声というメディアの可能性:現代社会における音声メディアの重要性

現在の日本は、世界でも類を見ない超高齢社会に突入しています。内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、2024年10月1日時点の日本の総人口に占める65歳以上の割合は29.1%に達し、2070年には約38.7%に上昇すると予測されています。また、高齢者だけでなく、不登校や引きこもりなどによる孤独孤立が課題となる社会において、生活の質(QOL)向上、社会参加の促進、孤立の防止、そして災害時の安全確保は喫緊の課題です。

高齢化や孤立化が進む社会において、「声」というメディアが持つ可能性に今改めて注目が集まっています。Voicy、ポッドキャスト、Audible(オーディオブック)といった音声配信サービス、地域に根差したコミュニティラジオ、さらにはテレビ・ラジオ放送や電話、スマートスピーカーなど、様々な「声」を介したメディアが果たす役割は、今後ますます大きくなると考えられます。

本記事では、「声というメディアの可能性」をテーマに、多様な音声メディアがなぜ現代社会において重要性を増すのか、考察していきます。

声というメディアの特性

人間の五感の中でも、情報伝達経路の一つとして大切な聴覚。目で文字を追うといった視覚情報処理に比べ、耳から入る音声情報は、直感的に理解しやすいという特徴があります。特に加齢に伴い、視力低下や老眼が進み、細かい文字を読むのが億劫になったり、長時間画面を見ることが負担になったりする高齢者にとって、聴覚への直接的な訴えかけは大きなメリットです。たとえば、新聞や書籍を読むのに苦労する方でも、ラジオやオーディオブックなら無理なく情報を吸収できます。これは、情報へのアクセスにおけるハードルを軽減することにつながります。

同時に、高齢者に限ったことではなく、一日中スマートフォンやパソコンの画面から目を離せず、慢性的な眼精疲労、それに伴う頭痛や肩こりといった症状に悩まされる現代人にとって、目以外から情報が得られる声というメディアのもたらす恩恵は決して小さくありません。

また、多くの音声メディアは、視力や手の動きに制約がある場合でも、気軽に利用できます。たとえば、寝たきりの状態でも、家事をしながらでも、通勤中でも、情報を得ることができます。特にVoicy、ポッドキャスト、Audible(オーディオブック)といった音声配信サービスや、一般的なラジオ放送は、他の作業と並行して情報を得られる「ながら聴き」に適しています。高齢者や多忙な現代人が日々の生活の中に自然に情報を取り込むことができ、時間を有効活用できます。

具体例:

・朝食の準備中にニュースを聴く: 毎日の食事の準備中にVoicyやラジオニュースを聴くことで、無理なく社会情勢を把握できます。
・通勤中にオーディオブックや解説番組を聴く: いつもの通勤時間が、知的好奇心を刺激する学習やエンターテイメントの場へと変わり、飽きずに続けるモチベーションにもつながります。

温かみと共感性、双方向性の可能性

声には、話し手の感情や人柄がダイレクトに伝わるという特性があります。活字では伝わりにくいニュアンスや感情の機微も、声を通すことで伝わりやすくなることもあります。この「生きた情報」は、聴く側に安心感や共感を抱かせやすく、特に孤独を感じやすい高齢者や現代人にとって、心の支えとなり得る可能性を秘めています。パーソナリティの息遣いや間、声のトーンから、親密さを感じることができます。

また、コミュニティラジオやラジオの公開生放送、テレビのコールイン企画など、リスナー(視聴者)からのメッセージ紹介やリクエスト、電話参加などを通じて双方向性が生まれることもあります。Voicyや一部のポッドキャストでもコメント機能やライブ配信機能、SNS連携などがあり、リスナーとパーソナリティが直接交流できる場が提供されています。 このような双方向性は、社会とのつながりを維持し、孤立を防ぐ上でも非常に重要な役割を果たします。自分が社会の一員であると感じられることは、精神的な健康維持に不可欠です。

さらに、これらのメディアが新たなビジネスチャンスを生むこともあります。たとえばキングコングの西野亮廣さんは自身のVoicyに広告枠を設けることで、広告主でもあるリスナーとのウィンウィンなビジネスチャンスを広げています。ほかのメディアにはない、声のメディアの特徴として、発信者との「距離の近さ」があり、より深くコミット感が抱けることが挙げられるでしょう。

多様な「声のメディア」がもたらす価値と利用者数の推移

私たちの身の回りにはさまざまな「声のメディア」が存在し、それぞれに独自の価値をもたらしています。近年の利用者数の推移を見ると、音声メディア市場全体の拡大傾向が明確に見て取れます。

1.音声配信サービス(Voicy・ポッドキャスト・Audible):多様なコンテンツと学習

Voicy、ポッドキャスト、Audible(オーディオブック)といった音声配信サービスは、現代社会において多様なコンテンツと手軽なアクセスを提供し、「耳の友」としての役割を担っています。これらのサービスは、スマートフォンやタブレット、PCなどで手軽に利用でき、インターネット環境さえあればどこでもアクセス可能です。

●Voicy:

専門性とパーソナリティによる共感 ニュース解説、ビジネス、趣味、健康、ライフスタイルなど、多種多様なチャンネルが存在し、パーソナリティの人柄が前面に出ることで、聴き手との共感を深め、人気の音声配信メディアとなっています。

利用者数の推移: Voicyは近年急速にユーザー数を伸ばしており、2021年3月時点で月間利用者数が250万MAU(Monthly Active Users)を突破しました。2020年末の約100万MAUから3ヶ月で2.5倍に成長するなど、注目度が急上昇しています*1

また、企業向けの「Voicy 声の社内報」(社内ラジオ)の年間聴取時間が2万5,000時間を突破した事例(2023年時点)もあり*2、音声コンテンツの利用が幅広く浸透していることが示されています。高齢者層の利用はまだ多くないものの、専門家による健康情報や生きがいに関するチャンネルなど、ニーズに合わせたコンテンツが増えることで、さらなる利用拡大が期待されます。

●ポッドキャスト:

ニッチな情報と多様な切り口で、 個人から企業、メディアまでさまざまな団体が配信しており、特定の趣味やニッチなテーマに特化した番組が豊富です。無料である場合が多く、気軽に始められます。スマートフォンの標準アプリや各種音声アプリで簡単に聴取可能です。

利用者数の推移: オトナルと朝日新聞社が共同で行った「ポッドキャスト国内利用実態調査」によると、ポッドキャストの国内利用率(月1回以上聴くユーザー)は2020年の14.2%から2024年には17.2%へと拡大傾向にあります*3。特に若年層の利用が高い傾向にありますが、全年代での利用も着実に伸びており、高齢者層への浸透も期待されます。

●Audible(オーディオブック):

プロのナレーターが朗読した書籍を聴くサービスで、視力に不安がある方でも「読書」を楽しむことができます。文学作品から実用書まで幅広いジャンルが揃い、新しい知識の習得や教養の深化に役立ちます。

利用者数の推移: Amazon Audibleは、2022年に定額制聴き放題サービスに移行後、会員数が32%増加するなど、大きく成長しています*4。2023年4月から2024年4月にかけても、聴取時間が55%、会員数が28%アップしており*5、日本が世界で最も成長が速い国の一つであるとされています*6。これは、聴く読書という新しい体験が高齢者を含む幅広い層に受け入れられていることを示唆しています。

2.コミュニティラジオ:地域に根差した「拠り所」

地域に根差したコミュニティラジオは、独自の重要な役割を担う「地域の拠点」です。きめ細やかな地域情報を提供し、地域住民同士のつながりを深める役割を果たします。

日本全国のコミュニティFM局数は、1992年に第1号が開局して以来増加を続け、2024年12月1日時点で345局に達しています。

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阪神・淡路大震災などの大規模災害を契機に急増し、近年も毎年新しく開局、災害時における情報伝達の重要性と、地域コミュニティの醸成における役割が評価されています。地域のきめ細やかなイベント情報、交通情報、医療機関情報、そしてなによりも災害時の緊急情報をリアルタイムで提供します。電波が途絶えにくいラジオは、大規模災害時の重要なライフラインとなります。

また、地域住民、特に高齢者や子ども、学生、若者自身がパーソナリティやゲストとして登場し、地域の歴史や文化を語ったり、地域の出来事を伝えたりする番組は、聴く側にとっても、また話す側にとっても喜びや楽しみを生み出しています。地域住民の社会参加を促し、生きがいを見つける場を提供することにもつながります。

さらに、ラジオを通じたパーソナリティ、またほかのリスナーとのやり取りは孤独感を和らげる効果があります。リスナーからのメッセージ紹介では、日々の小さな出来事や思い出話が共有され、他のリスナーも共感することで、心の距離が縮まる効果があります。地元住民がパーソナリティを務めることで、より親近感が湧き、まるで身近な人が話しかけてくれているような感覚が得られることも特徴です。

3. スマートスピーカー:音声アシスタントとしての可能性

近年普及が進むスマートスピーカーは、音声コマンドだけで操作できるため、視覚や操作に不安のある高齢者にとっても非常に有用なツールです。複雑なボタン操作が不要で、声だけで様々なサービスにアクセスできる点が大きなメリットです。

天気予報、ニュース、時刻、音楽再生など、声一つで必要な情報を手に入れることができます。

また、家族からのメッセージ再生、薬の服用時間のリマインダー、緊急連絡先への発信など、生活支援ツールとしても機能します。

さらに、人との会話が減りがちな人々にとって、スマートスピーカーとのやり取りは、話し相手としての役割も果たし、精神的な支えとなる可能性もあります。シンプルな応答でも、一人ではないと感じられる効果が期待できます。

現代社会における「声」の重要性とその展望

多様な「声のメディア」が持つそれぞれの特性を踏まえると、現代社会において「声」というメディアの重要性は、情報格差の解消、社会参加と生きがいの創出、心身の健康、そして災害時のセーフティネットとして、今後ますます高まると考えられます。

さらなる超高齢社会への突入に伴い、より直感的に操作できるシンプルなインターフェース開発や、スマートスピーカーとの連携強化、高齢者向けの利用ガイド(音声ガイド含む)の提供など、ITリテラシーの低い高齢者でも気軽に利用できる環境を整備することが重要です。たとえば、音声コマンドだけで特定の番組を再生できる機能や、高齢者向けの専用アプリ開発などが考えられます。

また、高齢者に限らず、リスナー自身が「声」のメディアを通して情報を発信する機会を増やすための支援(チャンネル開設支援、番組制作ワークショップなど)を充実させ、社会参加を促すことが期待されます。地域の高齢者施設と連携し、入居者がパーソナリティを務めるミニラジオ番組を制作するといった取り組みも有効でしょう。

「声のメディア」は、単なる情報伝達の手段に留まらず、人と人、地域と地域をつなぐあたたかい絆となり、地域住民が安心して、そして豊かに暮らせる社会の実現に貢献するとともに、大きなビジネスチャンスとなることが期待されます。

この記事を書いた人

今村美都

がん患者・家族向けコミュニティサイト『ライフパレット』編集長を経て、2009年独立。がん・認知症・在宅・人生の最終章の医療などをメインテーマに医療福祉ライターとして活動。日本医学ジャーナリズム協会会員。