
「Japan Vision 2025 イノベーションを通じて患者さんの人生を変える No.1 パイオニア企業を目指す」というタイトルにて、世界的製薬企業アストラゼネカ社日本法人の2023年業績発表会が開催されました。製薬企業を取り巻く現況がわかる当発表会をレポートいたします。
ブロックバスター特許切れでも増収を実現
2014年当時の売上265億ドルから成長を遂げ、同年に掲げた「売上450億ドル」の10年長期目標を2023年に達成したアストラゼネカ社。2023年は、COVID-19(新型コロナ)関連製品の大幅減収を主力製品の成長が回収し、売上収益は458億1,100万ドル(対前年6%増)、営業利益81億9,300万ドル(対前年218%増)となりました。
日本国内では、薬価ベースで8.2%の増収、とりわけ主要事業の中でもオンコロジー事業で28.6%増、呼吸器・免疫疾患(R&I)にて13.9%の2桁成長を達成しました。
大手製薬企業において脅威となるブロックバスターの特許切れに対する解として、ネキシウム®️の特許切れを他主力製品(の伸びが回収し、8.2%の成長率へとつながったことは、アストラゼネカ社の地盤の堅さを示した2023年といえます。
2022年に国内医療用医薬品売上トップ10にランクインした製品は、タグリッソ®️1製品でしたが、2023年はイミフィンジ®️とフォシーガ®️が加わり、3製品がランクインしました。
日本国内医療用医薬品売上においても販促会社ベースで、2022年の第3位から2位へとランクアップを実現しました。(Data Source : IQVIA Topline 2020‐2023をもとに当社算出)
2021〜2023年の過去3年間にアンメットニーズに応える22件の新製品や適応拡大などを上市、2024〜2026年のこれからの3年間でさらに30件以上の上市を目指し、国内最大件数となる148の臨床試験を実施しています(Data Source:CITELINE Trialtrove Dashboards Top 20 Pharma as of 18 March 2024 (excluding APJ from those original)。
また、グローバル本社の実施する買収やライセンス契約を通じて、パイプラインの強化を行うことで、さらに安定的な成長を目指します。
1製薬企業にとどまらないコラボを生み出すソリューション
患者中心のビジネスモデルのパイオニアとして、アストラゼネカではi2.JPも展開しています。i2.JPは、スタートアップ、医療従事者、地方自治体、アカデミア、民間企業をつなぎ、ヘルスケア領域で「患者中心」のソリューションを共に生み出すためのオープンイノベーション・ネットワークです。参画するパートナーは400以上、その中から生まれたマッチングは110以上、アストラゼネカが関与するプロジェクトも20に上ります。
一例として、健保データを元にデータ解析および予防事業を推進するPREVENTとi2JPのコラボ事業では、慢性腎臓病患者(CKD)における重症化予防を目指し、「CKD疾患啓発プロジェクト」が実施されました。対象740名のうち、42%に行動変容が確認され、「CKD診断のための検査実施率」、「生活習慣病診断率」等も、非介入群よりも高い結果が得られました。
社員にとっても働きがいのある風土づくりが成長を支える
イノベーションを生み出すために、アストラゼネカ社では、社員から選ばれる「働きがいのある職場」づくりにも力を入れています。女性の社会進出が声高に叫ばれる一方で現実的には進んでいないのが日本の現状ですが、経営をリードするリーダーシップチームの50%が女性である点は、企業としての姿勢を端的に表しているだけでなく、社会へのメッセージとも捉えることができます。
〈職場文化における3本柱〉
・インクルージョンとダイバーシティをリードする
・自主的に学び成長を続ける文化の構築
・ONE TEAMで結果を出す
職場文化においてこの3本柱を重要視することで、「Great Place To Work(働きがいのある会社)」に認定、「PRIDE指標2023」では2年連続ゴールド認定を取得しました。
これからの企業戦略に欠かせない気候変動対策
グローバル規模で「人々、社会、地球の健康」を目指すアストラゼネカ社では、企業戦略の中心に気候変動対策を置いています。気候変動が21世紀最大の公衆衛生の危機と捉えているからです。
地球温暖化などの影響により、日本国内での熱中症の死亡者は2000年から2022年の約20年間で7倍にも増えています。気候変動関連死や疾患が増加する中、気候変動対策はまったなしの状況にあります。
そこで、事業に伴うCO2排出量を評価し、輸送・配送、飛行機による出張など事業活動に関連した他社の排出(Scope3)がグローバル全体でみると97%を占めることを明らかにしました。日本法人でも事業の成長とCO2削減の両輪を実現するため、新幹線による出張、イベント等での資源再利用/デジタル化、温室効果ガスNear-Zeroガスへの切り替え、国内物流センターの電力を省エネ電力へ、などの取り組みを行っています。
2024年4月からは電力会社およびJR東海・JR西日本との連携による新幹線における「CO2を排出しない出張」もスタートし、合計約276tのCO2削減効果が期待されます。
企業規模、売上は拡大しながらも、人の健康だけでなく、地球の健康も考える。
これからさらなる業界地図の変遷が予想される製薬業界、ヘルスケア業界において、アストラゼネカ社が業界をどうリードしていくのか、今後もその動向に注目したいところです。