健康と嗜好の進化:アルコール/ノンアルコール市場の変遷と未来

健康志向の高まりや飲酒文化の変化により、アルコール/ノンアルコール市場は転換期を迎えています。これまで「量」や「安さ」が重視されてきたアルコール市場では、品質や付加価値に焦点が移り、ノンアルコール市場は健康やライフスタイルの多様性を背景に成長しています。本記事では、アルコール/ノンアルコール市場の現状、それぞれの成長要因、そして今後の展望を解説します。

アルコール市場は量から質へ

人口減少はもとより、若者の飲酒離れや健康志向の高まりといった消費者の意識・ライフスタイルの変化に伴う飲酒控えにより、酒類全体の消費量は減少傾向にあります。2023年の日本国内アルコール消費量は、1999年のピーク時と比較して約20%減少しています。2023年12月1日から、国家公安委員会が定めるアルコールチェッカーでアルコールチェックを行うことが義務化・厳格化されたことで、ますますアルコール控えに影響することが考えられます。

<図表:酒類課税数量と課税額の推移*1

かつてのアルコール市場は、ビールを始め、大衆向けに大量生産される安価なものが主流でした。しかし、アルコール市場が縮小傾向にある中、市場には量から質への転換が求められています。新型コロナ禍におけるリモートワークの普及や外食の自粛により、自宅での食事や飲酒を楽しむ「おうち時間」が定着したことも、消費者がアルコールに「質」を求める流れを促進しました。

プレミアム化というトレンド

クラフトビール、高級ウイスキー、日本酒など、高品質で希少性の高いプレミアム商品への需要が拡大しています。

<プレミアム化の具体例>

・クラフトビールの台頭

地域の小規模醸造所によるユニークなフレーバーのビールが人気を博しています。全国各地の地域色豊かな商品は国内外で注目されています。山梨県北杜市にある八ヶ岳ビールタッチダウンのように、地元のホテルやレストラン、コンビニ、スーパーなどへの販路で足元を固め地元に愛されながらも、世界のビアコンペで金賞や最高賞を受賞するような世界に通用するクラフトビールが登場しています。

また、一例として、「よなよなビール」をはじめとするクラフトビールで知られるヤッホーブルーイングは、1997年に長野県軽井沢町で創業、新規性に伴う最初のブームは瞬く間に終わり、赤字が続きました。しかしながら、社員の約半数を営業やマーケティングに配置し、ニッチな層へ向けた徹底したブランディングで、26期(2020年12月〜2021年11月)まで19期連続増収を続けています*2。大手ビールメーカーがシェアのほとんどを占める国内ビール市場に、クラフトビールという新たな市場を創り出すことに貢献してきました。

・高級ウイスキー市場の拡大

2022年には約38億6000万ドル規模だった日本のウイスキー市場は、年平均成長率9.2%で拡大を続け、2032年には約93億2000万ドルに達すると予測されています。*3

日本のウイスキーは国内外で高い評価を受けており、サントリーの「響」やニッカの「竹鶴」などの高価格帯が需要を伸ばしています。2024年10月には、響シリーズの新作「響40年」(3万5000ドル)の限定販売が発表され*4、日本では発売価格400万円(税抜)で限定100本の抽選販売がおこなわれています。パッケージにもこだわり、超長期熟成原酒の琥珀色を美しく映すクリスタルボトルに、ボトルキャップには日本の伝統工芸である蒔絵が施されています。木箱は、日本の季節の移ろいを表現するために十二面とし、異なる12種類の木材を使用しています。*5 徹底した「和」ブランディングでプレミア化に成功しています。

・日本酒ブーム

一部ひそかなブームとされる現在の日本酒市場は、明暗が分かれている状況が垣間見えます。国内の出荷量は年々減少する日本酒ですが、海外への出荷量は、日本食ブームに伴い増加傾向で推移しています。*6

人気のある酒蔵は、アルコール度数の低い日本酒づくり、パッケージやネーミング、酒蔵見学や利き酒の会など、伝統的な酒造り自体へのこだわりに加えて、トレンドに合わせた柔軟なアプローチで、ブランド化に成功しています。

日本酒の可能性は、高級シャンパンとして世界中で愛される「ドン ペリニヨン」(通称ドンペリ)の元醸造最高責任者であるリシャール・ジョフロワが桝田酒造店の蔵元桝田隆一郎との出会いをきっかけに、日本酒をもっと世界で愛されるお酒にとの思いから日本酒づくりへと転身したことからも伺えます。彼らのコラボによって、酒造白岩の日本酒「IWA5」が生まれました。*7

2024年12月には、日本酒や焼酎、泡盛といった日本の「伝統的酒造り」が12月にユネスコ無形文化遺産に登録されました。日本酒市場にとって、追い風となることが期待されますが、いかにプレミア化できるかが鍵を握っています。

ノンアルコールという新たな文化の形成

アルコール市場が縮小する一方で、ノンアルコール市場は近年急速に成長を遂げています。2022年は4,084万ケース(対前年102%)で、10年前の約1.4倍の規模に拡大していると推測されています。*8

市場拡大の背景には、消費者の意識変化や健康志向の高まり、ライフスタイルの多様化などがあります。

まず、生活習慣病予防やメンタルヘルスへの配慮が進む中で、健康のためにアルコール摂取を控える動きが広がっています。また、カロリーや糖質ゼロなど、健康志向の消費者にとって魅力的な商品が登場しています。飲酒を控えたい妊婦や授乳中の女性、健康上の理由でアルコールを避ける必要がある人々にとっても、ノンアルコール飲料は飲酒したいストレスを軽減し、最適な選択肢として歓迎されています。また、翌日の仕事や運転を考慮して、アルコールを控えたい場面でも重宝されています。飲酒運転防止の意識向上もノンアルコール飲料の需要を後押ししています。

さらに、ソーシャルな場面での利用も増えています。飲み会やパーティーなどで、アルコールを摂取しない選択をしても、ノンアルコール飲料があれば気軽に場の雰囲気を楽しむことができます。特に、ビールテイスト飲料の人気が高まる中で、「飲んだ気分」を味わえることが大きな魅力となっています。最近では、アルコール飲料と遜色のない味わいや香りを実現した製品が多く登場し、消費者の満足度が向上しています。

アルコールの代替品から新たな嗜好品へ

一方で、注目すべきは、ノンアルコール飲料が単なる「アルコールの代替品」から「新たな嗜好品」へと進化している点でしょう。

ノンアルコール飲料の飲用理由として、「車を運転する必要があるため」「お酒を飲んだ気分になれるから」を抑えて、「リフレッシュ・気分転換したいから」がトップ1になっています。

さらに、ノンアルコール飲料のイメージでは、「食事を楽しむために飲むもの」「気分転換をサポートしてくれるもの」が「お酒の代わりにやむを得ず飲むもの」を上回っていることからも、アルコールの代替品としてではなく、ノンアルコール飲料そのものが市民権を得ていることが見て取れます。

ノンアルコール飲料は、アルコール飲料の代替品としてではなく、新しい飲用文化の一環として定着しつつあります。

まとめ

アルコール市場全体としては縮小傾向にある中、アルコールにはプレミア化が求められています。非日常をもたらしてくれる、スペシャルなアルコール体験という付加価値をつけることが、アルコール市場で生き残るためには重要です。

一方、ノンアルコール市場は、さらなる成長が見込まれています。その成長は、消費者の健康志向やライフスタイルの変化に支えられています。その中で、ビールテイスト飲料を中心に、ワインやスピリッツのノンアルコール版といった新しいカテゴリーの製品が注目されています。また、地域ごとの嗜好に応じた製品開発や、環境に配慮したサステナブルな製造プロセスの導入なども、消費者の関心を引きつけるポイントとなるでしょう。
リラックスタイムや食事と合わせて楽しむほか、スポーツ観戦やアウトドアなど、飲用シーンの多様化も市場拡大を後押ししています。今後、ノンアルコール飲料は国内市場にとどまらず、海外展開の可能性も広がっています。日本特有の技術力を活かした高品質な製品は、健康志向が高まる海外市場でも競争力を持つことが期待されます。

アルコール市場は「量から質」、ノンアルコール市場は「代替品から新しい文化」へと進化を遂げています。消費者の価値観が多様化する中で、企業は市場の変化を捉えた製品開発とマーケティング戦略を構築する必要があります。
健康と楽しみを両立する飲料文化の中で、両市場がともに成長できる未来が望まれます。

この記事を書いた人

今村美都

がん患者・家族向けコミュニティサイト『ライフパレット』編集長を経て、2009年独立。がん・認知症・在宅・人生の最終章の医療などをメインテーマに医療福祉ライターとして活動。日本医学ジャーナリズム協会会員。