非ゲーム会社が起こした奇跡 「スイカゲーム」が大ヒットしたユニークな経緯とは

フルーツどうしを合体して「シンカ」させていき、さくらんぼからスイカまで育てていく。

「マリオ」「ドラクエ」を抑えてトップの座にも君臨した「スイカゲーム」は、世界で950万ダウンロードを突破する人気ぶりを誇っています。

実はこのスイカゲームを開発したのは、大手ゲーム会社ではありません。 それでいながら爆発的なヒット作品になった理由はどこにあるのでしょうか。 探っていきたいと思います。

一気に火がつき「マリオ」「ドラクエ」超え

「スイカゲーム」は2021年12月にNintendo Switch版がリリースされた、非常にシンプルなゲームです。 ルールは至って簡単。
ランダムに登場するフルーツを上から落とし、箱に詰めていくというものです。

登場するフルーツは11種類で、同じもの同士が触れると合わさって、次の大きさのフルーツに「シンカ」します。

大きなフルーツを作れば作るほどハイスコアを狙うことができます。ゲームタイトル通り一番大きい「スイカ」を作ることを目指してプレイヤーはフルーツを重ねていきます。それだけです。

筆者が動画でこのゲームを見た時の第一印象は「テトリスの丸い版!」でした。

隙間を埋めてブロックを消すのか同じものをぶつけて消すのかの違いはありますが、いわゆる上から落ちてくるものを消していく「落ちゲー」で、ただ、落とすタイミングを自分で選べるのと、消えるものがかわいい、という感覚です。

しかしそこは令和の時代です。
フルーツの上にフルーツを落とした時に、跳ね返ったり隙間にひっかかったり、時間が経てば重力ですべり落ちてきたり、という物理演算がスイカゲームには組み込まれています。

フルーツどうしがくっついた勢いで他のフルーツが箱から飛び出してしまったり、忘れた頃にフルーツの合体が連鎖して突然スイカができあがったりする、その辺りの不確定要素にのめり込む人が多いことでしょう(筆者も含めて)。

また、エンドレスプレイですから、「次こそは!」とやめられなくなる心理もわかります。

240円というお手頃価格でリリースされたスイカゲームは2023年9月に入ってYouTuberなどインフルエンサーが取り上げ始めたことで話題になり、年末には「ドラゴンクエストモンスターズ3」「スーパーマリオブラザーズ ワンダー」を抜いて1位に君臨しています*1

その後iOS、Android向けスマホアプリも配信されて2024年5月末時点では累計950万ダウンロードを突破しました*2

グッズも展開中

フルーツのキャラクターグッズやLINEスタンプの販売にも乗り出しています。典型的な「かわいい」キャラクター展開を見れば、勢いは止まりそうにないことも想像がつきます。

販売元は非ゲーム会社

240円という価格、単純明快なルール、ゆるいビジュアルデザインの中に不規則性がある。

人気が出そうな要素は揃っていると言えばそうなのですが、驚くべきことにスイカゲームの販売元は、じつはゲーム会社ではありません。

スイカゲームは、家庭向けの照明一体型プロジェクターを開発・販売する「Aladdin X」社が、プロジェクターに内蔵するゲームとして作ったものなのです*3

かつ、そのプロジェクターは「スマホやタブレットの普及によって、家族間でのコミュニケーションの機会が失われているのではと感じて開発した」製品だといいます*4

Aladdin X社のホームプロジェクター

よって、スイカゲームは家族で楽しめる簡単なものであることが念頭にあったわけです。

しかし「家族で楽しめる」コンセプトのゲームなど山ほどあります。
その中でのスイカゲームの強さは、日本人が知らないところで、熾烈な競争をくぐり抜けていたというところにあります。

起源は中国のミニゲーム

日本で「人気ゲーム」というと、どうしても大手ゲーム会社が家庭用ゲーム機向けに作ったものという印象が強く、往年のタイトルのシリーズものが話題になりがちです。
もしくはスキルを必要とするバトルロイヤル系のオンラインPCゲームということになるでしょう。

しかし世界を見れば、240円のスイカゲームのように低価格で買い切って遊ぶ「カジュアルゲーム」の人気は高くなっています。とりわけ中国では、アプリ内で動くミニアプリとしてのゲーム開発が熾烈になっており、例えば対話アプリ「WeChat(微信)」向けだけでも数百万のミニゲームが開発されているといいます*5

じつはスイカゲームの元になっているのは、中国でこの競争を勝ち抜いたソフトのひとつ「合成大西瓜」です。21年1月ごろに中国で爆発的にヒットし、中国のSNS「Weibo(微博、ウェイボ)」では、関連する話題の検索ヒット数が14億件以上に達するなど、国民的人気を獲得していました*6

それがAladdin Xによって日本に持ち込まれました。それも、プロジェクターの「おまけ」としての扱いだったものが、大評判となり、あれよあれよという間に日本のゲーム機で大ヒット作となったのです。

ただ、当然と言えば当然だったのかもしれません。

中国の巨大市場でしっかりと勝ち抜いてきた実力を発揮しただけと見ることもできるからです。

デジタル関連市場での「リープフロッグ」現象

興味深いことに、「合成大西瓜」のリリース元もまた、大手ゲーム会社ではありません。SNSの間Aケティングプラットフォームをメインに扱う「米兜科技」がリリースしたものです*7

このようないきさつを聞いて筆者が思い出すのは「リープフロッグ」とよばれる現象です。

既存の技術を通らずにいきなり最新技術が流通する現象をさす言葉です。

例えば通販の決済システムを例に取った時、日本では銀行振込、代引き、クレジットカードといった流れを経て現在オンライン・キャッシュレス決済の時代を迎えています。

しかし中国では事情が逆で、通販はスマートフォンありきで発展してきたために、最初からキャッシュレス決済の普及率が高いというものです。

<出典:世界のキャッシュレス比率|「キャッシュレス将来像の検討会(概要版)」経済産業省 p3>

ゲームについて考えてみましょう。

日本では長い間、ゲーム機器とソフトウェアの開発は不可分なものでした。オンラインゲームの時代になっても、長く続くタイトルの「続編」「最新版」が話題の中心になりやすい状況があります。

しかし中国にはそんなステップはありません。ブラウザやミニゲームという、誰でもチャレンジ可能な環境が最初からあるのです。 スマートフォン向けのゲームアプリにしても、日本のように「元ゲーム」があるのではなく、スマホ用のゲームを作って、それがそのまま流通していくのです。

こうした事情の違いは自由な発想に繋がり、今後も「思わぬヒット」を生み出し続けるのではないかと筆者は考えます。

「しがらみ」から解き放つ勇気も

またスイカゲームに関しては、元ゲームをリリースした企業、日本に持ち込んで流行させた企業、いずれもゲームを本業としない企業であることもまた興味深いところです。

そしてこの段階で、スイカゲームはプロジェクターのおまけが元であり、プロジェクターの知名度や売上に貢献してはじめて役に立つ事業だろう、そう考えてしまうでしょうか?

スイカゲームには、そのような考え方はなさそうです。
このまま我が道を行かせる、それが経営判断のようです。
5月23日からは世界中のプレイヤーとオンライン対戦できるモードが追加され、さらに進化を遂げているのです。

自社でプロジェクターのために開発したコンテンツを、広義ではプロジェクターと競合相手であるゲーム機で売り上げていくことに違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、生まれたヒットをそのような制約で潰してしまうことなく、走らせ続けるという姿勢も必要なのかもしれません。

この記事を書いた人

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。