AI技術の進歩は目覚ましく、マーケティング分野でも生成AIの新技術が注目を集めています。この技術を活用することで、マーケターは業務の効率化、クリエイティビティの向上、データに基づいた意思決定など、さまざまなメリットが得られます。
本記事では、生成AIの基礎知識から、マーケティング業務における具体的な活用事例、導入のポイントなどを解説します。
生成AIとは?
生成AIとは、画像、音声、動画、テキストなど、さまざまなデータを自動生成する人工知能技術です*1。従来のAIが画像認識や音声認識など既存のデータから答えを見つけるのに対し、生成AIは新しいデータを生成できます。
生成AIは大量のデータから学習し、そのデータを基に新たなデータを生成します。その学習方法には、ディープラーニングと呼ばれる技術が使われています。
ディープラーニングは、人間の脳の神経回路を模倣した技術で、データから複雑なパターンを自動的に見つけ出せます。
生成AIにはさまざまな種類があります。代表的なタイプと例をいくつか紹介しましょう。
代表的な生成AIの種類 | 活用例 |
---|---|
画像生成AI | ・人の顔写真や風景写真などの画像を生成する ・商品画像やイラストなどのデザインを生成する |
音声生成AI | ・テキストを音声に変換して読み上げる ・音楽や効果音などの音声データを生成する |
テキスト生成AI | ・ニュース記事やブログ記事などの文章を生成する ・広告文やキャッチコピーなどの文章を生成する |
動画生成AI | ・テキストや画像から動画を生成する ・映画やアニメなどの映像コンテンツを生成する |
私たちが日常的に見聞きするコンテンツは、すでに生成AIによって制作されたものが増えています。そのなかには、明らかに生成AIとわかるものもありますが、クリエイティビティという点では遜色のないものも多く登場しています。
生成AIによるマーケティング業務効率化の事例
実際に生成AIを業務に活用した事例を紹介しましょう。
ベネッセホールディングス(以下「ベネッセ」)は、自社サイト「進研ゼミ」のデジタルマーケティング業務において、生成AIを活用した「次世代型Webサイトプロジェクト」を実施しました*2。
このプロジェクトでは下表に示した業務プロセスを効率化し、生産性と顧客体験の向上を目指しました。
効率化した業務 | 具体的な内容 | |
---|---|---|
1 | サイト・広告制作プロセス | 生成AI活用により、制作プロセス全体を抜本的に改革 |
2 | ライティング業務の自動化 | 顧客にとって分かりやすい説明文や、適切なワードを自動生成により、作業工数を大幅削減 |
3 | 画像生成業務の自動化 | 様々なユースケースに対応できる画像生成のプロンプトの開発 |
4 | 顧客コミュニケーションの個別化 | チャットによるコミュニケーションなどで生成AIを活用し、顧客のお困りごとを幅広く・スピーディーに解決 |
5 | 生成AIを活用したPDCA高速化 | 生成AIによる改善の提案・検証を自動化することで、理想的なサイト改善PDCAを可能に |
ベネッセによると、このプロジェクトの目的は単なる生成AI技術の導入ではありません。サイト制作や運用における業務プロセスを効率化することで、お客様の利便性を高め、今後の事業成長につなげることが目的です*3。
制作・運用コスト4割削減、制作期間は半分以下に短縮
ベネッセは前述のプロジェクトでPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施し、生成AIとノーコードツールの導入により、進研ゼミサイト制作のコストを4割削減、制作期間を8週間から3週間に短縮、なおかつ運用人員も7割削減することに成功しました*4。
ノーコードツールとは、プログラミングの詳しい知識がない人でも、コードを書かずにアプリやウェブサイトを開発できるツールです。
生成AIを活用した「次世代型Webサイトプロジェクト」にどのように取り組み、どのような成果が得られたのかを見てみましょう。
「次世代型Webサイトプロジェクト」における新運用体制と成果
新しくなった業務内容 | 成果 | |
---|---|---|
1 | 最適なテクノロジーを活用し、業務プロセスを再構築 | ・運用業務、改善施策PDCAをクイックに実行するため、最適なソリューション(生成AI、ノーコードツール、画像制作ツール、プロジェクト管理ツール)を組み合わせ、運用を高度化 |
2 | ライティング業務の自動化 | ・顧客にとって分かりやすい説明文や、適切なワードを生成AIにより自動生成し、作業工数を大幅削減 ・紙のDM用に作ったコピーの焼き直しではなく「Webに最適なコピー」を生成するAIを開発し、担当者のスキルによるばらつきをなくし、短納期かつクオリティが担保されたコピー開発が容易に |
3 | デザインテンプレートの導入 | ・専門知識がなくても、事前に設計されたWebに最適なデザインを組み合わせ、サイト制作を可能に |
4 | ノーコードCMSの導入 | ・Excelで作成したワイヤーからhtmlを作成する業務フローをなくし、Webサイトの現物をそのまま修正できる「ノーコードCMS」を導入 |
特に著しい進展をもたらしたのは、ライティング業務の自動化ではないでしょうか。テキスト生成AIツールに印刷DMの情報を入力すると、Web用に適したコピーを自動生成します。
従来は担当者のスキルにより、サイト構成やコピーライティングの品質にバラツキがある状況でした。しかし、生成AIツールの導入により、作業工数が削減されると同時に、担当者に依存しない形で品質が担保されるようになったのです。
ベネッセでは、今後、段階的に新体制への移行を開始し、2024年度以降に既存サイトのプロセスを全面的に改革する予定です*5。
ベネッセから学ぶ「生成AI導入」のポイント
デジタルマーケティングの重要性が高まる中、多くの企業がWebサイトの制作・運用に注力しています。
まだ生成AIを導入していない企業は、ベネッセの「生成AI活用に向けた5つのステップ」*6を参考にすることで、サイト制作の効率化が図れるかもしれません。
生成AIが未導入の企業にとって最も大切なことは、小さくてもいいから実際に始めてみること。まずは上記のステップ1、ステップ2から始めてみてはいかがでしょうか。
ステップ1では、企画者が生成AIを体験する機会を持つことです。自ら生成AIを操作し、そのメリットや効果を実感することで、活用の可能性を理解できます。
そして、ステップ2では、「誰のために何を提供するのか」を明確にします。どのような顧客に焦点を当てて価値を提供するのかを定義することが重要です。
ベネッセの目標は業務プロセスを効率化し、顧客体験を向上させることでした。そして、生成AIの活用による生産性の向上と業務体制の最適化によって、時間、コスト、リソースを捻出することに成功しました。
生成AIによるマーケティング業務の効率化が現実味を帯びてきました。人とAI、双方の能力を組み合わせることで、業務がクリエイティブに進化していく、楽しくエキサイティングな時代と言えるのではないでしょうか。
*1:生成AI | 用語解説 | 野村総合研究所(NRI)
*2:ベネッセが、メンバーズ、ビービットと、生成AIを活用した 「次世代型Webサイトプロジェクト」を開始 サイトの運用・制作に生成AIを活用し、抜本的に業務プロセスを改革 | ニュースリリース| 株式会社ベネッセホールディングス
*3:ベネッセが、メンバーズ、ビービットと、生成AIを活用した 「次世代型Webサイトプロジェクト」を開始 サイトの運用・制作に生成AIを活用し、抜本的に業務プロセスを改革 | ニュースリリース| 株式会社ベネッセホールディングス
*4:生成AIを活用したWebサイト制作・運用改革によりコスト4割削減、制作期間を半分以下に短縮 | 株式会社ベネッセホールディングスのプレスリリース
*5:生成AIを活用したWebサイト制作・運用改革によりコスト4割削減、制作期間を半分以下に短縮 | 株式会社ベネッセホールディングスのプレスリリース
*6:生成AIの活用事例のご紹介 2023/12/14 株式会社ベネッセホールディングス p15