Netflix(ネットフリックス)は世界最大の動画配信サービス会社で、有料会員数が2億人*1に達するなど目覚しい成長を遂げていることで注目されています。 そしてその背景には、独自の人事戦略があると考えられます。
NetflixのCEOであるリード・ヘイスティングスは、2000年代前半、全世界に約9,000店舗のレンタルビデオ店を持ちながら、2010年に破綻に追い込まれたBlockbuster(ブロックバスター)との違いについて、次のように述べました。
NetflixにあってBlockbusterになかったものは、「プロセス(手続き)より社員を重視する」、「効率よりイノベーションを重んじる」、そして「ほとんど制約のないカルチャー」*2だったと言います。
自由な企業風土の中で、社員や改革を優先させるとはどういうことなのでしょうか。私たちも、そのアプローチから人事戦略のヒントを得られるでしょうか。
Netflixの人事戦略3つのポイントとは
リード・ヘイスティングスはNetflixの成長要因について、さらにこう語っています。
私たちのカルチャーは「能力密度」を高めて最高のパフォーマンスを達成すること、そして社員にコントロール(規則)ではなくコンテキスト(条件)を伝えることを最優先している。そのおかげでネットフリックスは着実に成長し、自らをとりまく世界と社員のニーズ変化に応じて変化することができた。ネットフリックスは特別な会社だ。そこには「脱ルール」のカルチャーがある。
そして、Netflixのような「特別な」会社にするために、正しいアプローチを試行錯誤し、3つの重要な要素を特定しました。「能力密度を高める」、「率直さを高める」、「コントロールを減らす」*3です。それぞれの要素には、どのような意図があるのでしょうか。
Netflixの人事戦略3つのポイント1.能力密度を高める
「能力密度を高める」とは、Netflixのサイトによると、「優れた人材でチームを構成し続ける」*4ということです。
つまり、優れた人材を採用しますが、仕事の成果が悪ければ雇い続けないということを意味します。最も有能な社員だけを残すことで、社内の能力の密度を高めていくためです。
Netflixの日本語採用サイトにも、「自分もいつまでもチームに残れるわけではないという可能性も受け入れなければなりません」と明記されています*5。同社が重視するのは、年功序列や終身雇用ではなく、パフォーマンスなのです。
そして、能力密度をより高めるために優秀な人材を確保する方法として、一人ひとりに最高の給与を提示しています*6。
元人事部長のパティ・マッコードは、自分の市場価格を知るために、競合他社との面接を社員に勧めていたという逸話があります*7。
人事担当者の中には、社員がリクルーターと接触するのを嫌う人もいますが、彼女は社員に「自分の価値はいくらなのか、それは貴重な情報なのだから聞きなさい」と言っていたそうです*8。
Netflixの人事戦略3つのポイント2.率直さを高める
Netflixでは、優秀な社員がお互いに正直なフィードバックをすることで「率直さを高め」、同時に仕事全体の質を向上させることを推奨しています。
しかし、社内の誰とでも階級に関係なくフィードバックを交わすという、模範的な態度を口にするのは簡単ですが、実践するのは容易ではありません。同社では、リーダーを中心にお互いが率先して実践できるよう目指しています*9。
企業として成長するためには、フィードバックを交わすことで「ドリームチーム」を強化することが重要だと考えているからです。
Netflixのドリームチームとは、「すべての社員がそれぞれの専門分野で卓越した能力を持つとともに、その社員同士が極めて効果的に協力して働くチーム」のことです*10。
マネージャーは、チームビルディングを強化するために「キーパーテスト」で自問自答することもあります。「もし、自分の部下が同業他社に転職すると言ったら、自分はその人をNetflixに引き留めるためにがんばるだろうか」というものです*11。
もし答えが「いいえ」なら、その社員はNetflixの基準を満たしていないことになります。
Netflixの人事戦略3つのポイント3.コントロールを減らす
リード・ヘイスティングスは、「能力の密度を高める」、「率直性を高める」ための環境が整えば、「出張規定」、「経費規定」、「休暇規定」といった社内の承認プロセスをすべて排除できる、と述べています*12。
「コントロールを減らす」ということは、優秀な社員が上司の指示を仰ぐことなく自分の裁量で意思決定できるようにすることを意味します。自主判断の質を高め、創造的なアイデアをより早く実行に移すことを可能にするためです。
Netflixでは、優れたマネジャーは部下をコントロールしようとせず、部下から最高の成果を引き出すためのコンテクスト(条件)を提供するなど、「コントロールではなくコンテキストによるリーダーシップ」*13という原則を立てています。
また、パティ・マッコードによれば、優秀な人材は論理と常識によって会社の利益を最優先するほど成熟しており、97%の社員は正しいことをする*14と言います。
多くの企業は、残りの3%が引き起こすかもしれない問題に対処するために、延々と時間とお金をかけて人事ポリシーを作成して施行しているのです*15。
Netflixの成長3つのステップ
今回は、Netflixが重要視している3つの要素を紹介し、同社が実践している人事の仕組みについてヒントを明らかにしました。
Netflixのイノベーションや成長を支えた3つの要素とは、「能力密度を高める」、「率直さを高める」、「コントロールを減らす」です。
「有能な人材を採用し、業績が悪ければ解雇することで、社内の有能さの密度を高める」、「優秀な社員が率直な意見を交換することで、仕事の質を向上させる」、さらに、「優秀な社員の管理をなくすことで、創造的なアイデアを迅速に実行できる」、という流れになります。
■Netflixの成長3つのステップ
Netflixが採用している手法は、すべての企業で通用するものではないかもしれません。同社が急成長したために成功事例として見えるだけで、将来的に上手くいかない可能性も十分あります。
しかし、同社は、今や世界有数の企業のひとつであり、ハイパフォーマンスを重視した人事アプローチが、うまく作用していることは明らかです。どんなことに取り組んでいるのか、なぜそれが有効なのかを理解することは重要ではないでしょうか。
社員のやる気と能力を引き出して人材を育成・確保し、離職を防止したいと考える人事担当者や管理職の方々が、既成概念にとらわれず、自社に合った人事戦略を見出すきっかけになればと願っています。
*1:ネットフリックス 会員数が減少に転じる 過去10年で初めて | NHK | ウクライナ情勢
*2:NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX Kindleエディション(2020)リード・ヘイスティングス (著), エリン・メイヤー (著), 土方 奈美 (翻訳) 日本経済新聞出版
*3:NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX Kindleエディション(2020)リード・ヘイスティングス (著), エリン・メイヤー (著), 土方 奈美 (翻訳) 日本経済新聞出版
*12:NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX Kindleエディション(2020)リード・ヘイスティングス (著), エリン・メイヤー (著), 土方 奈美 (翻訳) 日本経済新聞出版
*13:NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX Kindleエディション(2020)リード・ヘイスティングス (著), エリン・メイヤー (著), 土方 奈美 (翻訳) 日本経済新聞出版