売上・利益ともに2ケタ成長を達成 レゴの躍進を支えるファンコミュニティとは

今年創業90周年を迎えるデンマークのレゴ社は、1932年に大工だったオーレ・カーク・クリスチャンセンによって創業されたファミリービジネスです*1

社名は、デンマーク語で「よく遊ぶ」を意味する「leg godt」を組み合わせたもので、会社の理想でもあります。

最近、業績の話題になるとレゴ社の名前が出てきます。なぜ、組み立て式ブロック玩具だけで、世界最大の玩具メーカーに成長できたのでしょうか。その秘密を見ていきましょう。

世界で最も価値ある玩具ブランド

レゴ社の2021年次報告書によると、同社は2020年のパンデミックを乗り越え、売上・利益ともに2ケタ成長を達成し、業績を大きく伸ばしています*2

また、世界最大級の独立系ブランド価値評価機関であるブランドファイナンス社は、2022年に60億米ドルを超えるブランド価値を持つ、まぎれもない世界一の玩具ブランドとしてレゴ社を選定しています*3

過去数年にわたり、レゴ社はブランド価値で他社を凌駕し、玩具業界のリーダーであり続けています。ちなみに、この年の2位は日本のバンダイナムコで、その価値は約17億米ドルと、首位とは歴然とした差があるのがわかるでしょう。

『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』の著者である蛯谷敏氏は、レゴ独自のブランド力の理由として、次の4つの強みを挙げています。

  1. 自分の強みを理解すること
  2. 継続的に成果をアウトプットする仕組みをつくること
  3. コミュニティを育み、つながりを強化すること
  4. 存在意義を明確に発信すること

今回は、レゴ社の強みのうち、3「コミュニティを育み、つながりを強化すること」に焦点を当てます。

子どもだけなく大人も夢中

レゴのファンが集まる場所は、世界中に無数にあります。ファンといっても、子どもたちだけではありません。

有名なのがAFOL(adult fan of LEGO)です。「大人のレゴファン」という意味を持つこのコミュニティは、主にオンラインでの活動を通じて発展してきました。

レゴサイトのインタビューによると、あるAFOLは、レゴパーツの売買サイト「Bricklink」を立ち上げたり、大人のビルダーやレゴファンのためのサイト「The Brothers Brick」に寄稿したりしています*4

その他にも、毎年シアトルで開催されるレゴファンの作品展「BrickCon」のボランティアコーディネーターを務めるなど、幅広い活動を行っています。

また、大人のレゴファンでも、世界中にあるLUG(LEGO User Group)中から好きなグループを選んで参加できます*5

このコミュニティでは、世界中のレゴファンが集まり、オンラインやオフラインミーティングを通じて、作品の展示、交流、セットのトレードや貸し借り、組み立てのヒントや商品情報の共有などが楽しめます。

海外では、AFOLによる『LEGO MASTERS』というテレビ番組も放映されています*6

これは、大人2人1組のチームが他のチームとレゴブロックの課題を競い、才能あるアマチュアレゴビルダーとして、賞金やレゴトロフィー、そして「レゴマスターズ」のグランドタイトル獲得を目指すという番組です。

筆者も視聴していますが、白熱した競技が繰り広げられ、AFOLのレゴに対する情熱が画面を通して伝わってきます。出演者は素人ながら高度なテクニックを披露しており、レゴのすごさを再認識させてくれる、ファンならずとも必見のショーです。

ファンの知恵からヒットを開拓

レゴのオンラインコミュニティには、レゴのアイデアを集めて商品化する、レゴファンにとっては夢のようなプロジェクト「LEGO IDEAS」もあります*7

ユーザーがコミュニティサイトにアイデアを投稿し、そのアイデアがレゴファンに支持されると、レゴ社が商品化を検討します。商品化された場合、そのプロジェクトはパッケージ化されたレゴセットとして販売されるのです。

ユーザーのオリジナルな発想による作品も多く、セット自体のボリューム感や凝った作りは、大人でも十分に楽しめる魅力があります。

一般から商品アイデアを募集し、支持者が集まれば商品化するというこの仕組みは、レゴジャパンが始めた『レゴ空想』からヒントが得られました*8

「私たちが思っている以上に、ユーザーは刺激的なアイデアを持っています」と、長谷川社長は述べています。

海洋学が趣味のフリーデザイナーが応募したのは、日本の潜水調査船「しんかい6500」です。この作品は大反響を呼び、多くの大人たちから支持されました。『レゴ空想』初の商品化が決定し、限定1万個が予約完売となる伝説を作っています。

この快挙を見たレゴ本社は『レゴ空想』を『LEGO IDEAS』に改称し、世界展開しました。世界中のユーザーから寄せられたユニークなアイデアは、次々と商品化されていったのです。

これらがレゴ社の業績を押し上げたと想像することを否定できるでしょうか。

ファンコミュニティがあたり前の時代に?

今日の成熟した市場では、商品やサービスが飽和状態にあり、消費傾向も「モノ」から「コト」へと移行しています。

性能や品質といった機能的な価値だけで競合と差別化するのは容易ではなく、商品のストーリーや商品への愛着といった情緒的な価値に訴求する戦略が必要になっているのではないでしょうか。

そこで注目したいのが、レゴ社のようなファンコミュニティを活用した「ファンマーケティング」です。電通デジタルの佐々木氏は、この手法を次のように説明しています。

ファンマーケティングとは、ブランドや商品、サービスのファンに着目し、彼/彼女らと 密接にコミュニケーションをとることで、「中長期的な売り上げの増大」や「ブランドや そのカルチャーの共創」を図るマーケティング方法、またはその概念です。

(中略)

ファンマーケティングは、ファンの「愛」を共振・増幅させ、共感を育み、ブランドとの 関係を継続させる、ブランドコミュニケーションの一種ということもできます。

ファンコミュニティはわかりやすい形態です。コミュニティの共通の目的は、「ブランドをもっと楽しみたい」「好きだからもっと良くしてほしい」というユーザーの思いだからです。

まさにコミュニティーのような場で「ユーザーの声を聴く」という姿勢が、ブランディング全体として有効になってきているのではないでしょうか。

いまやほとんどすべてのブランドがウェブサイトを持っているのと同じように、あらゆるブランドが、何らかのコミュニティを持つ未来が来るかもしれません。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。