女性活躍を追求する「えるぼし」認定企業 何がすごい?認められる要件は?

女性の個性と能力が十分に発揮できる社会を実現するため、「女性活躍推進法」が平成28年4月から全面施行されました、
また令和元年5月には改正女性活躍推進法が成立し、改正省令等とともに令和4年4月1日から全面施行されています。

これを受け、女性の活躍に関する取組の実施状況が優良な企業については、申請により厚生労働大臣の認定を受けることができるようになりました。
その象徴的なシンボルが「えるぼし」です。

えるぼしは、女性が働きやすい職場としての、一つの指標となりえるものです。
認定を受けることで、優秀な人材の確保が可能になり、企業イメージの向上も期待できるでしょう。

そこで本稿では、「女性活躍推進法」施行の背景やその内容、えるぼしとは何かを解説しながら、リーディングカンパニーの取組事例を紹介します。
今後の企業方針や人材育成を考える上で、ぜひ参考にしてください。

男女間の賃金格差には未だ課題アリ

日本における男女間の賃金格差は縮小傾向にあるものの、他の先進国と比較すると依然としてその差は大きく開いています。

図1:(参考1)日英独仏の男女間賃金格差(O E C D)

最新の男女賃金格差は、日本が22.1%(2021年)、イギリスは14.3%(2021年)、ドイツが12.3%(2020年)、フランスが11.8%(2018年)です。
1974年以降、日本の賃金格差は徐々に改善されているものの、他国と比べると未だ格差が大きいことが分かります。

図2:(参考2)男女間賃金格差の要因

上記の図で分かる通り、男女格差の要因で最も大きいのは、「役職の違い(管理職比率)」、次いで「勤続年数」です。

図3:女性人口に占める女性就業者の割合と管理的職業従事者に占める女性の割合

また、日本女性は他国の女性に比べ最も就業率が高いにもかかわらず、管理職に占める割合は最も低くなっています。

このようなデータを見ると、日本女性の労働環境は、かなり改善の余地がありそうです。

女性活躍推進法改正で「働きやすさ見える化」へ

このような状況を打破すべく、政府は令和4年7月8日に「女性活躍推進法」に関する制度を改正しました。
女性の活躍に関する情報公表項目として「男女の賃金の差異」を追加し、各企業に情報公表を義務付けたのです。

常時雇用する労働者が301人以上の企業は、以下のA~Cの3項目の情報を公表する必要があります。

【女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供】
◆A 1項目選択
(1)採用した労働者に占める女性労働者の割合
(2)男女別の採用における競争倍率
(3)労働者に占める女性労働者の割合
(4)係長級にある者に占める女性労働者の割合
(5)管理職に占める女性労働者の割合
(6)役員に占める女性の割合
(7)男女別の職種または雇用形態の転換実績
(8)男女別の再雇用または中途採用の実績

◆B 必須回答
※新設※(9)男女の賃金 の差異

【職業生活と家庭生活との両立】
◆C 1項目選択(従来通り)
(1)男女の平均継続勤務年数の差異
(2)10事業年度前およびその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合
(3)男女別の育児休業取得率
(4)労働者の一月当たりの平均残業時間
(5)雇用管理区分ごとの労働者の一月当たりの平均残業時間
(6)有給休暇取得率
(7)雇用管理区分ごとの有給休暇取得率

また、常時雇用する労働者が101人以上、300人以下の企業については、A~C併せて16項目の内から必ず1項目を公表することが義務付けられています*1
100人以下の企業についても努力義務が課せられることになりました*2

以前は努力目標だった項目が、大企業を中心に義務化されたことにより、女性が働きやすい環境を整える為の企業取組が可視化されることになったのです。

女性活躍のシンボル「えるぼし」

女性が働きやすい環境づくりを推進するため、政府は様々な対応をしています。
そのうちのひとつが「えるぼし」の認定です。

えるぼしは、これまで「1段階目(1つ星)」「2段階目(2つ星)」「3段階目(3つ星)」の3段階でした。
しかし、今回の女性活躍推進法等の一部改正により、令和2年6月1日からえるぼしの中でも最も水準の高い企業が認定される「プラチナえるぼし」が創設されたのです*3

認定を受けた事業主は、厚生労働大臣が定める認定マークを、商品・広告・名刺・求人票など様々なものに付すことができます。
女性活躍を推進する企業としてPRすることができるため、優秀な人材の確保や、企業イメージの向上に繋がるなどの効果が期待できるでしょう。

その他にも、ランクが高いほど公共調達で加点評価を受けられるなど、有利になる場合があります。
日本政策金融公庫の「働き方改革推進支援資金(企業活力強化貸付)」を通常よりも低金利で利用することも可能です。
このように「えるぼし」認定は、企業にとって様々なメリットがあります*4

ではどうすればえるぼし認定を受けることができるのでしょうか。
認定企業になるためには、まず5つの項目に設定される水準を満たすことが必要です。

【認定に必要な5項目】
◆採用
◆継続就業
◆労働時間等の働き方
◆管理職比率
◆多様なキャリアコース

上記条件を全て満たし、「女性の活躍推進企業データベース」等で毎年公表すると、3つ星認定を受けることができます。 2つ星は5項目中3〜4項目、1つ星は1〜2つを満たせば認定可能です。
段階を上げたい場合は、5項目のうち基準を満たさない項目について、改善内容の公表とともに、2年以上連続で実績が改善している必要があります*5

プラチナえるぼしについては、3つ星に認定された企業のみが申請することができますが、行動計画に定めた目標を達成する等、更なる条件が加わります*6

2022年9月時点で「女性の活躍・両立支援総合サイト(https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/)」のプラチナえるぼし認定企業を検索すると、25件しかヒットしないことからも狭き門であることが窺えます。
プラチナえるぼし認定を受けた企業の価値は、非常に高いものとなるでしょう。

認定方法については下記のとおりです。

【えるぼし認定までの3ステップ】*7
◆ステップ1:一般事業主行動計画の策定・届出
(1)一般事業主行動計画の策定・届出自社の女性の活躍に関する状況の把握、課題分析
(2)一般事業主行動計画の策定、社内周知、外部公表
(3)一般事業主行動計画を策定した旨の届出
◆ステップ2:女性の活躍に関する情報公表
◆ステップ3:えるぼし認定申請

女性活躍推進法改正により、様々な項目において公表が義務化されています。
これを機に、えるぼし認定を受ける企業も増えていくかもしれません。

リーディングカンパニーに学ぶ「選ばれるための創意工夫」

厚生労働省が委託運営している「女性活躍・両立支援に積極的に取り組む企業の事例集」サイト(https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/practice/search)では、優良な取り組みを検索することができます。
本稿ではその中でも特に素晴らしい取り組みを実施している2つの企業をご紹介します。

(1)株式会社千葉銀行(金融業、保険業)2018年度*8
「平成30年度 均等・両立推進企業表彰」、「厚生労働大臣優良賞 ファミリー・フレンドリー企業部門」など、様々な賞を受賞している企業です。
プラチナえるぼし認定以外にも、プラチナくるみん認定、イクメン企業アワード、令和2年なでしこ銘柄、ダイバーシティ経営企業100選など、様々な認定・表彰等を受けています。

主な取り組みは下記のとおりです。

◆育児関連制度
・子が満2歳(特別な事情がある場合は満3歳)に達する月の末日まで育休制度の取得可能
・育児短時間勤務制度は、子が満3歳に達する月の末日まで、小学校1年生の子について、2か月を上限に1か月ごとに分割して利用可能
・配偶者が出産予定の男性職員に「仕事も育児も!!すてきなパパ宣言」(仕事と育児の両立計画、配偶者出産休暇、育児休業の取得予定等の行動宣言)の策定
・育児休業を5日以上取得した場合、祝金5万円(第2子10万円、第3子〜30万円)を支給
・育児休業中の職員を対象とした慣らし勤務「育児のための短日勤務制度」を導入。育児休業中に1日6時間、月12日の範囲内で勤務可能(時給制)
・事業所内保育所を3施設設置。さらに、育児関連費用補助制度により、延長保育、病児保育等の費用について、実費の半額を補助(上限1万円 / 月)

◆介護関連制度
・対象家族1名につき、通算1年間以内の期間で3回まで分割取得可能
・「仕事と介護の両立支援セミナー」を毎年開催

◆その他
・働き方改革の一環で、始業時間を6:30~11:45の間で、15分単位で選択できる時差出勤制度「セレクト勤務」を導入
・出産・育児・介護・忌引き等により急な欠員が生じた場合の助勤要員を大型の営業店に配置する「勤務支援要員制度(お助け隊)」を一部のエリアで導入・拡大予定
・「輝く女性の活躍を加速するちばのリーダーの会」の発足を呼びかけ、業界や地域とのネットワークづくりにも注力

◆取り組みの効果と課題・展望
・以前は出産や育児を理由に離職する女性社員が一定数存在し、男性育児参画も進んでいなかったが、トップダウンによって協力にダイバーシティを推進した
・現在は過去3年間の育児休業取得率は男性が約70%、女性は100%となっている
・2017年より全職員を総合職とし、コースによる職務や昇進の制限を撤廃
・転居を伴う異動の有無のみを違いとして男女問わずさまざまな業務にチャレンジできる仕組みを整えている
・今後は男女問わず、介護との両立が必要になる職員の増加が見込まれることから、更に制度だけでなく意識や環境を整えていく必要性を感じている

(2)株式会社インテリックス (製造業)2020年度*9
「窓辺から暮らしに彩りを」をビジョンとしオーダーカーテンを主軸に、窓装飾インテリア商品の製造・販売を行う企業です。 妊娠や出産を機に退職する女性社員が多く、互いの損失になるという課題から、女性の働きやすさを念頭に環境づくりに取り組んでいます。

主な取り組みは下記のとおりです。

◆育児中の支援
・相談窓口の設置により、不安解消をサポート。月1回以上の面談で様々な不安や課題を吸い上げている
・子育て中の社員の声を受け、育児短時間勤務を子どもが小学校3年生の年度末までに拡大
・有休に加え、育児参加促進を目的とした休暇制度を導入。男性利用も増加している
・社員の希望を吸い上げ育児休業の一部有給化し、出生後8週間以内の5日間を特別休暇とした

◆多様な働き方の提案
・一つの業務を複数社員で担当する「ワークシェアリング」を導入。子育てや介護での欠員でも業務が回る体制を整備した
・全社員を対象とした人事面談により、制度や業務についての改善意見を吸い上げる機会を設けている
・女性の施工職の積極採用により、女性の活躍を推進。顧客満足度も増加した
・正社員への転換制度の導入

◆取り組みの効果と課題・展望
・出産を理由とした退職者が減少し、継続的に勤務する社員が増加したため、採用コストが削減された
・ワークシェアリングにより、有休をとりやすい風土が醸成され、男性の育休取得も進んでいる
・女性管理職は係長以上が41.8%、課長以上で30.8%と高い。活躍する女性社員が身近にいることで社員のモチベーションも向上した
・制度を手厚くすれば社員の満足度は高まるものの、事業運営が難しくなることもあり、収益性とのバランスをとる必要がある
・制度策定で終わりではなく、制度の周知徹底や利用しやすい環境作りに努めていきたい

まとめ

政府は女性活躍推進に力をいれており、えるぼし以外にも「くるみん」や「なでしこ銘柄」など、様々な認定基準を設けています。
認定には基準があり、段階が上がるほど認定要件は厳しくなりますが、採用コストの削減や優秀な人材の確保、勤続年数の増加が見受けられるなど、企業側にも大きなメリットがあるのは事実です。

リーディングカンパニーの取り組み事例などを確認し、今後の人材育成や制度策定の参考にしてみてはいかがでしょうか。 本稿が、その助けになりましたら幸いです。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

この記事を書いた人

FPかぴさん

フリーライター。某大手コスメ紹介サイトから保険ショップへ転職をした美容オタク。特にクリニックの肌治療とネイルにはうるさい。複数のメディアでコラムを執筆する2児の母。FP上位資格のAFP取得済み。

*1:厚生労働省「女性活躍推進法に関する制度改正のお知らせ 女性の活躍に関する「情報公表」が変わります」

*2:厚生労働省「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の情報公表について 1.女性活躍推進法について 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律概要(民間事業主関係部分)2 事業主行動計画等

*3:厚生労働省「女性活躍推進法の改正(令和元年度改正、令和4年度全面施行)女性活躍推進法が施行されています!

*4:厚生労働省「女性活躍推進法に基づくえるぼし認定・プラチナえるぼし認定のご案内 認定のメリット

*5:厚生労働省「女性活躍推進法に基づくえるぼし認定・プラチナえるぼし認定のご案内 えるぼし認定」p4-11

*6:厚生労働省「女性活躍推進法に基づくえるぼし認定・プラチナえるぼし認定のご案内 プラチナえるぼし認定」p12-19

*7:厚生労働省「女性活躍推進法に基づくえるぼし認定・プラチナえるぼし認定のご案内 えるぼし認定、プラチナえるぼし認定までの流れ」p2

*8:厚生労働省「女性の活躍推進や両立支援に積極的に取り組む企業の事例集 2018年度 株式会社千葉銀行(金融業、保険業)

*9:厚生労働省「女性の活躍推進や両立支援に積極的に取り組む企業の事例集 2020年度 株式会社インテリックス (製造業)