
2025年1月で、阪神・淡路大震災から30年、能登半島地震から1年が経過しました。南海トラフや首都直下地震の発生も想定される中、日本における災害対策はどのように進化し、私たちに何を教えてくれるのでしょうか。本記事では、民間でありながら災害支援では国内でも一目置かれる存在である株式会社ぐるんとびー*1を通じて、看護師として被災地支援を行ってきた石川和子さんへのインタビューをもとに最新の防災対策を紹介するとともに、この30年での防災対策の変遷について解説します。
備えは、実際に使えてこそ意味がある
これまで熊本地震や能登半島地震などの大規模災害において、国や行政と連携し、災害直後からいち早く被災者支援に取り組んできた石川さん。その経験から「備蓄品は準備するだけでなく、実際に使ってみることが重要」と語ります。
実際、多くの人が「備えは十分だ」と考えていても、いざ災害が発生すると備蓄品が十分でなかったり、使い方を誤ったりするケースが多いといいます。そこで、普段から備蓄品を使い、停電や断水を想定した防災シミュレーションを行うことを勧めます。簡易トイレや発電機は使えるのか、保存食は自分たちの口に合っているか、量は足りているか。実際に使ってみることで、現実的な備えになっているかが確認できます。
さらに、石川さんはローリングストック法を活用し、「日常的に使用するものを消費しながら備蓄品として補充すること」を推奨します。常に新鮮な状態を保つことができる上に、普段から使うことで使用法や適用性が確認できます。災害時にも普段から使い慣れているもの、食べ慣れているもので過ごせる安心感が得られるというメリットもあります。
ほかにも、大切なポイントとして避難経路の確認があります。地域の避難所や安全な避難経路を把握しておきます。「地域の防災計画に目を通しておくことも役立ちます」と石川さん。居住地に加え、職場のある地域のものも確認しておくことが欠かせません。
平時から大切にしたいこととして、石川さんは次の3つを伝えています。
1つめは、つながること。地域に限らず、人と人のつながりを大切にできているか。
2つめは、学ぶこと。災害時の知識、防災評価など、基礎知識を知っているか。
3つめは、想像すること。今被災したら暮らしがどう変化するか。

実際に、団地を拠点に介護看護事業に取り組むぐるんとびーでは、平時から被災したときのことを視野に入れ、団地に住む利用者さんの承諾を得て備蓄品の備蓄量を増やし、いざというときに利用者さんだけでなく地域を支えられる体制を構築しています。また、普段から防災キャンプを始め、地域の中でさまざまなイベントを開催し、地域の人たちと顔見知りとなり、防災に対する知識を高めながら、つながりをつくることにも力を入れています。

こうした取り組みが一企業を超えて広がっていくことで、大規模な災害にも強い地域が構築できると、ぐるんとびー/ナースケアでは、自治体や市民向けだけでなく企業向けにも、防災セミナーやキャンプ、イベントといった活動を積極的におこなっています。
この30年で進化した災害対策
過去30年で、日本の防災対策は大きく変化しました。多くの自治体や企業が防災計画を見直し、新たな技術が取り入れられてきました。
1. 防災技術の進化:早期警報システムとAIの活用
阪神・淡路大震災や東日本大震災を機に、早期警報システムは飛躍的に進化しました。近年では、AIが防災分野においても重要な役割を果たしています。
一例として、LINE株式会社では、防災科学技術研究所と「インターネット・AI技術を活用した防災・減災に向けた連携協力に関する協定」を締結し*2、災害発生時に、より効果的にLINEが活用されるよう取り組みを進めています。
名古屋市では、株式会社SpecteeのAIリアルタイム防災・危機管理サービス「Spectee Pro」を活用し、南海トラフ地震を想定した防災訓練を実施しています。訓練では、南海トラフ地震、つまりマグニチュード9の大地震による最大震度7の被害を想定し、SNSを利用して迅速に被災状況を把握し、意思決定を行うことに重点が置かれています。
2. 企業のBCP(事業継続計画)の導入と強化
企業も災害リスクを軽減するため、BCP(Business Continuity Plan)の導入を積極的に進めています。BCPとは、企業が災害やテロ、システム障害などの緊急事態に備えて策定する計画のことです。事業の継続性を確保するためには、緊急事態にも迅速に対応し、事業を継続あるいは早期に普及させることができるよう、継続リスク評価や代替供給網の構築が重要です。机上の空論ではなく、現実に即したBCP計画の策定は、企業にとってリスクヘッジとなります。
たとえば、製造業では、災害時にサプライチェーンを維持するため、複数の供給元を確保する分散型の調達モデルが採用されています。自動車メーカーのトヨタは、東日本大震災以降、部品供給網のデジタル化を推進し、災害時の影響を最小限に抑える体制を整えました。
3. 自治体の取り組み
日本政府は、災害対策の一環として「防災基本計画」を策定し、地域社会と連携した取り組みを推進しています。たとえば、自治体主導の「防災訓練」や住民参加型のワークショップが定期的に開催され、災害時の行動指針が住民に浸透するよう推奨しています。
自治体の取り組みの一例として、神戸市では、理化学研究所、ドコモとの産学連携プロジェクトである、「都市計画や防災計画に活用するデジタルツインシミュレーション」*3が進められています。このプロジェクトでは、ドコモが保有する人口統計データや交通手段推定データと、神戸市の地理情報や交通データを組み合わせ、理研のスーパーコンピュータ「富岳」を用いてシミュレーションを実施。災害に強い街づくりの実現を目指しています。
4. グローバルな取り組み:国際協力の強化
災害対策は国内だけでなく、国際的な協力にも広がっています。国連主導の「仙台防災枠組み(2015〜2030)」*4は、災害リスク軽減のためのグローバルな指針を提供し、各国がリスク評価や早期警報システムを共有する枠組みを構築しようとするものです。
特にアジア地域では、日本の防災技術やノウハウが活用されています。たとえば、フィリピンやインドネシアでは、日本政府が提供する災害対策のインフラ整備が進行中で、洪水対策や避難計画の実施に貢献しています。
基本的な備蓄品・防災用品リスト
災害に備えて何を準備しておいたらよいの?という場合には、内閣府が出している『災害の「備え」チェックリスト』*5が参考になります。

防災グッズが揃った防災リュックも人気です。

災害時に必要なグッズは、企業、および個人や家庭の状況やライフスタイルに合わせて準備しましょう。
まとめ
「災害時に強いのは、普段からつながりのある人・コミュニティ。そして、実際の災害をイメージし、現実的な準備を行なっていること」と石川さんは強調します。災害への備えは、個人、企業、地域、国が連携して行うことが重要です。
備えあれば憂いなし。
事前に準備を整え、緊急時に迅速に対応することで、被害を最小限に抑えることができます。
私たち一人ひとりが普段から意識し、十分に備え、つながりのある社会をつくることが、ひいては震災にも強い社会を実現します。
