YouTuberとのタイアップ広告の強みとは? 他メディアとの違いはどこにある?

ネット上で大きな影響を持つ「インフルエンサー」の存在は以前から注目されており、「インフルエンサーマーケティング」という言葉も存在しています。

Web上ではTwitterやInstagramといったSNSだけでなく、TikTokやYouTubeなどの動画サイトで活躍するクリエイターが多くいますが、なかでもYouTuberは子どものなりたい職業でもつねに上位を占める注目の存在です。

YouTubeを使ったマーケティングとその効果について見ていきましょう。

YouTube広告とYouTuberタイアップの違い

「YouTubeを利用したマーケティング」といっても、いくつか種類があります。

ひとつは文字通り、YouTubeに広告を出稿することです。何かの動画の前後や合間に流れる広告で、トゥルービュー広告とも呼ばれます。
もうひとつは、多くのフォロワー(チャンネル登録者数)を持つYouTuberとタイアップし、影響を持つYouTuberに商品やサービスを体験してもらい、その様子を収めた動画をアップロードしてもらうというタイアップの手法です。

トゥルービュー広告と「世界の5秒チャレンジ」

トゥルービュー広告には2種類あります。 ユーザーが途中でスキップできる広告と、一定時間強制視聴にできる広告です。

YouTube視聴中に入る広告の中で、途中で「広告をスキップする」と表示される場合と、「動画は広告のあとに再生されます」という2種類のメッセージが出ることはみなさんご存じかと思います。その違いです。

YouTubeへの広告出稿は以前からある手法ですが、スキップできる広告は5秒でユーザーの目を引かなければならないという大きな特徴があります。5秒でユーザーの心をつかむことができなければ、スキップされても広告主は文句を言えないのです。

これは「スキップできる世界の5秒チャレンジ」として以前から課題になっています。*1

そこで、もちろん、費用はかかりますが強制視聴の広告を出稿することもできます。

しかし、そこには課題も存在しています。

生活者の生活に「割り込む」広告の限界

マーケティングの父とも呼ばれるフィリップ・コトラー氏は、スマートフォン時代の広告についてこう述べています。

マーケターは今日、従来の広告で顧客に到達しようとすると大きな障害に直面する。顧客が広告を必ずしも信用していないからだ。彼らは広告よりも、友人や家族にブランドに関する率直な意見を聞くほうがよいと思っている。ブランドによる主張を耳にするとき、顧客は自分のコミュニティの信頼できる仲間と話をすることで、その主張が事実かどうか確かめるのだ。

<引用:「コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則」朝日新聞出版社 p181>

こうした状況への対策としてSNSマーケティングが普及したとコトラー氏は指摘しますが、それは条件付きの有効性でもあります。

ソーシャル・メディアのコンテンツが魅力的なのは、それが自由意志に任されていて、見たいときに見られるからだ。要するに、顧客は自分の好きなときに好きな場所でコンテンツを消費したいのである。

<引用:「コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則」朝日新聞出版社 p182>

コトラー氏の主張からすれば、広告の強制視聴はあまり歓迎されない側面もあるのです。

YouTuberとのタイアップ広告の特徴

ではもうひとつの手法、YouTuberとのタイアップの効果はどうでしょうか。

HIKAKINさん、はじめしゃちょーさんなど有名YouTube動画クリエイターのマネジメントなどをしているUUUMと電通の共同調査では、こうしたYouTuberとのタイアップ動画の一定の効果が報告されています。その一例は下のようなものです(図1)。

図1:YouTuberタイアップ広告効果の事例

認知度、興味・関心、購入意向いずれもがリフトアップされているという結果です。

また、電通とUUUMの別の調査では、YouTubeクリエイターの魅力は「信望性」にあると分析しています(図2)。信望性とは、「好感や親しみ」「等身大である」「相性が良いと感じられる」というスコアです。

図2:各メディアの信頼性・信望性スコア

動画クリエイター、Instagramのクリエイターともに、信頼性と信望性を兼ね備えた独自の位置にあるということを、この調査結果は示しています。
「テレビ」や「タレント」とは「信望性スコア」が逆方向にあることがわかります。

毎回見ているクリエイターという存在はタレントより身近であり、また、タレントよりも「本音」に近い発信であることも好感を得ていると考えられます。

また、YouTubeクリエイターが発信する動画は、さきのコトラー氏の考えを借りれば、「自分の好きなときに好きな場所でコンテンツを消費」にあたるという特徴もあるでしょう。

「視聴者がスキップしない動画の特性」とは

なお、コトラー氏はGoogleのある調査の結果を紹介しています。

グーグルが二〇一五年に行った数千件のユーチューブ・トゥルービュー広告の調査によって、視聴者がスキップしない動画の特性が明らかになった。それは、ストーリーと人間の顔となんらかのアニメーションを含んでいることだった。この調査では、広告の最初から五秒以内にブランド・ロゴが現れると、ブランド想起は高まるが、視聴時間が短くなることも明らかになった。マーケターは、「優れたコンテンツ」とはどういうものかという自らの定義が、顧客の定義と必ずしも一致しないことを理解する必要がある。究極的には、重要なのは顧客の定義である。

<引用:「コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則」朝日新聞出版社 p184>

トゥルービュー広告にせよタイアップ広告にせよ、広告にも「顧客至上主義」が求められているという指摘です。

広告主は従来よりも顧客の生活を知り、顧客の生活に何かプラスになることを与えつつ自社ブランドの価値観を知ってもらうという、よりクリエイティブな姿勢が求められています。
広告は専門的知識の提供であったり、エンターテインメント性と同居する必要があるのです。

YouTubeのもうひとつの活用法と「オウンドメディア」

さて、YouTubeを広告に活用する方法として、もうひとつ別のアプローチがあります。

企業自身がYouTubeチャンネルを立ち上げ、多様な動画コンテンツを配信するという方法です。
YouTubeを「オウンドメディア」として利用する、とも言えます。ユーザーにとって価値のある動画コンテンツを発信しつづけることで、企業認知度と、「この会社は有益なことを教えてくれる、顧客の知りたいことを教えてくれる企業なんだ」という信頼性の構築に役立ちます。
そこから、名物の「出役」を誕生させることができれば、それはYouTuberの魅力である「信望性」を内製できるということでもあります。

また、今は動画共有サイト、あるいは「ライバー」による配信サイトが多数あります。
それぞれユーザーの年齢層や特性は違うので、明確なターゲットのもとに配信先を選ぶ必要もあります。それぞれ予算も異なります。

動画広告に乗り出すにあたっては、なによりも、その動画が「顧客とのファーストタッチ地点である」という意識が必要です。
広告を見る、読むというのは顧客の「時間を奪う」ことでもあります。「タイパ」「シェア」が注目される現代のマーケティングにおいて、顧客に「時間の無駄遣い」を感じさせないアプローチが必須といえます。

この記事を書いた人

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に関連メディアに寄稿。