
いつもは、パワー・インタラクティブ社のブログでヘルスケアをテーマにブログをお送りしている医療福祉ライターの今村美都です。
2025年2月20日に著書『「不」自由でなにがわるい』を出版。今回の記事では、本の紹介、出版に至る経緯と、出版の過程で見えてきた出版業界の「今」をお届けいたします。
まずは、『「不」自由でなにがわるい』ってどんな本?

「ライターなんだから、私の本を書いてよ」
脳性まひで重度の障がいのある友人・ともっちさんこと山下智子さんのこのひとことがきっかけで、『「不」自由でなにがわるい』は生まれました。
本著は、山下智子さんの半世紀を綴ったノンフィクション作品です。
大泉洋主演で映画化された『こんな夜更けにバナナかよ』が男性版脱力版だとしたら、本著は女性版スポ根版とでもいったところでしょうか。
ともっちさんは、肢体不自由で、自分でトイレに行くことも水を飲むこともできません。大好きなビールを飲むにも、介助者のサポートが必要です。しかしながら、24時間365日、介助者の介助を受けて、一人暮らしをしています。障害のある人が一人暮らしをすることを「自立生活」と言います。
山下さんはJリーグの開幕当初からのコアなファン。とりわけ東京ヴェルディにすっかりハマってしまったともっちさんは、平日は練習を観に通い、週末は試合を観戦にせっせと通い詰めました。大好きなヴェルディの練習および試合を思う存分観るために、自立生活を始めたと言っても過言ではありません。

明らかに重度障がいのある、車椅子利用者の女性が毎日のように観に来ているのですから、選手だって気が付かないわけはありません。始めに声をかけてくれたのが、北澤豪選手でした。今では、きぃちゃんと呼ぶ仲です。そして、とりわけともっちさんが注目したのが背番号25番の平本一樹選手です。「一樹は、障がいのことを感じさせない、なんでも言い合える友だち」というほどの仲良し。自立生活25周年を記念して本を出版したいというともっちさんの強い想いの背景には、ずっと応援してきた平本選手への友情がありました。
さて、一ファンに止まらないのが、「スポ根版」。ある日、ともっちさんは気が付いてしまいます。「介助者は観たくて来ているわけじゃない。チケット代払うの、おかしくない?」と。
すでに経営陣とも顔が知られるようになっていたともっちさんは、かけあって、車椅子利用者一人に付き介助者一名は無料という権利を勝ち取りました。介助者のチケット代が無料になるだけでなく、ヴェルディの本拠地である味の素スタジアムには、車椅子利用者観覧席が設けられ、バリアフリーにも配慮された施設となっています。
このように、ともっちさんは通る道々で社会変革を起こしていく人です。『「不」自由でなにがわるい』では、たとえ身体が不自由でもこころは自由なともっちさんが、いかに社会の中にある理不尽と向き合い、変革してきたかのエピソードが満載です。そのマインドセットは、なにかに挑戦する人、社会に変革を起こしたい人にとっても参考になるところが多々あると考えています。
出版塾と出版社によるベストセラー本を生み出すビジネスモデル
ライターなのだから本は書ける。書けなくては困ります。「わかった。本を出そう」と安請け合いをしてみたものの、いざ出版となると、「一部のニッチな人たちの間では知られていても、ほとんどの人が知らない重度障害の女性の話を出版できるのか?」「出版してくれる出版社はあるのか?」と早速壁にぶち当たります。
するとFBで目に飛び込んできたのが出版塾TACの募集広告。
決して安いお買い物ではなかったのに(入会費3万円、受講費69万円(税別))、勢いで申し込んでしまったのは、それほど切羽詰まっていたから、としか言いようがありません。
出版塾ではプロフィールづくりに始まり、本の企画書づくりのための月一東京で開催されるリアルでのセミナーとオンラインでのグループコンサルティング、プレゼンに向けた合宿、ベストセラーを出している敏腕編集者たちの前で行うプレゼン大会のフィナーレまで、約半年間。最初は60名ほどいたはずの同期は、中には一度も参加せずに終わった人も(70万以上払っただろうに?と勝手な心配をしてしまいましたが)。最後のプレゼン大会まで残ったのは50名程。
プレゼンに残った約50名の同期のうち、現時点で出版が決まっているのは20名弱。既に出版をして2冊目3冊目が決まっている同期も中にはいます。しかしながら、出版塾に入ってわかったのは、出版塾に入ったからと言ってかならずしも出版できるわけではない、ということ。私自身、プレゼン大会でも中の下くらいの評価で(ちなみに、出版塾では本著ではなく、医療崩壊をテーマにプレゼン)、編集者から出版の声はかかりませんでした。
では、出版塾は必要がないのか、といえば、そうではありません。
億のビジネスをやっている起業家、教育・医療等各分野のスペシャリスト、電通のコピーライター、セラピスト、アーティスト、主婦まで、「本を出版したい」という共通の想いを抱く、いろいろな肩書の人と出会えるのは出版塾ならではの面白さでしょう。たとえ出版という目的が果たせなかったとしても得られるものはあります。
現在、本を出版しようと思ったら、
①編集者から直接声がかかる
②そもそもつてがあった
③出版社に企画書を送る
④自費出版
⑤出版塾
あたりのルートが考えられます。
SNSが広く普及する中で①の編集者から声がかかるというルートで出版に至るインフルエンサー等も存在しますが、ほんの一握りです。
②は、出版の確率は上がりますが(わたしの場合は直接的にはこのルートです)、周囲に出版社へのつてがあるというのもまた、一般的なルートとは言い難いでしょう。
③は行動に移しやすいルートかもしれませんが、企画書を受け付けている出版社とそうでない出版社があります。企画書を送っても、見られずに終わることはザラです。
④の自費出版はお金さえあれば、基本的にだれでも出版できます。出版の方法として、実現可能な方法の一つと言えるかもしれません。
自費出版ではなく商業出版につなげたいという場合、編集者と出会える機会が得られる⑤の出版塾は、広く門戸が開かれた方法と言えます。
編集者側にとっても、すでにファンやフォロワーがついていて集客力があり、未来のベストセラー作家になりうる著者に、企画の段階まで仕上がった状態で出会える出版塾は、ありがたい存在。本が売れないとされる時代にベストセラー本を生み出す仕掛けとして、出版社と出版塾がタッグを組み、一つのビジネスモデルとして機能しています。だれでも本が出せるわけではありませんが、編集者にとって金の卵を探せる機会になっていることは間違いありません。
本の出版は、企業あるいは個人としても大きな信用が得られるツールです。自費出版ができるのでは?という金額を払っても、出版できるかどうか不確実な出版塾に入る実力者たちがいるのは、このためでしょう。
出版塾によって、企画が強かったり、出版後の販促までアドバイスするところがあったり、出版につながる確率も異なります。それぞれに強みがあり、また主宰者との相性もあります。出版塾も含め、どんなルートで本を出版するのがその後の展開にとってふさわしいのか、事前にしっかりリサーチをして、自分が出版に望むこと、出版で成し遂げたいことを明確にしておくことが重要です。
出版はゴールではなく、やっとスタート地点
ともっちさんとの本を出版するという約束は果たしましたが、出版そのものがゴールではありません。平成28年度に障害者差別解消法が施行。令和6年には改正法が施行され、障害による差別を解消するために、不当な差別的取り扱いの禁止と合理的配慮の提供が義務化されました。一企業にも合理的配慮が義務化されているのです。
この本のゴールは、社会の中にある障害に対する障壁をなくしていくこと。
その一つには、介助者付き就労・就学が制度的に認められることがあります。現在の障害者福祉制度下では、就労時間に介助者の介助を受けることは基本的に認められていません。地域によっては可能な自治体もありますが、まだまだ限定的です。働きたいならば制度を使わず自費で介助者を雇うか、あるいは家族の介助の下であれば働けます。つまり、時給5000円以上の仕事を見つけて自費で介助者を雇うか、あるいは介助者の代わりにずっと付き添える家族がいるか。どちらにしても大きな負担です。テクノロジーの進化で、重度の障害があっても自宅にいながら働ける選択肢は増えてきています。制度の設計自体を見直すときが来ているのです。
ともっちさんは言います。
「私が120%いいと思う社会は、だれにとっても生きやすい社会になるはず」
その社会の実現が見たくて、この本を書いたと言ってもよいかもしれません。
本は全国書店、あるいはAmazon等オンライン書店で購入可能です。
ともっちさんとの出会いのきっかけとなった星つむぎの村のサイトにある星の雑貨屋さんでご購入いただくと(送料はかかってしまいますが)、「病院がプラネタリウム」などの活動資金になります。
https://hoshitsumugi.base.shop/items/99281127
一人でも多く、この本が必要とする人のもとに届くことを願っています。
