エムスリーはどこに向かうのか──医療とITの融合を先導

<出典:エムスリー株式会社 公式サイト>

医療業界は、高齢化社会の進展、医療費の高騰、医師不足など、多くの課題に直面しています。これらの課題解決にITを活用し、革新的なソリューションを提供することで、医療業界に大きな影響を与えている企業の一つが、エムスリー株式会社(以下、エムスリー)です。本稿では、医療現場や企業が直面する課題と、それに対するエムスリーの取り組みによって切り拓かれた新たな展望を紹介します。

医師と製薬会社をつなぐ「MR君」「メディカルマーケター」の進化

近年、新型コロナパンデミックの影響もあり、多忙な医師や病院の面会制限により、製薬企業のMR(医薬情報担当者)が直接医師と会う機会は減少しました。これにより、新薬の重要な情報が医師に届きづらくなるという課題が生じていました。

この状況を打開したのが、エムスリーが提供する医師向けプラットフォーム「m3.com」を活用した「MR君」と「メディカルマーケター」です。日本の医師の90%以上(約34万人)が登録するこの巨大なデータベースを基盤に、両サービスは医師の関心や診療傾向をAIで分析。医師一人ひとりに合わせて最適なタイミングで、必要な医薬品情報を届けます。

多忙な中でも医師が自身のペースで情報を効率的に収集できるようになった結果、より迅速かつ正確な処方判断が可能になり、患者さんへの適切な治療に貢献しています。一方、製薬企業は対面での情報提供が難しい中でも、ターゲットとなる医師に確実にアプローチできるようになり、マーケティングの効率化と新薬の市場浸透を加速させるという恩恵を得ています。

治験の遅れを解消する「エビデンスソリューション」

新しい薬や治療法を世に送り出すための治験は、被験者の確保や医療機関との調整に時間がかかり、開発の遅延が大きな課題となっていました。

エムスリーは、治験支援機能【CRO(医薬品開発業務受託機関)・SMO(治験施設支援機関)・PRO(被験者募集機関)】をグループ内で統合することで、治験業務を一元的に支援する体制を確立。さらに、「m3.com」の圧倒的な医師ネットワークを活用することで、迅速な被験者募集と治験施設の最適なマッチングを可能にしました。治験のスピードと質が飛躍的に向上したことで、より早く新しい治療法を患者さんに届けることを可能にしています。

人材不足の現場を支える「キャリアソリューション」

地域や診療科による偏り、多様な働き方へのニーズの高まりなどにより、多くの医療機関は医師や薬剤師の採用に苦慮しています。

エムスリーキャリアは、「m3.com」上で蓄積された医師の行動データや関心領域を活かし、一人ひとりの希望に沿った、より精度の高い人材マッチングを実現しています。単なる人材紹介にとどまらず、採用後の定着支援や産業医の紹介、さらには医療機関の経営改善まで支援することで、持続可能な人材戦略を包括的にサポートできるのは、エムスリーならではの強みです。

病院経営を立て直す「サイトソリューション」

多くの地域病院は、患者数の減少や医療報酬制度の変更によって経営難に陥っています。また、在宅医療や訪問看護といった新たなニーズにも対応しきれていない現状があります。

エムスリーは、経営コンサルティングや医療データの分析、診療報酬のファクタリングなどを通じて、病院経営の立て直しを支援しています。さらに、訪問看護やホスピス事業などを展開することで、地域の医療ニーズに合わせた包括的な医療提供体制の構築を後押し。診療データと地域ニーズをAIで分析し、最適な診療体制を提案することで、病院が地域に根差した医療拠点として再生することをサポートしています。

海外でも事業展開しており、ベトナムにて病院経営支援、インドネシアで透析施設の運営を行なっています。

医療を身近にする「ペイシェントソリューション&海外事業」

生活者が抱える「医師に相談する機会がない」「信頼できる医療情報が手に入らない」といった課題に対し、エムスリーはITを活用して解決策を提供しています。

「AskDoctors」のようなサービスを通じて、スマートフォンから気軽に医師に相談できる仕組みを提供することで、誰もが信頼できる医療情報にアクセスしやすくなりました。また、エラン社との連携により、入院生活や介護に関する支援も強化しています。

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海外では、世界650万人以上の医師ネットワークを基盤に、製薬マーケティング、治験支援、医療アプリの提供など多角的に事業を展開。

具体的には、米国では、医療従事者向けウェブサイト「MDLinx」を運営、このデータベースを活用して製薬企業向けサービス、医師向けの転職支援サービスや治験支援サービスも提供しています。欧州では、英国で医師向けウェブサイト「Doctors.net.uk」を通じて製薬企業向けサービスを展開、フランス、ドイツ、スペインにおいてVidal Groupを通じて、医薬品情報データベースの提供を行っています。また、eDoctores Soluciones, S.L.を通じて、スペインや中南米において、医療従事者向け診療現場モバイルアプリiDoctusを提供しています。
このように、エムスリーは、世界中の医療アクセス向上と医療の質の向上に貢献しています。

2024年度の連結業績に見るエムスリー

2000年に設立されたエムスリーは、2017年には米Forbes「世界で最も革新的な成長企業」で5位に選ばれ、日本企業としては1位にランクされました*2
医療業界における世界の重要なプレーヤーとして順調に成長を遂げ、コロナ特需でさらなる飛躍を見せていたエムスリーでしたが、22年3月期で成長がストップし、2期連続で減益に転落していました。

2024年度 連結業績(セグメント別)

【2024年度 連結業績(セグメント別)】*3

2024年度、メディカルプラットフォームとエビデンスソリューションは新型コロナ影響で減少も、後者は受注残改善。キャリア、サイトソリューションは好調で増益。ペイシェントソリューションはエラン子会社化で新設。海外事業は売上・利益ともに伸長しました。

なぜエムスリーが医療業界の変革を牽引するのか?

エムスリーは、全世界で650万人の医師が登録するプラットフォーム力、世界最高水準のテクノロジー、各分野のプロフェッショナルによる課題解決力を活かし、世界の医療課題に挑んでいます。

国を超えて、多角的に事業展開することで、今後もさらなる成長を推進する方針です。2024年には福利厚生メニューサービス「WELL BOX」の開発・提供を行う株式会社イーウェルを含む16件のM&Aを実施。今後も国内外のM&Aを積極的に実施することで、グループ全体の強化を図ります。

2023年度時点の売上成長イメージは5年後に6000億円と見込んでいます。競合のいない独自路線を確立することで、高付加価値・高収益の実現を目指します。

おわりに

「インターネットを活用して、健康で楽しく長生きする人を1人でも増やし、不必要な医療コストを1円でも減らすこと」を事業目的とし、日本にとどまらず米国、欧州、中国始めアジア諸国など、グローバルに事業を展開するエムスリー。

単なるIT企業を超え、現場に寄り添う「医療のパートナー」として、医療現場で長らく課題とされてきた「情報が届かない」「人材が集まらない」「治験が進まない」といった問題に対し、データとテクノロジーを駆使して着実に解決策を提供してきました。 今後も、持続可能で質の高い医療の実現に欠かせない存在として、その役割はますます重要になっていくでしょう。

この記事を書いた人

今村美都

がん患者・家族向けコミュニティサイト『ライフパレット』編集長を経て、2009年独立。がん・認知症・在宅・人生の最終章の医療などをメインテーマに医療福祉ライターとして活動。日本医学ジャーナリズム協会会員。

*1:エムスリー株式会社「エランとの資本業務提携について」2024年9月 スライド5 エラン:会社概要

*2:世界で最も革新的な成長企業」ランキング 日本トップは5位のエムスリー | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

*3:エムスリー株式会社会社 説明資料 2025年5月 スライド4