ウェアラブル機器によるヘルスケア、ICTを活用した遠隔医療など、医療分野にもデジタル技術が利用されつつあります。
それだけではありません。
さらに進んだ多くの医療デジタル技術が開発段階にあり、GAFAM等も参入しています。
同時に、投資家の注目の的にもなっています。
では、DXが進んだ将来の医療はどうなるのでしょうか。
いま注目されている技術の一部を、経済産業省の資料などをもとにみていきましょう。
デジタルヘルスケアの市場動向
ヘルスケアに関する世界の投資家の注目度は高くなっています。
例えばアメリカでは、心疾患、がん、脳卒中のみならず、肥満や糖尿病などが年々増加する傾向にあり、医療費削減などを目的としたデジタルヘルスへの期待が非常に高まっています。
アメリカでは2018年、投資家は110億ドル以上をデジタルヘルスケアの新興企業に投資している他*1、その後もデジタルヘルスケア企業による資金調達は活発になっています。
特にCOVID-19の影響も相まって2021年には金額、件数ともに大幅な伸びを示しています(図1)。
なお、デジタルヘルス企業への投資額は、治療・創薬という従来の本流ではなく、遠隔医療、データ分析、アプリなどの分野で増加しています(図2)。
かつ、デジタルヘルスケア分野のスタートアップにはGoogle、Microsoft、Tencent(中国)などが活発に投資しているほか、Appleは自社内で関連技術を開発し自ら参入しています*2。
いま、世界のヘルスケア業界で何が起きているのでしょうか。
デジタルヘルスケアの潮流
医療技術の開発の大きな流れは、このように変化しています(図3)。
デジタルヘルスケアが目指すものは「治療から予防へ、画一から個別化・層別化へ」です。そのためのデータ活用をどこまでできるかが重要といえます。
デジタルヘルスケアは上記のように、大きくは「予防・検査・診断」部門と「治療」部門に分けられます。
ではそれぞれの領域について、現在注目されている最新技術はどうなっているのか、見ていきましょう。
予防・検査・診断分野の最前線
まず、予防・検査・診断部門でのデジタルヘルスケア技術をいくつかご紹介します。
AIによる画像診断・発症予防
ひとつは、内視鏡の画像から腫瘍の存在をAIで診断し、治療効果の判定まで行うというものです(図4)。
このシステムでは、分析の速さが特徴です。大腸の内視鏡検査で、2,000以上の病変の約5,000枚の画像を利用しこのシステムを稼働した実験によると、AIシステムは各フレームまたは画像を徹底的に分析し、0.03秒以内に結果を検出して表示しています*3。
また、ビッグデータ活用による発症リスク予測モデルも確立されています。弘前大学は10年以上前からヘルスケアに関するデータの収集を始め、現在600項目、のべ2万人の健康ビッグデータからなる「弘前大学COI」を構築しています*4。
このビッグデータとAIを利用し、糖尿病や認知症など約20の疾患について3年以内の発症リスクを予測できるモデルが確立されました*5。
「リキッドバイオプシー」による予防・診断
また、もうひとつ注目されているのが「リキッドバイオプシー」と呼ばれる技術です。
血液をはじめ、尿、唾液、髄液などの液体サンプルでがんなどの検査・診断を行うというもので、日本では国立がんセンターなどで研究が進んでいます。
マイクロチップなど解析機器とプログラムの需要があり、世界的に実用も進みつつあります(図5)。
こちらも、検査結果が迅速に返却されるのが特徴です。また、検査や診断のコストダウンが見込めます。
治療分野のデジタル化
そして、実際の治療現場でもDXが進みつつあります。いくつか事例を挙げてみます。
手術支援ロボット
手術支援ロボット=内視鏡手術支援ロボットは手ブレのない精密な動きにより、患者の体力負担を減らすことができるものです。
こちらも、ロボットに搭載されたセンサー情報、内視鏡および手術室の映像を収集、解析することでリアルタイムでのAI解析、シミュレーションも可能になっています(図6)。
これにより、手術のモニタリング、トレーニングにもデータを活用することができます。
放射線治療計画を短時間で作成
また、AIによる放射線治療の効率化も始まっています*6。
放射線治療は、腫瘍の状態や臓器の位置に応じてその都度照射計画を立てなければならないという複雑さがありました。
これをAI解析に任せることによって適切な放射線照射計画を迅速に作成し、治療を行うというものです。
正常な部位にまで及ぶ放射線量を減らし、患者の体への負担を減らすことが可能になります。
日本企業の強みはどこにあるか
最後に、医療機器・ヘルスケア関連市場の日系企業の競争力を見てみましょう(図7)。
内視鏡では世界を大きくリードしていることがわかります。
この強みにビッグデータ、AIを重ね合わせていくことで、日系企業はさらに強みを増していくことでしょう。
なお、Appleは、2014年にiPhoneにHealth Records機能を搭載したことが医療分野への進出の第一歩です。
その後Apple Watchによる歩数・歩行距離、心拍数、睡眠データなどを計測できるようにした他、2020年にはApple Watch Series 6では、「Blood Oxygen Wellness(血中酸素ウェルネス)」の測定を可能にしています。
その上で米Biogenと共同で、認知症や神経疾患の潜在的な症状を有する人の認知機能低下の監視に、Apple WatchとiPhoneをどのように役立てるかの調査・研究を開始しました。
ウェアラブルデバイスという自社の強みから着実に医療分野に進出しています*7。
もとからある強みの上に、どこまで新しさを積み上げていけるか。
この分野では、このような競争が生み出す新しいサービス・仕組みにも注目をし続ける必要がありそうです。
*1:「医療機器・ヘルスケア開発 注目すべき研究開発動向」経済産業省資料 p2、p16、p4
*2:「医療機器・ヘルスケア開発 注目すべき研究開発動向」経済産業省資料 p2、p16、p4
*3:「Development of a real-time endoscopic image diagnosis support system using deep learning technology in colonoscopy」Nature
*4:「ビッグデータがつくる治療から予防へのヘルスリテラシー」ダイヤモンドオンライン
*5:「医療機器・ヘルスケア開発 注目すべき研究開発動向」経済産業省資料 p2、p16、p4
*6:「バリアン最新の適応放射線治療ソリューション ETHOS が薬事承認を取得」Varian Medical Systems
*7:「医療機器・ヘルスケア開発 注目すべき研究開発動向」経済産業省資料 p2、p16、p4