中小企業にこそメリット 「SDGコンパス」で取り組むサスティナブル経営の意義とは

日本のSDGsの取り組みにおいては、大手企業の動きが目立ちやすいのが現状です。 しかし法人数の大半を占める中小企業が動かなければ実現は難しく、中小企業にこそ取り組むメリットが大きいという発想の転換が必要です。

では実際どのように SDGsに取り組んでいけばいいのでしょうか。 世界的に最もスタンダードな手順である「SDG コンパス」に沿って見ていきましょう。

中小企業にとってのSDGs

まずSDGsの概要と中小企業にとってのSDGsの捉え方について見ていきましょう。

SDGsの概要

SDGsとはSustainable Development Goalsの略語で、持続可能な開発目標と訳されています。 2015年の国連サミットにおいて採択され、具体的な指標として17のゴールと169のターゲットから構成されています。*1

大企業だけのミッションではない

SDGsと聞くと、大企業のミッションと思われがちです。
これにはメディアなどの報道で、大手企業が主語になりやすいことにも一因があるでしょう。

また、SDGsは地球全体での環境問題や世界的な課題の解決にゴールがあるので、「国や大企業が取り組むべき」と考え、中小企業が敢えて取り組んでもメリットがないと思われがちです。

しかし、日本の企業規模別の企業数によると中小企業が構成比99.7%を占めています*2

企業数、従業員数を考えると、日本国内におけるSDGs達成度を左右するのは大企業ではなく、むしろ中小企業の方だともいえます。

企業活動とSDGsが提唱する「持続可能性」のつながりを、多くの中小企業も考慮すべき状況にいるといえるのではないでしょうか*3

SDGsに取り組むメリット

つぎに中小企業がSDGsに取り組むことによって期待できるメリットをご紹介します。 企業の持続可能性に関わる価値の向上

中小企業診断協会の調査研究によると、SDGsと企業の持続可能性との関係性について以下のように述べられています*4

SDGs はさらに大きな枠組みであり、国連が定めた世界の共通目標でもある。今後、取り組みに消極的であれば「社会の要請」に応えていないと見なされ、信頼を失いかねない。逆に言えば、「SDGs への関与」と「企業の持続可能性」は、今後一層、密接な関係を持つようになるだろう。

採用活動で優位に

次に採用活動におけるSDGsの影響について見ていきましょう。

SDGsに積極的に取り組んでいる企業への就職・転職に対する優位性については、大学生・院生の約半数が優位になると回答しており、SDGsの取り組みの有無が就職先の検討に影響していることがわかります*5

また、就活生を対象とした企業の社会貢献度と就職志望度の関連調査によると、社会貢献度の高さが志望度に影響したと回答した学生は65.2%という結果でした*6

これらの結果は、大学生も当然に企業のSDGsへの取り組みに関心を持っていることを物語っています。 そのため、企業規模の大小や福利厚生などの条件面だけでなく、SDGsに積極的に取り組むことが大きな企業メッセージになっていくと言えるでしょう。

エシカル消費の取り込み

消費者庁が行ったエシカル消費の興味度についての調査によると、全体の59.1%が「興味がある」と回答しました。 また2016年度調査と比較すると3年間で「興味がある」と回答した人が 23.2%増加しており、関心が大きく高まっていることがわかります*7

エシカル消費について、BtoBにおいては意識しなくてもよいのではないかと考える方がいらっしゃるかもしれません。 しかし最終的に商品やサービスを購入する消費者の意識が高まる中では、取引先の選定に影響が出てくることも予想されるでしょう。

義務教育でSDGsを学んできた世代が、いずれ消費者の中心の世代になることを考えると、エシカル消費の取り込みができるかどうかが重要になるといえます。

新たな市場機会の創出

ビジネス&持続可能開発委員会(BSDC)のレポートでは、食料、農業、都市、エネルギーと材料、健康と福祉の4つの経済システムで、2030年までに最高で年間12兆ドルの事業機会があるとの試算が公表されています。*8

企業におけるSDGsへの取り組みは、新規取引先やパートナーの開拓、地域や行政との連携、また新規事業の立ち上げなど、新たな市場機会を創出する可能性を秘めています。 そのためSDGsは取り組むべき事業成長の機会として捉えられるでしょう。

SDGコンパスで取り入れるSDGs

これからの時代、SDGsへの取り組みが事業規模の大小を問わずに不可欠なものであることは、各種データからも明らかなようです。 では具体的に、どのような手順で取り組みを開始すればよいのでしょうか。

この章では、企業がSDGsを取り入れる際に有効で、世界的に最もスタンダードな手順である「SDG コンパス」について見ていきましょう。

SDGコンパスとは

企業がいかにしてSDGsと経営戦略を整合させ取り組むべきか指針を提供しているものがSDGコンパスです。

具体的な指針として下図の5つのステップが提示されており、戦略の方向性を決定するために適用することができます。*9

5つのステップ

SDGコンパスの具体的な5つのステップを見ていきます。

STEP1. SDGsを理解する

まずは企業がSDGsに関して十分に理解することから始めます。 SDGsの指標である17のゴールと169のターゲットを把握し、どのような形で自社に取り入れられそうか、または既に貢献しているものがあるかなどを確認してください。

STEP2. 優先課題を決定する

SDGs が企業に与える最も重要な影響を評価し、リスクを減らすために課題を決定します。 優先的に取り組む課題をみつけるために、SDGsの指標に沿って自社の課題を洗い出す作業が必要です。 結果に基づき優先的に取り組む課題を設定してください。

STEP3. 目標を設定する

次に優先的に取り組む課題に対して目標の設定を行いますが、具体的な数値や期限、期間のある目標が望ましいでしょう。 また設定した目標の達成度に対するKPIも決めておきます。 KPIのアプローチ方法としてインサイド・アウト・アプローチと、アウトサイド・イン・アプローチという方法があります。*10

SDGsへの取り組みに際しては、目標設定に対し企業目線から取り組むインサイド・アウト・アプローチでは、世界的な課題への対応は困難とされています。 自社を俯瞰して観察し、世界的・社会的なニーズから目標を設定するアウトサイド・イン・アプローチの視点で取り組みのが理想です。

STEP4. 経営へ統合する

実際に目標を経営に統合し、達成を目指していきます。 中長期的な事業や企業のガバナンスにSDGsを組み込みましょう。 事業部内や業務内で実際どのように取り組めば目標が達成できるのか落とし込んでいきます。 その際、SDGs目標を達成するにあたって必要不可欠な一般社員の協力を仰ぐために、SDGの意識を企業内に浸透させる必要があります。

また企業内だけでなく、行政や地域とのパートナーシップも重要とされているので、協働できそうな目標はないか、あわせて検討してください。

STEP5. 報告とコミュニケーションを行う

SDGコンパスでは、SDGsに関して取り組んだ事項について、ステークホルダーへの報告を推進しています。 課題を設定した経緯・理由や、目標と戦略、進捗状況などが挙げられます。 自社の公式HPやSNSなどを活用して報告することも可能です。

中小企業のSDGs取り組み事例

最後に、中小企業におけるSDGs取り組み事例をご紹介します。

テラオライテック株式会社

福井県越前市のテラオライテック株式会社は従業員数38名、設備⼯事業を営む企業です。 同社ではSDGsの取り組みとして、水不足という課題に対してカンボジアにおける養殖事業と上下⽔インフラ整備を⾏いました。 養殖事業で得た利益を政府に寄付することによって、上下⽔道を整備するための資金にあててもらおうという仕組みです。 同社は現地法⼈を設立し、上下水道の公共⼯事を請け負うことで、インフラを整える際の財源確保から実施までを一連の流れとして確⽴することに成功しています。

代表取締役社⻑の寺尾⽒は取り組みについて以下のように述べています。*11

現地の経済成⻑も促しながら幅広い課題解決を図るシステムとなり、現地ではすでに「テラオ式」という名前がつき、今後同じ⽔の課題を抱えた地域のロールモデルになると考えています。

自社ができることに対し、世界的視点から何を求められているのかを適応させた「アウトサイド・イン・アプローチ」の成功事例の一つと言えるでしょう。

会社の指針に沿った無理のないSDGsの取り組みを

日本のSDGsの取り組みにおいては大手企業の動きが目立ちやすいのが現状ですが、中小企業にこそ取り組むことによって得られるメリットがあります。

また、大企業や自治体からSDGs対応を求められる動きも出始めるなど、中小企業にとってもSDGsを無視して事業活動を行うことは、持続可能性を揺るがす「リスク」となりつつあるといえます。

この機会に、SDGコンパスに沿ってSDGsの取り組みを検討してみてください。

この記事を書いた人

平川ゆうこ

メーカーで営業・商品企画に従事した後、フリーのWebライターに。
主にマーケティングや業務効率化に関連したテーマで執筆、関連メディアに寄稿している。