コラム

事業戦略に必要な四つの利益ステージ

事業のゴールは持続的な利益を上げていく事である。持続的な利益を上げていくためには、四つの利益を上げられるステージがあるという。

一橋大学大学院の楠木健教授の著書である「ストーリーとしての競争戦略~すぐれた戦略の条件 東洋経済新報社」を参考にして戦略ストーリーを構築するまでのステップについて考えてみる。

※関連ナレッジ資料※
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第一の利益ステージ 「業界の競争構造」

ここはマイケル・ポーターの五つの競争要因が分かり易い。競争状態を引き起す要因は五つある。

・競合他社の動き
・新規参入の可能性
・代替需要の可能性
・需要ニーズの変化
・供給体制の変化

競争状態が激しいほど、利益は圧迫される。

フレンチビストロがここ数か月の天候不順による野菜の高騰に根を上げているのは供給体制の変化である。牛丼チェーンが価格競争で疲弊しているのは、来店客の低価格志向という需要ニーズの変化である。カメラフィルムメーカーがメディカルや化粧品などの新規分野に進出したのは、デジカメやスマートフォンで高性能な写真が撮れるようになった代替需要の影響である。そのあおりでメディカル分野に化粧品分野に新規参入が現われたことになる。競合会社で同じような商品やサービスであれば価格競争は必至である。

いかに競争状態を作らないか、いかに無競争に持っていくか、競争戦略は実のところ「無競争のすすめ」なのである。自社にとって競争状態の激しくない業界を選択することで、利益を確保することができる。

第二の利益ステージ 「ポジショニングの戦略」

成長分野には自然と多くの企業が参入してくる。当然、競争状態は激しくなる。 では、この中で勝ち抜くためにどのような戦略を立てるのか。

・競合他社との差別化
・顧客への価値創造
・コンセプトメイキング
・高い参入障壁
・オンリーワン

つまり競合他社との「明確な違い」を顧客に提示することである。

フレンチビストロが三ツ星シェフのレシピを前面に押し出して、リーズナブル価格で最高級な料理を提供するのは差別化である。牛丼チェーンが「うまい早い安い」で参入した当時は、多くの忙しいビジネスマンに受け入れられた価値創造である。カメラフィルムメーカーが固有技術をメディカルや化粧品に応用したコンセプトは市場の支持を得た。本来高かったメディカルや化粧品の参入障壁を、先のフィルムメーカーは高度な技術力と草の根の営業力でカベを乗り越えた。液晶ディスプレイに使われる偏光坂を製造する装置は、織物産地の染色機械技術から生まれたオンリーワン技術である。日本には伝統技術から生まれたオンリーワンは多く存在する。

このように自社のポジションがはっきりすれば利益は継続的に確保できる。ただ一つ言えることは、ポジショニングの戦略は時間経過とともに陳腐化劣化していくことである。

第三の利益ステージ 「組織能力に注目した戦略」

明確なポジショニングの戦略が取れない場合は、競合と比べて組織能力が高いことが求められる。組織能力とは例えば産業資材メーカーであれば、

・デザイン開発
・製品開発
・生産技術・品質管理
・営業・マーケティング力
・組織全体の総合力

企業のビジネスプロセスがバリューチェーン(価値連鎖)を生み出しているかということである。バリューチェーンとは、原材料の調達から製品・サービスが顧客に届くまでの企業活動を、一連の価値(Value)の連鎖(Chain)としてとらえる考えであり、企業戦略の策定には欠かせないフレームワークでもある。競合との差別化が容易に進まないのであれば、各プロセスの効率性を高めることで競争優位を保つのである。

第四の利益ステージ 「戦略ストーリー」

バリューチェーンでも競合に大きな差をつけることができないならば...そこで登場するのが、戦略ストーリーである。

戦略ストーリーを描く時に必要な要素として、私が提案しているのは、

1.経営に必要なキーワードは何か
2.キーワードを含めた理想像をどう描くか
3.起承転結でハッピーエンドな成功物語

経営に必要なキーワードとして、ガイアの夜明けにも登場した「社会的にいい会社」だけに投資する投資信託の鎌倉投信が投資の際に重視する14のキーワードを使用する。

・人材の多様性
・感動サービス
・現場主義
・市場創造
・地域密着
・技術力
・オンリーワン
・経営理念
・グローバルニッチ
・情熱
・製販一貫体制
・社員を大切に
・変化し続ける力
・循環型社会創造

どれもこれからの時代に企業が社会的責任を果たし顧客からの大いなる支持や共感を得るために必要なキーワードである。これらのキーワードから自社に必要なキーワードを抜き出し未来の理想像を描く。着地点がこの理想像となるように、起承転結でストーリーを書くのである。

戦略ストーリーには、出来るだけ対策と結果の因果関係がしっかりと結びつくように、多くの打ち手(対策)が見えるように、事業の拡張性・発展性があるように描いていく。戦略ストーリーはあくまで架空の物語だが、ここに戦略的要素をしっかりと織り込むことで、事業を推進して行く上での道しるべになる。ぜひあなたも戦略ストーリーで持続的な利益を確保できる事業を見つけ育ててほしい。

岡本 充智

代表取締役

岡本 充智

中期ビジョン策定支援

京都⼯芸繊維⼤学繊維学部卒業。株式会社アシックス⼊社。アスレチック部⾨の商品開発・販売促進を担当。新規ブランド⽴ち上げやブランドマネジャーを歴任。その後、住友ビジネスコンサルティング株式会社に転じ、マーケティング分野のコンサルタントとして戦略デザインの構築・実⾏⽀援に数多くの成果を上げる。1997年2⽉、株式会社パワー・インタラクティブ設⽴。代表取締役に就任。現在に⾄る。

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