ネット広告が変化を求められるいま「コンテンツマーケティング」が注目される理由

ネット広告の最適な在り方は、長年議論の対象でした。
一般的なバナー広告など「ディスプレイ広告」の効果の限界は実はかなり前から指摘されており、一方でそれに代わる手段がなかなか見つからなかったというのが実情です。

その打開策として注目されているのがコンテンツマーケティングです。

これまでの広告は「一方通行」という性格があったのに対し、コンテンツマーケティングはそれとは違う顧客との接点を持ちます。

どのような魅力があるのでしょうか。

増大するネット広告費と個人情報保護の動き

2019年にインターネット広告費はテレビ広告費を抜き、その後も拡大を続けています。電通が発表した2021年の「日本の広告費」によると、ネット広告費がついにマスコミ4媒体の合計を上回りました(図1)。

図1:インターネット広告費とマスコミ4媒体広告費の推移

<出所:「『2021年 日本の広告費』解説-広告市場は大きく回復。インターネット広告費がマスコミ四媒体の総計を初めて上回る」電通報>

そして、各媒体の構成比は、以下のようになっています*1

マスコミ4媒体:36.1%
インターネット:39.8%
プロモーションメディア:24.1%

マスコミへの広告出稿は単価が高いことを考えると、企業がインターネット広告配信に力を入れていることがわかります。

一方で、インターネット広告を取り巻く環境は厳しくなっていると言えます。

サードパーティークッキー廃止の動きがブラウザ開発各社で進んでいます。ブラウザで64%というトップシェアを誇るGoogle Chromeでも*2、2023年中にサードパーティークッキーが廃止される予定であることは広告業界に激震をもたらしています。

サードパーティークッキーは個人のブラウザの動きを把握し、そのユーザーの興味のありそうな広告を表示させるために必須のツールでしたが、こうした手段は取れなくなってしまうのです。

インターネットユーザーと「バナー広告」

また、ネット上におけるバナーなどのディスプレイ広告は、実は早期から限界が指摘されていました。

アメリカの大手デジタル市場分析企業であるコムスコアが、インターネットのディスプレイ広告のクリックについて分析したこのような調査結果を発表しています。10年以上前、2009年のものです(図2)。

図2:ディスプレイ広告のクリック率(2007年と2009年の比較)
<出所:「Comscore and Starcom USA Release Updated “Natural Born Clickers” Study Showing 50 Percent Drop in Number of U.S. Internet Users Who Click on Display Ads」Comscore>

注目したいのは左側の数字です。

バナーに対する「Non-Clikers」つまりバナー広告をクリックしないネットユーザーが2009年3月の調査では84%にのぼっているというのがこの調査の結果なのです。

また、Comscoreは同時に次のような数字も明かしています。
バナー広告の85%のクリックは、ネットユーザーのわずか8%によるものだという分析結果です*3

10年以上前の統計ですが、この時点ですでにバナー広告などのディスプレイに対するネットユーザーの反応の悪さが指摘されているのです。

広告の方向性とコンテンツマーケティング

マスコミでの広告にせよインターネット上のバナー広告にせよ、これらには共通点があります。
それは、情報伝達が「一方的」であることです。また、ネットユーザーの生活時間に一方的に「割り込む」という性格があります。

しかし、いまネット上には様々なコンテンツが溢れています。記事、SNS、動画配信と、現代人はネット上に存在するコンテンツを消費するのに一生懸命で、広告を見ることに割く時間などない、というわけです。

では、ネットユーザーにどうやったら「割り込む」形でなく自社ブランドを認識してもらうのか。
その手法の代表的なものが「コンテンツマーケティング」なのです。

「先に与える」ことを呼び水に

コンテンツマーケティングは、企業が「ネットユーザーの関心がありそうなこと」についての記事や動画などのコンテンツを配信し、ネットユーザーと企業との接点に結びつけるという手法です。

現代人がネットを使う主な目的は「自分の興味があること、自分が面白そうだと思うこと」についての知識を得ることと言えるでしょう。そこに一方的に割り込んでいくディスプレイ広告はもはや「自分の時間を邪魔された」とまで思われる存在とも言えます。

しかし、自分が興味を持っているコンテンツとなると話は別です。検索エンジンに表示される結果にせよSNSのタイムラインに流れるものにせよ、ユーザーがほしいのは「興味を引くコンテンツ」である以上、その脇に表示されるバナーは不必要といっても過言ではありません。

また、コンテンツマーケティングの特徴は、コンテンツという「出会いの場」がユーザーと企業の間にあることです。コンテンツというクッションは、ユーザーが積極的にアクセスする場所であり、かつ企業が積極的に発信する自社の価値観や考え方です。互いに積極性があるということが重要なのです。

これまでの一方的な発信ではなく、役に立つコンテンツを先に提供することでユーザーを振り向かせる、話はそれから、という形です。
割り込み型の広告は、一方的に電話や訪問をしてくる営業マンのようなものです。心地よく思う人は、今では多くはないのではないでしょうか。しかしそれと同じことをしてしまっている可能性があるのです。

よりよいコンテンツマーケティングとは

コンテンツマーケティングは今やバズワードでもあり、多くの企業が興味を持っていることと思います。
しかし難しいのは、「コンテンツの内容」です。

「マーケティング4.0」など新しい理論を展開し、現代マーケティングの父とも呼ばれるフィリップ・コトラー氏は、コンテンツマーケティングにあたってマーケターが意識改革すべき点をこのように述べています。

しかしながら、問題は、マーケターが往々にしてコンテンツ・マーケティングを形態の異なる広告とみなし、ソーシャル・メディアを形態の異なるメッセージ拡散媒体とみなしていることだ。なかには、広告をほとんどそのままソーシャル・メディアに移すだけのマーケターもいる。彼らはコンテンツを長尺版の広告とみなしているのである。
マインドセットの大きな転換が求められている。コンテンツは確かに新しい広告だが、両者はまったくの別物だ。広告が製品・サービスの販売を促進するために伝えたいと思う情報を含んでいるのに対し、コンテンツは顧客が自分の個人的・職業的目的を達成するために使いたいと思う情報を含んでいるのである。

<引用:「コトラーのマーケティング4.0」朝日新聞出版社 p183-184>

いくらコンテンツがネットユーザーと企業のファーストタッチとなる「出会いの場所」であったとしても、コンテンツはあくまで「顧客が自分の個人的・職業的目的を達成するために使いたいと思う情報を含んでいる」ものでなければ、すぐに立ち去られてしまいます。

興味深いコンテンツだと思っていても、あまりにも広告の色が濃すぎるものは敬遠されるのです。広告の一方的な押し付けとそう変わらないからです。
このさじ加減が非常に難しいのが、コンテンツマーケティングの特徴でもあります。

ユーザーと企業のよりよい信頼関係に向けて

どのような商品やサービスも、ユーザーにとって役に立つものでなければならないのは言うまでもない事実です。さらに競争の激しい現代では、それらを提供する企業が自分にとって役に立つ、安心できるものである必要性が増しています。

「売り切り」でないサブスクリプションの形に商習慣が変化しLTVが意識されているように、ユーザーと企業の関係もまた信頼関係に基づいた継続的なものでなければなりません。 あるいは、信頼感を先に得てから商品やサービスを体験してもらうという逆転現象が起きつつあるとも言えます。

この変化の中でのコンテンツマーケティングはまず「信頼を得る」ツールであり、先行投資と考えるのが良いでしょう。

焦らず、一定の時間をかけてじっくりと取り組む。それは、企業が顧客から信頼を得るプロセスと全く同じなのです。

この記事を書いた人

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。