今注目のリテールメディア 市場規模は?日本での事例は何がある?

2021年1月、米国ウォルマートは広告プラットフォーム事業「Wallmart Connect」を開始しました*1

想定している目標は、「5年以内に全米トップ10の広告プラットフォームを目指す」ことです。

世界最大の小売企業が、巨大なメディア企業へ大化けしようとしているのです。

このような小売業発の「リテールメディア」という新しいビジネスモデルが、日本でも本格的に動き始めています。

米国ではすでに巨大な市場となっていますが、日本国内市場の現状はどうなのでしょうか。

大注目のリテールメディア、2026年には805億円の市場規模に

リテールメディアとは、小売(リテール)企業が独自に収集・保有する顧客の購買・行動データなど、「ファーストパーティデータ」を利用して広告を配信する広告媒体です*2

小売店内に設置されたデジタルサイネージで配信される広告や、小売店が運営する各種オンラインメディア広告(アプリやECサイトといったオウンドメディアの商品告知広告、クーポン、メールマガジンなど)は、多くの方がご存じかと思います。

これらは、店頭でのメーカー商品の拡販を目的とした、チラシやPOPなどの従来の販促ツールをデジタル化したものと言えるでしょう。

小売業のDX化が進み顧客データを一元管理できるようになると、小売企業は本業に次ぐ新たな広告収益を得るために、デジタル広告商品を活用するようになってきました。

小売店経由で商品を販売するメーカーを中心とした広告主にとって、小売店の顧客に効果的にリーチできるデジタル広告商品のニーズは高まる一方だからです。

株式会社CARTA HOLDINGSの調査によると、国内リテールメディア広告市場は、2022年の135億円から2026年には6倍の805億円に拡大すると予測されています*3

リテールメディアが注目される理由 クッキーレスが後押し

リテールメディアが注目される理由は、近年の個人情報保護を目的とした「サードパーティクッキー」規制の動きが後押しのひとつとなっています*4

欧州のGDPR(一般データ保護規則)や米国のCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などの規制により、日本でも個人情報保護が進んでいます。

令和2年改正の個人情報保護法では、クッキー情報の使い方に応じて、本人の同意が必要となりました*5

「クッキー」とは、ウェブサイトを訪問したユーザーの情報を一時的に保存する仕組みで、ウェブサイトに残された「足跡」とも呼ばれます。

サードパーティークッキーとは、「ユーザーが訪問しているウェブサイトとは異なるドメインから発行されるクッキー」のことです。

サードパーティークッキーが規制されれば、一度サイトを訪れたユーザーに対して繰り返し広告を配信する「リターゲティング広告」が制限を受けることになります。

リターゲティング広告は他の広告と比較して「購買につながりやすい」とされ、これが規制されるとメーカーをはじめとした広告主にとっては大きなダメージとなります*6

また、サードパーティークッキーが廃止されると、広告を見た消費者が購買に至るまでの行動も計測不能になります。広告の効果が検証できなくなるという問題も出てくるでしょう。

実店舗で収集され、ユーザーから許諾を得た小売業者が保有するファーストパーティデータの可能性にメーカーが注目するのは当然のことと言えます。

購買履歴や行動履歴に基づくターゲティングなど、費用対効果の高い広告・販促施策が実施できます。また、各種施策の効果を高い精度で検証することも可能です。

広告主の立場からすると、小売企業が保有するファーストパーティデータの魅力は計り知れないものがあります。

1日約1500万人の顧客接点を活用したリテールメディア

リテールメディアは大きく2つに分けられます。

ひとつは、アマゾンや楽天グループに代表される「EC系リテールメディア」、もうひとつは「実店舗系リテールメディア」です*7

例えばファミリーマートは、実店舗系リテールメディアの代表格です。

ファミリーマートは、デジタルサイネージを店舗に取りつけ、広告面として活用することで「店舗のメディア化」に取り組んでいます*8

全国3,000店舗にデジタルサイネージ「FamilyMartVision」の設置を完了し、商品・サービスの広告やエンターテイメント情報などの映像コンテンツを配信しています。

店舗のメディア化の最大のメリットは、買い物中のお客さまに直接アプローチできることです。

全国で約1万6600店舗を有するファミリーマートでは、1日あたり約1500万人が来店しています。

訴求効果は大きく、サイネージを設置した店舗で販売する商品の売上は、サイネージを設置していない店舗に比べて大きく伸びるというデータも出ています。

さらに、屋外広告として商業施設に設置されたデジタルサイネージと組み合わせた広告のクロスメディア配信(同一コンテンツの複数媒体での配信)により、店頭での購入率が平均40%上昇しました*9

単一媒体での複数回の接触よりも、クロスメディアでの複数回の広告接触が店頭購買を促進することが実証されたのです。

<出典:生活動線上接触による世の中ゴト効果で購買率向上|株式会社ゲート・ワンのプレスリリース>

リテールメディアは三方良しのビジネスモデル

リテールメディアが注目される理由のひとつとして、すべてのステークホルダー(企業の利害関係者)にとってプラスになりやすい、「三方良し」のビジネス構造であることも最後に挙げておきます*10

リテールメディアは、広告主であるメーカーや小売企業などの企業主体だけでなく、消費者にもメリットがあるのです。

以下に、リテールメディアに関わる対象者ごとのメリットを整理します。

 01| リテール企業

  • 自社で保有する顧客IDや、ID-POSなどのオフラインデータを有効活用できる
  • 成果の高い共同販促モデルを構築することで、メーカーの協賛を拡大し、売上を向上できる

 02| メーカー

  • リテール企業の購買データ・行動データを活用することでターゲティング精度を向上できる
  • リテール企業との共同販促の効果検証の精度が高まり、PDCAサイクルが回せる

 03| 消費者

  • 正確なターゲティングにより、オンラインとオフラインをまたいでより自分に合ったお得な情報が受けられる
  • 適切なレコメンドなどの情報提供により、満足度が高まる

リテールメディアの需給バランスが整えば、必然的に消費者は自分に関連性の高い商品リストに接する機会が増えます。

また、小売企業は、不適切な広告によって自社の購買率が低下することを防ぐため、消費者を不快にさせる広告配信をしなくなるでしょう。

このように、リテールメディアは、消費者の購買意欲を損なうような広告を目にすることが少なくなり、消費者にとってもより使い勝手の良いメディアとなることが期待されます。

今後は、リテールメディアの進化と共に、ブランドやユーザーにどれだけのメリットを提供できるのかにも注目していきましょう。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。

*1:小売り最強・ウォルマート、いつのまにか「巨大なメディア企業」に“大変身”していた…!(田中 道昭) | マネー現代 | 講談社

*2:海外では既に本格化!リテールメディアを筆頭とする1stパーティデータ活用の可能性 (1/3):MarkeZine(マーケジン)

*3:CARTA HOLDINGS、リテールメディア広告市場調査を実施 ~リテールメディア広告市場は2022年に135億円、2026年には805億円と予測~ | 株式会社CARTA HOLDINGS

*4:「リテールメディア」とは~注目される理由と注目事例、メリットと実現方法を徹底解説!|TOPPAN DIGITAL

*5:Cookie規制って結局、何が変わるの? 2022年の改正個人情報保護法、注目すべきポイントを解説:徹底解説!Cookie規制と法改正 - ITmedia ビジネスオンライン

*6:リタゲ広告に壊滅危機 広告会社が生き残りかける3つの方向性:日経クロストレンド

*7:セブンもイオンも参入 広告新市場「リテールメディア」の衝撃:日経クロストレンド

*8:ファミリーマート店舗に設置する店内のデジタルサイネージが 3,000店に設置完了 ~地域別配信など、可能性が益々広がる新たなメディア事業~ | FamilyMartVision

*9:生活動線上接触による世の中ゴト効果で購買率向上|株式会社ゲート・ワンのプレスリリース

*10:「リテールメディア」とは~注目される理由と注目事例、メリットと実現方法を徹底解説!|TOPPAN DIGITAL