
一生に一度はオーロラを見たい。そう思って、フィンランド北部のロヴァニエミでオーロラハンティングツアーに参加しました。
結果から言えば、無事にオーロラを見ることができました。ただ、旅を振り返ってみると、オーロラそのものと同じくらい興味深かったことがあります。
「見えるかどうかわからないもの」を、ツアー会社はどうやってサービスとして売っているのだろう。
オーロラは、お金を払えば必ず見られるものではありません。日本から北欧まで行くとなれば、航空券やホテル、現地での移動など、それなりの費用と時間がかかります。それでも、結局何も見えずに帰る可能性があります。
実際、私は昨年11月にも10日間ほどロヴァニエミに滞在しましたが、そのときは天候に恵まれず、オーロラを見ることができませんでした。オーロラを見るという体験には、どうしても自分ではコントロールできない不確実性がついてきます。
それでも今回は、最終的に安心してツアーを申し込むことができました。振り返ってみると、その理由には、結果を保証できないサービスを提供するときのヒントがありました。
オーロラを見るために、旅行の日程を1週間前に決める
今回の旅行では、オーロラを見ることが一番の目的でした。そのため、旅行の日程を決めたのは出発のおよそ1週間前。天気予報や雲の様子、オーロラ予測などを確認しながら、できるだけ条件が良さそうな時期を選びました。
普通の観光地であれば、そこへ行けば目的のものは基本的に存在しています。しかし、オーロラは違います。現地まで行っても見られない可能性があります。
だから今回は、「どこへ行くか」だけではなく、「どうすれば実際に見られる可能性を少しでも高められるか」を考える旅になりました。
「もっと北へ」ではなく、「見られる可能性」を選ぶ
オーロラを見るなら、ロヴァニエミよりさらに北へ行くという選択肢も考えました。
緯度だけを考えれば、より北へ行く方が有利な場合もあります。しかし、北へ行けば必ず見られるわけではありません。オーロラが出ていても、空が雲に覆われていれば自分の目からは見えません。
知らない土地で、自分たちだけで「今日はどこへ行けば晴れているのか」を判断して移動するのも簡単ではありません。
それなら、アクセスがよく、オーロラハンティングツアーの選択肢も多いロヴァニエミに長めに滞在し、現地を知るガイドに任せる方が、最終的にオーロラを見られる可能性を高められるのではないか。そう考えました。
私たちが求めていたのは、「最も北へ行くこと」ではありません。「オーロラを見る」という目的を達成する可能性を高めることでした。
決め手になった口コミと返金の仕組み
ロヴァニエミでツアーを調べると、いくつもの会社やプランが見つかりました。
そのなかで、参加するツアーを決める大きな材料になったのが、口コミの評価の高さと、一定の条件のもとでオーロラを確認できなかった場合には料金が返金される仕組みでした。
もちろん、ツアー会社にもオーロラを出現させることはできません。自然現象である以上、「必ず見せます」と約束することはできないからです。
オーロラを見るために旅行する時点で、私たちはすでに「見られないかもしれない」というリスクを負っています。そこに「高いお金を払ったのに何も見えなかった」という金銭的な痛みまで重なると、心理的な負担はさらに大きくなります。
返金の仕組みは、オーロラが見えるかどうかという不確実性そのものをなくしてくれるわけではありません。しかし、不確実性によって自分が負う損失の一部を小さくしてくれる。
それだけでも、申し込むときの心理的なハードルはかなり下がりました。
催行しない判断が、むしろ信頼につながった
当初、ツアーにはロヴァニエミ滞在初日に参加する予定でした。ところが当日は天候が悪く、実施されるのかどうかもわからない状況でした。
するとツアー会社から、「今日は条件が良くないため催行しない」と連絡があり、返金か別日への振替を選べるとのこと。私たちは別日への振替を選びました。
普通に考えれば、予約していたツアーがキャンセルされるのはネガティブな体験です。
ところが、このときはむしろ少し安心しました。
見える可能性が低くても、とりあえず参加者を集めてツアーを実施することはできたはずです。それをせず、「今日はやらない」と判断した。
そこに、ツアーを催行して料金を得ることよりも、「参加者がオーロラを見られる可能性」を優先している姿勢を感じたからです。

そして、ようやくオーロラが見えた
振替した日の集合は22時でした。私が訪れた時期のロヴァニエミでは日没が20時ごろで、22時になっても空にはわずかに明るさが残っていました。
乗り合いのグループツアーだったため、他の参加者と一台の車に乗り込み出発します。
車で30分ほど走ったころ、窓の外に緑色の光が揺れているのが見えました。
「あそこにオーロラが見える!」
車内が一気にざわつきます。ガイドは車を走らせ、街の明かりが届かない場所に車を停めました。
オーロラの動きは想像していたよりも速く、さっきまで見えていた光が数分で消えて真っ暗になり、しばらくするとまた別の場所に現れる。それを繰り返します。
同じ場所で待つこと、およそ3時間。夜が更けるにつれて、光は緑から紫へと色を変えていきました。一番強く出た瞬間には、光が蛇のようにうねりながら動いていました。
ガイドは高性能なカメラで、肉眼で見る以上に鮮やかな写真を残してくれました。私もスマートフォンを構え、なんとかオーロラの光を写真に収めることができました。
宿へ戻る車の中、興奮が少しずつ落ち着き、眠気が出てきたころに、ふと思いました。
このオーロラツアーは、一体何を売っていたのだろう。
オーロラツアーが売っていたもの
オーロラそのものは、商品にはできません。
いつ現れるのか。どれくらいの強さなのか。雲が晴れるのか。ツアー会社にはコントロールできない要素が多すぎるからです。
しかし、結果に至るまでのプロセスはサービスとして設計できます。
天候や条件を読み、見られる可能性の高い場所を探す。必要なら観測場所を移動する。見込みが低い日は無理に催行しない。それでも見えなかったときには、振替や返金という選択肢を用意しておく。
ツアー会社が実際に提供していた価値を整理すると、大きく3つあったように思います。
- ・専門知識によって、オーロラを見られる可能性を高める
- ・条件が悪ければ催行しないという判断をする
- ・結果が得られなかった場合の顧客の損失を小さくする
つまり売っていたのは、オーロラという「結果」そのものではありません。
結果が得られる可能性をできるだけ高め、それでも結果が得られなかったときの痛手を小さくする仕組みだったのだと思います。
結果を保証できないサービスで、何を約束するのか
これは、オーロラツアーだけの話ではありません。
マーケティング支援やコンサルティングでも、提供する側が結果を完全にコントロールすることはできません。 どれだけデータを分析し、施策を練ったとしても、「この施策を実施すれば必ず売上が上がる」とは言い切れない。市場環境や競合、顧客の状況など、自分たちだけではコントロールできない要因があるからです。
だからといって、「結果はわかりません」と顧客にすべての不確実性を背負ってもらうしかない、ということではないでしょう。
成功の可能性を高めるために、どんな情報を集めるのか。どんな判断基準を設けるのか。途中でどのように状況を確認し、必要なら軌道修正するのか。そして、期待した結果が得られなかったときに次の選択肢をどう用意しておくのか。
結果そのものは約束できなくても、結果に近づくためのプロセスは設計できます。
今回のオーロラツアーでは、天候や観測場所の判断はガイドに任せられ、条件が悪い日は無理に催行しない。催行されなければ別日に振り替えることができ、実際に参加してもオーロラを確認できなければ返金される。見えるかどうかは最後までわからなくても、「見えなかったらどうしよう」という不安を小さくする仕組みが、いくつも用意されていました。
顧客が感じている大きな不安を、一つひとつ分解し、それぞれを小さくしていく。
それもまた、サービス設計の重要な役割なのだと思います。
オーロラが見える保証はありません。
それでも私は、安心してツアーに参加することができました。
結果を保証できないサービスを提供するときに大切なのは、無理に結果を約束することではなく、その不確実性を顧客だけに背負わせないこと。
「結果」は保証できなくても、「安心」は設計できる。
ロヴァニエミでオーロラを見ながら、そんなことを考えました。
