ステルスマーケティング(ステマ)は何が問題? 法規制や諸外国での状況は?

ネット広告の影響力は年々高まっており、インフルエンサーを利用したマーケティングは購買につながりやすいことから、様々な企業が実施しています。

このような状況の中、消費者庁では、日本の現行法で法規制の対象とならないステルスマーケティングについて実態を把握し、景品表示法の適用を拡大するための検討を開始しました。

本記事では、マーケターが知っておくべきステルスマーケティングについて、事例を交えてポイントを解説します。

ステルスマーケティング(ステマ)とは?

広告であることを明確にせず、口コミのように装ってインターネット上で商品やサービスを宣伝するマーケティング手法のことです。

消費者庁では、「広告主(商品・サービスを供給する事業者)による広告宣伝」であって、「消費者に対して広告主が明らかにされないもの」と定義しています*1

ステマの代表的な例として、以下があります*2

  • 有名人が商品・サービスと一緒に取った写真を広告であると明示せずに宣伝すること
  • 商品・サービスについて、広告である旨明示せず、「よかった」や「おすすめ」といった感想の体を取って、SNS等に投稿すること
  • インターネット上の記事に広告である旨明示しないこと
  • 商品・サービスの比較ランキングに広告である旨明示しないこと
  • ECサイト上において、広告である旨明示せず、商品・サービスの使用感等のレビューをすること
  • また実例として、動画共有サービス「TikTok」を運営するTikTok Japanが、Twitterインフルエンサーを利用してステマをしていたのは記憶に新しいところです*3

    同社は、Twitterインフルエンサーの20人にTikTok内で人気動画の転載を依頼し、対価を支払っていましたが、「#PR」のような広告表記はしていませんでした。

    その理由について、「商品やサービスの宣伝をするものではなく、TikTokのコンテンツをより多くの皆さまに知っていただくための活動だったことから、広告表記は不要と認識していた」と説明し、謝罪しました。

    諸外国でステマは違法行為

    ステマの横行は、純粋な口コミと思い込んでいる一般消費者に悪影響を及ぼしかねません。

    日本広告審査機構(JARO)が2021年度に受け付けたインターネット広告に関する苦情は4,779件にのぼります。前年度比で86.4%と減少してはいますが、「インターネット」は2019年度に「テレビ」を抜いて以来、苦情媒体のTOPです*4

    ある広告代理店の関係者は、「インターネット広告は消費者への訴求効果が高い分、法律上のグレーな表現を用いる傾向がより高く、購買をより促すようなステマも行われやすい」と証言しています*5

    このような状況にもかかわらず、現在のところ日本ではステマを直接的に規制する法律は存在しません。しかし、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)等の法令違反に問われる可能性があることに留意する必要があります。

    景品表示法は、商品やサービスの品質・内容・価格などの不当表示を厳しく規制するなど、消費者が自主的・合理的により良い商品・サービスを選択できる環境を守るための法律です*6

    そして、下記の3つを不当表示として禁じています。

    1. 「優良誤認表示」商品やサービスが実際よりも優れていると宣伝する
    2. 「有利誤認表示」取引条件が消費者に有利だと偽る
    3. 「誤認されるおそれのある表示」内閣総理大臣が指定する

    3.では、おとり広告や商品の原産国に関する誤解を招く表示など、6つの分野を定義しています。これに宣伝を装った広告を新たに追加する案があります*7

    OECD加盟国(名目GDP上位9カ国)の中で、ステマに対する規制がないのは日本だけです。アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスなどの諸外国では違法とされていますから、この行為がいかに悪質か想像がつくのではないでしょうか*8

    ステマのリスクを考えてみる

    消費者庁が現役インフルエンサー300人を対象に行った調査によると、41%が「ステマを依頼されたことがある」と回答し、そのうち約45%が「その依頼を受けた」と答えました*9

    「ステマは規制されていないから問題ない」
    「他の広告代理店では受けてもらえた」
    など、短期的な利益を追求するためにステマでの広告を出したいと考える広告主が存在するのです*10

    本当に広告主はステマをするメリットがあるのでしょうか。

    実際、「広告」と明記していないものと明記しているものを比較すると、「広告」と明記していないものの方が一般消費者の目に留まりやすく、売上につながりやすいといいます*11

    しかし、虚偽や成りすまし、必要な情報を適切に表現しないことは、企業間の公正な競争を損なったり、広告全体の信憑性を低下させたりします。

    広告・マーケティング業界の健全な発展のためには、消費者を保護し、コミュニケーションの信頼を損なうような行為を排除することが必要です。

    自社のサービスや商品をより知ってもらいたいという思いが強まるにつれ、「やってはいけないこと」の判断が難しくなることがあるかもしれません。

    そんなときに正しい選択をするために役立つのが、ステマに関する正しい知識です。問題点を正しく知ることで、消費者の信頼を失わないような行動をとりたいものです。

    この記事を書いた人

    Midori

    総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。