「空気で答えを出す会社」ダイキンのブランド戦略と顧客体験を学ぼう

<出典:空気で答えを出す会社|ダイキン工業株式会社>

BestJapanBrands2023で前年比+20%のブランド価値成長率を達成*1したダイキンは、空調総合メーカーとして展開するグローバル企業です。

2021年度の売上高は2兆4934億円で、空調分野の売上高は世界ナンバーワンを誇ります*2

ダイキンは、どのようにしてブランド力を高め、世界中の顧客に選ばれる企業になっているのでしょうか。

ダイキンのブランド戦略について、パーパスと顧客体験の2つのポイントに焦点を当てます。

ダイキンのパーパスは、「空気で答えを出す会社」

ダイキンは、総合家電メーカーなどの競合と差別化するために、「家電」のほかに「エアコン」という新しいカテゴリーを作り、「空気の会社」というブランドイメージを築いてきました*3

■市場に「エアコン」という新しいカテゴリーを作ったダイキン

空気のあらゆる課題に答える企業であることを「空気で答えを出す会社」、というスローガンで表現し、「空調総合メーカーダイキン=空気の会社」と認知されるような取り組みを20年以上続けています。

また、「空気で答えを出す会社」というメッセージは、ブランド戦略の根幹である「パーパス」でもあります。

パーパスとは、その企業が何のために存在し、何を目指しているのか、ということです。

ダイキンは、「空気で答えを出す会社」というブランドパーパスを持ち、社会課題を解決する企業であることを表現しています。

ダイキンで宣伝の業務に携わる片山氏によると、「企業として本気で取り組まなければいけないこと、すなわち経営戦略を落とし込んだ言葉」だといいます*4

ブランドのパーパスが明確であれば、従業員や顧客、社会との関係も強化され、ブランド価値もさらに高まる可能性があります。

統合コミュニケーションによるブランド発信

ダイキンのメディア活用は、広報やPRにとどまらず、「ペイドメディア」「アーンドメディア」「オウンドメディア」を統合的に利用して情報発信することを重視しています。

・オウンドメディア(Owned Media)
 企業が所有するメディア。公式Webサイト、紙媒体のパンフレットなどが代表的。

・アーンドメディア(Earned Media)
 企業とは直接関係のない第3者の組織や個人が情報を発信するメディア。
 Webニュースサイトや新聞、雑誌、SNSのニュース記事など。

・ペイドメディア(Paid Media)
 広告枠の利用を希望する企業が、メディアに広告掲載料を支払って広告を掲載する
 有料のメディア。テレビCM、雑誌広告、Web広告など。

なぜなら消費者は、テレビCMで商品を知り、その情報をWebサイトで検索し、最終的に販売元の公式サイトにたどり着くというように、これら3つのメディアを行き来しながら情報を入手しているからです。

そのためダイキンでは、オウンドメディアのコンテンツをアーンドメディアに掲載し、サイトへの誘導を試みることもあるといいます。

例えば、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ダイキンは「上手な換気の方法」に焦点を当てた統合コミュニケーションを展開しました。

■ダイキンのWEBコンテンツ「上手な換気の方法」

オウンドメディアだけではサイトへの訪問者が増えないため、アーンドメディアに掲載されるようにプレスリリースを発信し、さらにはペイドメディア広告と組み合わせるなど、ダイキンは統合コミュニケーションを展開することでブランドの発信に成功しました。

Webコンテンツやテレビを通じて換気の重要性や方法を啓発したこの活動は、「PRアワードグランプリ2020」でグランプリを受賞し、高く評価されています。下記に受賞理由を引用します。

「自社の打ち出し方をしっかりと定め、コロナ禍のなかで『空気で答えを出す会社』  という社会的存在意義を伝え、競合他社との鮮明な差別化を図ったこと。

 そしてこの取り組みはコーポレート・コミュニケーションが主体ではあるものの、  商品の販売実績といったマーケティング的な成果にまで波及しており、  企業評価を高めつつ、それがマーケティングにも寄与するというこれからの理想的な  コミュニケーション」

コロナ禍を契機に、空気環境に対する注目度はさらに高まりました。

パンデミック以前から提唱してきた「空気で答えを出す会社」としての一貫した事業・コミュニケーション活動により、ダイキンは空調総合メーカーとしてだけではなく、「空気で答えを出す会社」として、世界中の消費者に対し、新しくユニークで強いブランドポジションを確立できたと言えるでしょう。

顧客体験に基づくブランド戦略とインド市場での成功

ブランド戦略のもう一つの重要な要素は、顧客体験です。

顧客体験とは、顧客が製品やサービスに接触する際に感じる感情や印象のことです。顧客体験が良ければ、顧客満足度やロイヤルティが高まり、リピートや口コミなどの効果が期待できます。

ダイキンは、お客様の「次の欲求」や「夢」を見つけ、新しい価値を提供することが使命だと考えています*5

そして、高品質な商品・サービスを提供するだけでなく、ソリューションを提案したり、開発拠点の拡充や技術力の向上により、地域のニーズに合った商品・サービスを提供したりしています。

これらの取り組みの結果、ダイキンはインド市場でも大きな成功を収めています*6

国土の広いインドでは、地域によって気候や空調のニーズが大きく異なるため、それに対応できる幅広い製品ラインアップが非常に重要です。

例えば、電圧が不安定で電気部品が破損することも少なくないため、ダイキンは電圧安定装置を搭載した製品を開発しました。

また、地域の環境条件に合わせて製品を提供しており、都市部では空気清浄技術「ストリーマ」を採用した製品を、また沿岸部では腐食に耐える製品を提供しています。

こういった取り組みは、ダイキンのパーパスである「空気で答えを出す会社」にも通じるものです。

ダイキンは、インド市場において高品質で高性能なエアコンを提供することで、ブランドイメージを高めていると言えます。

■アフリカでは省エネエアコンのサブスクを展開

すべての企業にブランド化の機会がある

以上のように、ダイキンはブランドパーパスを明確にし、顧客に必要とされる情報を提供し、顧客の声を積極的に取り入れた製品の開発に取り組むことで、顧客体験を向上させ、ブランド力を高めています。

今後もダイキンは、世界中の顧客から選ばれる企業であり続けるでしょう。

ダイキンの片山氏は、「日本企業はブランドづくりが苦手ですが、正しい方法でおこなえば、どんな企業でもブランドはつくれます。」と述べています*7

これを機に、自社のパーパスや顧客体験を見直し、ブランド戦略をアップデートしてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。