成長するサプリメント市場を勝ち抜くためのマーケティング戦略ガイド

はじめに

サプリメント市場は、グローバルな健康志向の高まりとともに急速に成長しています。背後には、消費者の健康維持への意識向上や、予防医療への関心の高まりがあります。本ガイドでは、サプリメント市場の最新動向と、成功を収めるためのマーケティング戦略について解説します。

市場全体の概要と成長予測

サプリメント市場は、近年の健康志向の高まりとともに急速に拡大しており、2023年には1,775億ドルの市場規模に達しました。この市場は、特に消費者の健康維持や生活習慣病予防、免疫力向上といったニーズに支えられており、2024年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)9.1%で成長すると予測されています*1

<GRAND VIEW RESEARCH「Dietary Supplements Market Size And Share Report, 2030」より作成>

市場を地域別に見ると、北米市場が依然として最大のシェアを占めています。特にアメリカでは国民皆保険制度による公的医療保険がないため、予防医療の重要性への認識が高く、サプリメントは日常生活に欠かせないものとなっています。ヨーロッパ市場は、厳しい規制と高い品質要求によって、オーガニックやナチュラルな製品が支持を集めています。

アジア市場は急成長を遂げており、2022年には1,494億ドルに達し、今後も6.1%のCAGRで成長が見込まれています*2。とりわけ中国やインドでは、急速に拡大する中産階級や高齢化が市場を牽引し、免疫力向上や高齢者向けのサプリメントの需要が急増しています。

また、新型コロナウイルスのパンデミックは、サプリメント市場におけるさらなる成長の機会を提供しました。パンデミック特需は落ち着きつつありますが、運動不足による肥満や免疫力向上、睡眠改善、ストレス管理など具体的な健康目的に対するニーズは依然高く、今後も市場における重要な役割を果たしていくと考えられます。

セグメント別戦略

近年、サプリメント市場における消費者行動は大きく変化しています。これまでの「不足を補う」という視点から、より積極的に「健康を維持・向上させる」ための手段としてサプリメントを活用する消費者が増えています。消費者の多様化するニーズに対応するためには、ターゲットセグメントを明確にし、それぞれに最適なマーケティング戦略を展開することが重要です。以下に代表的なセグメントとその戦略を紹介します。

1. 高齢者向けセグメント

高齢化が進む中、高齢者向けのサプリメント市場が急成長しています。このセグメントでは、関節・筋肉サポートや認知機能向上、免疫力維持などが主なニーズとなっています。効果が科学的に証明された成分を使用し、信頼性を強調することで、高齢者層に対するブランドの信頼を築くことができます。

例えば、「ぷるんと蒟蒻ゼリー」などのヒット商品で知られるオリヒロは、高齢者向けのサプリメント市場で成功を収めている日本の企業の一例です。同社は、蒻製造機械、食品包装機械の製造からスタートし、健康食品事業に参入。いまでは健康食品の総合メーカーとして、サプリメント市場を拡大しています。関節の健康や高血圧対策を目的とした商品を開発・提供することで、高齢者層に対するマーケティングを強化しています。とりわけ、高齢者に多い膝関節痛に着目し、関節の動きを滑らかにし痛みを軽減するとされるグルコサミンを用いた商品の開発販売を展開しています*3。高齢者層をさらに細分化し、個別のニーズに応じた製品ラインを開発することで成功した好例といえます。

このように、高齢者層においては、製品の品質保証や効果に関する情報を積極的に公開することや、医師や栄養士などのヘルスケアプロフェッショナルと連携し推奨を受けることで、ブランドの信頼性を高めることがより重要です。

また、高齢者には、体験型のマーケティング活動も有効です。例えば、試飲会や体験イベントを通じて、製品の効果を実感してもらう機会を提供します。薬局等でサンプル提供するのもよいでしょう。いまだ新聞広告やチラシ等の紙媒体が有効である層でもあることは覚えておきたいポイントです。リピート購入を促進するにあたっては、ポイントプログラムや会員制度の導入も効果的です。

今後は、元気で経済的にも余裕のあるアクティブシニア層へ向けて、マイナスをゼロへの発想からよりプラスへの商品展開や、より個別のニーズに応える年代別サプリメント、ウェブやSNSでのマーケティングの強化が市場拡大につながると考えられます。

2. 健康目的ごとのセグメント

肥満やストレス、睡眠不足などそれぞれの健康の悩み解決を目的とするサプリメント市場も新型コロナパンデミック以降さらに注目されています。例えば、ファンケルは、年間1アイテムで数十億円を売り上げる、カテゴリー上位のヒット商品を複数持つことで市場を拡大しています。

<出典:人気商品が一目でわかるアクセスランキング|ファンケル公式HP>

とりわけ売れている「カロリミット®」「内脂サポート」といった商品は、単にダイエットや脂肪を減らすことを謳っているわけではないことが特徴です。「カロリミット®」は、糖と脂肪の吸収を抑えるだけでなく、脂肪の代謝を促進し消費しやすくなる機能で、「食べたい気持ち」をサポートすることをアピールした商品です*4。「内脂サポート」は、脂肪の中でもとりわけ内臓脂肪を減らすことで、健康的に体重・脂肪を減らすことを謳っています。近年話題の腸内環境に着目していることがポイントです*5

このように、健康に関する悩みを表面的なものではなく深層まで理解・分析し、より個別最適化された商品開発と個々の課題に訴えるマーケティングにつなげることが求められています。

また、消費者と時代のニーズを深く捉え、訴求ポイントをわかりやすく商品化・言語化することが、選ばれる商品となる鍵を握っています。感覚的にパッとわかる商品名や、“腸内環境”といった健康トレンドで訴えることは、数多ある商品の中で消費者の目にとまるためには欠かせません。健康目的ごとのセグメントにおいては、エビデンスという信頼性を確保しながら、最新のサイエンスの動向やトレンドをキャッチアップしていくことがマーケティング戦略の上でも大切です。

消費者の行動変化に対応するためには、各セグメントごとの特性を理解し、ターゲットに応じた製品開発とマーケティング戦略を展開することが求められます。消費者ニーズを的確に捉え、それに応じたメッセージを伝えることで、ブランドの信頼性を高め、競争の激しい市場での成功を確実にすることができます。

国内外の成功事例と教訓

サプリメント市場で成功を収めるためには、ターゲットセグメントに適した製品開発とマーケティング戦略が不可欠です。ここでは、具体的な成功事例を通じて、学ぶべき教訓を解説します。

1. オーストラリアのSwisseの成功

Swisse*6は、オーストラリア発のサプリメントブランドで、とりわけアジア市場で大きな成功を収めました。特に中国市場では、急速に拡大する中産階級や高齢者向けに特化した製品展開が功を奏しました。「オーストラリア製」というブランドイメージを前面に押し出し、科学的根拠に基づく品質と安全性を強調したマーケティング戦略を展開することで、中国市場でトップシェアを獲得しました。

2. アメリカのOptimum Nutritionの成功

Optimum Nutrition*7は、アメリカを拠点とするスポーツ栄養サプリメントブランドで、特にプロテインパウダー「Gold Standard Whey」が世界的に有名です。このブランドの成功の要因は、ターゲットセグメントであるアスリートやフィットネス愛好者に対して、科学的根拠に基づく製品の効果を明確に伝えたことにあります。また、プロアスリートやフィットネスインフルエンサーとの連携を強化し、ブランドの信頼性を高めました。さらに、厳格な品質管理と第三者認証を通じて、消費者に対して常に高品質な製品を提供しています。この事例は、特定のニッチ市場であっても、セグメントに応じたマーケティングをおこなうことで、世界的なヒットにつながることを示唆しています。

3. 日本のファンケルの成功

前述したファンケルは、日本における無添加化粧品とサプリメント市場の先駆者で、特に無添加へのこだわりで成功を収めました。健康志向の高まりに対応し、消費者に安心・安全な製品を提供することに焦点を当てたことも功を奏しました。また、定期購入プログラムを導入し、顧客ロイヤルティを高めることで安定した収益を確保しています。さらに、直販モデルを採用し、自社オンラインショップや直営店を通じて、消費者との直接的なコミュニケーションを実現しています。この事例からは、顧客との信頼関係を構築し、長期的なロイヤルティを育む戦略が有効であることがわかります。

4. 教訓と失敗事例

一方で、サプリメント市場では、過剰な広告表現や科学的根拠に基づかない誇張がブランドイメージを損なうリスクもあります。

例えば、超高齢社会の進展に伴い、今後も伸びが期待される認知機能サポートのためのサプリメントですが、2022年3月に消費者庁より認知機能に関連する機能性表示食品に対して一斉監視が行われました。結果、物忘れや認知症の治療や予防に効果が得られるような虚偽・課題表示をしていた3事業3商品、あるいは届出の範囲を逸脱した表示をしていた112事業者128商品に対して改善指導がおこなわれました*8。広告の中止や削減などが実施されたことにより、関連市場の伸びが鈍化しました。 このように、信頼性を損なう誇大表現は市場全体に影響を及ぼすことがあるため、消費者に対して正直で誠実な情報提供を行うことが重要です。

また、徹底した品質管理が信頼のためには欠かせません。 国内メーカーの海外展開が進む中、国内外問わず日本ブランドへの信頼低下につながるできごととなったのが、小林製薬の紅麹を原料とする機能性表示食品による健康被害です。機能性表示食品とは2015年にスタートした制度です。この制度は、特定保健用食品(トクホ)とは異なり、事業者が食品の安全性や機能性に関する科学的根拠などの必要な情報を販売前に消費者庁に届け出ることで、機能性を表示することが可能です。国が審査をおこなわないため、事業者は自らの責任で科学的根拠に基づいた適切な表示を行う必要があります*9。トクホよりも開発コストを抑えながら商品化し、機能性を表示することができることから、機能性表示食品はサプリメント市場の成長を後押ししてきました。しかしながら、今回の紅麹サプリメントによる健康被害は、機能性表示食品への信用低下を招くこととなりました。今後ますます、消費者の品質に対する目線が厳しくなることが考えられ、トクホにするのか機能性表示食品にするのか、開発コスト低減のメリット以上に、科学的根拠や品質管理の徹底の重要性が浮き彫りになりました。

これらの成功・失敗事例と教訓から学べることは、消費者の信頼を築くためには、製品の品質、科学的根拠に基づく効果の訴求、そしてターゲット市場に応じた適切なマーケティング戦略が不可欠であるということです。さまざまな商品の中から選ばれるには、「誠実さ」がキーワードといえるでしょう。

未来のトレンドと予測

サプリメント市場は今後も成長が期待される分野であり、新たなトレンドや技術が市場をさらに変革していくと予測されます。

1. パーソナライズドサプリメントの台頭

テクノロジーの進化により、消費者の個別ニーズに対応したパーソナライズドサプリメントが普及していくと予測されます。AIやビッグデータを活用した個人の健康データの解析により、特定の栄養素や成分を最適に組み合わせたサプリメントが提供されるようになるでしょう。消費者は一層自分の健康状態に合わせた製品を選ぶことが可能となり、ブランドに対する信頼性とロイヤルティが向上することが期待されます。

2. サステナビリティとクリーンラベルへの関心の高まり

環境問題への意識が高まる中、サステナビリティを考慮した製品やクリーンラベル(シンプルで透明な成分表示)へのニーズが増加すると予測されます。リサイクル可能なパッケージや環境に配慮した原材料の使用、さらには製品のライフサイクル全体での環境負荷軽減への取り組みが重要となります。

3. 新しい成分と科学的根拠の強化

消費者のニーズが高度化する中で、科学的根拠に基づいた新しい成分、あるいは再評価される成分が注目されるようになります。腸内細菌のバランスを整えるプロバイオティクスやプレバイオティクス、免疫力を高める成分、さらにはメンタルヘルスに効果があるとされる植物由来の成分などに関心が高まっています。

例えば、インドでは、消費者が健康維持のために自然由来の製品を求める傾向が強まっており、アーユルヴェーダやハーブ系サプリメントの人気がインド国内の市場を牽引し、成長を加速させています。OZivaのような伝統的なアーユルヴェーダを組み合わせた植物由来の製品を手がけるブランドが着目されています*10。また、ナチュラルな製品への関心は一国にとどまらず世界的な傾向にあります。これらの伝統的な成分を科学的に解明し根拠を持って商品化することは、地域を超えた世界的ヒット商品につながる可能性を秘めています。

4. デジタルヘルスとサプリメントの統合

ウェアラブルデバイスや健康アプリの普及に伴い、デジタルヘルスとサプリメントの統合が進むと予測されます。これにより、消費者は日常的に自身の健康データを追跡し、そのデータに基づいて最適なサプリメントを摂取することができるようになります。たとえば、毎日の活動量や睡眠パターン、食生活などに基づいて、リアルタイムでサプリメントの摂取量や種類を提案するサービスが登場するでしょう。

5. 規制の進化とその対応

サプリメント市場の成長に伴い、各国の規制も厳格化することが予測されます。消費者保護を目的とした成分表示や安全性の基準が強化され、企業はそれに対応するための透明性の高い製品開発とマーケティングが求められるでしょう。規制に対する迅速な対応と、消費者に対する誠実な情報提供が、ブランドの信頼性を支える鍵となります。

6. デジタルマーケティングとオムニチャネル戦略

現代のサプリメント市場において、デジタルマーケティングやオムニチャネル戦略の活用は不可欠です。SNSやインフルエンサーマーケティングを通じてブランド認知を高めると同時に、オンラインとオフラインのチャネルを統合したマーケティング戦略を展開することで、消費者との接点を増やし、ブランドロイヤルティを向上させることができます。 これらのトレンドは、サプリメント市場の将来を予測する上で重要な要素となります。企業は、これらの変化に対応するために、柔軟かつ戦略的なアプローチを採用し、未来の成長機会を確実に捉えることが求められます。

まとめ

サプリメント市場は、グローバルな健康志向の高まりと消費者のニーズの多様化により、今後も成長が続くと予測されています。この市場で成功するためには、消費者の行動変化に対応し、競争優位性を確立することが不可欠です。具体的には、ターゲットセグメントに応じたサプリメントの提供や、科学的根拠に基づく製品開発、サステナビリティを考慮した持続可能なビジネスモデルの構築が求められます。

成功事例として紹介したSwisseやOptimum Nutrition、ファンケルなどの企業は、それぞれの市場でのニーズに対応し、消費者との信頼関係を築くことで競争優位性を確立しています。これらの事例から学べる教訓は、消費者の期待に応えるためには、科学的根拠に基づく効果的な製品を提供することが不可欠であるということです。また、誇大広告や不正確な情報は消費者の信頼を損ない、長期的なブランド価値を低下させるリスクがあるため、誠実なマーケティングが重要です。

さらに、デジタルヘルスの進展により、消費者の健康データを活用したパーソナライズドなサプリメントの提供が現実のものとなりつつあります。消費者は自分に最適な製品を簡単に選び、健康を維持することが可能になります。 未来のトレンドとして、パーソナライズドサプリメントの普及、サステナビリティへの対応、クリーンラベルの導入、そしてデジタルヘルスとの統合が挙げられます。日本企業もこれらのトレンドに対応し、グローバル市場での競争力を強化することが求められています。

この記事を書いた人

今村美都

がん患者・家族向けコミュニティサイト『ライフパレット』編集長を経て、2009年独立。がん・認知症・在宅・人生の最終章の医療などをメインテーマに医療福祉ライターとして活動。日本医学ジャーナリズム協会会員。