負わせ、逆にその成功が時の運によってもたらされたものであったとしても、それを意思決定者の手柄と考えがちだ。

ここで生じる疑問は、意思決定の質を結論から評価するのでなければ、私たちは何をもって評価するのかということだ。「正しい意思決定」とはどのようなものだと考えればいいのだろうか。

質の高い議論なしに分析はできない

興味深い調査結果がある。その調査は、意志決定を左右する要素を明らかにするために、すべての産業分野における1,048件の意思決定を対象にして行われた。*5

調査で取り上げた意思決定は投資に関するものだった。投資リターンは、成功・失敗がはっきりしているからだという。
調査者は意思決定者に対して、次のような2つのタイプの質問をした。

  1. 使用した分析ツールに関する質問【何によって意思決定したか】:「詳細な財務モデルを構築しましたか」「このモデルの主要パラメータの感度分析をしましたか」など
  2. 協働・プロセス(会議)に関する質問【どうやって意思決定したか】:「意思決定チームのメンバーは、地位だけでなくスキルに基づいて選ばれましたか」「意思決定に伴うリスクについて率直に議論しましたか」「意思決定会議には、投資に反対する人も参加させましたか」など

すると、1タイプの要素は投資リターンの8%にしか影響を与えなかったが、2のタイプの要素は53%に影響を与え、残りの39%は意思決定ではコントロールできない、部門や企業に関連する変数によるものだったという。
つまり、「どうやって意思決定したか」の方が「何によって決定したか」よりずっと重要なのだ。

この調査によって、投資の成功と最も密接に関連していたのは、投資決定にありがちなバイアスを会議によって回避することだった。

ただし、こうした結果は分析が重要ではないことを意味しているわけではないと、シボニ―氏は言う。
どれほど詳しく調べ、分析しても、それらが議論されなければ意味がない。意思決定に分析は欠かせないが、それを活用するためには、優れたプロセス(会議)が必要ということなのだ。

正しい意思決定のためのテクニック

意思決定の質を改善するためには、プロセス(会議)の改善が不可欠だ。
シボニ―氏はそのための14のテクニックを提案している。*6
その中のいくつかをご紹介しよう。

対話の準備:認知的多様性の確保

企業内の同質性が高いほど、同僚の意見を尊重する傾向が強くなる。価値観が共有されると、多数派の意見に従わなければならないという圧力も強くなる。*7

こんな実験がある。*4 その実験では、男子学生クラブと女子学生クラブの参加者を、50の同性4人組のグループに分けた。各グループには、殺人事件を捜査した刑事による一連の聞き取り調査書を読み、殺人事件の犯人を当てるというタスクが課された。

被験者は、まず個人で容疑者の目星をつけてからグループに入り、誰が犯人かについて話し合った。
4人グループには2つのタイプがあった。半数のグループは旧知の友だち4人で構成される均質なグループ、残りの半数のグループは、3人は友だちだが1名は初対面の、多様性のあるグループだった。

その結果、多様性のあるグループの方が成績がよかった。
しかし、興味深いのは、それだけではない。
均質なグループは、実際にはパフォーマンスが悪かったのにもかかわらず、自分たちの決断に自信を持っていたのだ。

一般的に人は自分の意見に反対する人よりも、自分の意見に賛成してくれる人と一緒にいた方が居心地がいいものだが、そのことが必ずしも良い結果につながるとは限らないと、実験者でケロッグ経営大学院のキャサリン・フィリップス准教授(経営学・組織学:当時)は指摘する。
均質なグループでは、全員が合意したと思い込んでいても、実際はそうではなく、新しいアイデアや違う意見があっても、そのグループ内で議論されることがないのだ。

このように同質性は異なるアイデアの交換を妨げ、意見の相違から生まれる知的作業を阻害するおそれがある。
正しい意思決定をするためには、情報の捉え方や扱い方、思考形態の多様性が欠かせない。
多様なメンバーがいる企業、多様なメンバーからなる会議は、意思決定において強みが発揮できるのだ。

ただし、そうした強みを発揮するためには、誰もが職位に関係なく、安心して率直に意見交換できるような企業文化が大前提である。

対話の基本ルール:パワーポイントを制限する

会議ではパワーポイントを禁止する企業がある。*8
パワーポイントにはもちろん有益な側面があるが、一方で、主張の弱点を隠したり、視覚的なトリックで観るものをひきつけたり、一方的に話を進めて議論するための時間を減らしてしまうという負の側面もある。

Amazonでは、会議の際、パワーポイントによるプレゼンテーションを行わず、「6ページの長文メモ」を用意し、会議のはじめに全員が沈黙してそのメモを読む。
前もって渡しておかないのは、「読んだフリ」を排除するためだ。

長文のメモを書く提案者は、その過程で、論点や議論のポイントが明確になり、首尾一貫した主張ができる。
一方、読み手の方も自分のペースで批判的な観点から内容を検討できる。

ただ、この方法の欠点は、メモを書くのが大変難しいことだ。優れたメモを書くには時間と努力とかなりの技術が要る。

筆者は大学でアカデミック・リテラシーのクラスを担当しているが、このことは筆者の経験知とも合致する。
パワーポイントは、一定のスキルを習得すれば案外簡単に作れ、それらしく見せることができるが、ハンドアウトはそうはいかない。内容があやふやでは言語化できないし、内容をわかりやすく表現することも難しい。

Amazonの元CEOジェフ・ベゾスは、優れたメモをつくるには、何度も書き直し、同僚に手直しをしてもらった上で数日寝かせておき、それを新鮮な気持ちで読み直してから再び手を入れて、ようやくできあがると述べている。

これほどの手間隙をかけるのが難しければ、パワーポイントは全面禁止にするより制限することを考えた方が現実的かもしれない。

対話を活性化させる:選択肢や視点を増やす

一般に、選択肢が増えると意思決定が難しくなると考えられているが、実際にはその逆である。多くの選択肢があることが、意思決定の質を高める。*9

ある研究によると、ビジネス上の意思決定で複数の選択肢から選ばれたものは29%しかなく、残りの71%は1つの提案に対して「賛成か、反対か」で決められていた。
しかし、複数の選択肢から選んだ方が失敗する確率はずっと低かったという。

選択肢を増やす方法はいくつかある。
例えば、提案する際には必ず2つの案を提示することを義務化するのも1つの方法だ。
あるいは、検討中の選択肢が何らかの理由で実行不可能になったらどうするかを考えてみるという方法もある。そうすれば、予想外の選択肢がみつかるかもしれない。

選択肢を増やすのが難しい場合には、選択肢そのものではなく、その見方の代替案を探ってみることが有益だ。
例えば、あるファンドでは、投資計画を提案する社員には、ポジティブな道筋と、その投資を拒否すべき道筋を同時に求める。
それは、自分の投資案に対する反対意見を予測することにつながると同時に、その提案を検討する人々にも、より多くの選択肢を与えることになる。

対話を活性化させる:プレモータムの実行

プレモータムもシンプルで効果的な方法だ。
この手法では、会議の司会者が次のように尋ねることから始める。

「今は(未来の)〇〇年です。このプロジェクトは壊滅的な失敗に終わりました。なぜそうなったのでしょう」

参加者はその理由を、できるだけたくさん書き出す。その後、グループになって、メンバーが順にその内容を発表する。その際、全員が発言しなければならない。

人は、将来起きそうなことを予想するより、過去に起きたことを説明する方が得意だ。それで、未来にタイムトラベルして、過去を振り返る形で失敗の要因を探るのだ。
また、「理由を書き出して発表する」というノルマを全員に課すことで、反対意見をもつ人にも発言させ、集団思考の要因となる沈黙を排除することもできる。

よりよい意思決定のために

それでも、会議に対する懸念を完全に払拭するのは難しいかもしれない。

例えば、会議が長引けば決定が先延ばしになり、貴重な時間が無駄になるのではないかという懸念を抱くのは、ごく当然のことかもしれない。*10

しかし、意思決定をスピードアップするために、その質を下げる必要はない。上述のようなテクニックを駆使すれば、スピーディ―に質の高い意思決定ができるからだ。
事前にデッドラインを設定しておき、その時が来たら会議を終わらせて決断し、実行に移すという方法もある。

最終決定が下されたとき、それに反対したメンバーたちのモチベーションを不安視する人もいるかもしれない。
しかし、これまでのさまざまな研究や経験による知見では、全員が公平に発言の機会が与えられた会議を経ると、参加者全員のモチベーションが上がることがわかっている。

会議の運営は決してやさしくはないが、適切な方法で運営された会議は、さまざまなバイアスを排除して、正しい意思決定を導き出す重要なプロセスである。
これを機に、会議の存り方を改めて振り返り、よりよい在り方を探ってみてはいかがだろうか。

この記事を書いた人

横内美保子

博士。元大学教授。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
Webライターとしては、各種資料の分析やインタビューなどに基づき、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

*1:マシュー・サイド著 株式会社トランネット 翻訳協力(2021)『多様性の科学  画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』ディスカヴァー・トゥエンティワ(電子書籍版)p.133

*2:オリヴィエ・シボニ― 著 野中香方子 訳(2021)『賢い人がなぜ決断を誤るのか』日経BP(電子書籍版)p.351、p.212、pp.214-215、pp.218-219、pp.221-222、p.223、pp.236-237、p.151、pp.239-242、pp.246-249、p.250、pp.253-255

*3:日本経済新聞(オンライン配信)「予言タコのパウル君死ぬ W杯勝敗的中で人気」(2010年10月27日 1:04)

*4:オリヴィエ・シボニ― 著 野中香方子 訳(2021)『賢い人がなぜ決断を誤るのか』日経BP(電子書籍版)p.351、p.212、pp.214-215、pp.218-219、pp.221-222、p.223、pp.236-237、p.151、pp.239-242、pp.246-249、p.250、pp.253-255

*5:オリヴィエ・シボニ― 著 野中香方子 訳(2021)『賢い人がなぜ決断を誤るのか』日経BP(電子書籍版)p.351、p.212、pp.214-215、pp.218-219、pp.221-222、p.223、pp.236-237、p.151、pp.239-242、pp.246-249、p.250、pp.253-255

*6:オリヴィエ・シボニ― 著 野中香方子 訳(2021)『賢い人がなぜ決断を誤るのか』日経BP(電子書籍版)p.351、p.212、pp.214-215、pp.218-219、pp.221-222、p.223、pp.236-237、p.151、pp.239-242、pp.246-249、p.250、pp.253-255

*7:オリヴィエ・シボニ― 著 野中香方子 訳(2021)『賢い人がなぜ決断を誤るのか』日経BP(電子書籍版)p.351、p.212、pp.214-215、pp.218-219、pp.221-222、p.223、pp.236-237、p.151、pp.239-242、pp.246-249、p.250、pp.253-255

*8:オリヴィエ・シボニ― 著 野中香方子 訳(2021)『賢い人がなぜ決断を誤るのか』日経BP(電子書籍版)p.351、p.212、pp.214-215、pp.218-219、pp.221-222、p.223、pp.236-237、p.151、pp.239-242、pp.246-249、p.250、pp.253-255

*9:オリヴィエ・シボニ― 著 野中香方子 訳(2021)『賢い人がなぜ決断を誤るのか』日経BP(電子書籍版)p.351、p.212、pp.214-215、pp.218-219、pp.221-222、p.223、pp.236-237、p.151、pp.239-242、pp.246-249、p.250、pp.253-255

*10:オリヴィエ・シボニ― 著 野中香方子 訳(2021)『賢い人がなぜ決断を誤るのか』日経BP(電子書籍版)p.351、p.212、pp.214-215、pp.218-219、pp.221-222、p.223、pp.236-237、p.151、pp.239-242、pp.246-249、p.250、pp.253-255