新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの生活スタイルに大きな変化をもたらしました。パンデミックにより再注目されたことの一つがアウトドアです。外出や対面での活動が制限される中、「密」を避けながら外出できるアウトドア活動に目を向ける人が続出しました。キャンプを始めとするアウトドアへの再評価が2020〜2022年のアウトドア市場の活況を牽引したとされます。
本記事では、アウトドア市場の最新動向を解説します。
新型コロナパンデミックとアウトドア
新型コロナパンデミックにより、再燃したとされるキャンプブーム。2020〜2022年は、キャンプブームがアウトドアメーカーを中心に、市場に右肩上がりの増益をもたらしました。しかしながら、キャンプ人口だけをみれば異なる視点も見えてきます。
『オートキャンプ白書』*1によれば、キャンプ人口は1996年の1580万人をピークに減少を続け、2010年代以降は720万人前後を推移していました。2013年に750万人の増加に転じて以降、2019年には860万人にまで増加。第2次キャンプブームがささやかれ始めたところで、新型コロナパンデミックの到来です。コロナ禍1年目の2020年には610万人にまで大幅減少しました。コロナ禍2年目の2021年になると、長期のロックダウンやリモートワークに伴う運動不足、精神的ストレスの増加、健康意識の高まりから、自然の中で活動できるアウトドアが再評価。その流れを受けて、キャンプ人口も750万人にまで回復しました。2022年になると、次第に外出制限が落ち着き、その他のレジャーが回復したことで650万人に減少しています。つまり、コロナ禍におけるキャンプブームピーク時の2021年においてもコロナパンデミック前の2019年よりもキャンプ人口自体は少ないことがわかります。
では、コロナ禍におけるアウトドア市場の活況の要因はなにか?
背景にあるのは、新規キャンパーの存在です。新型コロナパンデミックは従来のキャンパーたちにキャンプ控えをもたらした一方、新しくキャンプを始めようとする新規参入の増加やソロキャンプの増加といったキャンプスタイルの多様化を促進。新たにキャンプセット一式を購入したり、買い替えたりする高額の消費活動が市場拡大に貢献しました。
キャンプブームの終焉?
新型コロナパンデミック特需も落ち着き、アウトドア市場ではキャンプブームの終焉が言われるようになってきました。背景には、アウトドアメーカーの勢いが減速していることにあります。とりわけ、国内有数のアウトドアメーカーであるスノーピークの赤字転落は、キャンプブーム終焉の印象を色濃く与えることとなりました。
第2次キャンプブームがいわれるようになった2018年には121億円だった売り上げを2022年には308億円まで伸ばし、コロナ禍の追い風を受けて増益を重ねていたスノーピーク。しかしながら、2023年12月期の通期決算では大幅な減収減益を記録。売上高は前年比16.4%減の257億2800万円、営業利益は同74.3%減の9億4300万円、親会社株主に帰属する当期純利益は同99.9%減の100万円で、市場に衝撃を与えました。2024年1〜3月期の連結決算は、最終損益が5億1300万円の赤字、2024年7月には株式が上場廃止されています。*3
では、本当にキャンプブームは過ぎ去ってしまったのでしょうか。
「キャンプブームの終焉とは、在庫を抱え過ぎた小売店と、卸を主販路としているメーカーの在庫調整のことではないでしょうか。 確かにコロナでキャンプを始めたビギナー層の中にはキャンプから離れている人もいますが、キャンプ好きをターゲットにしている自分たちのようなガレージブランドは大きな影響は受けていません」と語るのは、コアなファンの獲得に成功しているガレージブランドであるneru design works *4代表の重弘剛直氏です。ガレージブランドとは、自宅のガレージで作ったような小規模なメーカーが販売する商品、またはそのメーカーを指します。アウトドア用品においては、個人事業主などが小規模に良質なアウトドア商品を製造・販売するブランドを指し、近年注目を集めています。neru design worksも新商品を発売すれば瞬く間に売り切れてしまう人気で、新型コロナパンデミック後も売り上げを伸ばし続けています。
日本の職人によるメイドインジャパンなモノづくりにこだわって生まれた商品。
半年待ちの人気商品。
キャンプ人口は減っていても、キャンプ日数は長くなり、キャンプ回数は増加傾向にあります。新規キャンパーによる大型購入の大幅減やライト層のキャンプ離れはある一方で、キャンプを本当に楽しみたいという層は堅固であることがうかがえます。初心者向けの基本的なキャンプ用品の購入は落ち着き、キャンプをより快適に楽しみたい、よい品質のものを長く使いたいというコア層のニーズに応える商品、アプローチが求められています。
日本独自のキャンプ文化を世界へ
「日本のキャンプは世界的に見ても独自のスタイル」というのは前述の重弘氏。欧米では、一般的に、キャンプは登山をするためのベースキャンプであるなど、手段であることがほとんどです。しかしながら、日本のキャンプはキャンプそのものが目的で、キャンプのためのキャンプ。だからこそ、細やかなところまでキャンプ道具が充実し、快適に過ごせるキャンプ場も充実しています。美しい自然の中で非日常が味わえるキャンプ体験ができる日本は、気候とロケーションに非常に恵まれたキャンプにぴったりの国です。SNSによって日本のキャンプスタイルが世界中に発信されるようになると、それをみたアジアのキャンパーが日本でのキャンプやキャンプ用品に高い関心を寄せるようになりました。中国や韓国、台湾といったアジアの国々からキャンプを目的に来日するキャンパーが増えています。また、日本のモノづくりにこだわった、ハイクオリティでデザイン性の高いアウトドア用品も、人気を獲得しています。
国内のキャンプ人口は今後落ち着き、コロナ禍のような増加は考えづらい、あるいは人口減に伴い減少傾向が予想されます。そんな中、インバウンド増加に伴い、海外キャンパー、訪日客の取り込みは市場にとって見逃せないキーポイントといえます。
キャンピングカーに着目
アウトドア関連商品の中で、注目したいのがキャンピングカーです。新型コロナウイルスのパンデミック後も売り上げを伸ばしています。2023年にはキャンピングカーの販売売上総額は、新車・中古車を併せて過去最高の1,054.5億円となりました。これは対前年比138%の売り上げとなります。年々着実に売上を伸ばしてきたキャンピングカーですが、2022年、2023年と急増。2023年は前年より10,000台増加し、過去最高の155,000台に到達しています。背景には、目的が多様化したことが一つ。キャンプそのものというよりも、自然災害が増加する中いざというときの備えとして、リモートワークが進む中オフィス代わりとして、インバウンドにより宿泊費が高騰する中ホテル代わりとして、キャンピングカーを保有する人が増えているのです。キャンピングカーを保有したことで、時間を気にせず旅行ができるようになることで、2泊以上の長期旅行に利用している人が7割。宿泊費用が要らず、旅行全体のコストが抑えられることで、消費活動が増加するという調査結果も出ています*6。
また、キャンピングカーは海外からの観光客にも人気です。キャンピングカーのレンタルで国内大手のジャパンキャンピングカーレンタルセンター(JAPAN C.R.C.)*7によれば、訪日客へのレンタル売上は、2024年6月時点で既に過去最高だった2023年の売上に達しています。インバウンドの急増に伴い、国内の宿泊施設の予約が取りづらくなっていること、価格が高騰化していることも影響しています。
海外キャンパーの日本スタイルのキャンプへの人気とともに、キャンパー以外の来日客がキャンピングカーを通じて、アウトドアやアウトドア商品とつながる接点にもなっています。一例として、JAPAN C.R.C.では星野リゾートと連携し、キャンピングカーのレンタルに星野リゾートのスキー場の共通リフト券と星野リゾートの施設利用がセットになったスキーヤー・スノーボーダーのためのプランを売り出すといったサービスを提供*8。他業種とのコラボレーションで、単にキャンピングカーのレンタルにとどまらない市場開拓を展開しています。
キャンピングカーの保有、レンタル台数は、インバウンドの伸びに伴い、今後も安定した成長が期待されます。他業種からのアウトドア市場への参入は供給過多による市場全体の鈍化を招きましたが、一方で枠にとらわれない発想での連携は、まだ見ぬ新規顧客の発掘の可能性を秘めています。
アウトドアメーカーの地域活性型戦略
キャンプを始めとするアウトドアは、国内外の顧客を問わず、日本の自然環境の美しさやハイクオリティなモノづくりの再発見につながっています。これは少子高齢化が極まり、生き残りが待ったなしの地方にとって、地域活性化の糸口になり得ます。
たとえば、ガレージブラントとのコラボレーションで地域の伝統工芸が息を吹き返すといった事例もあります。
登山用品を中心に世界的なアウトドアメーカーへと発展したモンベル*9のように、アウトドア活動を通じて地域の活性化に貢献する事例もあります。モンベルでは、地方自治体や公的機関、企業、教育・学術団体、医療機関と「包括連携協定」を締結。2024年9月13日現在、155カ所と締結しています。
協定の内容は以下の通りです。
(1)自然体験の促進による環境保全意識の醸成に関すること
(2)子どもたちの生き抜いていく力の育成に関すること
(3)自然体験の促進による健康増進に関すること
(4)防災意識と災害対応力の向上に関すること
(5)地域の魅力発信とエコツーリズムの促進による地域経済の活性化に関すること
(6)農林水産業の活性化に関すること
(7)高齢者、障がい者等の自然体験参加の促進に関すること
これらの協定をもとに、子どもたちの野外体験や高齢者や障がい者の自然体験、被災地支援などさまざまな活動を行なっています。モンベルの地域活性型イベントとしては、「SEE TO SUMMIT」*10 があります。海(カヤック)から里(自転車)、そして山頂(登山)へと人力のみで進む中で、自然に思いを馳せ、自然について考えようという環境型イベントですが、2024年は全国10箇所で開催。過疎化の進む地方で大型店舗を展開し、成功を収めるモンベルの背景には、地域を活性化させるこうした地道な取り組みがあります。
まとめ
新型コロナパンデミック後、アウトドア市場はキャンプブームの再燃で活況を呈しましたが、2022年以降は全体的に減速傾向にあります。市場の拡大には新規キャンパーの増加やキャンプスタイルの多様化が寄与しましたが、現在はコア層が支持する高品質な商品が注目されています。今後もその流れは続くと考えられます。一方、キャンピングカー市場は多目的利用や訪日観光客の需要増により成長を続けています。今後は一層地域活性化やインバウンド需要の取り込みが市場拡大の鍵となるでしょう。