アマゾンの「パワポ不可」から学ぶ 会議効率化のポイントとは?

働き方改革への取り組みやテレワークの普及に関する議論など、企業のさまざまな場面で労働生産性が意識されるようになってきています。

効率化の必要性を感じる一方で、これまでの仕事の進め方から脱却できずにお悩みの方もいるのではないでしょうか。

例えば、会議は議論や意思決定、会社やチームの方向性を決定するために欠かせないものです。それが無駄な業務になってはいないでしょうか。

今回は、アマゾンの手法を参考に、会議効率化のためのヒントをご紹介します。社内会議のあり方に疑問をお持ちの方、生産性を追求した業務改善を行いたい方は、ぜひご一読ください。

日本における労働生産性の動向

日本生産性本部の調査によると、日本の労働生産性は、OECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中、23位にとどまっています。これは、前年度より低下しており、1970年以降で最も低い順位です*1

OECD加盟諸国の時間当たり 労働生産性(2020年/38カ国比較)

労働生産性とは、「従業員が1時間にどれだけの製品やサービスを生み出すか」を数値化したもので、従業員がいかに効率的に働いているかを示す指標です。

業種による差はあると思われますが、全体としては世界と比較して低い水準にあることが明らかになっています。

また、以下の先進7カ国(G7)の労働生産性の推移を見ると、日本は1970年以降、一貫してG7の最下位に位置していることがわかります。労働生産性の水準は、G7のトップである米国の約6割のレベルです。

主要先進7カ国の時間当たり労働生産性の順位の変遷

日々、真面目に働いている皆さんにとっては、もどかしい現実を突きつけられたかもしれません。一方で、自社の労働生産性を向上させるために何をすべきかを考える良い機会になったのではないでしょうか。

次に、企業の仕事に対する取り組み方の問題点について、興味深いデータを見てみたいと思います。

年間15億円の損失を生む「ムダ会議」

労働生産性を論じるとき、「会議や打合せが多すぎる」ということがよく言われます。実際、日本の企業はどれだけの時間を会議に費やしているのでしょう。

パーソル総合研究所が行った役職別の年間社内会議・打ち合わせの時間の推計によると、週当たりの時間数では、メンバー層で3時間以上、課長級で6時間、部長級で8.6時間です。

この試算を年間時間に拡大推計(抽出したデータから本来調べたい母集団全体を類推)すると、メンバー層は154時間、部長級では434時間以上となります。

さらに、従業員数が多いほど上司層の会議時間は増え、1万人以上の大企業では630時間にもなるのです*2

社内会議・打ち合わせに費やす時間(年間)

なお、この時間には、顧客や取引先などの社外との会議は含まれていません。これだけの時間を充てられている会議は、本当に有益なのでしょうか。

実際に会議に参加した人に「会議はムダだと思うか」という質問をしたところ、メンバー層の23.3%、上司層の平均27.5%が「会議はムダだ」と感じていることがわかりました*3

ムダと感じる会議の割合 メンバー/上司別

このように、会議時間は一部の参加者にとって「ムダ」と認識されています。

さらに拡大推計すると、従業員1万人規模の企業では、年間約67万時間を会議に費やしており、これは約332人の年間労働時間に相当することが分かります。

その結果、企業がムダに費やしているだろうと思われる人件費は、年間約15億円となります*4

多額の資金を投入する会議の時間を、効率良く実施する方法はないのでしょうか。

アマゾンもムダな会議をしていた

オンライン書店事業を皮切りに、次々と新サービスを立ち上げ、巨大企業に成長したアマゾンの成功は、全社員に根付いた超効率的な「資料」と「会議」の文化に起因しています。

そんなアマゾンですが、創業期には、毎週火曜日に約4時間かけて行われる経営会議がありました。準備と会議の時間を合わせると、参加者全員がこの会議のために毎週半日を費やしている計算です。

会議では、まず担当チームがプロジェクトの現状と目標達成のための取り組みについて報告し、その後、出席者が議論しながら各項目を詳細に分析しました。

報告は通常、1人または数人のプレゼンターがパワーポイントのスライドを見せながら口頭で行うというものです。

しかし、多くの場合、期待された効果は得られませんでした。そこで、当時のCEOジェフ・ベゾスと参謀のコリン・ブレイヤーは経営会議を改善する方法について何度も話し合った結果、エドワード・タフテの解決策を採用することにしたのです。

タフテはイェール大学教授で、情報可視化という分野の第一人者です。

そのタフテの提案はこうです。

「重要なプレゼンテーションでは、パワーポイントのスライドよりも、文章、数字、グラフ、画像を組み合わせた紙の資料のほうが効率的である。詳しい情報を読み込むことで、文脈を理解し、比較し、順序立て、新たな視点から事実関係を見直すことができるからだ。対照的に、スクリーンを介した発表はデータに乏しく、記憶に残りにくい。それだけでなく、聞き手を受け身にさせて無知の状態にとどめ、発表者に対する信頼感も低下させる」

そこでベゾスはパワーポイントの使用を禁止することで、会議の効率化に乗り出しました。つまり、会議の効率化は資料から始まるということです。

アマゾンの資料作成ルール

会議資料は、A4の「1ページ」か「6ページ」にし、「文章(ナレ-ティブ)形式」で書かなければならないというルールがアマゾンにはあります*5

そして、アマゾン流の良い資料とは、「誰でも」「いつでも」「正しくわかる」資料*6です。

資料は通常「ワード」で作成します。「パワポ」がNGな理由としては、文章が箇条書きになっており、人によって解釈が異なる可能性があるためです。

会議の場で詳細を伝えることはできても、後日資料を見直すとき、あるいは会議に出席していない人が資料を見るときはどうでしょうか。

「こういうことなんだろうな」と勝手に解釈してしまい、資料の真意が正しく伝わらないことがあるのです。

こうした誤解は、最初は小さなものであっても、時間が経つと大きな解釈のブレになります。その結果、最終的な結論が大きくずれてしまい、本来の目的が達成されず、非効率な会議になってしまうのです。

一方できちんとした文章を書こうとすると、筋を通すために一貫性を持たせる必要があります。そのため、適切な情報を精査し、何度も書き直さなければならなくなります。

ベゾスは、じっくりと検討し、修正するプロセスを想定して、会議資料作成のルールを考えたのではないでしょうか*7

会議を効率化するアマゾン流のルール

ナレ-ティブで書かれた資料を読むには、会議の冒頭、会議室で、会議に参加する全員が一斉に黙読することが最も効果的だといいます。20分間の黙読の間に、良くできた資料から有益な情報を得られるからです。

さらに、会議で議論すべき議題の全体像を短時間で把握し、意思決定が必要な重要な部分を全員が明確に把握し、質問すべき内容を整理した上で議論を始められます。

その結果、最初に提示されたゴールに向かって最短距離で進みやすくなるのです。考え抜かれて作られた資料のメリットは、会議のスリム化にも直結していることがわかります。

ちなみに、自分が意思決定に無関係だと感じた場合は、会議への参加を免除するよう求めることができます。そもそも会議の開催が発表された時点で、参加が必須か否かが各当事者に明示されています*8

また、会議に関しては「Two Pizza Rule(ピザ2枚ルール)」というものがあり、これは「議論が進む最適な人数は、Lサイズのピザを2枚食べられる人数である」という考え方に基づくものです*9

これらも、無駄な会議出席をなくすためのアマゾンらしい工夫です。ぜひ参考にしてみてください。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。