関西のスーパーマーケット競争激化! 消費者が本当に求めるものとは?

関西でスーパーマーケットの競争が激化中!オーケーやロピアの戦略、地元スーパーの対応、消費者のニーズを徹底解説。差別化のヒントを提供します。

関西でスーパーマーケットの競争がにわかに激化しています。元々地元企業同士の戦いだったところに関東や他エリアから競争相手が相次いで進出し、「加熱するスーパーマーケット競争」、「真っ向勝負の冬の陣」、「スーパー戦国時代到来」、等々、盛んに報道されています。日本でスーパーマーケットが産声を上げて半世紀以上たちますが、競争対策は日常業務と言ってもよく、各社様々な対策を講じてきました。激化する競争の中で、消費者がスーパーマーケットに求めるものは何か、改めて考えてみます。

なぜ関西エリアが注目されるのか?競争激化の背景を探る

話題の中心は11月26日に東大阪市高井田に関東から初めて出店したオーケー(横浜市)です。2021年に関西進出を目指し、関西スーパーマーケット(現・関西フードマーケット)と経営統合すべく、エイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)と争奪戦を繰り広げました。事態は臨時株主総会、法廷闘争へともつれ込みましたが、H2Oに軍配が上がり、買収は断念することとなりました。今回は満を持しての自力出店です。*1しかし、この競争は今年始まったわけではなく、遡ること2020年、やはり関東からロピア(川崎市)が進出しています。現在同社は関西地区で20店(2024年12月現在)、年間5店というハイペースで拡大してきました。*2さらに、福岡、沖縄、そして海を越えて、台湾へも進出しています。また、バロー(岐阜県多治見市)の関西初出店はもう少し遡り、2014年です。店舗数を徐々に増やし、現在関西地区で26店、2023年にはトーホーストア(神戸市)の店舗を13店買収し*3店舗網拡大を図っています。今秋、関西での物流センター稼働を開始し*4、物流体制強化にも着手しました。

関西へ進出する最大の理由は何よりも人口です。全国的に人口減少が進む中、関東圏に次いで人口が多く、長期スパンで見てもまだ集客が望めるエリアです。加えて、首都圏では出店地も少なく、運よく見つかった場合でも、ライバルが多いので競争になり、賃料が上昇するため、各社は関西に熱い視線を注いでいます。*5

オーケー「高井田店」同社ホームページより

本格的な差別化競争へ:関西エリアスーパーマーケット業界の新時代?

オーケーは関西のスーパーマーケットにない特徴を持っています。経営方針は、「高品質・Everyday Low Price」。毎日が特売としており、多くのスーパーマーケットで一般的な、期間限定の特売価格がありません。品揃えを絞り込み主力品を大量販売、戦略としてトップメーカーの商品にこだわらずに取り扱うことで低価格を実現しています。さらに、コスト管理も徹底しており、光熱費削減のためにペットボトル・缶などの飲料は要冷蔵商品以外、全て常温で販売しています。使用済みカートの放置防止のためコインロック式カート*を導入、回収業務をなくし、人件費削減につなげています。そして、これらの企業努力について消費者から理解を得るための発信にも力を入れています。特徴的なのが、「オネスト(正直)カード」です。カードには例えば、「長雨の影響で、レタスの品質が普段に比べ悪く、値段も高騰しています。暫くの間、他の商品で代替されることをお薦めします。」等の表記があり、購入時に正確で、正直な商品情報を伝えています。商品開発にも力を入れており、消費者が繰り返し購入する圧倒的な人気商品があり、店頭を賑わしています。経営方針の「品質と低価格」を実現するためには、消費者に理解・協力を求め、それを積極的にアピールする点が、他にないユニークなビジネスモデルです。*6*7

ロピアも同様に価格・品質を重視し、「同じ商品ならより安く」「同じ価格ならより良いものを」をモットーとしており、大容量パックに力を入れています。それをいくつも詰めて2カゴ、3カゴと購入する家族連れも多く、主要顧客を30代~40代の4人家族に向けた品揃えが特徴の一つです。また、総菜や醬油などのメーカーをグループ企業に統合し、PB製造を内製化、独自性の高い商品開発を行っています。グループ企業も、小売り、食品メーカーだけにとどまらず、道場六三郎事務所などの外食もあり、食を幅広くとらえた企業体制を取っています。*8

関西に進出する企業はそれぞれ、売場の作りが違い、ベースにある考え方も違うので、競争の質が変わると考えられます。似通った商品が並び、違いは価格だけの同質化競争から、品質・価格プラス、消費者のニーズを反映した他社と差別化できるサービスを提供するという、差別化競争へと変わります。迎え撃つ関西の各社も自社の特徴を見直し、それを磨くでしょう。地域のスーパーマーケットのレベルが上がり選択肢が広がることは、消費者にとってメリットです。
*コインロック式カート:
カート同士をキーで連結させ、接続部分にコインを挿入して解錠し、使用する。使用終了時には、所定の位置に戻し、戻すとコインが返却される仕組み

地域密着と差別化で勝つ!消費者ニーズへの対応術

今回オーケー関西1号店の出店を受け、近隣の「ライフ」「万代」はいずれも大型改装を行っています。特にライフとオーケーの間は距離にして約200mの至近距離です。顧客が流出しないよう対策を打ちますが、その捉え方を今一度見直すことが重要です。地元のどの層のどのニーズに応えるか、このエリアで28年店舗を維持してきたライフには地域の変化を肌で感じている優位性があります。高井田には近年JRの新駅ができ、大阪市内へのアクセスがよくなったため、20代~40代に人気のエリアに変化しています。改装では、増加している単身世帯・ニューファミリー世帯に合わせて「時短」をキーワードに品揃えを見直しました。共働きや料理に時間を取れない人に向けて、すぐに食べられる即食商品を充実させています。総菜コーナーでは食事のイメージが膨らむよう音や香りを届けられる対面の調理コーナーを設置しました。また、単身者に向けて多くのアイテムで少量サイズの展開も強化しています。オーケーと同質のものを志向しないことを前面に出したコンセプトです。*9このように消費者のニーズ、自社の強み、それをどのように売場で表現し、どのように伝えるか、各社知恵を絞ります。

ライフ「高井田店」 同社ニュースリリースより

スーパーマーケット選びの基準とは?消費者の本音を探る

しかし、「地域のスーパーマーケットのレベルが上がり選択肢が広がる」は、一筋縄で実現できるものではありません。と言うのも、日常の食は消費者それぞれのライフスタイルと密接に関わり、かつ、ライフスタイルが多様化、その上食分野においては、ひとりにも複数のスタイルがあります。消費者は、「自分のスタイルに応じて」、「欲しい食材を」、「気軽にいつでも買える」ことを望んでいます。日常会話的に言うと、こんな感じではないでしょうか。

私が買いたいものがいつ行っても、品切れなく、希望の分量で買えて、
鮮度のいい旬の素材だけではなく、できたての総菜もあって、
魚をおろしてくれて、カボチャのカットや大根の葉を落としてくれる下ごしらえもしてくれて、
新商品、そして、たまにはちょっと珍しいものもあって、
食事作りの負担が軽くなるヒントがもらえて、
おまけに、安い、という、スーパーが家から5分の所にあるの。

車に乗る人の要望も加えると、こんなこともプラスされます。

駐車場待ちはなくて、入りやすく、出やすい、駐車もしやすい、
雨の時はお店の入口まで濡れずに行けるとベスト、
荷物を運んでも、カートの返却場所が近くにあると便利だな。

これらの希望の中で、安さ最優先の人もいれば、商品最優先の人も、総合的な便利さを重視する人もいて、様々です。夢のようなお店ができれば嬉しい限りですが、消費者は、スーパーマーケットは便利ではあるが、一つの店舗だけでは自分の食生活のあらゆる希望を満たすことができないことはよくわかっています。下記のグラフからもわかるように、*10家から一定の距離の中で、求める品質と価格を経験と直感で絶妙に図りながら買い回り、使い分けをしています。

<2024年版 スーパーマーケット白書(一般社団法人 全国スーパーマーケット協会)>

関西エリアスーパーマーケット業界の未来:競争の行方と消費者ニーズ

幅広い層にできるだけ多数来店してもらうには、地域の状況に合わせて常に店舗をアップデートしていく必要があります。それはどの業種でも同じだと思いますが、スーパーマーケットは取扱い品目数が10,000点にも達し、来店頻度が格段に高い点が他の小売業とも、他の業種とも大きく違います。誰もが毎日取ることが確実な食品のパワーをドラッグストアなどは重視しており、マグネット(集客装置)として、食品を低価格で販売し、売上の半数を食品が占めるチェーンもあります。人口が減少し、日本全体の胃袋が縮小していく中、同業他社以外からも、侵食されているのが現在のスーパーマーケットです。そして、あらゆるコストの上昇は大変な逆風であり、2025年は今年を上回るペースで物価が上昇すると予想されています。「価格」は外すことのできない重要な要素ではありますが、スーパーマーケットにはそれだけではない「食」に関する何らかの価値を追求し、多忙な毎日を送る消費者が見失っているニーズのドアをノックすることを期待したいです。

この記事を書いた人

藤間(とうま)香奈

食品スーパーマーケットの業界団体で、加盟企業の社員研修の企画、運営、講師として長年従事。現在は一般社団法人文章添削士協会の論理的な文章を書くためのサポートをする認定添削士として活動中。