「顧客体験価値ランキング」トップの丸亀製麺から学ぶ お客様に選ばれるマーケティング戦略

丸亀製麺は、顧客体験価値に関するランキングにおいて輝かしい結果を残しました*1

その秘訣は、パーパス(企業の存在意義・志)と融合したマーケティング戦略と、「共創」をテーマとしたさまざまな取り組みにあります。

成果を最大化するために「パーパス」をどのように活用したのか、また、丸亀製麺が重視する「共創」とはどのようなものなのでしょうか。

「顧客体験価値ランキング2022」トップは丸亀製麺

インターブランドジャパングループのCSpaceTokyoが発表した「顧客体験価値ランキング2022」において、丸亀製麺が昨年の16位から大きく躍進し、1位を獲得しました*2

丸亀製麵のどのような部分が、顧客体験価値として評価されたのでしょうか。

CSpaceによると、顧客体験価値には、
「私向けのものだと思える」
「私にとって意味がある」
「オープンで、正直である」
「私の立場で考えてくれる」
「いい気分にさせてくれる」
という、5つの情緒的な要素が重要とされています*3

<出典:C SpaceTokyo「顧客体験価値(CX)ランキングTM 2022」 p1「顧客体験価値」によるランキングTop50を発表 株式会社インターブランドジャパン>

丸亀製麺の顧客体験価値を分析した結果、5つの要素それぞれで業界平均を上回っていることがわかりました。

特に、「私の⽴場で考えてくれる」という要素が、業界平均や前年⽐較からもスコア向上に大きく寄与しています。

丸亀製麺の「体験価値の5要素」

<出典:C SpaceTokyo「顧客体験価値(CX)ランキングTM 2022」 p4「顧客体験価値」によるランキングTop50を発表 株式会社インターブランドジャパン>

これは、コロナ禍で人間関係が希薄になった中で、「私の⽴場で考えてくれる」という顧客体験価値によって、お客様との関係性が強化されたことを示しています。

丸亀製麺のお客様からは以下のようなコメントがあがっています。

・⾃家製麺で常に打っているので腰、のど越しを求める私たちにとって、よく理解して提供してくれている(60 代男性、現ユーザー)

・期間限定メニューの再発売など、利⽤者の意⾒を採⽤した企画を数多くおこなっているから”(20 代男性、現ユーザー)

・客が求める味があり、キッチンも公にしている (50 代⼥性、現ユーザー)

・最⾼の状態で提供することにこだわっているように思えるから(40 代⼥性、現ユーザー)

・その時のご時世にあった販売⽅法にとりくんでいる(30 代⼥性、現ユーザー)

<出典:C SpaceTokyo「顧客体験価値(CX)ランキングTM 2022」 p4「顧客体験価値」によるランキングTop50を発表 株式会社インターブランドジャパン>

特徴としては、自由回答でネガティブなコメントが少なかったことです。同時に、機能的な価値だけでなく、情緒的な価値に関連するコメントも多く挙がりました。

日々変化するお客様の気持ちやライフスタイルに寄り添いながら、新たな挑戦を続けるブランドとして高く評価されていることがわかります。

パーパスを起点とするブランディング

丸亀製麺の取締役マーケティング本部長である南雲氏は、顧客体験価値ランキングで1位を獲得したのは、「全社的なブランディングの転換」によるものではないかと述べています*4

丸亀製麺は、「ここのうどんは、生きている。」をキャッチフレーズとし、全店で粉から打ち立てのうどんを提供するPOD(Point of difference)を起点にブランド力の向上に取り組んできました。

コロナ禍を機に、店舗外でもお客様の情緒的な価値をより高めていくために、従来のブランディングに加えて、食の感動体験を起点とした共感を集めるための施策を実行しました。

PODの上に、パーパスを起点とするブランディングの多層構造化を図ったのです。

ブランドパーパスは、「『手づくりできたてのおいしさ』から生まれる“食の感動体験”で、世の中を“笑顔”でいっぱいに」という思いを持って歩みつづけるブランドでありたい、としており、「顧客体験No.1」を掲げています*5

丸亀製麵のブランディングの多層構造

ブランディングの中心にあるのが「うどんで日本をげんきにプロジェクト」です*6。うどんを食す笑顔を通して、日本を元気にするという想いが込められています。

「うどんで~」の取り組みの一環である共創プロジェクト「丸亀製麺×株式会社TOKIO×こども わくわく食育プロジェクト」

ファンコミュニティの形成、YouTubeドラマの制作、うどん総選挙、オーディション企画など、ファン参加型の企画を多数実施しました。

また、株式会社TOKIOと共同で、共創をテーマにした新商品の開発、食育プロジェクト、全国を巡るキッチンカーの運行なども行っています。

地道な活動ではありますが、お客様の情緒的価値を高め、共感や好感が高まった状態を可能な限り作り出して維持することは、結果的にビジネスに良い影響を与えるのではないでしょうか。

高品質な商品が増え、機能だけでは差別化が難しくなっています。情緒的な価値が重視されるようになった今、有効な施策のひとつといえるかもしれません。

パーパスドリブンなマーケティング戦略

前節から、丸亀製麺のマーケティング戦略のキーワードのひとつが、「パーパスドリブン」であるのがわかります。

パーパスドリブンとは、企業が社会におけるパーパスを明確にし、それに基づいた経営方針、事業戦略を実行することです。

つまり、丸亀製麵らしさをわかりやすく世の中に発信することで、売上を伸ばすのです。

実際、2022年3月期決算の売上収益は非常に好調に推移しています*7

「お客様に選ばれ続けるブランド」を目指す丸亀製麵の南雲氏は、マーケティング戦略の進め方について、次のようにアドバイスしています*8

「2020年より顧客体験価値No.1を会社のビジョンに掲げ、マーケティング・商品開発・DX・人事などすべての部門での戦略をビジョン実現につながるよう設計し、実行しました。

顧客体験価値の向上は多くの企業にとって重要なミッションであり、同時に、マーケティング部門の最も重要な役割だと捉えています。

まずはマーケティング部門の最重要課題と認識し、実現に向けた絵を描き、全社を巻き込んでいく。大前提として、マーケティング部門だけでは達成できません」

重要なのは、パーパスと一体化した事業戦略を立案すると同時に、それを社内の全部門に理解できるように伝えることです。

事業戦略を言語化することで、各部門の足並みがそろい、推進力とスピードが上がります。

丸亀製麺が「顧客体験価値ランキング2022」で1位を獲得できたのは、「食の感動体験」という価値を高めるために、パーパスを起点に社内のあらゆる部門が一体となって取り組んだ結果だと言えるでしょう。

南雲氏によると、顧客体験価値の向上は全社的な課題であり、マーケティング部門の最重要課題だと言います。

また、顧客体験価値を高めるためには、まずマーケターが「自分ごと」として認識し、全社をリードする意識を持つことが必要とも語っています。

今までの理論が通用しない時代になってきています。今後、マーケティングの力がより一層必要とされる時代になっていくと思われます。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。