女性管理職比率50%以上 男女平等を実現し続けるイケアの取り組みは何が凄い?

内閣府男女共同参画局の白書によると、日本の男女共同参画は進んでいないことがあらためて明らかになりました。

また、男女間格差や賃金格差の面でも日本は諸外国に遅れをとっています。

こうした課題にもかかわらず、イケア・ジャパンでは、すべての階層で男女比を1:1にすることを目標に掲げ、日本における女性管理職の割合は50%を超えるまでになりました。

どのような取り組みを行っているのでしょうか?

コロナ禍で浮き彫りになった男女平等の課題

我が国における男女共同参画は依然として進まず、男女間の賃金格差や働き方の慣習、意識、政策や制度が昭和時代のままであることが問題とされています*1

また、2022年の日本の「ジェンダー・ギャップ指数」は146カ国中116位、日本の男女間の賃金格差は経済協力開発機構(OECD)加盟44カ国中ワースト4位と、男女共同参画の現状は他国に比べて遅れているのが現状です*2

このような状況下で、政府は女性管理職の割合を2020年代の早い時期に30%程度にすることを目指していますが、現実はどうなのでしょうか。

帝国データバンクが行った企業の女性登用に対する調査によると、企業の管理職に占める女性の割合は平均9.4%で、過去最高を更新したものの低水準が続いています。

政府が目指す「女性管理職30%」を超えている企業は9.5%に過ぎず、まだまだ改善の余地があるのがわかります。

■自社における管理職に占める女性の割合

<出典:女性登用に対する企業の意識調査(2022 年)株式会社帝国データバンク p1>

また、女性の活躍推進に関する自社の取り組みについて聞いたところ、「成果に応じて評価する」がトップでした*3

また、「性別に関係なく配置・配属する」という項目も上位となっています。

「女性が働きやすい環境づくり」に関する項目も上位にランクインしましたが、
「男性の育児・介護休業や家事・育児に関する働き方改革」
に関する項目は割合が低くなっています。女性のキャリア支援に関する項目も低水準でした。

■女性の活躍推進のために行っていること

<出典:女性登用に対する企業の意識調査(2022 年)株式会社帝国データバンク p5>

企業は、社員が男女問わず仕事と家庭を両立できるような環境を整備し、キャリア開発や研修、ロールモデルの提示、社内の風土や意識の改革など、多方面にわたる取り組みがますます重要になると考えられます。

イケアの女性管理職比率が50%超えの理由

ここで参考にしたいのは、イケア・ジャパン(以下、イケア)です。

同社では、社員から役員、監査委員会に至るまで、すべての階級と役職における男女比を1対1にすることを目標に掲げています*4

2022年9月末時点で、女性管理職の割合は50.3%です。経営幹部では66.6%(2022年12月時点)、従業員は65%と過半数以上を占めています(2022年11月時点)。

前述のとおり、日本全体の管理職比率は平均9.4%であり、日本政府が目標とする30%を大きく上回っています。

なぜこのような状況が生まれたのでしょうか?

その仕組みのひとつが「ジャングルジム型」のキャリア形成です。

一般的に、日本企業で育児休業の取得をためらう理由のひとつに、キャリアに影響が出るのではないかという懸念があります。

イケアでは「ジャングルジム型」のキャリアを推奨し、昇進や降格を重視していません。

一直線に出世していくキャリアではなく、ライフステージに応じて降格したり、違う分野にチャレンジしたい場合は並行して移動したりすることが可能です。

また、公募制のため、原則的に人事の辞令はなく、昇進・異動も本人に任されています。

こうした柔軟な制度により、産休や育休がキャリア形成の障害になっていないことは、多くの女性が管理職になっていることにも表れています。

「ジャングルジム型」を成功に導く3つのポイント

「ジャングルジム型」を成功に導く鍵は3つあるといいます。それぞれについて見ていきましょう。

1.バリュー(価値観)の浸透

イケアは、世界中で共有されている8つのバリューの中に「連帯感」「コスト意識」「刷新して改善する」などがあります。

2022年4月にドイツから来日したイケア・ジャパンに勤務する女性は、日本語を話せなかったにもかかわらず、「全世界の社員が同じ目標や価値観を持っているので安心感がある。日本に来ることに不安はなかった」と述べています。

イケア社員の80%が、「イケアバリューが守られていると思う」と回答しており、価値観が徹底的に浸透していることが分かります。

2.コミュニケーション

イケアでは、年度初めに上司と一緒に1年以内、3年以内、3年以上に達成したい目標について話し合います。

部署異動を希望する場合は、オンライン講座で必要なスキルを身につけるための準備もできます。

企業側も、可能性のある異動のタイミングを把握できるため、急な希望で混乱することを回避できます。

3.成熟度の可視化

「可視性」は、社内公募制度において非常に重要です。

社員は、新しい部署でも希望すればすぐに管理職に就けますが、自信がなくて応募をためらう社員がいるかもしれません。

このような場合、社員の成熟度を可視化することが役立っています。

成熟度は、「アスピラント」「イン・ザ・ロール」「シニア」の3つのレベルに分けられます。

アスピラント(学習期間)からスタートし、インザロール(自立して仕事ができる)を経てシニア(周りのサポートもできる)になる順序です。

成熟度が可視化されると、周囲もサポートしやすくなります。また、社内公募で採用する際にも、成熟度を採用基準として活用できます。

また、異動した社員自身も「学びの期間」と考えることで、精神的な負担を軽減できます。

女性管理職を生むための解決に向けて

日経ウーマノミクス・プロジェクトが行った調査によると、管理職になりたいかどうかという質問に対して、「NO」と答えた人が58.3%に上りました*5

その理由は、上から順に以下の通りです。

  • 仕事とプライベートの両立ができない
  • 時間外労働の増加
  • 管理職になるための成長の機会がない
  • 男性中心で抵抗感がある

これらの理由を見ると、イケアのようにライフステージに合わせたジャングルジム型のキャリア形成が、女性の活躍推進につながると考えられます。

また、アンケート回答からは、賃金格差の改善や評価制度の見直しが必要という声もありました。

さらに、心理的なフォローも重要であり、上司と部下が本音で話し合える環境が必要であるとのことです。

こうした取り組みが進まないと、日本の男女共同参画は遅れ、企業や国の競争力にも大きな影響を与えることが予想されるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。