そのノルマ、本当に必要ですか?共感できない数字には意味がない

「社員一丸となってがんばろう! 目標を共有して一致団結だ!」

このように、社員みんなに「なんのためにやるか」を理解してもらい、具体的にやるべきことを示す必要がある、という主張をよく耳にします。

目標達成の手段として、ノルマを課す企業も多いのではないでしょうか。

たしかに、目標は大切です。まちがいありません。
でも経営者目線の目標設定は、ともすると押し付けになってしまうことがあります。

そう、ノルマを課せられたことで逆にモチベーションを失った、わたしのように。

経営者目線の売り上げ目標に全く共感できないアルバイト

「来月100万円売らないとこの店は潰れるんだよ!」

これは、大学生のころにバイトしていた、大手居酒屋チェーン店の店長に言われた言葉です。

その店舗は同エリアのなかでも売上が低く、新しい店長が売上改善に向けて奮闘中。
わたしがアルバイトとして採用されたのは、そんなタイミングだったそうです。

自分でいうのもアレですが、わたしは愛想が良く客引きが得意で、店長にはよく販促を任されていました(販促=販売促進、店外で通行人に声をかけてお店に呼ぶこと)。

以前バイトしていた居酒屋では、販促は1時間交代でみんなやることになっていたのですが、その店ではわたしだけがずーっと販促を命じられます。

店はガラガラで、ほかのバイト友だちたちは暖かい店の中で唐揚げをつまみ食いしてるのに、わたしだけ寒空のなか毎日毎日何時間も、通行人に声をかけては無視されて……の繰り返し。

さすがにやる気がなくなって、店長に「自分ばっかり販促するの不公平じゃないですか。それなら時給あげてください」と言ったんです。

その返事が、「来月100万売らないとこの店は潰れるんだよ!」でした。
「潰れたら困るだろ!? お前がやったほうがいいからやれって言ってんの。自分のことだけ考えてるんじゃねーよ、店のことも考えろ!」と続きます。

それを聞いたわたしは、「目標達成のためにがんばろう!」とモチベーションが上がるどころか、「この店やばいんだ、さっさと辞めよ……」という気持ちになりました。
だって、がんばったところでわたしにメリットがひとつもないですもん。

でも店長は、「働いている店のために努力するのは当然で、アルバイトたちもそれをわかってくれるだろう」と思っていたのでしょう。

経営者目線のズレた期待だなぁ~と思いながら、顔を真っ赤にする店長を、冷めた目で見ていました。

達成すること自体が目的になっているノルマに意味はあるのか

そうそう、週40時間のフルタイムで販売員をしていた家具屋には、個人ノルマがありました。月〇〇万円売る、という目標ですね。

ノルマ未達成でもペナルティなし、達成したら数千円の寸志。
ノルマとしてはかなり緩いものではあったのですが、わたしはどうにもやる気になれなくて。

「引っ越しシーズンは書き入れ時だから張り切っていこう!」と言われて高いノルマを設定されても、それを達成したところで数千円のお小遣いが入るだけなので、まったくテンションが上がりません。

上の人たちからすれば、張り切りどきなんでしょうけどね。わたしにとっては知ったこっちゃないのです。

しかもチームごとの達成ボーナスがあるので、先にノルマを達成した人が達成していない人に「おすそ分け」するのが暗黙の了解になっていました。

Aさんが10万円のソファを売ったら、共同販売員としてノルマ未達成のBさんの名前を入れておいてあげる。すると、AさんとBさんそれぞれ5万円ずつの売上になる。

本来、たとえば初回来店でAさんが接客を担当し、2回目の来店でBさんが接客して購入にこぎつけた場合、Aさんが損をしないように名前を入れる、というシステムなんですが……。

数千円の寸志のために無理して売上を増やすつもりはなかったのですが、ノルマ未達成だと先輩が売上を分けてくれるので申し訳ない。だからやらざるをえない。はぁ、めんどくさ。

こんなかたちで達成するノルマに何の意味があるんだろう、と常々疑問でした。

ノルマに納得するのと共感するのは全くちがう

もちろん、店舗存続のために売上が100万円必要だとか、書き入れ時だから高いノルマを設定しようとか、そういう気持ちはわかります。

でも、「わかる」のと「共感する」のは、全然ちがうじゃないですか。

「繁忙期だから去年の売上を超えるぞ! ひとりあたりこれくらい売ってくれ!」
「近隣店舗に比べて〇〇円ほど低い。その状況を脱するためにこのノルマを達成しよう!」

そういわれたら、たしかに納得はします。
「これくらい売りたいんだな」「わかりました」と。

でもそれはあくまで、「あなたがそうしたいのは理解しました」という意味でしかない。
「その目標に共感して、高いモチベーションでがんばります!」という意味ではないんです。

それを理解せず、「経営上大切だから部下たちも同じように思ってくれるだろう」と期待している経営者って、結構いますよね。

本人はノルマ設定ではっぱをかけているつもりかもしれませんが、それでやる気になる人ってどのくらいいるんでしょう。

少なくともわたしは、「ノルマつくればいいと思ってる人いるよなぁ~。『これを達成しろ!』と言わないとこっちがやらないと思ってるんだろうなぁ~。やる気なくなっちゃうな~」と思っていました。

もちろん、人によって受け取り方はさまざまです。
でも目標共有=ノルマ設定、というのは、あまりに安易な気がするんですよね。

だってそんなの、数字丸投げして「達成しろ!」と言うだけで、マネージメントでもなんでもないんですから。

ノルマがなくてもやる人、あってもやらない人

自分語りが続いて恐縮なのですが、わたしは高校生の時、東進という塾に通っていました。
授業はDVD化されていて、いつ、どこでも見られるというシステムです。

毎月メンターと面談があり、模試の結果を確認しつつ、いつまでにどの講座をどれだけ見るか決めるのですが、わたしはいつも「ちゃんとやってるから俺の出番がないなぁ」と言われていました。

ノルマとして受講期限をもうけられなくても、自分で予定を立てて勉強していましたから。

自分になにが必要かをちゃんと考えれば、「いつまでにこれをやりなさい」なんて指示、いちいちいらないんですよ。

一方で、受験生だから塾には来ているけどやる気はない……という友だちもいました。

いくらメンターが声をかけても、室長(その校舎で1番偉い人)が担当として面談をしても、そういう生徒たちは授業を見ません。

もちろん、面談で提示された受講スケジュールに対し、「わかりました」「がんばります」と言います。でも結果的に、それを完遂することはない。

だって本人自身が、「目標を達成したい」と思っていないから。

本気なら自分で目標を立ててがんばるもの

ほら、ケーキ屋でクリスマスケーキを買い取らされるとか、コンビニで恵方巻のノルマが課せられて結局自分で買ったとか、そういうニュースあるじゃないですか。

そんなかたちでノルマ達成したところで、企業や働く人のためにはなりませんよね。
ノルマ達成自体が目的になると、そういうおかしなことが起きてしまうんです。

「ノルマを課さないとちゃんとやらないから必要だ」という意見もあるでしょうが、そんな理由で押し付けた目標に対し、達成するために本気で努力する人ってどのくらいいるのでしょう。

そもそも、ノルマを課して尻を叩かないと動かない社員ばかりなら、それはノルマ以前の問題だと思ったほうがいいです。

だれだって、本気で海外留学したければ「夏までにTOEIC800点を目指そう」、就活で大手に受かりたければ「3年の夏休みはインターンをして秋には資格を取っておこう」のように、自分で考えて行動しますよね。

本人がそれを達成したいと思えば、ノルマを用意しなくとも、本人が目標を立ててがんばるもの。

最初の道しるべとしてノルマを設定するのはアリですが、ノルマ達成自体が目的になるのは本末転倒です。

ノルマを課すときに必要な2つのこと

ノルマを課すときに大事なのは、2つ。
ひとつはなぜその数字なのか理解してもらうこと。もうひとつは、その数字への共感。

多くの経営者は、第一段階の「なぜその数字なのかの説明」をして、相手が納得したらそれでいいと思いがちです。
なぜならその数字は、経営者にとって大事なものだから。

だから、相手も同じ熱量で受け取ってくれると期待しちゃうんですよね。

でもその目標が「経営上のもの」ではなく、部下たちが「自分のためのもの」だと思わない限り、その数字に意味はありません。

親がいくら「いい点を取りなさい」と言っても、子ども自身にその気がなければ勉強しないのと同じです。

そしてノルマに共感できるかどうかは、「達成したら自分になにをもたらすか」で決まります。

ボーナスが増えるのは手っ取り早いメリットですが、たとえばもっと大きな仕事を任せてもらえるだとか、希望していた仕事に就けるだとか。

まわりに認めてもらえる、やりがいを感じる、というだけでやる気になることだってあるかもしれません。

「毎回毎回全員にご褒美を用意できるわけがないだろう」なんて声も聞こえてきそうですが……。

でもそれなら、部下はなにをモチベーションに、ノルマ達成の努力をすべきなのでしょう?

ノルマはモチベにつながるようにうまく使うべし

ノルマがあることでがんばれる人はたくさんいますし、闘争心に火がついてお互い切磋琢磨していくこともあります。ノルマを課すこと自体が悪いわけではありません。

でも使い方をまちがえれば、ただの押し付け、プレッシャー、ストレスになってしまいます。

ノルマを設定するなら、その数字に納得してもらうのは大前提。
そのうえで、目標達成をモチベーションにしてもらいたければ、本人が達成したくなる環境にすること。

押し付けられただけの数字では、部下は自発的には動きませんからね。

それができないなら、ノルマを課すよりも前に、ちゃんと部下と会話したほうがいいと思います。

安易に数字を掲げて「達成しろよ!」と丸投げするのではなく、その目標が本人にとって大事なものだとわかってもらうようにノルマを上手に使うこと。

それが大事なんじゃないかなぁ、と思うわけです。

この記事を書いた人

雨宮紫苑

ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。