ヘルスケア不動産で地方創生を実現|社会のニーズに対するソリューションとしても注目

ヘルスケア不動産とは、有料老人ホームなどのシニアリビング施設や、病院などのメディカル施設を指しています。少子高齢化が加速する中、地方創生など国の政策や社会のニーズに対するソリューションとしても注目されている不動産です。
この記事では、日本版CCRC構想、ご当地ヘルスケア・インフラファンド、地方のヘルスケア施設などについて解説をします。

ヘルスケア不動産とは

近年、わが国においては、ヘルスケア不動産の質や量を充実させることが重要な課題となっています。

ここでは、 ヘルスケア不動産の概要について解説をしましょう。

介護施設・医療施設など社会貢献性の高い不動産

ヘルスケア不動産とは、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など高齢者向けの介護施設や、医療関連などの施設を指しています。少子高齢化社会を支えるインフラとして社会貢献性の高い不動産で、超高齢化社会のソリューションとして注目されています。

内閣府が発表した「平成22年版 高齢社会白書」によれば、高齢者人口は今後も進み、団塊世代(1947~1949年に生まれた人)が75歳以上となる2025年には3,500万人に達する見込みです。その後も高齢者人口は増え続け、2042年には3,863万人でピークを迎え、その後は減少に転じると推計されています*1

このように、今後は人口の減少が予測され、大都市においても急速な高齢化は避けられない状況です。そのため、ヘルスケア不動産の社会的需要はさらに増加していくと考えられます。

政府は不動産へのESG投資を促進

政府は2019年2月から、不動産投資におけるESG(Environment(環境)Social(社会)Governance(ガバナンス)の組み合わせ)やSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを推進しています*2

日本では高齢者施設や保育所などのニーズは高まる傾向にあり、ヘルスケア不動産は安定的に賃料を得られるため、不動産の価値にもプラスの価値を与える可能性があります。
ただ、有料老人ホームなど高齢者向けのヘルスケア不動産は「超高齢化社会」の問題を解決する不動産といえますが、現時点においてメジャーな投資としては広く認知されておりません。

しかし、クラウドファンディング等を活用して集めた資金を保育所に投資する例もあり、今後はヘルスケア不動産の質や種類が多様化していけば、投資の対象として注目されることが期待できます。

図1

ヘルスケア不動産は地方創生でも注目

ヘルスケア不動産は、少子高齢化社会を支える社会的インフラとしての役割があり、地方創生の観点からも注目されています。

ここでは、地方創生とヘルスケア不動産の関わりについて見ていきましょう。

社会が抱える問題に対するソリューションを提供

現代の日本は「少子高齢化」「介護難民」「地方の過疎化」などさまざまな問題を抱えています。それらの問題に対するソリューションとして着目されているのがヘルスケア不動産です。地方創生のキーポイントである「日本版CCRC構想」を実現するために必要なコミュニティを形成します。

CCRC(Continuing Care Retirement Communityの略)とは、高齢者が健康な時から介護が必要になる時期まで、継続的なケアを受けられるサービスを提供するコミュニティのことで、主にアメリカで広まりました。

政府が推進する「日本版CCRC構想」は、東京圏をはじめとする高齢者が、地方や「まちなか」 に移住して、多世代と交流しながら心身ともに健康的な生活を送り、必要な医療や介護を受けられる街づくりを意味しています*3

図2

中心市街地のヘルスケア不動産のモデル例が下図3です。
商業店舗や地域交流サロンが1階にあり、病院・薬局などの医療施設が2階、保育所など子育て施設が3階に入居しています。

高齢者向けの日本版CCRCとして4階に介護施設、5階には元気な高齢者の住まい、6階には子育てファミリーの住宅と、幅広い層の人が一つ屋根の下で暮らす構造です。

図3

<出典:国土交通省「ヘルスケア不動産に対するESG投資について」P7>

東京圏は特に今後ヘルスケア不動産に対するESG投資について、急速に高齢化が進むことが予測され、医療介護のニーズが急増し、医療介護サービスの確保が大きな課題です。

また、3大都市は地価が高いため、一般的な年金受給者が入居できる介護施設は多いとはいえません。そのため、3大都市における介護難民問題が予測されており、地方都市CCRCへ元気なうちに早めに住み替えるという選択肢が提案されています*4

元気な高齢者が積極的に就労・社会参加することにより、過疎化する地方の活性化も期待されています。

「ご当地ヘルスケアファンド」で資金を循環

ヘルスケア不動産投資は、「不動産投資+ヘルスケア事業投資」の2種類が組み合わされた投資方法で、地方創生に貢献しています。

構造は、ヘルスケア不動産に対して投資家が投資し、医療法人などのオペレーターが一括借上げをして固定賃料を払います。長期賃貸借契約を結ぶので安定的な収益が見込めるのがメリットです。オペレーターは利用者から利用料や医療費、国からは介護・医療保険の報酬を受け取ります。

強みとリスクがお互いに補完されるのが特徴で、例えば郊外にあって不動産の価値が低くても、医療法人などオペレーターの事業価値が高ければ、収益を見込める投資として格付けされます。(下図4)

図4

<出典:国土交通省「ヘルスケア不動産に対するESG投資について」P2>

過疎化に悩む地方の「ご当地ヘルスケア インフラファンドによる資金の循環を分かりやすくまとめたのが以下の図です。(下図5)

ご当地(地方)の金融機関がヘルスケアファンドに投資をし、ヘルスケア不動産はご当地のオペレーターに施設を貸します。オペレーターはヘルスケア不動産に賃料を払い、ご当地の高齢者から医療サービスの報酬を受け取るというサイクルで、資金を循環させています。

図5

<出典:国土交通省「ヘルスケア不動産に対するESG投資について」P7>

ヘルスケア不動産の事例

ヘルスケア不動産は地方創生のキーポイントです。
ここでは、ヘルスケア不動産の事例を2つご紹介します。

北海道・恵庭市:アルファ恵庭駅西口再開発ビル

恵庭市(えにわし)は、札幌市と新千歳空港の中間に位置する道央圏の中核的都市です。駅西口の整備状況が脆弱だったため市街地が空洞化し、空き地や空き店舗等が散在している状況でした*5

そのような中、恵庭市は平成23年版の都市計画マスタープランにおいて「コンパクトなまちづくり」を策定し、開発されたのが「アルファ恵庭駅西口再開発ビル 」です。地域中心で暮らしやすく、かつ高齢化に対応した安全・安心なまちづくりを目指しています。

図6

<出典:一般財団法人 不動産適正取引推進機構「ヘルスケアリートを活用した地方都市の創生について」P8>

ビルの1階には商業テナントと保育園、2階は駐輪場、3階は市政サービスセンター、医療モール、商業テナント、4階から6階は有料老人ホームのイリーゼ恵庭が入居しています。 普段の買い物がしやすく医療サービスも充実している利便性の高い施設です。(下図7)

少子高齢化が進む地域の課題に対応し、ヘルスケア施設と駅を組み合わせたコンパクトな街づくりを実現しています。

図7

<出典:国土交通省 北海道開発局「駅を拠点とした集約型都市構造への転換」P2>

埼玉県鳩山町:はーとんスクエア

鳩山町は埼玉県のほぼ真ん中、岩殿丘陵の南端に位置している自然豊かな町です。
鳩山ニュータウンの開発後、町の人口は急速に増えましたが1995年をピークに減少しています*6

高齢化が進む鳩山町は、児童数の減少により廃校となった旧松栄小学校の敷地を活用し、超高齢化に対応した「はーとんスクエア」を2019年4月に全面的にオープンしました。この施設に福祉・健康・多世代の交流活動を集積させ、子どもから高齢者まで幅広い世代が交流できる施設を実現しています。(下図8)

図8

まとめ

ヘルスケア不動産は、少子高齢化や地方の過疎化など社会が直面している課題のソリューションとなる施設です。社会や環境にも貢献度の高い投資としても投資家から注目され、リーマンショックでもほとんどノーダメージであった安定性の高い収益が魅力です。
これからの少子高齢化社会に対応するため、子どもから高齢者まで全ての人が、効率よく安全に暮らせる街づくりを実現します*7

この記事を書いた人

矢口美加子

ライター・宅地建物取引士・整理収納アドバイザー。宅建・整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を取得済みです。不動産・リフォーム・不動産投資・転職・整理収納関連の記事を複数のメディアで執筆。ライター業の他に、家族が経営する投資用物件の入居者管理もこなしています。