本音や潜在意識を掘り起こすために インタビュー・スキルをアップさせよう

顧客のニーズを引き出すために、あるいは社員の本音を引き出すために、インタビューという手段は欠かせません。

しかしインタビューとは、ただ話を聞くだけではありません。そこには鉄則とコツがあります。

悪いインタビューとはどのようなものか、そして良いインタビューをするにはどうすれば良いか、テレビ局の報道記者であった筆者の体験から解説をしていきます。
是非参考にしてください。

インタビューの本質

筆者は現在、テレビ報道の仕事から離れていますが、仕事の内容によっては、時々自らインタビューに出かけることがあります。
最終的に原稿をまとめるのは筆者だから、という理由もありますが、それだけではありません。インタビューには独自のスキルが必要です。

また一般的に、新聞記事(文字)のためのインタビューより、テレビ報道(動画)のインタビューのほうが難しい傾向にあります。
もちろん新聞記事のためのインタビューが簡単ということではありませんが、それはなぜでしょうか。

インタビューとは「潜在意識」を引き出す場所である

まず、インタビューの基本として考えたいのが、「氷山モデル」と言われるものです。ご存じの方は多いことでしょう。

顕在意識というのは氷山のうち、海面の上に見えている小さな部分にすぎません。そして、本当の意識の大半は海面より下に隠れており、隠れている部分のほうがはるかに大きいというものです。

「氷山の一角」という言葉通りです。

そしてインタビューは、氷山のうち、海面の下にある部分に迫るものでなければ意味がありません。アンケートとは違います。

「自分の言葉」を引き出すことの重要性

そして、ここが新聞とテレビとの違いなのですが、新聞記事が文字ベースなので編集しやすいのに対し、テレビのVTRは「本人がまさにその言葉を発している」シーンを捉えなければなりません。

後になって「そういう意味合いで言ったのではない」となっては困ってしまいますから、しっかりと自分が口にしたものであることも確認しなければなりません。

悪いインタビューとはどのようなものか

相手ですら顕在意識では認識していなかったことを相手と共に掘り起こす、これがインタビューの存在意義です。
では、この氷山モデルをイメージした上で、まず悪いインタビューについて考えてみましょう。

ただ質問するだけ

まず、一方的に質問するだけのインタビューです。
これを繰り返すとどうなるか。
最後は相手が「はい」「いいえ」としか答えられなくなってしまいます。これは相手の言葉ではありません。

ただ話を聞くだけ

ただ相手の話を聞いているだけでは、「氷山の一角」の部分しか知ることができません。自分としては「多角的に」話を聞いているつもりになっていても、得られる情報は表面的なものだけなのです。

自分が話すだけ

自分の思っていることを相手に同意してほしい、あるいは場をほぐしたい、と考えすぎるあまり、自分が多くを語ってしまうケースです。適度な雑談は必要ですが、行きすぎると時間の無駄遣いだけではなく、何を聞いたことにもなりません。

あいまいな言葉のやりとりに終始する

お互い本音を話すのはそう簡単なことではありません。そこで気を遣いすぎるあまり、あいまいな言葉のやりとりに終始してしまっては、自分達だけで誤った解釈をしてしまう可能性が大きくなります。誰だって、自分の良いようにものごとを捉えたいからです。それに、情報を得たとは言えません。

良いインタビューに欠かせない要素

では、良いインタビューをするのに欠かせないこととはどのようなものでしょうか。
氷山モデルの海面下に迫るには、以下の心がけが必要です。

シナリオを描かずに対面する

まず「こんなストーリーになるだろう」というものは事前に決めないことです。
自分が思ったような言葉を相手から得られるとは限りません。慣れない人はそこでパニックになってしまうことがあります。

ただ、それは厳然とした事実なのです。よって自分の想定と同じであろうと異なっていようと「なぜ?」を繰り返して掘り下げることの方が重要です。

間を恐れない

自分の質問に対して、相手が答えるまでに時間がかかることもあります。このとき、沈黙を恐れるあまり、自分が何かと喋り続けるのも、実はあまり良いことではありません。

答えを口にするまでの時間、相手は適切な言葉を探しているのです。ですから、相手が考えている時間を邪魔してはいけません。自分の質問について相手が考えてくれるということは、相手自身も気づかなかった言葉に到達する可能性のある大事な時間なのです。

質問の手法を複数持つ

質問には、どうしても相手が「それは難しいですね」と答えてしまうこともあります。
この時、筆者の場合はその話題は一旦傍において、他の質問を進めます。そして、相手がその質問を忘れた頃にまた、流れに乗せて同じことについて違う聞き方をします。

他のルートをたどり、相手に頭の整理をしてもらうのです。聞き方によって答えやすい場合とそうでない場合が相手にもあります。

これができればプロフェッショナル!

ではここで、筆者が日頃行っているインタビューの際、何を考えながら進めているかをご紹介していきます。
慣れるまでは難しいことかもしれませんが、挑戦してみてください。

まず、インタビュー中は頭を2つに分けてものごとを考えています。「相手の話を聞く頭」と「次の質問を考える頭」です。

相手の答えを聞きながら、次の質問を考えているという状態です。この質問についてはじゅうぶんに答えが得られたと思えば次に進み、相手からまだ本音を引き出せていないな、と思った時はのちに違う形で、つまり一周回ってから聞き直しをしなければなりません。
逆もあります。本音に近づいたと思ったら、その場でさらに深い質問に入ることもあります。

また、個人的には、やはり手書きでメモを取りながら進めるのが良いと考えています。筆者の場合は、最初から最後までメモを取ります。
相手の本音が見えたと思ったら、即座にその部分に下線を引いたり、丸や四角で囲ったり星印をつけたりと、今後のやりとりに活かすためです。また、これはもう一度聞き直そうとその場で考えたことについても印をつけられます。

そしてここからはもっと難しくなるかもしれませんが、なるべく相手の顔から目を離さないようにメモを取るようにしています。自分の言ったことをメモされるのは、人によっては気になる場合もあります。せっかく出来上がってきた相手のテンポを壊さない、あるいは空気を維持するためです。

筆者は字を書くのがそこまで早いわけではないので、もちろん後で見返した時に自分の字が読めないこともあります。しかしそれは自宅に戻った直後に、話を覚えているうちに整理しています。記録と記憶、両方を使うのです。

ただ、これは1人では難しくても、2人で話を聞き、質問役とメモ役にまわるという方法があると思います。

また、質問は少しずつ幅を狭めていくようにしています。

「どうですか?」というざっくりした聞き方から始まり、「それはなぜ?」「現状は?」「具体的には?」「ではどうすれば良い?」と絞っていくのです。これも、先に述べたように、相手に考える時間を与える必要があるからです。

ほぼ会話に近い質問場所と捉えることが重要

ご紹介したように、インタビューとは氷山の水面下の部分に迫る作業です。一方的なものではありません。
相手をリラックスさせつつ、インタビューする側には瞬発力が必要な時もあります。

事前にインタビューシートを用意するのは良いことです。しかし、シートにある範囲内でしか質問をするのでは足りませんし、準備通りに進めることにこだわってはいけません。

ただ、基本として言えるのは、インタビューとは単なる「質問に答えてもらう場所」というだけではないということです。「会話」であり、そこには「流れ」があります。

流れにうまく相手を乗せ、相手が自分のペースになれるような配慮を常に忘れないようにしましょう。 漠然と話を聞くだけではなく、実は、瞬発力も必要な作業なのです。

この記事を書いた人

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。