
- はじめに
- コロナワクチン定期接種の世界の動向
- mRNAワクチンおよびレプリコンワクチンとは?
- 国内で接種できる新型コロナワクチン
- 新型コロナワクチンのメリット・デメリット
- 新世代ワクチンの現状と今後
- まとめ
はじめに
新型コロナ(Covid-19)のパンデミックは、ワクチン技術に革新をもたらしました。それまでワクチンを含め薬剤の開発には10年以上の長い時間がかかると考えられてきましたが、新型コロナワクチンは1年弱という従来のワクチンにはないスピードで実用化されました。可能とした背景には、mRNAワクチンの登場があります。新型コロナという世界的脅威が、長年研究段階にあったmRNAワクチンの製品化を一気に押し進めたのです。mRNAワクチンは、新型コロナのパンデミックの中で実用化され、大規模に普及しました。ファイザー/BioNTech社やモデルナ社が開発したワクチンは、高い有効性を示し、世界中で接種されました。また、mRNAワクチンは、新型コロナウイルスをはじめとする感染症以外にもがんや希少疾患の治療にも応用が進められています。さらに、mRNAワクチンの中には、新たにレプリコンワクチンと呼ばれるタイプのワクチンも登場しています。 本記事では、新世代ワクチンのメカニズム、メリット・デメリット、現状や課題、今後の展望について解説します。
コロナワクチン定期接種の世界の動向
新型コロナウイルスへの感染やワクチン接種により、集団全体として一定の免疫が形成されたことで、落ち着いた感のある新型コロナですが、2023年は3万8080人の死亡原因となっており、主に高齢者などでは依然重症化リスクの高い感染症です。
WHOでは、高齢者、重症リスクの高い大人、妊婦、医療従事者への初回・追加接種および定期接種による追加接種を推奨していますが、基礎疾患等のない健康な子どもたちへの接種は優先度が低いとしています。 日本では、2024年10月から65歳以上の高齢者および60-64歳の重症化リスクの高い方への新型コロナワクチンの定期接種が始まりました。
【WHOの新型コロナワクチンの利用に関する指針】
| 優先度 | 具体的な対象者 | 初回接種、追加接種 | 更なる追加接種 |
|---|---|---|---|
| 高 | ・高年齢者※1 ・重大な併存疾患や高度の肥満を有する成人 ・中等度から重度の免疫不全の生後6か月以上の者 ・妊婦 ・医療従事者 |
推奨 | 推奨(最後の接種から12ヶ月後又は6ヶ月後※2) |
| 中 | ・健康な成人 ・高度の肥満や併存疾患を有する生後6か月~17歳の者 |
推奨 | 定期的には推奨しない※4 |
| 低 | 健康な生後6か月~17歳の乳幼児、小児 | 各国で検討すべき※3 | 定期的には推奨しない※4 |
※1 年齢の定め方は各国において検討すべき。概ね50-60歳が一般的。
※2 超高齢者(年齢の定め方は各国において検討すべき。概ね75-80歳が一般的)、多数の併存疾患を持つ高齢者、免疫不全の者については6ヶ月後。
※3 疾病負荷、費用対効果及びその他の健康やプログラム上の優先度や機会コスト等に基づく。
※4 「定期的には推奨しない」とは、「ルーチンの接種プログラムに含めることを推奨しない」という意味。国によっては、集団リスク、疾病疫学、または保健上の優先事項に基づいて、ルーチンの接種プログラムの中で接種を行う選択を取り得るとしている。
mRNAワクチンおよびレプリコンワクチンとは?
mRNAワクチン、10月からの定期接種に登場したレプリコンワクチンとは、どのようなワクチンなのでしょうか。
mRNAワクチンは、メッセンジャーRNA(mRNA)を利用し、体内で病原体の抗原を一時的に生成させるタイプのワクチンです。mRNAは、「メッセージを運ぶRNA」という意味です。細胞の中で、DNAに書かれた遺伝情報をリボソーム(タンパク質を作る工場)に伝える役割を担っています。DNAは細胞核の中にありますが、直接そこからタンパク質を作ることはできません。そこで、DNAの情報をコピーした「mRNA」が橋渡し役になります。ただし、体外から接種されたmRNAワクチンは、遺伝情報がしまってある核の中に入ることはできません。よって、mRNAワクチンがヒトの遺伝子を書き換えることはありません。
mRNAワクチンの仕事は、病原体(ウイルスなど)の一部を作るための設計図を体内に届けることです。 体はその設計図を使って、無害な「スパイクタンパク質」を作ります。スパイクタンパク質は、新型コロナウイルスをはじめとするウイルスの表面に突き出ている「とげ」のような構造を持つタンパク質です。この「とげ」は、ウイルスが人の細胞に侵入するための鍵のような役割を果たしています。mRNAワクチンでは、体内で設計図に沿って作られたスパイクタンパク質を異物として認識させ、免疫反応を起こすことで、病気に対する免疫が作られます。つまり、体内で病原菌のタンパク質を作らせることで、抗体を作り、免疫を得るというメカニズムです。従来のワクチンの、病原体を弱体化、あるいは無毒化したものを接種し、免疫細胞に覚えさせることで病気の予防につなげるというメカニズムとはまったく異なります。
10月からの定期接種に登場したレプリコンワクチンは、mRNAワクチンの一種ですが、自己増幅型のRNA(レプリコン)を基盤としています。接種後、レプリコンRNAは細胞内で自己増幅を行い、抗原の持続的な生成を可能にします。ウイルスの自己増幅を可能にするエンジン(複製酵素や増幅開始部位)は残しつつ、感染や増殖に必要な遺伝子(構造遺伝子など)は削除されています。これにより、ウイルスが細胞内で増殖する危険性を排除する一方で、一般的なmRNAワクチンよりも長期間にわたって抗原を産生でき、少量のワクチンでも高い効果が持続することが期待されていますが、現時点では既存のmRNAワクチンと予防効果の長さの違いを証明する臨床試験はないとされています。
国内で接種できる新型コロナワクチン
国内で承認されている新型コロナワクチンは主に、mRNAワクチンと呼ばれるタイプのものです。ファイザー/ビオンテックのコミナティ、モデルナ/田辺三菱のスパイクバックス、日本製の初の新型コロナウイルスワクチンとなる第一三共のダイチロナ、そしてレプリコンワクチンであるMeijiSeikaファルマ/アークトゥルスのコスタイベの4種類がそれに当たります。もう一つの武田製薬/ノババックスのヌバキソビットは、組換えタンパクワクチンです。事前に人工的に生成したウイルスのスパイクタンパク質を接種することで免疫反応を誘導するメカニズムのワクチンです。
新型コロナワクチンのメリット・デメリット
mRNAワクチンの特徴は、迅速な設計と製造が可能である点です。従来のワクチンがウイルスの培養や精製を必要とするのに対し、mRNAワクチンは遺伝子配列の情報さえあれば製造でき、短時間での開発が可能です。さまざまな変異株が現れる感染症において、短時間で製造できるmRNAワクチンは、そのシーズンの流行に応じた株に対応することが可能になり、より高い有効性が期待できます。
一方、まだ接種が始まって数年のmRNAワクチンは、現時点での安全性は確認されているものの、長期間にわたる人体への影響は不明です。従来のワクチンに比べて、頭痛や発熱等の副反応の頻度が高いこと、死亡も含めた予防接種健康被害救済制度の認定件数が多いことをデメリットとして指摘する声もありますが、新型コロナワクチンの総接種回数は436,193,341と分母が大きく*1、分母に対する割合としては決して突出して高い認定件数とはいえないことにも注意が必要です。一例として、新型コロナワクチン接種後の死亡として報告された事例は、23,864,305回中26件で、いずれも情報不足等によりワクチンとの因果関係は評価できないとされています(集計期間:令和5年9月20日から令和6年1月28日)。100万回あたりの報告件数としては1.1件です*2。
そもそも、救済制度において死亡として認定されている場合であっても、ワクチンによる死であると短絡的に結びつけることはできません。予防接種健康被害救済制度の考え方として記されているとおり、「個別事例について、予防接種と予防接種後に生じた有害事象の因果関係を厳密に証明することは通常不可能である」からです。証明が不可能だからこそ、接種後に有害事象が起きた場合の救済措置として設けられているのが予防接種健康被害救済制度ともいえます。よって、「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とする」というスタンスで審査が行われています。
また、ワクチン接種者の体から出ている有害物質が、ワクチンを打っていない非接種者に影響を及ぼすとするシェディングの問題もSNS等を中心に一部不安を訴える声がみられますが、医学的な根拠に乏しいものです。mRNAワクチンは前述の通り、ウイルスの表面にある「とげ」だけの設計図であり、体内で設計図に沿って作成されるものはスパイクタンパク質であって、ウイルスそのものではありません。
このように新しい技術への不安はつきものですが、不安を払拭し、かつワクチン接種による副反応のリスク低減のためにも、さらなる研究開発に期待したいところです。しかしながら、副反応が起こる可能性を完全にゼロにすることはできません。医療は常に進化形であり、いま解明されている最適解です。現時点での安全性が担保されることは大前提ですが、限界があるのが医療であり医学です。医学への過剰な不安の一方で、医学への過信、過剰な期待を避け、適切な判断をするためにも、国民一人ひとりのリテラシー向上が不可欠です。ワクチン摂取でいのちが助かる・重症化を防ぐメリットと副反応によるデメリットを考慮した上で、適切な選択をすることが重要です。国民のワクチン技術への社会的理解を深め、誤解や根拠のない不安を払拭するためには、国や製薬企業のみならず、メディアにも公正で透明性のある情報提供と啓発活動が求められています。
新世代ワクチンの現状と今後
レプリコンワクチンは、世界に先駆けて国内で承認されました。その背景には、パンデミック渦で明らかになった日本のワクチン国力、研究開発力の弱さ、遅れを挽回したい国の思惑も見えます。レプリコンワクチンは、2024年12月に欧州医薬品庁(European Medicines Agency: EMA)の医薬品委員会(Committee for Medicinal Products for Human Use: CHMP)により販売承認勧告が採択され、今後欧州委員会(European Commission)により最終的な販売承認の決定が行われる予定です。
10月からの新型コロナの定期接種には、国産のmRNAワクチンも加わりました。国産ワクチンでも遅れを挽回したい国の意向が見て取れます。
近い将来、定期接種として一般になじみのあるインフルエンザワクチンもmRNAワクチンへと移行していくと考えられています。また、インフルエンザと新型コロナワクチンが一回で接種できる混合ワクチンの登場も予測されています。
新型コロナに限らずインフルエンザ等の感染症もmRNAワクチンへの移行が進むという大枠の流れにありながらも、新しいタイプのワクチンへの切り替えには副反応も含めた国民の心理的ハードルの高さは見落とせない側面です。今後の市場形成には、国の動向もですが国民の意識・動向にも着目する必要があります。
また、感染症のみならず、がんや希少疾患の治療にも応用が進められています。医療の範疇にはない“予防”における心理的ハードルは高い一方、命や日常生活に関わる疾患の“治療”においてmRNAワクチンが広く受け入れられる可能性は高いと考えられます。新世代ワクチンには、新たな治療法としても期待がかかります。
まとめ
新型コロナパンデミックにより実用化が進んだ、従来のワクチンとは異なる新しいメカニズムを持つmRNAワクチン。人々が安心して接種できるようになるためには、安定性や安全性向上、副反応の軽減などの進展が求められています。同時に、国民側も新しい医療技術を過剰に恐れず適切な選択を可能にするリテラシーの向上が重要です。
また、mRNAワクチンには、感染症の予防のみならず、がんや希少疾患の治療に応用され、患者一人ひとりに最適化された個別化医療に貢献することが期待されています。

