「データ」こそがクセモノだった! ダイエット法のカオスはこうして生まれる

ダイエット法はどうしてこれほど乱立しているのでしょうか。あまりにもさまざまな方法があって、いったい何が正しくて何が間違っているのかわからず、途方に暮れます。

たとえば、炭水化物は体にもダイエットにも悪いという説もあれば、炭水化物は人間に必須の栄養素で、痩せたければ炭水化物を摂りなさいと説く人もいます。
リンゴだけ、あるいはゆで卵だけ食べるという単品ダイエットもありますし、それは危険だという説もあります。

さらに、できるだけ食事の回数を多くした方がいいというダイエット法もあれば、食事は1日1回にするという方法もあります。
カロリーを制限するしかない、いやカロリーの問題ではない・・・等々、まさにカオス。

しかも、ダイエットはなかなか成功しないという調査結果もあります。
20代から70代の女性を対象にしたある調査では、ダイエットを経験したことがある人は98.6%なのに対して、「一時的に成功したが、リバウンドした」人が54.3%に上っていました。*1
また、別の調査では、女性の86.7%がダイエット経験者ですが、そのうち87.3%がダイエットに挫折した人でした。*2
さらに、男性の37.4%、女性の52.2%がダイエット経験者であり、そのうちダイエットに失敗したのは、男性の34.8%、女性の59.6%だったという調査結果もあります。*3

いったいどのダイエット法が正しいのでしょうか。
また、そもそも、どうしてこれほどカオスになっているのでしょうか。

ダイエットをした人の方が太っている?

この問題に直面したイギリスの科学者がいます。
遺伝疫学の教授であり、双子研究の世界的な権威、ティム・スペクター博士です。*4

彼は自身が病気にかかったのをきっかけとして、食生活と健康に関する研究に取り組みました。
研究対象はBMIが30以上の一卵性双生児です。
一卵性双生児なら、遺伝子や育ち方、文化的要因、社会的階層が一致しているため、比較するのに都合がいいからです。
研究のために集められた双子6組の平均体重は86キロ、BMIの平均値は34でした。

BMIとは肥満度を表す指標として国際的に用いられている体格指数で、[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で求めます。*5
計算方法は世界共通ですが、「肥満」の判定基準は国によって違い、WHO(世界保健機構)の基準では30以上を、日本肥満学会の定めた基準では25以上を指します。

この研究で意外なことが明らかになりました。
ある双子のうちの1人は過去20年間にわたって日常的にダイエットをしていていて、もう1人は本格的なダイエットはしてこなかったのにもかかわらず、2人はまったく同じ体重でした。
また、別の研究で、16歳時点では同じ体重だった複数の双子を25歳になって比較したところ、ダイエットをしていた方が、もう1人より平均で1.5キロ体重が多かったのです。

カロリー摂取量が減っても、私たちの体はその状態に適応して、脂肪を減らすまいという体からの信号がダイエットによる制限を帳消しにしてしまうようです。
さらに、しばらく肥満の状態を経験すると、生物学的変化がいくつも起こり、それがほとんどのダイエットが失敗する原因だと博士はいいます。

「ダイエットの落とし穴」

スペクター博士と同様、ダイエットや食事療法に疑問をもったアメリカの科学者がいます。
計算生物学者のエレン・シーガル博士です。*6
同博士は実験によって「ダイエットの落とし穴」を究明しました。
それはどのようなものだったのでしょうか。

マシュー・サイド著『多様性の科学』から興味深い事実をご紹介します。

栄養士の作った料理を食べても体重が減らない

シーガル博士は大学学部生時代にハンドボールの選手であり、健康的な食事をしていたのにもかかわらず、標準体重を18~23キロもオーバーしていました。
やがて結婚すると、彼の妻は臨床栄養士になり、夫のために健康的な食事を作りました。主に米国栄養士会のガイドラインに沿って、野菜をたっぷり使った料理を作り続けたのです。ところが、不思議なことに、シーガル博士の体重は少しも変わりませんでした。

そこで、博士は、妻が使っていたガイドラインの科学的な論拠をチェックしてみました。すると、驚くことに、データの多くがごく少人数のサンプルをもとにした結果だったのです。
前述の双子の研究者、スペクター博士も、バイアスを排除した信頼性の高い「無作為化比較テスト」はごくわずかしか実施されていないと述べています。*7

それ以上にシーガル博士を驚かせたのは、相反するデータが多数あったことです。
低炭水化物・高脂肪の食事が健康によいという説もあれば、逆に低脂肪・高炭水化物食が優れているという説もありますが、そのどちらにも根拠となるデータがあります。

しかも、ダイエットをする人の多くはリバウンドを繰り返していて、ダイエットは体重の減少どころか、むしろ増加を招くことを示すデータもありました。
それは「代謝適応」と呼ばれ、カロリー不足の状態が続いた体がそれに適応して基礎代謝が落ちる現象で、上述のスペクター博士の研究でもみられたものです。
ダイエットをすれば痩せるどころか太ってしまう・・・?

さらに、30代に始めたマラソンのタイムを縮めるために食事の見直しをしようとして、シーガル博士はまたしても困惑します。
当時は、レースの前日に「カーボ・ローディング」という、高炭水化物食で体内にエネルギーを蓄える方法が主流でした。
それで彼は、レース前日にパスタを3皿、さらにレースの30分前にデーツと栄養補助食品を数個、食べていました。

しかし、マラソン向けの食事について改めて調べてみて、彼は混乱します。
炭水化物はどれも同じだとするデータがある一方で、炭水化物にもいいものと悪いものがあるというデータもあり、さらに、レースの30分~1時間前にデーツを食べるとエネルギーになるというデータもあれば、逆に疲れてレース後数分には走れなくなってしまう人がいるという研究結果もあったのです。

そこで、彼は、ある晩、パスタの代わりに、アボカドやナッツなどの脂肪分がたっぷり入ったサラダを食べて、実験してみました。
それは当時としては邪道です。
それにも関わらず、シーガル博士は32キロメートルを走り切り、その間ずっとエネルギーがみなぎっているのを感じていました。いつもより明らかに体力がある手応えです。
その後、彼はその食事で、マラソンで3時間を切るという自身の夢を叶えました。

これはいったい、どういうことだろう・・・。シーガル博士の研究者魂に火がつきます。

「GI値」のカラクリ

彼が着目したのは「GI値」。
GI値は血糖値の上がりやすさを食品ごとに表す数値です。被験者グループの血糖値の反応を食品ごとに計測し、1~100の間でランク付けします。

これは一見、科学的とも思える数値ですが、GI値はあくまで平均値です。食品に対する被験者の平均的な反応にすぎません。
ならば、実際には同じものを食べてもまったく違う反応をする人がいるのではないかとシーガル博士は考えました。
もしそうなら、標準化されたGI値を参考にして食事をするのは、かえって体に悪い場合もあるのではないだろうか、と。

そこで、2017年、シーガル博士は共同研究者と次のような実験を行いました。
実験に使ったのは、2種類のパン。よく売られているふつうの白いパンと、健康によいといわれている、全粒粉を使った手作りの茶色いパンです。

パンに関する情報もかなり錯綜していました。健康リスクを下げるという研究結果もあれば、健康にはほぼ影響しないというデータもあります。

実験方法は実にシンプルです。
まず、ダイエットや食事療法をしていない健康な被験者をランダムに2つのグループに分けます。
一方のグループは白いパンを毎日1週間食べ、もう一方は茶色いパンを同じように食べます。どちらも、それ以外の小麦製品は禁止。
また、朝食はパンだけにしますが、昼食と夕食には好きなものを一緒に摂っても構いません。
実験後は両グループとも2週間の休憩期間をとり、その後は実験内容を入れ替えました。

実験の後、博士たちの研究グループは、被験者のパンに対する反応を詳しく測定しました。
血糖値は体重ばかりでなく健康状態そのものに大きな影響を及ぼすため、特に重要です。

実験の結果、何がわかったのでしょうか。
まず、平均値をみると、2種類のパンの違いは、血糖値の変化にも、その他の臨床的指標にもまったく見出すことができませんでした。
つまり、市販の白いパンも手作りの茶色いパンも、実質的に同じ反応を示していたのです。
これだけをみれば、どちらでも好きな方を食べればいいということになります。

データこそがワナだった

研究グループは次に個々人の反応に着目しました。
すると、驚くべきことがわかりました。

被験者の中には茶色いパンでは血糖値が安定し、白いパンでは不安定だったという人もいれば、まったく逆の反応を示した人もいました。
また、この2種類のパンで反応がほとんど変わらなかった人もいれば、著しい差が出た人もいました。
1人ひとりが違う反応を示したのです。

そこで博士はさらに多様な被験者1,000名を対象に研究を進めました。
朝食だけを標準化し、それ以外は基本的に食べたいものを食べていいことにして、血糖値など健康状態を示すデータを実験用のモバイルアプリに記録しました。

結果は驚異的でした。
被験者の中には、アイスクリームを食べて健康的な血糖値を示す人もいれば、寿司を食べて乱高下する人もいましたし、それとはまったく逆の反応を示す人もいたのです。

それは人によって、年齢や遺伝的特徴、生活習慣、腸内細菌など、反応に関連するさまざまな要素が異なっているからです。
人間のこのような多様性や1人ひとりの独自性を考慮すれば、「誰にでもあてはまるダイエット法がある」と考える方がばかげているということなのです。

前述の双子の研究者スペクター博士の研究でも、食品と血糖値や健康状態の関係には、個々人の多様性が大きく関わっていることがわかっています。*8

目指すべきは多様性にもとづいたカスタマイズ

シーガル博士はさらに研究を進めました。*9
血糖値を測るアルゴリズムを構築して、その時点までのデータをすべて学習させました。
そして、個々人の血糖値の変化を予測できるか試してみたのです。

そのために新たに1,000人の被験者を募り、年齢、血液型、腸内細菌など、個人的な特徴を調査し、そのデータをアルゴリズムに入力しました。
すると、1人ひとりについて、血糖値の変化を十分な精度で予測することができたのです。

シガール博士はさらに次の実験に進みました。
糖尿病予備軍の人を26人集めて被験者にし、各被験者に合わせて2種類の食事をアルゴリズムに予測させました。
1つは血糖値を上げにくい「よい食事」で、もう一方は、血糖値を上げやすい「悪い食事」です。
すると、ある被験者にとって「よい食事」はある被験者にとって「悪い食事」で、その逆もありました。さらに、「よい食事」を1週間とったところ、カロリーは「悪い食事」と同じでも、血糖値は正常のまま一度も乱高下することがなかったのです。

つまり、自分に合った食事に変えることによって、血糖値は自分でコントロールできる可能性があるということを、この実験結果は示しています。
それはもちろん、ダイエットにも通じることです。

この一連の研究からみえてきたことはなんでしょうか。
それは、「平均化されたデータ」や「標準化された方法」を鵜呑みにし、私たち1人ひとりが持つ多様性を見落としてしまうことの危険性ではないでしょうか。

シーガル博士は次のように述べています。
「標準化された食事療法は、今後も欠点を抱え続けるでしょう。食事ばかり見て、食べる側の人間を考慮していないのですから」

残念ながら、カスタマイズされたダイエット法はまだ確立されているわけではないようです。マーケターにとっては今がチャンスかもしれません。

筆者も現在ロカボに挑戦中ですが、血糖値センサーを使って、まずはどんな食事が自分の血糖値を上げるのか把握するところから始めてみようかと思っています。

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この記事を書いた人

横内美保子

博士。元大学教授。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
Webライターとしては、各種資料の分析やインタビューなどに基づき、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

*1:Belle Life Style(2021)「女性の98.6%がダイエット経験者! しかし…50%以上が「リバウンドした」という現実  10月7日は「大人のダイエットの日」 コロナ太りからの脱却を目指して Belle Life Style協会が調査発表」

*2:PRTIMES(2020)森下仁丹株式会社「女性の86.7%がダイエット経験者、うち87.3%がダイエット挫折者。終わりのないダイエットループから抜け出すために「Smart Fat Management」でサスティナブルなダイエットを! 20代~40代の女性600人を対象に「女性の健康意識とダイエットの実態」を調査

*3:RIZAP(2019)「『ダイエットに関する調査』を実施 ~ダイエット成功率、全都道府県で第1位は滋賀県!~

*4:ティム・スペクター(2017)『ダイエットの科学 「これを食べれば健康になる」のウソを暴く』白揚社 p.15、p.16、p.21、pp.32-33

*5:e-ヘルスネット「BMI

*6:マシュー・サイド著 株式会社トランネット 翻訳協力(2021)『多様性の科学  画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』ディスカヴァー・トゥエンティワ(電子書籍版)pp.237-239、pp.240-241、pp.253-255、pp.256-257、pp.258-259

*7:ティム・スペクター(2017)『ダイエットの科学 「これを食べれば健康になる」のウソを暴く』白揚社 p.15、p.16、p.21、pp.32-33

*8:ティム・スペクター(2017)『ダイエットの科学 「これを食べれば健康になる」のウソを暴く』白揚社 p.15、p.16、p.21、pp.32-33

*9:マシュー・サイド著 株式会社トランネット 翻訳協力(2021)『多様性の科学  画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』ディスカヴァー・トゥエンティワ(電子書籍版)pp.237-239、pp.240-241、pp.253-255、pp.256-257、pp.258-259