働き方改革に「フレックスタイム制」の選択肢|メリット・注意点・導入手続きを弁護士が解説

フレックスタイム制はテレワークとも親和性が高く、働き方改革のツールとして効果を発揮する場合があります。従業員にとって働きやすい職場作りを推進するため、フレックスタイム制の導入も選択肢に加えてみてください。

今回はフレックスタイム制について、導入するメリット・注意点・導入手続きなどをまとめました。

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、始業・終業時刻を労働者の裁量によって決められる制度です。

必ず就業する「コアタイム」と、就業してもしなくてもよい「フレキシブルタイム」を設けて、フレキシブルタイムの範囲内で始業・終業時刻を自由に決めることができます。 また、コアタイムを設けない「スーパーフレックスタイム制」も認められます。

フレックスタイム制と裁量労働制の違い

フレックスタイム制において、労働者に裁量が与えられるのは、あくまでも始業・終業時刻の決定に限られます。

これに対して(専門業務型・企画業務型)裁量労働制は、業務の遂行手段や時間配分の決定など、仕事の進め方全般について労働者に広い裁量を認める制度です。 労働基準法上、フレックスタイム制と裁量労働制は全く異なる制度であることにご注意ください。

フレックスタイム制における賃金精算の考え方

フレックスタイム制を適用する従業員については、労使協定で「清算期間」と「総労働時間」を定めます。清算期間は3か月以内とし、総労働時間は週平均40時間以内になるようにしなければなりません。

「清算期間のうちに、総労働時間分働く」というのが、フレックスタイム制の基本的な考え方です。総労働時間を超過した分については残業代が発生する一方で、不足した分については賃金から控除することが認められます。

◎フレックスタイム制の主なメリット フレックスタイム制は、労働時間の決定について裁量を与える制度であるため、従業員にとっての働きやすさに繋がる点が大きなメリットです。

ワークライフバランスの確保に繋がる

始業・終業時刻を自由に決められると、従業員の時間の使い方の自由度が大幅に広がります。

早めに仕事を切り上げて余暇や家族との時間を楽しんだり、出勤時間を遅らせて朝は勉強やトレーニングに充てたりするなど、仕事と生活の両方を充実させることも容易になるでしょう。 従業員のワークライフバランスが充実すれば、離職率の低下も期待できます。

自由に働き方を決めたい就職・転職希望者へのアピールになる

これから入社する可能性がある就職・転職希望者に対しても、フレックスタイム制は良いアピールになる可能性があります。自由に就業時間を決められることは、入社する企業を選ぶに当たってポジティブな要素となり得るからです。

特に専門職の人材は、時間に縛られず自由に働きたいという要望を持っているケースが多いと考えられます。優秀な専門職人材を確保するためには、フレックスタイム制を導入することが望ましいでしょう。

フレックスタイム制を導入する際の注意点

フレックスタイム制を新たに導入する場合、労働時間の管理が難しくなる点や、従業員同士でコミュニケーションを取る機会が減る可能性がある点に注意しなければなりません。

労働時間の管理が難しくなる

フレックスタイム制を適用する従業員については、始業・終業時刻や1日の就業時間を会社が決めることができません。そのため、通常の労働時間制で働く従業員に比べると、フレックスタイム制の従業員は労働時間の管理が難しくなります。

会社が気づかないうちに、連日にわたって長時間労働が行われたりすると、従業員が健康を害してしまうリスクが高まります。そのため、勤怠管理システムに記録される労働時間を参照するなどして、偏った働き方をしている従業員に対しては注意喚起等を行いましょう。

従業員同士でコミュニケーションをとる機会が減る

フレックスタイム制によって各従業員の就業時間がバラバラになると、従業員同士がコミュニケーションをとる機会が減る可能性があります。

異なる時間帯で働く従業員間の意思疎通を円滑化するため、オンラインで全従業員のスケジュールを共有するなどの対応が必要となるでしょう。また、特に新入社員や若手社員の教育を図るため、上司や先輩社員とのミーティングを意識的に増やすことも考えられます。

フレックスタイム制を導入するための手続き

フレックスタイム制を導入する場合、労働基準法の規定に従い、労使協定の締結と就業規則の変更・届出が必要となります。

労使協定を締結する

会社がフレックスタイム制を導入するには、労動者の過半数で組織する労働組合(または労動者の過半数を代表する者)との間で労使協定を締結しなければなりません。

フレックスタイム制に関する労使協定で定めるべき事項は、以下のとおりです(労働基準法32条の3第1項、労働基準法施行規則12条の3第1項)。

(1)フレックスタイム制を適用する労動者の範囲
(2)清算期間
(3)総労働時間
(4)標準となる1日の労働時間
(5)コアタイムの開始・終了時刻(コアタイムを定めない場合は不要)
(6)フレキシブルタイムの開始・終了時刻
(7)清算期間が1か月を超える場合、労使協定の有効期間の定め

締結した労使協定は、清算期間が1か月を超える場合に限り、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長へ届け出る必要があります(労働基準法32条の3第4項、32条の2第2項)。 一方、清算期間が1か月以内の場合には、労働基準監督署長に対する労使協定の届出は不要です。

就業規則を変更する|労働基準監督署長への届出も必要

始業および終業の時刻は、就業規則の記載事由とされています(労働基準法89条1号)。

フレックスタイム制を導入した場合、始業および終業の時刻が変化します。そのため、フレックスタイム制の内容を就業規則へ明記しなければなりません。

変更後の就業規則は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に対する届出が必要です。なお、就業規則以外の社内規程でフレックスタイム制の詳細を定めてもよいですが、その場合は該当する社内規程を労働基準監督署長に届け出る必要があります。

ただし、常時使用する労働者が9人以下の事業者は、就業規則の作成・届出義務を負わないため、フレックスタイム制に関する変更についても就業規則の変更・届出義務を負いません。

まとめ

フレックスタイム制の導入は、従業員にとって働きやすい職場作りを実現するための有力な選択肢です。既存従業員の離職率の低下や、将来入社する優秀な従業員へのアピールといった効果も期待できるでしょう。

その一方で、労働時間の管理や従業員同士のコミュニケーションの観点から、フレックスタイム制を導入するに当たってクリアすべき課題も存在します。フレックスタイム制を会社にフィットさせられるかどうかは、経営者や人事・労務担当者の手腕が問われるポイントです。

働き方改革の潮流に適応して、自社の生産性や労働環境を改善するため、フレックスタイム制を含めたさまざまな選択肢を検討することをお勧めいたします。

この記事を書いた人

阿部由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。