星野リゾートのDX事例に学ぶ 全社員IT人材化と「ノーコードツール」活用で何が変わる?

「全社員IT人材化」が注目されています。

これは、全社員にDX(デジタルトランスフォーメーション)のエッセンスを教え、ローコード/ノーコードツールなどの使い方を習得してもらい、現場でのアプリケーション開発に生かそうという取り組みです。

今回は、実際にノーコードツールがIT人材不足を解消し、現場スタッフの積極的な施策推進により成果を上げた事例を紹介しましょう。

DX推進に向けた課題とは

まず、日本の全企業の99.7%を占める中小企業におけるDXの普及状況について見てみましょう。

DXを理解している企業は約4割に過ぎず、そのうち約8割は事業活動を進める上でDXの必要性を認識しています*1

しかし、すでにDXの推進や検討に着手している企業は2割強にとどまり、約4割の企業はその予定もありません。

何が足かせとなっているのでしょうか。

独立行政法人中小企業基盤整備機構の「中小企業のDX推進に関する調査」によると、「人材不足」「予算不足」など、人やお金がないことが理由の上位に挙げられています*2

<出典:中小企業の DX 推進に関する調査 アンケート調査報告書 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 p13>

さらに、「経営者の意識・理解がたりない」「DXに取り組もうとする企業文化・風土がない」ことも見逃せない要因と言えるのではないでしょうか。

星野リゾートを救った「ノーコードツール」

実際に多くの日本企業で問題となっているのは、
「リーダーのDXに対する心構え不足」
「エンジニアやマーケターへの過剰な期待」
「外部依存による継続性のなさ」
などだと言います*3

この「人まかせ」をなくすための施策の一つが、全従業員のデジタルスキルの底上げです。

全社員を巻き込み、デジタル化という新しい企業文化を創るためには、全社員がDXを「自分ごと」としてとらえること、

そして、変革のために自らのデジタルスキルを強化する必要性を認識することが重要です。

一方で企業は、全社員のデジタルスキル強化を支援し、全社一丸となってDXに取り組む環境づくりを目指すべきでしょう。

例えば星野リゾートは、この数年、下記のようなシステムを短期間で多く開発し、リリースしています*4

  • 大浴場の混雑を可視化する仕組み:オリジナルIoTデバイスの開発着手後、6週間で完成、14施設で同時リリース。

  • GoToトラベルキャンペーンへの対応:1カ月でリリース

  • 宿泊ギフト券のふるさと納税対応:2カ月でリリース

  • 結婚式のオンライン参列サービス:3カ月でリリース

星野リゾートのIT戦略のひとつに「全スタッフのIT人材化」があり、現場スタッフが自らIT人材となり、ITサービスを進化させる企業になるための取り組みに力を入れています。

しかし、サービススタッフとして働く人材が、システム開発の経験や知識がゼロの状態で、どうやって現場の力を生かしたシステムを開発できるのでしょうか。

そのキーワードが「ノーコードツール」なのです。

800以上のアプリを自社開発

ノーコードツールを使えば、最小限のコード、あるいは全くコードを使わずにアプリケーションを開発できるため、現場のスタッフがニーズに合ったアプリケーションを自ら開発できます*5

しかし、マニュアルを渡せば誰でもすぐに開発ができるわけではありません。

まず、社内のルール整備として、以下の3つの施策を実施しました。

【ガバナンスの整備】
星野リゾートと同じノーコードツールを使っている他社の話を聞き、自分たちのスタイルでルールを再構築

【プラグインの活用】
従来は社内スタッフだけでは開発できない部分をエンジニアに依頼していたが、プラグインを活用することで社内スタッフだけで開発ができるようにした

【社内ビジネススクールの活用】
社内ビジネススクールを活用し、コミュニティベースで自ら学べる環境作りにも注力した

IT部門が、自主開発、情報共有、コミュニケーションを図りながら開発を推進した結果、ノーコードツールを使ったアプリケーション開発が急速に社内に浸透しました。

全部署の全スタッフがいつでも利用できるようになり、これまでに作成されたアプリケーションの数は800を超えています。

目的は競争優位を確立すること

なぜ星野リゾートはこれほどまでに「全社員IT人材化」にこだわったのでしょうか。

最大の理由は、全世界で数百人規模のIT部門体制を持つグローバルチェーンに対抗し、現場のスタッフ全員がIT人材となり、ITを駆使することで他社との差別化を図るためです。

この目的はDXの目的そのものです。

経済産業省が示すDXの定義を見てみましょう。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データ とデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデ ルを変革するとともに、 業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

<出典:デジタルガバナンス・コード2.0 経済産業省 P1>

つまり、DXは、単にITを一度導入すればそれで終わりというものではありません。企業活動に何らかの変化をもたらすための継続的な取り組みだということです。

製品やサービスを見直し、ビジネスモデルを変え、さらには組織や文化を変えていくことです。

そして、最終的にDXとは、他社に対する競争優位を確立することです。

星野リゾートのケースは、DXの本質的な意味を理解している企業の例であると言えるでしょう。

同社の企業努力は、今後のさらなる改革の大きな支えとなるに違いありません。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。

*1:中小企業の DX 推進に関する調査 アンケート調査報告書 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 p2

*2:中小企業の DX 推進に関する調査 アンケート調査報告書 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 P13

*3:あなたの会社はどのパターン? DXが遅々として進まない「5つの要因」 _小売・物流業界 ニュースサイト【ダイヤモンド・チェーンストアオンライン】

*4:成長の足かせからDXの担い手へ 全社員IT人材化の道筋 | 日経クロステック(xTECH)

*5:星野リゾートが800ものアプリを内製 全スタッフIT人材化によって顧客体験を深化 | TECH+(テックプラス)