事例とデータで見てみよう 女性活躍推進が組織に与える変化とは

2022年4月、「女性活躍推進法」が改正されました。この法律は、働くことを望む女性が、個性や能力を十分に発揮して活躍できるよう、職場環境の整備や女性活躍に関する情報公開を企業に義務付けるものです。今回の改正では、義務の対象が「労働者数101人以上の事業主」に拡大されました。

社会全体で働きたい女性の後押しをしているものの、出産・育児やパートナーの転勤を機に、働きたい気持ちがあるのにキャリアを諦めざるを得ない女性はまだ一定数います。
それでは、働くことを望む女性が活躍できる社会とは、どのようなものなのでしょうか。

今回は、女性活躍を後押しする企業の事例を見ながら、女性活躍推進が組織に与える変化を紹介します。

日本の女性活躍の現状

女性の労働力率(人口に占める労働力人口の割合)を年齢階級別にグラフにすると、日本の場合、30代を床とするM字型になります。これは、日本では長らく「女性は結婚や出産を機に一旦離職する」という慣例があったためです。
育児が落ち着いた時期に再び働き始める人が増えるため、30代後半から40代前半に掛けて労働力率が上がり、グラフがM字型になります。

女性の年齢階級別労働力率(M字カ-ブ)の推移

<出所:内閣府 男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年度版 Ⅰ第2分野 p.126」>

しかし、近年のグラフを見ると、M字カーブの谷が浅くなり台形に近づいていることが分かります。ここで、国際社会に目を向けると、欧州主要国の女性労働率は台形となっており、なかでもスウェーデンやフランスでは40代でも就業率が上がり続け、逆U字型になっています。
女性活躍が進まない象徴であるM字カーブが、ようやく日本でも欧州のような台形に近づきつつあるのです。

主要国における女性の年齢階級別労働力率

<出所:内閣府 男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年度版 Ⅰ第2分野 p.127」>

「男女共同参画白書 平成25年度版」によると、M字カーブが解消傾向にある要因として「もともと労働力率が高い無配偶の割合が上昇していることに加えて、配偶者の有無を問わず、若い世代ほど全般に労働力率が上昇していること」*1を、挙げています。

非正規労働者の女性多く、男女間の賃金格差も大きい日本

M字カーブは解消に近づいているものの、日本の女性活躍推進には課題も残ります。令和3年時点で、女性雇用者のうち、パートなどの非正規労働者は53.6%と、男性(22.8%)の2倍以上にのぼります。

男女間賃金格差の国際比較

<出所:内閣府 男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年度版 Ⅰ第2分野 p.132」>

また、上の棒グラフは、男性フルタイム労働者の賃金の中央値を100としたときの、女性フルタイム労働者の賃金の中央値を表したものです。
OECDの平均値(88.4)と比べて、日本は77.5となっており、国際的に見ても日本は男女間の賃金格差が大きいことが分かります。

さらに、「国土交通白書2021」によると、役員に占める女性の割合は、日本で10.7%(諸外国比ワースト2)、管理職に占める女性の割合も13.3%(諸外国比ワースト1)です。

女性管理職・役員比率の国際比較

<出所:国土交通省「国土交通白書2021」第3節2>

法律や制度によって、日本女性の労働参加は徐々に進んでいますが、国際的に見るとまだまだ発展途上だといえます。
そもそも男性と異なり、妊娠・出産を身をもって経験しうる女性が活躍できる社会とは、どんな社会なのでしょうか。

筆者の周りの女性を見渡すと、資格や能力があっても、妊娠時の体調不良や家族の転勤、子育てと仕事の両立の難しさから、キャリアを諦める女性は一定数います。
女性が活躍できる社会とは、ライフステージの変化があっても、キャリアを諦めなくてすむ社会なのではないでしょうか。

企業の女性活躍施策の成功事例

労働者を支えるのは国や法律だけではありません。労働者を雇う企業が、最も近くで労働者を支える組織だと言えるでしょう。

日本にも、出産・育児といったライフステージの変化を経ても、可能な限り社員に活躍の機会を与えられるよう、さまざまな制度を設けている会社があります。
各社の女性活躍の施策と、組織全体に与えた変化を紹介しましょう。

アサヒビール株式会社のウェルカムバック制度

アサヒビール株式会社では、社長をプロジェクトオーナーとする「働き方改革プロジェクト」を立ち上げ、従業員の労働環境を整えています。*2

なかでも、育児や看病などの理由で退職した場合、既定条件を満たせば再雇用認定を受けられる「ウェルカムバック制度」は、「子どもが小さい間は、子育てに専念したい」という人にはありがたい制度です。
また、自身のスキルアップや配偶者の海外転勤帯同の際には、「スキルアップ休職制度」を利用できます。

産休・育休制度やフォロー体制の充実により、産休や育休からの復職率はほぼ100%を維持し、離職率は平均1パーセント未満。ワーキングマザーが仕事と育児の両立について意見を交換できる催しもあるといいます。

サイボウズ株式会社のウルトラワーク

サイボウズ株式会社では、2010年から在宅勤務制度を開始。さらに、育児や介護だけでなく通学や副(複)業など、それぞれの事情に合わせて、社員自らが働く時間や場所を決めて、実行しています。

働き方宣言制度の例

<出所:サイボウズ株式会社HP「ワークスタイル」>

さらに、宣言した働き方と異なる働き方を単発で行える「ウルトラワーク」という制度を利用すれば、急な家族の看病や介護が発生しても、働く時間や場所を変更できます。

以前は人材採用や定着に課題があったという同社ですが、社員の声を聞きながら「100人いたら100通りの働き方があってよい」との考え方のもとで、多様な働き方ができる環境を整えたところ、離職率の低下や採用・教育のコスト削減に繋がったといいます。

<出所:サイボウズ株式会社HP「ワークスタイル」>

2005年には28%だった離職率が、近年では3〜5%程度に改善されました。
また採用面でも応募数増加はもちろん、大手企業から市場価値の高い人材が、柔軟に働ける環境を求めて転職してくるようになったのです。

味の素株式会社のどこでもオフィス

味の素株式会社でも、2017年から全従業員を対象に、自宅やサテライトオフィスなどで働ける「どこでもオフィス」制度を導入しています。*3
さらに、育児中の女性だけでなく、すべての従業員が働きやすい環境を作るため、所定労働時間を20分短縮し、会議や研修も原則9時〜16時までと定めました。
この制度によって、時間外労働時間が1割減となったうえ、通勤時間削減や拘束時間削減により、社員のプライベートの充実にもつながっているといいます。

企業が従業員の多様な働き方をサポートする意図について、同社は、
「家族と過ごす時間の充実や自己研鑽に充てる時間を創出し、ワークライフバランスを向上させつつ生産性を高めることを目的に、(略)フレキシブルに働くことができる環境整備を進めています」*4
としています。

「女性活躍施策が組織全体に与える変化とは」

これらの事例を見ると、女性活躍のための施策は、労働力の維持や、採用力の向上、そして社員のプライベートの充実にも繋がることが分かります。
女性が働き続けられるよう作られた制度は、出産・育児だけでなく、看病や介護、自己啓発、そして副業に力を入れる社員にとっても働きやすい環境作りに繋がるということです。

女性活躍のための施策が、組織全体にプラスとなっている企業の共通点は、女性だけでなく男性も制度の対象にしていることです。
さらに制度を使う理由として、育児だけでなく介護や自己啓発、副業まで幅広く認めていることです。
これは、女性と男性、育児中の社員とそうでない社員の分断を防ぐためにも、そして女性活躍施策が組織全体に与える効果を最大限にするためにも、必要不可欠だといえるでしょう。

多くの「働きたい」と望む女性が、活躍の機会を諦めずにすむ社会、そして、男女問わずすべての人が活躍できる社会の実現には、労働者に寄り添う企業の姿勢が必要です。

この記事を書いた人

笠井ゆかり

2009年神戸大学法学部卒業後、NHKに入局。報道記者として司法・警察取材を担当し、事件・事故や裁判取材を行う。生命保険会社への転職後は、代理店営業やリスク管理業務に従事。2020年からフリーライターとして活動。女性活躍や働き方改革、企業インタビューなど幅広く執筆。