終わらない「きのこたけのこ戦争」 争いが熱を帯びる背景には知財保護があった

「きのこの山・たけのこの里 国民総選挙2018」の選挙ポスター

「きのこたけのこ戦争」
こう聞くと、大抵の人は「きのこの山」と「たけのこの里」どちらが好きか?という争いを思い浮かべることでしょう。

みなさんはどちら派でしょうか。

発売から40年以上経ってもそのブランド力で国民的お菓子の座を守り抜き、多くのファンがそれぞれへの愛を叫ぶ「きのこの山」「たけのこの里」。

論争を巻き起こすほど愛され続ける背景にあったのは知財保護です。

「きのこの山」「たけのこの里」誕生の経緯

「きのこの山」は1975年に、「たけのこの里」は1979年にそれぞれ発売されました。

「きのこの山」は、60年代から販売されていたチョコレート菓子「アポロ」製造ラインを活用して、「アポロ」にクラッカーをつけてみるというアイデアから始まっています。

そして高度経済成長の反面で自然や故郷を人々が求めるようになった時代背景に照らし、横文字のネーミングではなく、のどかな里山をイメージした名称・パッケージが誕生しました。

当時はチョコレート菓子というと板チョコレートなどシンプルな形のものが主流でしたから、実際に「きのこ」や「たけのこ」を立体的に再現したデザインもまた斬新だったことでしょう。

「きのこの山」「たけのこの里」初代パッケージ(上段)と2008年からのパッケージ(下段)

そして、名前通りの見た目であることの覚えやすさもあいまって、大ヒットとなったのです。

生地にクラッカーとクッキーをそれぞれ使い全く違う食感であることから、「きのこたけのこ戦争」が勃発し、今でもSNSなどで激しく繰り広げられています。非常に平和な戦争です。

売り手である明治もこの論争に乗り、様々なキャンペーンを展開しています。
2019年にはついに「きのこの山・たけのこの里 国民総選挙」を開催しました。ネット上だけでなく、渋谷に実際の投票所も設けてのキャンペーンです*1

翌2020年には、「きのこの山 たけのこの里 国民大調査」を実施し、どの都道府県でどちらが人気か?などの統計を公表しています。

「きのこの山」「たけのこの里」都道府県ごとの統計

このような仕掛けがさらに両者のファンの愛を強め、「きのこたけのこ戦争」は終わりなき争いになっているのです。

PR力を高めるブランド維持の新たな手法

ただ、上記のような仕掛けは「極度の飛び道具」というわけではない、と思われることもあるでしょう。

実は「きのこの山」「たけのこの里」の強みは、他のところにもあります。

2018年、「きのこの山」は立体商標として登録されました。実は2015年にも出願をしていましたが、識別力が不十分で登録には至っていません。しかし2017年の出願では、東京と大阪で行ったアンケートで約90%の認知度を得られたことなどから立体商標登録に至っています*2

次いで2021年には、「たけのこの里」の立体商標登録に成功しています。2019年の段階では、特許庁は「タケノコを模した円すい形は野菜の形でしかない」として申請を認めませんでした。しかし明治は再び市場調査の結果を実施し、高い認知度をアピールして商標登録にこぎつけたのです*3

「きのこの山」立体商標の一部と登録出願の「たけのこの里」の形状の一部(2018年)

知的財産の保護で模造品を徹底的に排したこともまた、「他にはない商品」としての地位を守る要素になっています。ブランドの力を守り抜く手法といえます。

ライバル登場で、ゆかりの恋の行方は?

また、名前を聞くだけで多くの人が連想する商品として「ゆかり®️」があります。これもまた商標登録によって守られているブランドです。

「ゆかり®︎」パッケージ

赤しそ風味のふりかけ「ゆかり®︎」は1970年に発売されて以降、幅広い年齢層で人気を誇る商品ですが、ここにもまた商標登録の力があったといえます。

「ゆかり®︎」命名の由来はこのようなものです。

現在、人の名前で『紫子』と書いて「ゆかりこ」と読む方もおられます。
三島食品株式会社では、赤しその名前を考えたとき、商品の色が紫色であることと、皆様との「ご縁」を大切にしたいとの思いから、「ゆかり」と命名しました。

<引用:三島食品「名前の由来」>

ただ、「ゆかり」の名称は商品発売の10年前に他の食品会社によって商標登録されていました。しかし三島食品はこのネーミングを諦めず、しばらくはこの食品会社と契約を結んで使用を続け、数年の交渉を経て1999年にようやく商標の譲渡を受けることになります*4

ネーミングにこだわったのには、このような理由がありました。

「ゆかりが有名になると、“おかか”のような一般名称になるリスクがあります。赤しそや梅干しの生産者が知らずに使うケースもあり、『ゆかり』が当社の商標であり、当社の求める品質が担保されていることを伝えていかねばなりません」

かなり先回りした発想といえるでしょう。

そしてSNSで話題になったのが、青しそ味の「かおり®︎」、たらこ味の「あかり®︎」の登場です。

「かおり®︎」「あかり®︎」のパッケージ

<出所:三島食品「商品ラインナップ」>

「ゆかり」「かおり」「あかり」。いずれも女性の名前を連想させることから、SNS上では「ゆかりにライバル登場!?」として話題になりました。

それだけでなく、カリカリ梅を使用した「うめこ®️」、そして今度は男性の名前を連想させる「かつお」も市場に投入され、SNS上では恋物語に花が咲いています。
商品名を消費者が勝手にストーリー仕立てにするというのは、商品やブランドに対する愛着の証左ともいえるでしょう。

なお、「ゆかり®︎」を使用したおにぎりや惣菜も多く、スーパーやコンビニとのライセンス契約も増えています。ビジネスの幅を着実に広げているのです。

クリエイティビティを無駄にしないために

BtoCに限らずBtoB企業でも、商品・製品の開発やネーミングに独自性を持たせるのは容易な作業ではありませんし、ネーミングにかなり頭をひねる人が多いことでしょう。
他との差別化をはかりたい、どの企業もそう考えています。

しかし今や、模造品を作ることが簡単になってしまっている時代でもあります。

せっかくの「産みの苦しみ」を無駄にしないために、成果物やブランドにより強い力を持たせる手法を考えることが必要な時期にきているのです。

ところで、「きのこたけのこ戦争」はどちらが優勢かご存じでしょうか?

2021年に朝日新聞のメディアで紹介された記事によると、

「数字は言えませんが、断然『たけのこ』です」

とのことです*5

しかし、明治の担当者によると、

「我が社のチーム内では、ファンの愛の深さは『きのこ』が上ではないかと話しています。『きのこ』を食べる人は、もうずっと『きのこ』を食べますから。ちなみに、チョコの量も『きのこ』のほうが多いです」*6

とのことです。

筆者は子供の頃は「たけのこの里」が好きでしたが、大人になってからは「きのこの山」かなあと思っています

この記事を書いた人

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。